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10話
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ビルは地上5階建てで、三階は共同の食事処があった。ちなみに四階より上は各自の個室である。
基本的には、メンバーはここで食事をとるよう義務付けられているが、守るものは少ない。
皆勤賞と言えば、カモミールをのぞけば、それこそサクラコぐらいなものだった。
カモミールは毎日ここで料理を作っているが、別に組織からそう命ぜられた訳ではない。
料理は元々得意であったことに加えて、メンバーの中で料理を作れる者が極端に少なかったということもあり、いつの間にか彼が調理人のようなポジションに収まっていた。『カモミール亭』などと皮肉を言うものもいる。しかし、彼の料理スキルはその皮肉を塗りつぶすほど非常に高く、他チームからわざわざ夕飯を食べにくるものもたまにいるぐらいだった。
サクラコがやってくると、カモミールはいつものにっこりとした表情を見せた。
「お疲れ様、サクラコ、今日は栄養抜群のかぼちゃスープを作ったよ」
変わらない爽やかな彼の笑顔、そしていつものグリーン色のエプロン姿を纏った長身ですらっとした佇まい、そのどれもがサクラコの心を落ち着かせた。
「あら、美味しそうね」
サクラコも笑顔で返した。
「ははは、そんな優しい言葉を返してくれるのはサクラコぐらいだよ。アロエなんて昼間『毎日馬鹿のために馬鹿みたいに料理し続けてお前馬鹿なんじゃないか?』なんて言ってくる始末さ」
サクラコはまるで自分に言われたかのようムッとした。
「はっ、あんな男の言うことなんて気にしなくて良いわ。カモミールが毎日献身的に料理してくれてるのに、そんな努力も知らないなんて、馬鹿はどっちよ」
洗い場の前でそんなやり取りをしていると、アベリアの声が聞こえてきた。
「相変わらずサクラコはアロエにはアツアツだよねー」
一応は十人分の椅子が並べられているテーブルの方を見ると、既に着座しているアベリアがニヤニヤしていた。
アベリアの出席率はだいたいサクラコの目算で半々ぐらいである。
面白い話題がありそうな時は出席しているが、そうでないときは、サクラコの知らない男とどこかへ行っていることが多い。
「アツアツとはまた、含みのある言い方ですね、アベリア」
「いやぁ、だってさぁ、ツンデレにしか見えないようねー、ねぇアズアズぅ」
突如。
ビクッと、サクラコの肩は震えて、眼球が飛び出る様にそのアベリアの隣に座る者を凝視した。
その場に居た一同は、ただの下らない笑い話から急にサクラコがただならぬ様子となったことに心配の表情を浮かべた。
「どうしたんだい、サクラコ」
カモミールは真っ先に声をかけた。
サクラコは咄嗟に頭を抱え、少し崩れる様になったが、すぐカモミールが支える。
「え、ええ、大丈夫よ……。ちょっと、立ち眩みがしただけ……」
そうは言うものの、あまり調子の良いように見えないサクラコ。
「アロエのこと考え過ぎて、失神しそうなの?」
「そんなわけないでしょっ……!」
アベリアの冗談のお陰で少し場が和んだ。
サクラコ自体、体調の変化は一瞬で、すぐに良くなりつつあるようだったが、しかし鋭い者は気付かないわけにはいかなかった。
アベリアの隣にいる黒髪で端正な顔立ちの美女は不安の表情を浮かべた。
「サクラコ、まるで私を見た途端、酷くなったようだけれど、大丈夫? 今夜は席を外しても良いわよ?」
「い、いえ、そんな。大丈夫よ……アズ……」
アズ?
「だって、アズサ、スープの時は何時も必ずここに来るじゃない」
?
サクラコは、自分で発言しておいてその言葉に違和感があった。
しかし、何がどう違和感があるのか、自分でもわからなかった。
「べ、別に私スープ好きじゃないし……」
「あれぇ、アズアズもツンデレー?」
「なっ、私がツンデレな訳ないでしょ。私は心身を日々鍛錬して、自分に自信を持っているのよ。ツンデレなんて程度の低い真似したりしないわ」
アズサは自慢の長く艶やかな黒髪をファサッとかきあげた。
「ほんとかなー?」
「あっ、ちょっと、なにするの、いやっ、やめてアベリア変態っ!」
「意外と大きいよねー、可愛いくせにずるいずるい」
「あ、ちょっと、あっ、やんっ!」
「相変わらずうるさいなぁ」
珍しくメンバーで最も身長の低いギボウシも、ハードカバーを片手にやって来た。
「低くないから! あくまで男性の中でだから! 言っとくけど僕はね、君達みたいなお気楽集団と違って……」
「ははは、まぁまぁ。取り敢えず、サクラコも大丈夫そうだし、スープも冷めてしまうから食事にしようか」
カモミールの合図でいつもの食事は開始された。
テーブルには、カモミール、アズサ、アベリア、ギボウシ、そしてサクラコ。
不在は、アロエ、ガーベラ、フリージア、そして一度も食事にさえ来ないシャクヤク。
チームA。計九名。組織の中でも際立って異能の能力を持つメンバーによって構成されている。
何も間違ってはいないはずだった。
しかし、サクラコは何か落ち着かず、奇妙な焦燥感がずっと全身を駆け巡るようだった。
それでも、メンバーを心配させるのは気が引けたため、サクラコは口上手のアベリアが繰り出す笑い話を聞きながら、深くは考えないことにした。
