夢園師

YGIN

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45話

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「フリージアは兄と姉を持ち、三番目として王妃より誕生した。とはいえ皇族といっても時代が時代だ。今やどこの国も変わらぬ。国の実権を受け持つのは政治家であり皇族など飾り。されど、皇族として生まれた以上、皇族たる存在としてあらねばならないのはいつの世も同じ。そうして幼少より皇族としての格を磨いたあるいは叩き込まれた。だが実際、人間とは今現在も所詮知恵をつけたサルだ。生まれた順番。性別。そんなものがまるで宝石のような価値を持つ。長子相続、男子優先。全く人間というやつはどうして。まぁ良い。だが逆を言えばフリージアは安全だったのだ。つまり第三子、それも長兄が既に居るのであればフリージアが責任ある立場を任されることなどまず心配なかった。ただ兄や姉が演説をする近くで座っていれば良かった。まさに飾りの飾りというわけだ。無論それに居心地が悪いとか、もっと目立ちたいとかを望む人格でもなかった。どちらかといえばお前達の想像通りの控えめで自己主張の弱い子どもだった。家族や世話人と一緒に集まって夕食を取ることが一番の楽しみというそのぐらいの慎ましやかな気質だった。そんなフリージアが思春期頃天体の事を好みだしたのは兄の影響が大きかった。その当時既に皇太子として活動が多く会う機会が減少していた兄が、ある晩、近所の高台へ連れて行ってくれたのだ。もしかするとその高台で見た星々の美しさというよりは兄のその行為そのものがフリージアにとっては一番だったのかもしれない。なにせその日はフリージアの誕生日だったからだ。他の強欲な人間からすれば貴様ら皇族だというになんだそのゴミみたいなプレゼントは、億千万の骨董品でもよこせと罵るところであろう。だがフリージアにとってはそれが当時最高の贈り物のように感じられたのだ。正に至福で満たされていた。らしい。実際のところあまり俺にはそういった正の感情については流れてこないために史実を知識として汲み取り解釈しているに過ぎないが。とにかく、その経緯でフリージアは帰りの遅い家族を待ち続ける最中で星という趣味を見出した。昼は指定の学校へと通い夜はひたすらに星の勉強をした。そしてその知識を兄が帰って来た時に話してみせるのがフリージアの楽しみになっていた。そんな時分だ。兄が死んだ。この兄の死についてはストレスによる急性心不全として片付けられた。だが実際のところは暗殺だった。暗殺される所以に国の併合の話があった。併合というよりは合併に近かったが。元々フリージアの国は小国であり、隣国との併合の話がそこ十年ほど浮き上がってきていた。それもこれも結局は政治家による政治的なメリットデメリットの話になるが、しかし仮にも代々王家が続くぐらいには誇りと文化のあった国ではあった。それゆえに王・王妃含め、フリージアの長男にせよ会議交渉の場に日夜国内外へ出向いていたという訳だ。無論、皇族側は国の併合について反対派だった。だが、フリージアの国は小国も小国。年々負債続きで先行きは暗かった。そういった意味では皇族が極度に贅沢な生活をしていたわけでもなかった。だが隣国はIT分野に長け、様々な経済上の提携が結ばれれば国民が潤う未来が展望できるのも事実だった。その伝統と未来経済の狭間で国民も皇族も苦悩していた。決して王家を国民が嫌っていたわけではない。むしろ長い伝統伝承を守るべきだという意見も多々あった。だが、時代が時代だった。そんな背景から起こったのが兄の暗殺だ。要するにとてもシンプルな話だった。来たる国際サミットに向けて政治家たちは急いていた。しかし皇族側が足をもたつかせていた。従って簡単な事だった。皇族が瓦解すれば良かった。通常そんなことをすれば世界的に大きなニュースとなるだろう。だが、両国首脳がグルだったのだから隠匿は容易だった。特に国王がいきなり死ねば問題になったかもしれないが、皇太子の死というのは頷ける話だった。既に年老い、覇気がなかった王はどちらかと言えば合併はやむなしとさえ感じていた。それに対し長い伝統を一人背負い、様々な施策に殉じていたのは他ならぬ兄だったからだ。彼の疲弊した表情はテレビでも良く流れていたし、フリージアの悩みの種ですらあったのだ。