-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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 紫色をした湾曲線がスウェーバックした俺の眼前を掠めていく。
 無理な態勢からの咄嗟の動きで足が僅かに草葉を滑る。

 と同時に釣り糸のような動きをしていた紫の線が、左に抜けていき森の木々を十本程なぎ倒していった。
 避けていなかったら余裕で死んでいただろう。
 大量に舞う落ち葉を見ながら、ツツッ、と流れる汗が背中を冷やす。

 木の切断面は異様とも言えるほどに鋭い。剣やのこぎりで切ったのではああはならない。
 ひゅんひゅんと動いている紫の殺人線は、完全に俺の姿を捉えた動きをしている。
 紫の線の使い手の女性は俺から見える距離にいるのだから当然とも言えるが。

「あはは、上手く避けましたねー? もう少し激しめに行ってもいいですかー?」

 端整な顔立ちから放たれる女性のアニメ声。
 しかし、その言葉に含まれる意味にぞわりと背筋が震える。

 俺は視線から外れるために森へと動く。同時に先ほど切り裂かれ倒れ行く木々に両手で触れた。
 そのまま俺の、俺だけの魔法を発動させる……と大木は俺の手に吸い込まれるようにして瞬時にその姿を消す。

 そう、魔法だ。

 ここは俺が住んでいた現代日本とは違う世界。
 いわゆる異世界というものに当たる場所。
 この世界にきてから既に一年ほどの時間が経過している。俺も随分と成長したもんだと思う。

 しかし、現在は戦闘中。日本では絶対に行われない魔法技術を駆使した戦いだ。
 それに身を染めた俺……いや、俺たちは果たして本当に幸せだと言えるのかどうか……。

 そんなことを考えながら、かかとで逆の靴をコンと触れるという奇妙な動作を行った。
 戦闘中だというのに何をやってるんだ? と知らない人間が見たら思うことだろう。

 だが。

 この動作で次の魔法が発動する。

 発動した魔法は空間跳躍。
 空中だろうが水中だろうが自在に足場を感じ跳ねることができる。
 たったの5歩しか効果は続かないが、今の俺は一足で30メートルを詰める。

 地面を跳ね、そして空中を二度跳ね目標に迫る。
 ひゅんひゅんと揺れる紫の殺人線。それは俺の速度に追いつけない。
 そのまま俺は待機させておいた魔法を両手で発動させる。

 それは巨大な大木が大量の枝を伸ばし、触手のようにうねりながら対象に迫る魔法。

 先ほど木々を利用して魔法を待機させていたのだ。
 幾百にも及ぶ蛇のような触手が線の使い手へと迫っていく。
 絡めとるというレベルではない。掴まればその力により全身の骨が砕けてしまうこと請け合いだろう。

 しかし。

 残念ながらそれは敵わなかった。
 女性は微笑を浮かべながら両手を胸の前で繋いだのが見える。
 もっともそれを見て俺は安堵から胸をなでおろしていた。

 俺の魔法は本気で発動させると殺傷力が高すぎるのだ。
 どこまでの攻撃が大丈夫か見極めるのが非常に難しい。

 今の俺が本気を出せばホワイトハウスを単騎で殲滅できるだろう。
 勿論実際にするわけはない。というより、この世界にそんなものは存在しない。

 女性の円環。それは揺らぐようなエメラルドグリーンを作り出し、そして紫色の線と同じ色の煙が、ぼうっ、と現れる。
 俺の魔法全てを包み込むほどの大量の煙。

 そして。

 俺の放った魔法の木の触手はその紫の煙に全て溶かされ消えた。
 あまりに暴力的だと言えるその力。

(はっきり言って反則ですよ……)

 そんな思いが頭をよぎり溜息をつきたくなる衝動を抑え込む。
 だが泣き言を言っていても仕方がない。

 そう思った瞬間女性から大きな声が放たれた。

「しっかり避けてくださいねー。じゃないと簡単に死にますよー?」

 今度女性から放たれたのは大量の赤い煙。
 いや、本当は俺はこれが何か知っている。煙ではないのだ。

――微粒子魔法。

 女性はそう呼んでいた。
 いくつかの種類の微粒子を作り出し、自在に操ることができるという強力無比な魔法。
 俺が知っている限りでは、眠り微粒子、痺れ微粒子、窒息微粒子、先ほどの溶解微粒子がある。そして……加えて今のこれ、爆破微粒子。
 おそらくはもっと多くの種類がある。が、俺が知っているのはこの五種類だけだ。
 線状で扱うよりもその速度は遅いが、範囲が尋常じゃなく広い。

 それでも普通の日本人なら簡単に煙に呑まれて死ぬだろう。
 だが、俺は先ほども言ったが一足で30メートルを詰めるほどの速度をほこる。

 回避は余裕だ。

 そう思いつつ振り返り微粒子の動きを確認しようとした瞬間だった。
 首筋をピリリと電気のような刺激が走り、思わず気を取られ足がもつれる。
 俺はその原因の理由を知っている。
 相手の女性の魔法による戦術。戦い慣れしているのは分かっていたし、おそらくこれがあるのは想定の範囲内だと思っていた。

