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33話
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アロエの身体を助手席に寝かせ、グラジオラスは口笛を吹きながら三号車の運転を開始した。
頭部及び顎部の強い殴打と睡眠薬の服用によって暫くは目覚めない自信もあったが、途中、念には念を入れて、人気のない場所で車を一時停止させ、アロエの両手首と両足首に用意していた手錠をかけ万全を期した。
もともとフリージアの身体は、「女性そのもの」ではあるが、グラジオラス自身が自分は男だという強固な自我を有することもあり、脳が筋肉へ伝える電気信号が通常のスイッチとは違う工程で働いて、成人男性並みのパワーを出すことが出来た。勿論、身体が無理をしていることは事実なので、後で尋常ではない筋肉痛に苛まれることとなるが、グラジオラスはその筋肉痛をフリージアに背負わせることになる罪悪感さえ抜け落ちていた。グラジオラスには自分は正しいことをしている。自分はフリージアのため、今まさに責務を全うしているという並々ならぬ自負があり、そのためならば些細な事には目をつぶることが許されると奢っていたのである。
はははははははははは。
すぐ横に座るアロエなど今すぐにでも殺すことが出来るのだ。
ほら、見ろ。
夢園師でそこそこの腕っぷし?
笑わせてくれる。相手が女だと油断して、所詮はこの程度の肩透かし。
何が元悲劇のレーサーだ。死ね。死ね。
お前のように体もルックスも、寄り付く女の数も満たされ、その癖頭脳は鳥類は愚か群体の昆虫にも勝らない阿呆共のせいで、どれだけ我々が心無い差別と実的被害を受けたと思っている。死ね。死ね。
グラジオラスは限界まで車を加速させ、赤信号になるとわざとらしくブレーキを強く踏みつけ、車体をガクンと揺らした。固定されていたはずの天体望遠鏡はいつしか何者かによって緩められ、ガシャンとまるで悲鳴を上げているかのような悲痛な音を立てて横転した。
ははははははははははははは。
これもお前だ。全部お前がやったんだ。
ははははははははははははは。
その後もグラジオラスは、何度も何度も何度も、わざとらしく急ブレーキを繰り返しながら、どこを目指すでもなく見たことも聞いたこともない街道をトップスピードで走りまくった。
そうして、後部座席の繊細で高価で、何よりもフリージアの大切な代物である天体望遠鏡は、見るも無残な姿となった。
天体望遠鏡も無事ぐちゃぐちゃとなり、街道を走行するのに飽きたグラジオラスは、ようやく目的地に向かって進路変更した。
既に空は茜色で、多少腹の虫がなったグラジオラスは、アロエの財布から紙幣を抜き取って全額ファーストフードのポテトとコーラに投入した。
車内に敷き詰められたポテトフライは、犬歯を剥き出しにしながら只管に悪態を吐き続けるグラジオラスの胃袋に、無理矢理押し込められるような形で噛み千切られていった。
荒い運転を継続しながら片手でポテトやコーラを口へ放り込む動作に、正確性が見込まれるはずもなく、一縷の品性さえ最早皆無で、車内には零れ落ちたポテトフライと、飲みかけのコーラが散乱した。
そんな荒れ果てた車内にまだ納得がいかないのか、グラジオラスはポテトの咀嚼に飽きると、今度は十数秒おきに運転席の窓をガンガン叩きながら、片手運転を続行した。