基本的には、メンバーはここで食事をとるよう義務付けられているが、守るものは少ない。
皆勤賞と言えば、カモミールをのぞけば、それこそサクラコぐらいなものだった。
カモミールは毎日ここで料理を作っているが、別に組織からそう命ぜられた訳ではない。
料理は元々得意であったことに加えて、メンバーの中で料理を作れる者が極端に少なかったということもあり、いつの間にか彼が調理人のようなポジションに収まっていた。『カモミール亭』などと皮肉を言うものもいる。しかし、彼の料理スキルはその皮肉を塗りつぶすほど非常に高く、他チームからわざわざ夕飯を食べにくるものもたまにいるぐらいだった。
サクラコがやってくると、カモミールはいつものにっこりとした表情を見せた。
「お疲れ様、サクラコ、今日は栄養抜群のかぼちゃスープを作ったよ」
変わらない爽やかな彼の笑顔、そしていつものグリーン色のエプロン姿を纏った長身ですらっとした佇まい、そのどれもがサクラコの心を落ち着かせた。
「あら、美味しそうね」
サクラコも笑顔で返した。
「ははは、そんな優しい言葉を返してくれるのはサクラコぐらいだよ。アロエなんて昼間『毎日馬鹿のために馬鹿みたいに料理し続けてお前馬鹿なんじゃないか?』なんて言ってくる始末さ」
サクラコはまるで自分に言われたかのようムッとした。
「はっ、あんな男の言うことなんて気にしなくて良いわ。カモミールが毎日献身的に料理してくれてるのに、そんな努力も知らないなんて、馬鹿はどっちよ」
洗い場の前でそんなやり取りをしていると、アベリアの声が聞こえてきた。
「相変わらずサクラコはアロエにはアツアツだよねー」
一応は十人分の椅子が並べられているテーブルの方を見ると、既に着座しているアベリアがニヤニヤしていた。
アベリアの出席率はだいたいサクラコの目算で半々ぐらいである。
面白い話題がありそうな時は出席しているが、そうでないときは、サクラコの知らない男とどこかへ行っていることが多い。
「アツアツとはまた、含みのある言い方ですね、アベリア」
「いやぁ、だってさぁ、ツンデレにしか見えないようねー、ねぇアズアズぅ」
突如。
ビクッと、サクラコの肩は震えて、眼球が飛び出る様にそのアベリアの隣に座る者を凝視した。
その場に居た一同は、ただの下らない笑い話から急にサクラコがただならぬ様子となったことに心配の表情を浮かべた。
「どうしたんだい、サクラコ」
カモミールは真っ先に声をかけた。
サクラコは咄嗟に頭を抱え、少し崩れる様になったが、すぐカモミールが支える。
「え、ええ、大丈夫よ……。ちょっと、立ち眩みがしただけ……」
そうは言うものの、あまり調子の良いように見えないサクラコ。
「アロエのこと考え過ぎて、失神しそうなの?」
「そんなわけないでしょっ……!」
アベリアの冗談のお陰で少し場が和んだ。
サクラコ自体、体調の変化は一瞬で、すぐに良くなりつつあるようだったが、しかし鋭い者は気付かないわけにはいかなかった。
アベリアの隣にいる黒髪で端正な顔立ちの美女は不安の表情を浮かべた。
「サクラコ、まるで私を見た途端、酷くなったようだけれど、大丈夫? 今夜は席を外しても良いわよ?」
「い、いえ、そんな。大丈夫よ……アズ……」
アズ?
「だって、アズサ、スープの時は何時も必ずここに来るじゃない」
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サクラコは、自分で発言しておいてその言葉に違和感があった。
しかし、何がどう違和感があるのか、自分でもわからなかった。
「べ、別に私スープ好きじゃないし……」
「あれぇ、アズアズもツンデレー?」
「なっ、私がツンデレな訳ないでしょ。私は心身を日々鍛錬して、自分に自信を持っているのよ。ツンデレなんて程度の低い真似したりしないわ」
アズサは自慢の長く艶やかな黒髪をファサッとかきあげた。
「ほんとかなー?」
「あっ、ちょっと、なにするの、いやっ、やめてアベリア変態っ!」
「意外と大きいよねー、可愛いくせにずるいずるい」
「あ、ちょっと、あっ、やんっ!」
「相変わらずうるさいなぁ」
珍しくメンバーで最も身長の低いギボウシも、ハードカバーを片手にやって来た。
「低くないから! あくまで男性の中でだから! 言っとくけど僕はね、君達みたいなお気楽集団と違って……」
「ははは、まぁまぁ。取り敢えず、サクラコも大丈夫そうだし、スープも冷めてしまうから食事にしようか」
カモミールの合図でいつもの食事は開始された。
テーブルには、カモミール、アズサ、アベリア、ギボウシ、そしてサクラコ。
不在は、アロエ、ガーベラ、フリージア、そして一度も食事にさえ来ないシャクヤク。
チームA。計九名。組織の中でも際立って異能の能力を持つメンバーによって構成されている。
何も間違ってはいないはずだった。
しかし、サクラコは何か落ち着かず、奇妙な焦燥感がずっと全身を駆け巡るようだった。
それでも、メンバーを心配させるのは気が引けたため、サクラコは口上手のアベリアが繰り出す笑い話を聞きながら、深くは考えないことにした。
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