 それでも、避けられなかった。
 俺の心底をぐらりと揺るがすかのような刺激。集中力を保てというほうが難しい。

 そのまま獰猛な微粒子は俺の全身を大量の木々と共に包み込む。

「しまっ!?」

 思わず叫び声を上げそうになった瞬間、聞こえてくる小さな「兵輔君のこと信じてますよー」という声。
 見える女性が手に持つ炎が煌々と揺れる。
 着火されれば火薬による粉塵爆発のような凄まじい現象が引き起こされる技。
 あまりに強く、近づくことすら容易ではない相手。

(くそ! 何でこんなことになってんだよ!)

 思わず内心で毒づき、地についた右手で魔法を発動させる。
 利用したのは地面そのもの。
 と同時に巻き起こる凶悪な爆発。

 だが俺の魔法で大穴ができあがっている。直径50メートルにも及ぶ巨大な穴だ。
 その穴で爆発を回避――――しかし巻き起こる高熱の爆風だけは避けられない。
 さらに左手で空気を利用した魔法を発動させ、こちらからも爆風をぶつけて相殺。
 凄まじい猛風が中空でぶつかり嵐のように吹きすさぶ。が、俺の魔法の方が威力は高く上空へと抜けていった。

 俺は残っていた空間跳躍を使用し二度虚空を跳ね、クレーターのような穴から脱出した。
 そのまま女性の前に降り立った俺は苦笑交じりで声をかける。

「流石……といったところですか。あまりに強すぎません?」

「ふふ。兵輔くんも流石ですねー。よく避けました。カッコよくて惚れちゃいそうですよー?」

「い、いや、それはご遠慮します。あ! もちろん可愛いとは思ってますよ。思ってますけど……」

 俺は女性から離れた場所で待機している二人に目を向けた。男女二人、仲良さげに話しながら俺たちに目を向けている。

「はぁ~~。話では俺たちが主人公級ってことだったんすけど……。なんで二人ともそんなに強いんだって小一時間問い詰めたい!」

「すべてが小説の通りではないという訳ですねー。ま、でも、二人の力は強力無比甚だしいと思いますよ?」

「それはそれで問題なんですけど。俺、本気出しちゃいますよ? こっちは既に一敗なわけですし」

 と言ったところで俺の仲間であるはずの少年が声を荒げた。
 待機している二人のうちの一人だ。

「それは駄目だよ! な、なんなら僕たちの負けでいいからさ!」

「へぇ……。兵輔くんはまだ力を隠してるんですかー。怖い怖い。組み合わせが失敗でしたかねー?」

「組み合わせが逆でしたらとっくに負けてますね。つか、なんなんすか、あれ? 聞いてなかったんですけど」

「戦力を事前に言う馬鹿はいませんよー。あれは、瞬獄、という魔法ですよー」

「微粒子魔法のことは教えてくれたじゃないすか……」

 だが確かに戦力をばらすのはあほだよな、と思いつつ考える。

 瞬獄。

 先ほど見たその魔法。
 今観戦している二人の間に始まった勝負を瞬間で決着させた壊れ魔法。
 一対一で戦えば勝てる相手なんかいないんじゃないかと思う程に。

 その爪痕は今もなお残っている。
 森の右側は数百にも及ぶ木々がなぎ倒されているのだ。

「はぁぁ。なんか予定と色々違うんですけど……」

 俺が項垂れながらそう口にすると、女性は口元をほころばせて小指をぴんと立てた。

「大丈夫です。だから言ってるじゃないですか、カッコよかったと」

「いや、そう言われましてもね……。ま、いいや。再開しますか?」

「ええ、私はいつでも構いませんよー」

 その言葉に俺は地面から石を三個ほど拾い上げ…………捨てた。
 これを利用して魔法を使用すると尋常じゃない威力の魔法が発動してしまう。
 殺傷力の高すぎる魔法を使うわけにはいかない。

(とんだハンディキャップマッチだな)

 そんな思いが内心を埋め尽くしつつも、焼け焦げた森へと身を隠す。
 まだ地面を媒体にした魔法は待機させたまま。これを利用してやれば……。
 考えつつ軽く目を瞑った。

 一体何がどうしてこうなってしまったのか?

 俺が平凡な日常に退屈を感じていたから?

 いや、そんなことは関係がないだろう。

 だが全てが始まり全ての世界が変わってしまったのはあの日だと断言できる。
 木漏れ日が俺の顔を照らし僅かに顔をしかめた。
 幹の間から女性と男女に目を向ける。

 女性の手から放たれた黄色い帯のような微粒子が迫りくる。

 こんな戦いの日々に身を落とすことになったのはあの日。
 そう。全てはあの時から始まったんだ。
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