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第一章
006 『藤藤恋愛成就同盟』ってダサいの……?
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江原曰く、髭じじいである王様は、会長の言葉を聞き嬉しそうに顔を綻ばせ、立派な口髭をクリンと撫でた。
なぜ、あんな立派な口髭が生えるのだろうか?と俺は考える。
日本人でカールする程に立派な口髭を持つ『紳士様』に出会った経験はほぼない。きちゃないホームレスのような髭は見たことがあるけれど。
と、俺が内心で褒めていると、王様はお偉いさん方に顔を向け「あれを持て……」とだけ口にした。
その言葉に大臣の隣の、ヒョロっとした若干健康面に問題のありそうなお年寄りが、ヨロヨロと歩きどちらかへ行かれた。
無事戻って来ることが出来ることを心の底からお祈りしております。
さらに王様は改めて俺たちを見渡した後、王女に声を掛ける。
「では、アレスディアよ。後は任せて良いのだな……?」
王女が「ええ、勿論です」と微笑むのを見て、王様は豪奢な椅子に腰を下ろした。入れ替わるように王女が立ち上がり、階段を一段ずつ降りてくる。
「それでは、皆様ご決断していただき、本当にありがとうございます。次は、ス――」
「――テータスを確認していただきたいと思っています。でしょう?」
「ぶほっ」
再度、ズビシッと指を突きつけ言葉を被せた会長に、俺は思わず噴き出してしまう。
流石に二度目はないだろうと思っていたところにきたので、油断してしまっていたのだ。
王女は少し驚いたように目を開いたが、すぐに微笑み「ふふ。わ――」と言ったところで再度会長が言葉を被せた。
「――たしにもそれをやってしまわれますか……? と言う」
「私にもそれを――はっ!?」
や・り・す・ぎ・で・す。
だが、そんな俺の心配をよそに、王女はおしとやかに口に手を当てた状態で固まっただけ。階段の途中だからか、それに会長が手を差し伸べ「どうぞ、王女様」と口にした。
その手を取ると王女は「ありがとうございます」と穏やかに微笑む。
これだけ見ると美人な二人の仲睦まじい非常に絵になる図面。
「ふふふ。流石は勇者天ヶ崎怜奈様。人心掌握術というものを心得てらっしゃいますね」
けれど、やる場面と空気感を間違えたら打ち首、流刑は当たり前レベルの失礼な行動な気がする。
いや、間違いなくなるだろう。それでもなってないということが、王女の言う人心掌握術というモノなんだろう。
凡人すぎる俺には理解不能の領域。雲上人同士の会話は見てるだけで胃が軋む。
まぁイケメン達やら不良達ですら笑っていることだし、良しとしよう。確かに笑いってのは人を引き付けるよな。今は敵も作った気がしたけれど。
会長は「ふふ。好きにやってるだけですよー」と言ったが、まさにそうなんじゃないかと思う俺も同意見。
さらに「もう、これはやらないので安心して良いのですよー」と言って俺の心もひと安心。
だがこの瞬間。なぜか莉緒がプルプルと震えながら俺の腕に掴まり、大きな果実を俺に押し付けてくる。
なんぞ!?と思う間もなく、俺の肩を剛力の込められた掌でバシバシと叩きだし爆笑していた。
「ぶっはははは。会長さん、やり過ぎだ……よ! つ、壺に……っくぅ」
右腕には柔らかで豊満な桃色の果実が当たり、左肩には凶器が振り下ろされる。これこそまさに、
『天国と地獄!』
じゃねーよ。ただの地獄だよ。
「お、おい、莉緒。痛いって」
俺の言葉に「はっ」と気付き、口に手を当てると「ご、ごめんなさい、大丈夫……?」と上目遣いの莉緒に俺は全てを許してしまう。
「あ、ああ。全く問題ないぞ。むしろ柔らかくて幸せだったっつーほ――えぐおっ!」
もう本気で何度目か分からない莉緒の肘鉄に、俺の肝臓のHPはゼロよっ!
なんて言ってる場合ではないはずなのだが「もうっ」と言いながら頬を染め、身を翻す莉緒を見て、俺の肝臓は瞬時に蘇生した。
あまりの痛さが続き、俺の分身も反応してはいない。なんてったって俺はドМではないのだ。
そんな俺たちを見てか会長が「二人の夫婦漫才は鉄板で面白いのですよー」と言うのに莉緒が「ち、違います。そんなんじゃありません!」と小さく拳を振り上げ食って掛かる。
勿論、会長を叩いたりと言ったことはないが、その様子が幼くも非常に可愛くて、俺は思わず歩に囁きかけていた。
「なぁ。俺、歩と会長の事応援すっからさ、歩は俺と莉緒の事応援してくんね?」
俺の言葉に歩は否定することなく頷いた。
ということは、非常に危ない橋だと思うが、歩は会長に好意を持っているということで合ってるんだな。
「うん、兵輔君が良いなら僕は良いよ。二人は応援するまでもないような気がするけど……」
「いや、あまい、あまーい! マックスコーヒーのように甘い!
