夢園師

YGIN

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2話

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 サクラコは、その後何度か智美にあの日の夢のことについて尋ねたが、良いようにはぐらかされて、結局事実を知ることはできなかった。しかしあの日の智美の異様な眼差しが脳内にこびりついていて、そのおかげで彼女の本来持ちうる冴えた頭脳はようやく稼働した。

その智美への経験を通して、サクラコは何度か実験を行い、そしてどうやら自分が他人の夢の中に入り込んでしまっているようだと確信した。
 無論、自分が見ている夢にたまたま近くに居る人間が登場しているだけなのだという事も考えられた。
 しかしサクラコは、例えば図書館に行った時、例えば電車やバス等の交通機関に乗った時、智美と同じように居眠りしている人物を見かけて、また敢えて「良いなぁ、私も眠りたいなぁ」と思うと、その度にまた身体が宙に浮くような奇妙な感触と、突如ブワッと後方にたたきつけられるかのような後退を経験した。
 そして、その直後に見る夢というのは、いずれもが普段自分が見る夢よりも、幾らか鮮明で、現実の感覚に近かった。また、その居眠りをしていた人物が、数年後と思しき出で立ちをしていることも共通していた。
 さすがに智美のような、男女の情事が成されることは一度もなかった。
 が、時にはいきなり海中でサメとバトルを繰り広げる男の子だったり、時には、お墓の前ですすり泣き、道夫さん道夫さんと、か細く嘆くお婆さんであったり、千差万別の夢の中へと飛び込んだ。
 そしてやはり、そのいずれもサクラコの声は彼らに届いている様子がなかったが、ある時サラリーマン風の男性が、自室でグラビアアイドルの写真集を読んでニタニタしているという夢に当たった時、サクラコが「破廉恥ですね!」と思い切ってその男性の頭をごつんとグーで殴ると、瞬間的に電車の車内に戻され、そして正面で居眠りをしていたリーマン風の男性が、またも智美と同じようなギョッとした目でこちらを見てきて、そして頭をさする動作を見せたことがきっかけで、少なくとも先ほど同じ夢を見ていたであろうことがうかがいしれた。

 サクラコはそんな相手の動作を確認する以外に、例えば深入りして相手に根掘り葉掘り詰問することはしなかった。 
 なぜなら、夢というのは現代科学においてまだ解明されていない部分が多く、もし自分に、他人の夢を覗き見る能力があるのだと世間に知れたら、SF映画よろしく、国家機関に拉致され、恐ろしい科学者達の実験台にされる可能性もゼロではないと警戒したからだ。
 しかし、この特異な能力にサクラコ自身は魅入られてしまった。
 他人の夢に入ることができたとしても、直接触れなければ、声も何も届かない。
 だが逆に言えば、覗くだけなら覗き放題ということでもあった。
 サクラコは学校を終えた後、今まで真面目に行っていた予習復習をそっちのけで街に繰り出し、人々が居眠りする場所へと足を運んだ。そうして、いくつかの他人の夢へと入ることで、サクラコは様々なことに気付いた。
 まず、一点に他者の見る夢では必ずその人物は数年後の姿であること。二点目に自分の声や、例えば手を叩いて音を鳴らしても全く当人に気付かれる様子がないこと。そして最後に、普段自分が見る夢の感覚とは大きく異なり、殆ど現実に居るのと同じような感覚であること。とくにその最後の点がサクラコの知的好奇心を大きく揺り動かした。そして、聡明なサクラコは何となく感づいていた。

 これは、夢とは違う何かなのではないかと。

 そしてそう思った途端、何故だか背筋がぞわりとするのであった。

 しかし、変わらずサクラコがこの現象に至るには相手が居眠りをしていて、自分がその近くに居なければいけないという条件がつきまとっていた。これは簡単そうに見えて存外に難しいことであった。まず、公の場で仮眠を取る人間に遭遇できることはそう多くないし、また、大抵の人間は目を伏せていたとしても、夢を見るほどに熟睡していることは稀であった。しかしだからといって、お泊まり会を開くなどして意図的にそういった場を作れるほどサクラコは深い付き合いを持つ友人も居なかった。 
また、サクラコには兄弟もおらず、両親は共働きで、家に帰ってくることの方が少なかった。だから、結局のところ、サクラコが実験できる場は専ら、遅めの時間、通勤帰りのサラリーマンや学生を狙った電車やバスの中であった。
 だがある日、終電近くの電車に乗るところを、たまたま遅くに帰宅していた生徒指導の先生に見つかってしまい、「こんな夜遅くに中学生が!」と厳しく注意を受けてこの方法が使えなくなってしまった。

 サクラコは渋々学校内での実験を試みることとなったが、相変わらず真面目で勉強熱心な生徒ばかりで、居眠り生徒は皆無。智美も、サクラコを警戒しているのか、あれ以来全く授業中居眠りをすることがなくなっていた。
 はてさてとサクラコが困り果てている時、それはまた同じく、午後の国語の授業時であった。
 サクラコにとっては、この時点では大森という苗字以外は名前すら憶えていない、実にこれといって目立つところもなく、黒縁眼鏡、中肉中背、少しだけ長めの髪のクラスメイトが、教科書を直立させて机に突っ伏していた。
 しかし他者の夢に飢えていたサクラコにとって、これは千載一遇のチャンスであり、サクラコの彼への興味は急ピッチで上昇した。
「きた、遂にきましたわぁぁぁぁ」と胸を高鳴らせつつも、あくまで平静に授業を聞いている姿勢を保ち、横目でチラリチラリと大森を覗くサクラコ。
 そしてサクラコの肥えた目は、彼の肩の揺れ具合から、どうやら本当に寝ていると瞬時に推察。
「あぁ、のぞきたい。のぞきたい。大園(大森? いや、どっちでも良いか)君の夢をのぞきたい!!」
 そう強く念じた。
 すると、久々に感じるあの感触がサクラコの元へやってきた。にゅわんと周囲が無重力状態になったような感覚を受けたと感じたのも束の間、サクラコはすぐさま後方へ叩き付けられようというかのような、後退感を感じ、そして、大森の夢へ突入した。
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