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34話
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中々に勾配のある坂を上って上ってようやく皆の待つ広大な丘へ到着すると、ガーベラが案の定はしゃぎ回っていた。
無論、ただ己が身のみを持ってはしゃぎ回っているだけならば、せせら笑いで済ませられるのだが、例えば両手に手持ち花火を有しながらはしゃぎ回っているとすれば、当然の事ながらサクラコは雷を落とさざるを得なかった。
「いったいよ! サクラコ、もう。私今日だけで皆から一体何発叩かれたことかぁ!」
「あなたがそれに見合う行為をしているからでしょう!」
一応、簡単な手持ち花火ならば敷地内での利用は許可されていたらしいが、こんな、夜空に満天の星が輝き、多くの観光客がそれを目当てに訪れている今、小さい子どもですら天体観測に勤しんでいるというのに場違いにも程があるのだった。
サクラコは取り上げた花火一式を既に用意されていたバケツの水に突っ込みながら厳しく言いつけた。
それでもガーベラは「星々への私からの愛のメッセージなんだよぉ!」などと要領を得ない台詞を述べていたが、サクラコは断固として鬼の形相を崩さず、渋々ガーベラは花火を諦めた。
リナリアがサクラコから少し遅れて丘へと上がって来た。
「はぁ……。だる……」
どうやら、先刻思わぬ競争スピードを見せたガーベラとは異なり運動は得意ではないようだった。
元より、先程アベリアと靴を交換してハイヒールで登ってきたことを考えると、仕方のないことのようにも思える。いずれにせよ「サクラコは先に行ってて。二人同時にってのは避けたいから」と念を押されたので、サクラコが肩を貸すことはできなかった。
サクラコはそんなリナリアの合流を確認すると、ガーベラに対してやれやれと嘆息しながらも、ふと夜空に目を向けた。
そして、彼女は刹那の内、その情景に息を呑んだ。
輝く星。満天の星。
幾十、いや幾百もの星々が夜の空に敷き詰められ、煌ている。
勿論、例え成人前の記憶を失っているといえど、星を見た回数など日常の中で何度もある。誰だってそのはずだ。星なんて晴れている日なら見ようと思えば肉眼でいつでも見れるものなのだから。
そのはずである。
だからサクラコは幾ら改めて天体観測と銘打たれても、フリージアには申し訳ないが、そこまで心躍ったりはしなかった。或いは心躍らせるよりも、何かアクシデントがないか、粗相がないか、メンバーは大丈夫か、という心配ごとばかりが先行していたということを、今改めて知らされたように思う。
だが、サクラコは今。目に映る情景が自身の脳内の全てとなった。
「すごい、本当に……」
心が奪われるとは正にこのことだとサクラコは痛感した。
ガーベラの花火を誰も注意しなかったのかと、特にハスやカモミールに対して叱責するつもりでさえあったのだが、即座にそんな気持ちも消失した。
ここにいる面々や他の観光客、あるいは少し離れたところにいるラナンとナノハでさえ、誰しもがこの圧巻の星空に目も心もはく奪されていているのだと確信し、最早何も言うまいと誓った。
この丘で星を眺めるすべての人々が今、過去、現在、そして未来へと、様々な事象を振り返り、喜怒哀楽を心中に宿しているのだろう。
そこにサクラコが付け入る隙などあろうはずもなかった。また、そのように自分自身という、ともすれば忙しない日常生活では見失いがちな存在を省みる機会を得ることが、どれだけ貴重であるかということもサクラコにはわかっていた。
そうしてサクラコは、夢園師のメンバーがこの機会を通して、また一つ精神の清廉を見るということに多大な期待と感動を抱くと、頬から薄らとではあるが、涙の滴が流れ落ちた。
「あぁ。ありがとう。フリージア」
私はあなたの感性、品格、その全てを見習いたい。私にはまだまだ足りないものが多すぎる。