だがぁ、まぁいい。
じゃあ、ここに藤堂、進藤、合わせて『藤藤恋愛成就同盟』の締結だ!」
「え、ええ……?
何言ってるのかよく分かんないけど、とりあえずその『藤藤恋愛成就同盟』ってのは凄くダサいよ」
俺は口の端がプルプルと震えるのを感じつつも、平静を装い歩に囁きかけた。
「ほっ、ほう? それでは、歩は良い案でもあるってことなんだな? うん? ほら、言ってみ?
あ、そうだ。別に呼び名に『君』とか付けなくていいぞ」
歩は「え、あ、うん」と言って腕を組みしばし黙考。何だよ、何もなかったんじゃねーか!と、思ったが意外とすぐに俺の耳に口を寄せてくる。
「えっと、僕の『歩』と兵輔く……兵輔の『兵』を取って、『歩兵同盟』ってのはどう? いつか恋愛『成』就して『と金同盟』になれるようにって」
俺も同様に腕を組みしばし黙考。そして、歩の言葉を反芻し、
「おお……。それって将棋かなんかだよな? な、中々よく考えられているな。
う、うん。俺程じゃないけど……。うん。
いや……非常におう脳したけどそれでいこう。オーノー!
あれ? でもさ、何で俺の漢字を知ってんの?」
口を半開きにして俺の顔を見つめてくる歩。
ダジャレは兎も角として、おかしなことを言ってしまったのかと不安を覚えた。
「普通にクラスメイトだから知ってたよ。兵輔が進藤に藤が入ってるって知ってたのもそういうことじゃないの?」
そういえばクラスメイトだったことを思い出す。進藤といえば『進藤』のイメージだったなんて今更言えるはずがないかった。
ダジャレのスルーは想定の範囲内なので、情状酌量の余地があるとみなす。
「勿論、そうだぁよぉ? うんー。じゃ、そろそろ前を向くことにしましょうかー?」
ギギリと音を立てるように回る首。目の端に見えるジト目の歩。だが、俺はそれを無視して視界から完全にシャーットアウト!
そのまま会長に目を向けると、莉緒とさらには王女も交え楽しそうに会話していた。「莉緒は――」「怜奈は――」っていつのまにか名前で呼び合うようになってるし。はやっ!
けれど、俺は先ほど王女や会長が口にしていた『ステータス』がどうとかというのが、非常に気になっている。
しかし言葉が通じるのも疑問だけど、英語も日本語も関係ないとか一体どういう理屈なんだかと思う。
魔法がある世界でそんなことを言っても仕方ないのかもしれないけれど。
「あ、兵輔! 二人でこそこそと何話してたの?」
俺の視線に気付いたであろう莉緒が、何故か小さく駆け寄ってくるのに俺の心臓は大きく揺れる。
さらには、その後ろから会長と王女が微笑ましげに見ているのが気にかかった。
が!
それはどうでもいいとして、問題は言えるような話なら、内緒話など端からしていないという事。駆け寄ってくるまでの時間はおそらく僅か。
逡巡。
この場の空気感。今の現状。それを考慮し俺の脳内シナプスはフル回転する。それが答えを出すのに有した時間はおよそ0.28秒ジャスト!
最短の距離、最速の動き。まるでネコ科動物のカウンターのような動きで、駆け寄ってくる莉緒の耳元に口を寄せ、俺は言葉を囁き掛ける!
「莉緒と会長って凄く可愛いよなって話をしてたんだ」
言ってから気付く。
――こりゃぁ自爆だ‼
だが、俺の胸の内は達成感に満ち満ちていた。やり切った。ただただ純粋なその思いが俺に拳を握らせ天井を仰ぎ、一筋の涙が頬を流れ赤い絨毯に染みを作る。
という妄想をする暇もなく、
莉緒は顔を紅潮させ後退り、両手を頬に当て足をモジモジさせると「そ、そんな、可愛いだなんて……」と顔を背けた。
俺はそのあまりの可愛さに目を完全に奪われる。
だが、まさか実際にこんな動きをする人間――いや、生物が存在するとは夢にも思っていなかった。それも、眼前でそれを行ったのは、空手のおそらくブラックベルトホルダー。
これこそ話に聞くギャップ萌えという奴!? そう考えると見ているだけで俺の分身が反応しそうに――
と、足を僅かに動かすと、突然真顔になり俺に一歩、歩み寄ってきた。
「ま、まさか、兵輔。怜奈を――」
「いやいや、待て待て! 確かに会長は可愛いとは思う。だが、俺は違う! 断じてあの腹グ……じゃなくて、会長に対して何か思ってたりはしない!」
大慌てで両手をあたふたと交差させ莉緒に言葉を被せる。色々危ない!
