夢園師

YGIN

文字の大きさ
31 / 51

30話

しおりを挟む
「研究室はとても理路整然としていて、塵一つなかった。噂だとゴミ屋敷のようなところだと聞いていたけど、そんなことはなく、仄かにアロマの匂いがして、装飾も空気も程良い清潔感があった。ガベちゃんは、そんな空間の最奥部にあるデスクのイスに猫背で腰掛け、ヘッドフォンを耳に装着しながら窓の外を眺めていた。そして私の方を振り向かないままハローと卒のない挨拶をしてきた。まるで私が誰で、何者で、そして今この瞬間に入ってくることが既にわかっていたかのように。総じて私が感じたのは、噂との乖離だった。ガベちゃんは噂だと破天荒で独創的で奇天烈。正にデビルブレインとかいう異名に相応しい人格だということだったけど、その時はなんていうか。血液型で言えばA型って感じ。どこか神経質な印象を受けた。それが私のファーストインプレッション。さて、だけれど、その印象は本当にその、一瞬だけ。まるで隙なんか見せないとばかりに。すぐさまガベちゃんはいつもの調子で言ったの」

――「ここにくるとは、貴様、さては暗黒邪神オルティミシアの手先じゃな?」

「当然私は『そうだけど、死ねば?』って返した。え、死ねばっていう返しはおかしい? だから友達ができない? いや、全然そんなことないよ。私は至極真っ当な人間だったから。一般的なコミュニケーション能力は当時から洗練されていたし。第一勇者を導く魔法使いの老師設定とか初対面でついていけるわけないじゃん。え? でも合わせられたんでしょ、って? まぁそうだけどさ。リナリアも変わってる? 違う違う、とにかく最後まで聞いてよ……」

 はぁ、と溜息を吐くとリナリアは続けた。
 サクラコは流石にこの外灯の当たらない暗い茂みに、女子二人で居続けるのは、良からぬ軟派な輩にとって格好の的なのではで警戒を抱かざるを得なかったが、リナリアがこのように自分語りをすることは大変珍しく、またガーベラの過去にも興味はあったので、「いざというときは、この胸筋で!」という思いで彼女の語りへ耳を寄せることとした。
「思ってません!」
「ん?」
「あ、いえ、ちょっと魔がして……続けて……」
「サクラコってたまに独り言言うよね。まぁ良いか」

「とにかく、まぁ後は仲良くなりましたってだけの話なんだけどね。私は文系でガベちゃんは理系だったから特に学術的意味合いで協力した覚えもないし。本当にただの遊興的な付き合い。友達ってやつだね。でもね、私はね。すごく充足感があった。不思議だね。血が通ったような、そんな日々だった。まぁ最初の頃はガベちゃんがふざけたことばかりやるし、フライパンで頭叩いたり、死なない程度に首を絞めたりした記憶ばかりだけど。ああ、でもほら。夢の研究はしてたしそれには加担した。勿論趣味の範囲内で。というか私の能力の発現ってガベちゃんのせい。チームD以下の夢園師には必須のヴァインあるじゃん。頭につけるやつ。あれ作ったのガベちゃんで、ヴァインの初めての実験者が私。結果は成功。したんだけど、ガベちゃんの夢の中がカオス過ぎて私は十秒後には目が覚めて数度ほど嘔吐した。だってさ。人体模型みたいなさ。全身の皮膚が捲れあがり、そこかしこの筋組織が剥き出しになって赤く染まる百人ぐらいの人達、及び得体のしれない動物達が、一斉にギョロリとこちらを凝視してきて『メリークリスマス!』なんて叫びながらこっちに走ってくるんだよ。うら若い乙女にはちょっと荷が重かったね」
 サクラコはそれを聞くと、顎をさすって考える仕草を見せた。
「そう、それは災難だったわね……。でもつまり、ヴァインを制作したのはガーベラだったのね。ということは、彼女はやはりボタニカルへ技術提供を行っていたということよね。そして、ヴァインが製造されたのは割と最近という事実。これはボタニカルという組織自体日が浅いということを裏付けるには至らないけれど、大きい材料になるわね。同時に私達の能力は、そう長い世紀を跨いで存在してきた能力ではない。むしろここ百年以内のものだと推測しても無価値ではない。やっぱりこの能力って人工的なものだという気がする……」
 殆ど独り言のようにそう述べたサクラコへガーベラは返事を返した。
「察しが良いね。サクラコは。うん。そうだろうね」
 リナリアは興味なさげにあっけからんと述べた。昼間は車内であんなに敵対心を抱いていたのに。
 恐らく彼女が伝えたい焦点はそこではなかったのだろう。そして続けた。
「まぁ、そこでめげずに挑戦を繰り返したんだけどさ。そしてその過程で生まれたのがあのピクルス君だね」
「あぁ、あの子ね……」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...