しかし、グラジオラスは、車内冷房をガンガンに効かせているにもかかわらず、これだけの事を手際よくやっているのにもかかわらず、頬が紅潮し、全身が汗だくになり、そして並々ならぬ焦燥感が自分の中を駆け巡っていることに気付いた。
なんだ、なんだ、なんだ。
この煮え切らない気持ちは。
暑い。暑い。暑い。
しかし身体はこんなにも汗ばんでいるのに。心が何時にもまして冷ややかな感じがする。自分がやっていることの何もかもが、無理矢理自分の調子をハイにするための言い訳でしかないような気がする。
そうして、グラジオラスは自分で勝手に激昂し、突如道を外れ、ガードレールにそのまま突撃した。三号車の全面はグシャリとひしゃげたものの、ガードレールを突き破るには至らなかった。
ちっ。
幸い前後に車両は続いておらず、その現場を誰にも見られることはなかったが、焦ったグラジオラスは後退して、元居た道を丁寧に走りなおした。彼は無論いっそのこと、ガードレールを突き破りそのまま崖から真っ逆さまになってしまえばどんなに興奮するだろうと早まったのであるが、しかし、抑制の精神が働きアクセルの踏み込みが浅かったことを自覚していた。
そのまま真っ直ぐに進路を進めた三号車は、実はサクラコらの乗る一号車や、カモミールらの乗る二号車よりも最も早く、目的地周辺に到達していた。
駐車場付近でまだ他の連中が到着していないことを悟ったグラジオラスは、車を旋回させ、今度は全く舗装されていない獣道を車体の側面をガリガリと木々や岩に削り取らせながら突き進み、流石に誰も人が近づかないと思われる山中で車を停めた。
車内には、大量に散らばったポテトとコーラ、そして崩れた天体望遠鏡、未だに意識を回復しないアロエの姿があった。
グラジオラスは車内から降りると、鬱蒼とした山の不気味さなどどこ吹く風で、むしろ粘りつくような暑さから急激に不快感が増すのを感じた。
そして、フリージアの伸ばしていた後ろ髪、金色の艶めくその髪、今まで美しく神々しいと切に感じていたそれが、途端鬱陶しいように思った。
フリージアに料理用という理由で用意させていた包丁を取り出してきて、グラジオラスは縫い合わせる様にして刃先と髪を重ね合わせ、削ぎ落としていった。
元々、前髪は短く切り揃えられていたフリージアの髪型は、正真正銘サイドもバックも短髪となった。
さぁ、ここからだ。
グラジオラスは幾分か快適さを感じると、頬を歪めた。
頭部及び顎部の強い殴打と睡眠薬の服用によって暫くは目覚めない自信もあったが、途中、念には念を入れて、人気のない場所で車を一時停止させ、アロエの両手首と両足首に用意していた手錠をかけ万全を期した。
もともとフリージアの身体は、「女性そのもの」ではあるが、グラジオラス自身が自分は男だという強固な自我を有することもあり、脳が筋肉へ伝える電気信号が通常のスイッチとは違う工程で働いて、成人男性並みのパワーを出すことが出来た。勿論、身体が無理をしていることは事実なので、後で尋常ではない筋肉痛に苛まれることとなるが、グラジオラスはその筋肉痛をフリージアに背負わせることになる罪悪感さえ抜け落ちていた。グラジオラスには自分は正しいことをしている。自分はフリージアのため、今まさに責務を全うしているという並々ならぬ自負があり、そのためならば些細な事には目をつぶることが許されると奢っていたのである。
はははははははははは。
すぐ横に座るアロエなど今すぐにでも殺すことが出来るのだ。
ほら、見ろ。
夢園師でそこそこの腕っぷし?