いや、ちょっと待て、
――またもや大自爆だ‼
しかし、意外にも莉緒は僅かに頬を赤らめ、ただ上目遣いで俺を見つめてくるだけ。
莉緒の「本当に……?」との言葉に二度大きく頷くと「そっ」とだけ言って身を翻すのを見送った。
ちなみに俺の目の端にはずっと会長が天使のような微笑み――いや、俺的には冷笑や嘲笑の類に見える表情を浮かべているのが目に映っている。
まるでそれは、放課後、生徒会室に来なさいとでも言わんばかりの顔。
そこで、俺はジョーカーを切る事にした。そう。最強兵器歩君という切り札を。
「なぁ、歩。そろそろステータスがどうのこうのって話に進もうぜ。俺、このままだと精神が持たねぇよ」
イケメン達、不良達、そして俺達と完全に自分たちの世界を作り、周りの人達置いてけぼり。王女に任せられてるからか知らんが、誰も一言も言葉を発したりしない。
歩は俺の言葉に肯定すると会長に歩み寄り話をしてくれる。
さてさて、やっと話が進むぜ……と、思っていると先ほどのお年寄りが、何か本のような物をよっこいしょ、どっこいしょ、とお待ちになって現れる。
俺はご老人が健在な状態で姿を現したことに安堵し、その様子を確認する。
皆の視線がお年寄りに集まるが、その歩みは非常に遅い。
亀とか赤ん坊のハイハイ、と例えて罵詈雑言を浴びせたりはしないが、ナマケモノのすり足くらいの遅さではある。
のでかは知らないが、王女がその様子を確認しながらも、俺達に向け口を開いた。
「あれはこの世界の人間全てが八歳で行う、ステータスを開く魔法を覚えるための魔法書なんです。
えっと、そうですね……。
もうしばらく、お時間がかかりそうですので、魔法の使い方を簡単に説明させて頂きたいと思います」
いやいや、誰かご老体を労わってやれよ!と、俺の心は一人涙を流していた。
なぜ、あんな立派な口髭が生えるのだろうか?と俺は考える。
日本人でカールする程に立派な口髭を持つ『紳士様』に出会った経験はほぼない。きちゃないホームレスのような髭は見たことがあるけれど。
と、俺が内心で褒めていると、王様はお偉いさん方に顔を向け「あれを持て……」とだけ口にした。
その言葉に大臣の隣の、ヒョロっとした若干健康面に問題のありそうなお年寄りが、ヨロヨロと歩きどちらかへ行かれた。
無事戻って来ることが出来ることを心の底からお祈りしております。
さらに王様は改めて俺たちを見渡した後、王女に声を掛ける。
「では、アレスディアよ。後は任せて良いのだな……?」
王女が「ええ、勿論です」と微笑むのを見て、王様は豪奢な椅子に腰を下ろした。入れ替わるように王女が立ち上がり、階段を一段ずつ降りてくる。
「それでは、皆様ご決断していただき、本当にありがとうございます。次は、ス――」
「――テータスを確認していただきたいと思っています。でしょう?」
「ぶほっ」
再度、ズビシッと指を突きつけ言葉を被せた会長に、俺は思わず噴き出してしまう。
流石に二度目はないだろうと思っていたところにきたので、油断してしまっていたのだ。
王女は少し驚いたように目を開いたが、すぐに微笑み「ふふ。わ――」と言ったところで再度会長が言葉を被せた。
「――たしにもそれをやってしまわれますか……? と言う」
「私にもそれを――はっ!?」
や・り・す・ぎ・で・す。
だが、そんな俺の心配をよそに、王女はおしとやかに口に手を当てた状態で固まっただけ。階段の途中だからか、それに会長が手を差し伸べ「どうぞ、王女様」と口にした。
その手を取ると王女は「ありがとうございます」と穏やかに微笑む。
これだけ見ると美人な二人の仲睦まじい非常に絵になる図面。
「ふふふ。流石は勇者天ヶ崎怜奈様。人心掌握術というものを心得てらっしゃいますね」
けれど、やる場面と空気感を間違えたら打ち首、流刑は当たり前レベルの失礼な行動な気がする。
いや、間違いなくなるだろう。それでもなってないということが、王女の言う人心掌握術というモノなんだろう。
凡人すぎる俺には理解不能の領域。雲上人同士の会話は見てるだけで胃が軋む。