だから暗殺されたなど実の家族でさえ誰も思わなかった。無論死体の検死等も全て首脳に操られていた。その兄の葬儀とももに、まるで初めから決めていたかのように両国は合併合意に動き、そして新しい国が生まれた。だが、勿論、象徴たる新しい国の国王は隣国であり、フリージアの父は副国王となった。笑えるだろ? 副だぞ? 王が副だと。馬鹿なのか。だが世論はそれでよかった。所詮は飾りなのだから。落としどころとして副国王が最もわかりやすかった。どんな愚かなサル達でも納得した。もとい世論調査など両国首脳の息がかかっていたのだから是非もないが。ともかく、それで終わった。いや、終わるはずだった。金は汚い政治家達を含め動くところで動き、経済は確かに潤った。だがそれは束の間だった。結局馬鹿どもが繰り返す歴史は同じだ。ここまでくれば知っての通り。ああお前は確かガキの頃のTVなんかを見た記憶もないんだったか?」
「いえ、それ以降は存じているわ。ニュースやネットでね。まさかフリージアが合併前の小国の皇族だったとは知らなかった。いえ、もといやはり私達の耳に入っていたのは差別、そして内紛、果ては軍事兵器まで使用した軽い内戦が起きたという話だけよ。皇族云々の話は特に文化圏も大きく異なるこの島国ではあまり認知も報道もされなかったと記憶しているわ」
「ということだ。結局は人は序列上下優劣。それをつけたがる。男だの女だの。背が高いだの低いだの。今まで軍事に依らない併合に限定しても上手くいった国など殆どない。内戦こそなくとも未だに原住民との差別格差が根強いのはわかりきったことだ。結局フリージアの小国も隣国も数年の後にすぐ摩擦を起こした。誰が発端とか誰が根源とかでははかりようもない。元よりフリージアの兄にしてみればわかりきった未来だったのだろう。そしてその過程で王、王妃、姉も全員殺された。人ならざる扱いを受け、蹂躙され、吊し上げさらし首にされるという度し難い事態だった。皇族というのは最早ブランドだからな。お前らの王家をぶっ殺してやったぞというのは相手に強烈なダメージを与えることが出来るのだ。元々小国の軍事力は矮小で人口も少なかったのだから。結局成すすべもなく死ぬだけの人が死に、国連が動いてストップをかけ、再び小国と隣国は独立したという訳だ。さて、その過程だけでもフリージアの精神はぶっ壊れても自然であろうし、どころかフリージア自身も首をはねられていてもまったくおかしくない。なぁ、サクラコ。なぜフリージアは死ななかったと思う?」
 サクラコは暫し考える振りだけをした後、重い口を開けた。
「お姉さんは……?」
「残念ながらフリージアの姉は母親似であまり容姿端麗とは言わなかった。元より皇族父親の血が色濃く出ていたのは兄とフリージアだった」
「そう……ならもう、これ以上私は答えたくはないわね……」
「ああ。性奴隷だよ性奴隷。皆大好き性奴隷だよ。フリージアだけが殺されなかった唯唯一の理由がそれだった。わかるか? 結局あの国の家畜以下の脳しかない下っ端の男どもは内紛だの政治がどうだ未来がどうだだのそんなのはどうでも良かったんだ。上玉が居れば犯すに限る。それだけだった。なぁ? 世界が重い重い腰をあげたのは摩擦が起きてから二年後だと知っているだろう? 二年だよ。二年間、フリージアは……。……。だからフリージアは俺を創り上げた。かつての兄に似た、いやもう似ても似つかないだろう、とにかくフリージア自身が兄並みに政治的側面を内包したような、より攻撃的でアクティブな存在。それを無意識下で彼女が望んだのは何故だろうな。というより実は元々王家の血筋を引く中にそのような長兄に似たカリスマ性のようなものがフリージアにもあったのだろうな。そうして俺が誕生した。そして、俺という存在が生まれてから、フリージアは自分の夢をコントロールできるようになり、更に他者の夢をコントロールできるようになった。誰だって寝るからな。男だって満足したら睡眠するだろう。そうやって、寝静まったところを狙って片っ端から脳を破壊していったんだ俺達は。といっても実行したのは俺だがな。とにかくそれで、足もつかず逃げおおせることが出来た。そして全く別の国で様々な偽造を通して生活している際に、ボタニカルに目をつけられたという訳だ」
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