と、サクラコは改めてフリージアへ、感謝と尊敬の念を抱くとともに、自身が更に成長していくことを切に願った。
無論、ただ己が身のみを持ってはしゃぎ回っているだけならば、せせら笑いで済ませられるのだが、例えば両手に手持ち花火を有しながらはしゃぎ回っているとすれば、当然の事ながらサクラコは雷を落とさざるを得なかった。
「いったいよ! サクラコ、もう。私今日だけで皆から一体何発叩かれたことかぁ!」
「あなたがそれに見合う行為をしているからでしょう!」
一応、簡単な手持ち花火ならば敷地内での利用は許可されていたらしいが、こんな、夜空に満天の星が輝き、多くの観光客がそれを目当てに訪れている今、小さい子どもですら天体観測に勤しんでいるというのに場違いにも程があるのだった。
サクラコは取り上げた花火一式を既に用意されていたバケツの水に突っ込みながら厳しく言いつけた。
それでもガーベラは「星々への私からの愛のメッセージなんだよぉ!」などと要領を得ない台詞を述べていたが、サクラコは断固として鬼の形相を崩さず、渋々ガーベラは花火を諦めた。
リナリアがサクラコから少し遅れて丘へと上がって来た。
「はぁ……。だる……」
どうやら、先刻思わぬ競争スピードを見せたガーベラとは異なり運動は得意ではないようだった。
元より、先程アベリアと靴を交換してハイヒールで登ってきたことを考えると、仕方のないことのようにも思える。いずれにせよ「サクラコは先に行ってて。二人同時にってのは避けたいから」と念を押されたので、サクラコが肩を貸すことはできなかった。
サクラコはそんなリナリアの合流を確認すると、ガーベラに対してやれやれと嘆息しながらも、ふと夜空に目を向けた。
そして、彼女は刹那の内、その情景に息を呑んだ。
輝く星。満天の星。
幾十、いや幾百もの星々が夜の空に敷き詰められ、煌ている。
勿論、例え成人前の記憶を失っているといえど、星を見た回数など日常の中で何度もある。誰だってそのはずだ。星なんて晴れている日なら見ようと思えば肉眼でいつでも見れるものなのだから。
そのはずである。
だからサクラコは幾ら改めて天体観測と銘打たれても、フリージアには申し訳ないが、そこまで心躍ったりはしなかった。或いは心躍らせるよりも、何かアクシデントがないか、粗相がないか、メンバーは大丈夫か、という心配ごとばかりが先行していたということを、今改めて知らされたように思う。
だが、サクラコは今。目に映る情景が自身の脳内の全てとなった。
「すごい、本当に……」
心が奪われるとは正にこのことだとサクラコは痛感した。
ガーベラの花火を誰も注意しなかったのかと、特にハスやカモミールに対して叱責するつもりでさえあったのだが、即座にそんな気持ちも消失した。
ここにいる面々や他の観光客、あるいは少し離れたところにいるラナンとナノハでさえ、誰しもがこの圧巻の星空に目も心もはく奪されていているのだと確信し、最早何も言うまいと誓った。
この丘で星を眺めるすべての人々が今、過去、現在、そして未来へと、様々な事象を振り返り、喜怒哀楽を心中に宿しているのだろう。
そこにサクラコが付け入る隙などあろうはずもなかった。また、そのように自分自身という、ともすれば忙しない日常生活では見失いがちな存在を省みる機会を得ることが、どれだけ貴重であるかということもサクラコにはわかっていた。
そうしてサクラコは、夢園師のメンバーがこの機会を通して、また一つ精神の清廉を見るということに多大な期待と感動を抱くと、頬から薄らとではあるが、涙の滴が流れ落ちた。
「あぁ。ありがとう。フリージア」
私はあなたの感性、品格、その全てを見習いたい。私にはまだまだ足りないものが多すぎる。
と、サクラコは改めてフリージアへ、感謝と尊敬の念を抱くとともに、自身が更に成長していくことを切に願った。
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