まぁイケメン達やら不良達ですら笑っていることだし、良しとしよう。確かに笑いってのは人を引き付けるよな。今は敵も作った気がしたけれど。
会長は「ふふ。好きにやってるだけですよー」と言ったが、まさにそうなんじゃないかと思う俺も同意見。
さらに「もう、これはやらないので安心して良いのですよー」と言って俺の心もひと安心。
だがこの瞬間。なぜか莉緒がプルプルと震えながら俺の腕に掴まり、大きな果実を俺に押し付けてくる。
なんぞ!?と思う間もなく、俺の肩を剛力の込められた掌でバシバシと叩きだし爆笑していた。
「ぶっはははは。会長さん、やり過ぎだ……よ! つ、壺に……っくぅ」
右腕には柔らかで豊満な桃色の果実が当たり、左肩には凶器が振り下ろされる。これこそまさに、
『天国と地獄!』
じゃねーよ。ただの地獄だよ。
「お、おい、莉緒。痛いって」
俺の言葉に「はっ」と気付き、口に手を当てると「ご、ごめんなさい、大丈夫……?」と上目遣いの莉緒に俺は全てを許してしまう。
「あ、ああ。全く問題ないぞ。むしろ柔らかくて幸せだったっつーほ――えぐおっ!」
もう本気で何度目か分からない莉緒の肘鉄に、俺の肝臓のHPはゼロよっ!
なんて言ってる場合ではないはずなのだが「もうっ」と言いながら頬を染め、身を翻す莉緒を見て、俺の肝臓は瞬時に蘇生した。
あまりの痛さが続き、俺の分身も反応してはいない。なんてったって俺はドМではないのだ。
そんな俺たちを見てか会長が「二人の夫婦漫才は鉄板で面白いのですよー」と言うのに莉緒が「ち、違います。そんなんじゃありません!」と小さく拳を振り上げ食って掛かる。
勿論、会長を叩いたりと言ったことはないが、その様子が幼くも非常に可愛くて、俺は思わず歩に囁きかけていた。
「なぁ。俺、歩と会長の事応援すっからさ、歩は俺と莉緒の事応援してくんね?」
俺の言葉に歩は否定することなく頷いた。
ということは、非常に危ない橋だと思うが、歩は会長に好意を持っているということで合ってるんだな。
「うん、兵輔君が良いなら僕は良いよ。二人は応援するまでもないような気がするけど……」
「いや、あまい、あまーい! マックスコーヒーのように甘い!
だがぁ、まぁいい。
じゃあ、ここに藤堂、進藤、合わせて『藤藤恋愛成就同盟』の締結だ!」
「え、ええ……?
何言ってるのかよく分かんないけど、とりあえずその『藤藤恋愛成就同盟』ってのは凄くダサいよ」
俺は口の端がプルプルと震えるのを感じつつも、平静を装い歩に囁きかけた。
「ほっ、ほう? それでは、歩は良い案でもあるってことなんだな? うん? ほら、言ってみ?
あ、そうだ。別に呼び名に『君』とか付けなくていいぞ」
歩は「え、あ、うん」と言って腕を組みしばし黙考。何だよ、何もなかったんじゃねーか!と、思ったが意外とすぐに俺の耳に口を寄せてくる。
「えっと、僕の『歩』と兵輔く……兵輔の『兵』を取って、『歩兵同盟』ってのはどう? いつか恋愛『成』就して『と金同盟』になれるようにって」
俺も同様に腕を組みしばし黙考。そして、歩の言葉を反芻し、
「おお……。それって将棋かなんかだよな? な、中々よく考えられているな。
う、うん。俺程じゃないけど……。うん。
いや……非常におう脳したけどそれでいこう。オーノー!
あれ? でもさ、何で俺の漢字を知ってんの?」
口を半開きにして俺の顔を見つめてくる歩。
ダジャレは兎も角として、おかしなことを言ってしまったのかと不安を覚えた。
「普通にクラスメイトだから知ってたよ。兵輔が進藤に藤が入ってるって知ってたのもそういうことじゃないの?」
そういえばクラスメイトだったことを思い出す。進藤といえば『進藤』のイメージだったなんて今更言えるはずがないかった。
ダジャレのスルーは想定の範囲内なので、情状酌量の余地があるとみなす。
「勿論、そうだぁよぉ? うんー。じゃ、そろそろ前を向くことにしましょうかー?」
ギギリと音を立てるように回る首。目の端に見えるジト目の歩。だが、俺はそれを無視して視界から完全にシャーットアウト!
