-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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第一章

007 ステータスは……すごくシンプル……です

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 王女が魔法の説明を行おうとしているが、俺の目の端に映るのはまるでパンクした自転車のような進みのご老体。

 けれど、俺にはそれが誰で、何故誰も手伝おうとしないのかが分からない。
 ならば、と俺は心を鬼にしてそのご老体を視界の端から掻き消した。

 次に考えるのは魔法という物。

 地球という世界にはおそらく存在しない、未知の力。
 悠久の時より人はその存在を恐れ、渇望し、そして、諦めてきた神秘の力。

 俺はそれを手にすることが出来たというのだろうか。
 掌を眺めてみても、何も分からない。何も感じない。
 けれど、その存在を疑うことは出来ないという事は、既に身を持って体験し確定した事実。

 と、考えているといつの間にか莉緒が俺の事を覗き込んできていたので心臓が揺れた。

「また、なんか変なこと考えてるでしょ?」

「し、ししし、失敬な! いつ! 誰が! どこで! 変なことを考えていたと言うのですか!」

 莉緒は俺にジト目を向けニヤッと口角を上げてみせる。

「ほら。言葉遣いがおかしくなってるもん!
 ちなみに、いつは学校の放課後。誰がは兵輔。どこでは学校の廊下でだよ」


 完・全・論・破!


 だが、項垂れそうになる俺の背中に手を置いて「ま、それはいいよ。魔法使えるんだよ? 楽しみじゃない?」と聞いてきたので機嫌はすぐ直る。

「ああ。魔法とかやべーな。でも、どうやって使うんだろうな? ゲームとかだと詠唱……とか何だっけ、魔法陣? とか必要になるよな?
 でも、さっき王女さんは何の言葉も発してなかった。つまり、そう言ったことは必要ないという事か……?」

「ふふ、饒舌だね。でも、どーなんだろ? でもま、すぐ教えてくれることじゃない? ほら!」

 莉緒が顔を向けた先では、会長がチョイチョイと手招きし、横で王女が口を開こうとしていた。

「魔法の使い方は非常に簡単なのです。私達の体内には既に魔力が流れています。そしてそれをこうやって――」

 と、王女は言いながら、あの密室でおこなったのと似たように、両の親指と中指をくっ付け頭上に掲げて見せてくる。

「――円環を作れば魔法使用の準備は終わりです。もっとも、皆さんはまだ魔法書を使用していないので使用出来ません。
 なので、試しに私が使用してみます『ステータス』!」

 王女が『ステータス』と口にした瞬間、その円環――つまり、ただの指の輪っかの内部がエメラルドグリーンに光り、先ほどとは違い何か文字のような物が表示されているのが見えた。
 だが、小さすぎて内容は見えやしない。
 それは、皆も同じだったのか興味深そうに王女に近寄って行く。

「通常、この文字は他の人には見えません。が、今は公開設定にしているので誰でも見ることが出来ます。やり方は、ただ頭の中で考えるだけなんですけどね。
 どうぞ、皆様ご覧になってください。少し恥ずかしいのですけれど……」

 そう言って王女は顔を赤らめ顔を背けた。

 ステータス。

 それは一体なんなんだというのだろうか? 己の内面を曝け出してしまうものなのだろうか?

 だからといって、俺は見ることをやめたりはしない。スリーサイズとか×××とか書かれてるかも知れないという期待が、俺の胸を高鳴らせるのだ。


『名称』        アレスディア
『レベル』       10
『現魔力量/総魔力量』 980/1000

『固有能力』      
  鑑定、意思疎通、時計、方位磁針、収納庫、ステータス

『潜在魔法能力』
  火属性魔法(レベル1)


 すごく……シンプル……です。
 小さな手の輪っかの中にごちゃごちゃと書かれていても読み辛いとは思う。けれど、結構本気で年齢くらいは知りたかった。
 そんな俺の内心を知ってか知らずか、会長が王女に声を掛ける。

「とってもシンプルなステータスなのですね、アレスディア。
 これが一般的なステータス表示なのですか?」

「そうです。細かくはこれからご説明しますが、大体こんな感じに表示されますよ、怜奈」

 王女とも名前で呼び合うようになっていることに心の底から感心を覚えた。

「分かりました。じゃ、結構気になってたのですけど、アレスディアの年齢っておいくつですか?」

――僥倖! 圧倒的僥倖! まさに青天の霹靂!

 俺はこっそり会長に向けて親指を立てた、つもりだったのだが、ばっちり気付かれていて会長も口の端を持ち上げ親指を立て返してくる。
 俺は会長に全力で好きだと伝えたかった。勿論『Like』のほうだ。それは地球がひっくり返っても変動しない不変的なもの。
 まずここ、地球ではないし、容姿だけで見れば会長は物凄く可愛いのだけれど。

 王女が「わ、分かりました。私が言うのですから、怜奈もちゃんと教えてくださいね?」と頬を染めるのに、またもや新垣、江原が見惚れて肘打ちを受けていた。
 学習しないとは何という愚か者たちだ。

 王女はコメカミをトントンと叩きながら「ええっと……17歳ですね」と口にし、会長が「あ、意外と近いですね」と微笑んだ。

「私は18歳で、他の面々は15歳か16歳になりますね。私だけちょっとおばさんなんですよー」

 おばさんなんて、心にも思ってないくせに、と思っていると凍り付くような眼で睨まれ俺の背中がブルリと震えた。
 莉緒とは逆の意味でギャップが有ると思う

「へーそうなんですか? 私は挟まれてるんですね。ちなみに莉緒は何歳なんですか?」

「私はまだ15歳なの。この世界の暦とかってどうなってるか分からないけど、八月生まれだからあっちの世界だと、まだもう少し先になるかな」

「ええっと、八月って言うと一年の中の月の事ですか?
 同じかは分かりませんが、これはステータスに書かれてた固有能力で知ることが出来ますよ。『時計』」

 王女は右手の親指と中指だけで小さく輪を作り魔法を発動させた。
 そういう円環でも出来ることに、なんとなく興味深いものを覚える。
 皆が覗き込んだので、俺もそれを倣うように覗き込むと、