笑わせてくれる。相手が女だと油断して、所詮はこの程度の肩透かし。
何が元悲劇のレーサーだ。死ね。死ね。
お前のように体もルックスも、寄り付く女の数も満たされ、その癖頭脳は鳥類は愚か群体の昆虫にも勝らない阿呆共のせいで、どれだけ我々が心無い差別と実的被害を受けたと思っている。死ね。死ね。
グラジオラスは限界まで車を加速させ、赤信号になるとわざとらしくブレーキを強く踏みつけ、車体をガクンと揺らした。固定されていたはずの天体望遠鏡はいつしか何者かによって緩められ、ガシャンとまるで悲鳴を上げているかのような悲痛な音を立てて横転した。
ははははははははははははは。
これもお前だ。全部お前がやったんだ。
ははははははははははははは。
その後もグラジオラスは、何度も何度も何度も、わざとらしく急ブレーキを繰り返しながら、どこを目指すでもなく見たことも聞いたこともない街道をトップスピードで走りまくった。
そうして、後部座席の繊細で高価で、何よりもフリージアの大切な代物である天体望遠鏡は、見るも無残な姿となった。
天体望遠鏡も無事ぐちゃぐちゃとなり、街道を走行するのに飽きたグラジオラスは、ようやく目的地に向かって進路変更した。
既に空は茜色で、多少腹の虫がなったグラジオラスは、アロエの財布から紙幣を抜き取って全額ファーストフードのポテトとコーラに投入した。
車内に敷き詰められたポテトフライは、犬歯を剥き出しにしながら只管に悪態を吐き続けるグラジオラスの胃袋に、無理矢理押し込められるような形で噛み千切られていった。
荒い運転を継続しながら片手でポテトやコーラを口へ放り込む動作に、正確性が見込まれるはずもなく、一縷の品性さえ最早皆無で、車内には零れ落ちたポテトフライと、飲みかけのコーラが散乱した。
そんな荒れ果てた車内にまだ納得がいかないのか、グラジオラスはポテトの咀嚼に飽きると、今度は十数秒おきに運転席の窓をガンガン叩きながら、片手運転を続行した。
しかし、グラジオラスは、車内冷房をガンガンに効かせているにもかかわらず、これだけの事を手際よくやっているのにもかかわらず、頬が紅潮し、全身が汗だくになり、そして並々ならぬ焦燥感が自分の中を駆け巡っていることに気付いた。
なんだ、なんだ、なんだ。
この煮え切らない気持ちは。
暑い。暑い。暑い。
しかし身体はこんなにも汗ばんでいるのに。心が何時にもまして冷ややかな感じがする。自分がやっていることの何もかもが、無理矢理自分の調子をハイにするための言い訳でしかないような気がする。
そうして、グラジオラスは自分で勝手に激昂し、突如道を外れ、ガードレールにそのまま突撃した。三号車の全面はグシャリとひしゃげたものの、ガードレールを突き破るには至らなかった。
ちっ。
幸い前後に車両は続いておらず、その現場を誰にも見られることはなかったが、焦ったグラジオラスは後退して、元居た道を丁寧に走りなおした。彼は無論いっそのこと、ガードレールを突き破りそのまま崖から真っ逆さまになってしまえばどんなに興奮するだろうと早まったのであるが、しかし、抑制の精神が働きアクセルの踏み込みが浅かったことを自覚していた。
そのまま真っ直ぐに進路を進めた三号車は、実はサクラコらの乗る一号車や、カモミールらの乗る二号車よりも最も早く、目的地周辺に到達していた。
駐車場付近でまだ他の連中が到着していないことを悟ったグラジオラスは、車を旋回させ、今度は全く舗装されていない獣道を車体の側面をガリガリと木々や岩に削り取らせながら突き進み、流石に誰も人が近づかないと思われる山中で車を停めた。
車内には、大量に散らばったポテトとコーラ、そして崩れた天体望遠鏡、未だに意識を回復しないアロエの姿があった。
グラジオラスは車内から降りると、鬱蒼とした山の不気味さなどどこ吹く風で、むしろ粘りつくような暑さから急激に不快感が増すのを感じた。
そして、フリージアの伸ばしていた後ろ髪、金色の艶めくその髪、今まで美しく神々しいと切に感じていたそれが、途端鬱陶しいように思った。
フリージアに料理用という理由で用意させていた包丁を取り出してきて、グラジオラスは縫い合わせる様にして刃先と髪を重ね合わせ、削ぎ落としていった。
元々、前髪は短く切り揃えられていたフリージアの髪型は、正真正銘サイドもバックも短髪となった。
さぁ、ここからだ。
グラジオラスは幾分か快適さを感じると、頬を歪めた。
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