そのまま会長に目を向けると、莉緒とさらには王女も交え楽しそうに会話していた。「莉緒は――」「怜奈は――」っていつのまにか名前で呼び合うようになってるし。はやっ!
けれど、俺は先ほど王女や会長が口にしていた『ステータス』がどうとかというのが、非常に気になっている。
しかし言葉が通じるのも疑問だけど、英語も日本語も関係ないとか一体どういう理屈なんだかと思う。
魔法がある世界でそんなことを言っても仕方ないのかもしれないけれど。
「あ、兵輔! 二人でこそこそと何話してたの?」
俺の視線に気付いたであろう莉緒が、何故か小さく駆け寄ってくるのに俺の心臓は大きく揺れる。
さらには、その後ろから会長と王女が微笑ましげに見ているのが気にかかった。
が!
それはどうでもいいとして、問題は言えるような話なら、内緒話など端からしていないという事。駆け寄ってくるまでの時間はおそらく僅か。
逡巡。
この場の空気感。今の現状。それを考慮し俺の脳内シナプスはフル回転する。それが答えを出すのに有した時間はおよそ0.28秒ジャスト!
最短の距離、最速の動き。まるでネコ科動物のカウンターのような動きで、駆け寄ってくる莉緒の耳元に口を寄せ、俺は言葉を囁き掛ける!
「莉緒と会長って凄く可愛いよなって話をしてたんだ」
言ってから気付く。
――こりゃぁ自爆だ‼
だが、俺の胸の内は達成感に満ち満ちていた。やり切った。ただただ純粋なその思いが俺に拳を握らせ天井を仰ぎ、一筋の涙が頬を流れ赤い絨毯に染みを作る。
という妄想をする暇もなく、
莉緒は顔を紅潮させ後退り、両手を頬に当て足をモジモジさせると「そ、そんな、可愛いだなんて……」と顔を背けた。
俺はそのあまりの可愛さに目を完全に奪われる。
だが、まさか実際にこんな動きをする人間――いや、生物が存在するとは夢にも思っていなかった。それも、眼前でそれを行ったのは、空手のおそらくブラックベルトホルダー。
これこそ話に聞くギャップ萌えという奴!? そう考えると見ているだけで俺の分身が反応しそうに――
と、足を僅かに動かすと、突然真顔になり俺に一歩、歩み寄ってきた。
「ま、まさか、兵輔。怜奈を――」
「いやいや、待て待て! 確かに会長は可愛いとは思う。だが、俺は違う! 断じてあの腹グ……じゃなくて、会長に対して何か思ってたりはしない!」
大慌てで両手をあたふたと交差させ莉緒に言葉を被せる。色々危ない!
いや、ちょっと待て、
――またもや大自爆だ‼
しかし、意外にも莉緒は僅かに頬を赤らめ、ただ上目遣いで俺を見つめてくるだけ。
莉緒の「本当に……?」との言葉に二度大きく頷くと「そっ」とだけ言って身を翻すのを見送った。
ちなみに俺の目の端にはずっと会長が天使のような微笑み――いや、俺的には冷笑や嘲笑の類に見える表情を浮かべているのが目に映っている。
まるでそれは、放課後、生徒会室に来なさいとでも言わんばかりの顔。
そこで、俺はジョーカーを切る事にした。そう。最強兵器歩君という切り札を。
「なぁ、歩。そろそろステータスがどうのこうのって話に進もうぜ。俺、このままだと精神が持たねぇよ」
イケメン達、不良達、そして俺達と完全に自分たちの世界を作り、周りの人達置いてけぼり。王女に任せられてるからか知らんが、誰も一言も言葉を発したりしない。
歩は俺の言葉に肯定すると会長に歩み寄り話をしてくれる。
さてさて、やっと話が進むぜ……と、思っていると先ほどのお年寄りが、何か本のような物をよっこいしょ、どっこいしょ、とお待ちになって現れる。
俺はご老人が健在な状態で姿を現したことに安堵し、その様子を確認する。
皆の視線がお年寄りに集まるが、その歩みは非常に遅い。
亀とか赤ん坊のハイハイ、と例えて罵詈雑言を浴びせたりはしないが、ナマケモノのすり足くらいの遅さではある。
のでかは知らないが、王女がその様子を確認しながらも、俺達に向け口を開いた。
「あれはこの世界の人間全てが八歳で行う、ステータスを開く魔法を覚えるための魔法書なんです。
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