『2017/6/14 17:28』


 との完全デジタル表示に驚愕する。しかも、年号も同期してるっぽいし、召喚された時間から計算して、時間も同じだろう。

 一体どういう事なんだろうか……?と思ったが、再度、もうそう言う段階ではないのよ、と莉緒に言われたことを思い出し、苦虫にはバルサンを仕掛けておくことにした。

 王女が「数字の説明が必要でしょうか?」との質問に会長が「いえ、その数字はここにいる全員が知ってるから――あっ!?」

 と言いながら江原達を恐る恐ると言った様子でじっと見つめる。

「うちの高校に来てるってことは……ぎ、義務教育は受けてらっしゃいますよね?」

 その疑問はごもっともだと思うが、不良じゃなくても普通は怒る。
 けれど、江原は「受けてるにきまってんじゃねーか」とだけ吐き捨てて、ギャルと二人だけで話し出した。
 それにちょっと拍子抜けしていると、いつのまにかゆっくりじいさんが到着し、こちらもいつのまにかであるが、木製の台のような物が王女の後方に鎮座し魔法書(?)が置かれていた。

「王女様、ご準備整いました」とおそらく台を持ってきたのであろう熟年の女性に声を掛けられ、王女はそちらに顔を向けた。
 そのままそれに歩み寄り本を開くと、神秘的な光景が目の前に現れる。

 本かと思っていたが違い、真ん中で二分されただけのそれは、左側のページは淡い光を放ちながらまるで立体映像のようなものを虚空に映し出した。
 球体、円錐、そして放射状に線を伸ばす棘ボールみたいなもの。球体には変な記号と幾何学模様が描かれ、まるで古代の埋蔵物。
 円錐は同心円が20本程刻まれていて、回転させれば目が回る催眠装置に早変わりだろう。
 と、考えて回転させても模様は変わらないことに思い至る。

 右側のページには手形が象られていて、『どうぞ、ここに手を置いてください』と言わんばかりだが、こちらも光のカーテンのようなものが薄らと上に伸びている。

 流石にこれには皆驚いたのか「わぁ」とか「すっげ」とかの感嘆の声を漏らし、それを見た王女が嬉しそうに微笑んだ。

「では、皆様こちらの手形に一人ずつ手を乗せていってください。各々少々お時間を頂きますので、先ほどのステータスのご説明をしながら進めていきたいと思います。
 まずは怜奈からやってみます?」

 会長はその言葉に頷き「まずは、おばさんからやるべきですよね」と、言いながら俺をジロリと見つめてきたが、完全な濡れ衣である。
 だが、単にからかっているだけなのか、すぐ視線を戻すと「なんか、ドキドキしますね」と呟いた。
 そのお胸の奥がドキドキしてると思うだけで、俺がドキドキしますよと見ていると、

「おほっ!」

 お約束のように喰らう莉緒の肘打ちも何だか慣れたもの。
 ま、まさか変な世界に目覚めてないよな、と俺の心は不安に染まる。

 初めての経験なので分からないが、好意を持っている相手からの攻撃は、精神に複雑な化学反応を起こさせるのかもしれない。
 そう考え、それこそ変な世界なんじゃないかと、再度俺の心は悲鳴をあげる。

 すまし顔で視線を戻す莉緒を横目に、俺も会長が本に手を当てるのに目を向けた。
 おそらく豪胆な性格の会長が恐る恐る手を伸ばし、手形に乗せた瞬間――会長の全身が一瞬黄金色に光ると同時に、球体は青く、円錐はその半分ほどの高さまで白く光を灯した。
 ウニみたいな棘ボールは全く動かなかったのでよく分からなかったが、自分もそれを体験できると思うだけで興奮する程の超常現象。

 俺達の間から再度感嘆の声が漏れると同時に、周りからもひそひそと声が聞こえ出す。
 「青だ、青」とか「半分だな」とか、なんとなく値踏みするような色を含んだ声が。

 王女は髪色とお揃いの整った眉を中央に僅かに寄せ「てっきり怜奈かと思っていたのですが、そうではありませんでしたか……」と呟く。

 そういえば、秘めたるなんとかに反応して召喚がどうのこうのとか言っていた。それがこれで分かるような仕組みだったのかもしれない。

 会長は腕や足なんかをチラチラと確認していた様子だったが、光が消えているのを見てか王女に話しかける。

「これはどういう意味だったのです? 特にこのウニ蔵君が気になっているのですよー」

 言いながら触れようとしたが、ただの映像なのかそれはその手をすり抜けた。
 気になることは多いが、ウニ蔵君ってどこのゆるキャラだよ!と俺は内心で突っ込んでおいた。

「ごめんなさい、怜奈を実験台にしてしまって。現象を目で見てからの方が分かりやすいと思って黙っていました。
 ちなみに、ステータスは開けますか?」

 その言葉を聞き会長は頷くと、手で円環を作り『ステータス』と口にした。王女と同様にエメラルドグリーンに光っているのは見えたが、文字は表示されていない。
 おそらく、公開設定にしていないということなのだろう。

「開けました、凄いですよー。固有能力はアレスディアと同じなんですね?」

「あ、はい。そうなんです。というより、ステータスを開けるとこの六つは共通して表示されます。全ての人間が持つ力ですね」

 なんて便利で平等な世界なのだろうか。
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