-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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第一章

008 イケメンが光の戦士、不良が闇の戦士、おもんな!

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 一足先に魔法使いへと変貌を遂げた会長は、ステータスをじっと確認しながら口を開いた。

「レベルは『1』から始まるのものだとばかりに思っていましたよー」

 との言葉から察するに、会長のレベルは『1』ではないということ。
 王女はその言葉に口に手を当て、少し驚いた様子を見せる。

「そうなのですか? この世界ではステータスを確認するのが八歳ですので、レベルが『1』という状況はまずあり得ません。
 一応、理論上では生まれたての赤子がレベル『1』ということになるのでは?と、研究されているらしいですが、ステータスを使えないので確認のしようがないのです」

 ステータスを使うために必要な条件は俺には分からない。
 けれど、もし、仮にステータスという言葉を口に出来たとしても、赤ん坊の作った円環はさぞ小さいだろうなと俺は想像した。
 しかも円環をすぐ壊してしまって、非常に見辛いだろうし。

「私達の世界にステータスはありません。けれど、そうですね。生きて成長すれば自然とレベルも上昇するということですか。
 言われてみれば当然の話です」

 会長の言葉に確かにその通りだなと感じた。

 俺の知ってる某国民的人気RPGは、世界を救う勇者がレベル1、HP15からスタートするが、その時点でおそらく大人。
 HP15というのがどの程度の物なのか俺には知る由もないが、勇者と呼ばれる存在が、今まで何をして生きてきたんだ?と突っ込んでしまうもんな。

 どう考えても自堕落に生きてきただろ!

 つって。
 ま、ゲームだしそれがいいのかもしれない。

 勇者として物凄く努力してきました!
 一日百万回素振りしてきました!
 山のような魔法書を読み、魔法を極めに極めました!

 とかだったら、もう最初の城から外に出て、大きな川を挟んで対岸にある、世界の半分をご所望する悪の権化の住処。〇ゅうおうの城を吹き飛ばして仕舞い。
 そのまま、世界を救ってほしいと言った王様が出てきて「あれ? もう終わりましたか? 攫われた姫は?」状態でエンディングが流れ、最後に勇者のドヤ顔が出て終わり。

 お・も・ん・な。

 と、ゲームソフトは捨てられ、皇居のお堀は黒くて硬い直方体で埋め尽くされてしまうことだろう。


――ゴミはきちんとゴミ箱へ!


 我ながらマイナーな上にシュールなネタを考えていたな、と思っていると王女がステータスの説明に入りだした。

「ステータスのご説明なのですが、怜奈によれば皆さん大体ご存知のようですので、簡単に説明させていただきますね」

 その言葉に、おいおい、俺はご存知じゃありませんよ。と思ったが後で分からないことは誰か――莉緒か歩にでも聞けばいいと判断した。

「鑑定は、円環を作りながらその対象としたい物に向ければ、無生物なら希少度と名称が。生物でしたらレベルと名称が分かるようになっています。
 また、その対象に対する知識をご自身で有している場合に限り、それを引き出すことも出来ます」

 王女の言葉を聞いて考える。
 いやはや、便利なような便利じゃないような……と。

 よく分からないけれど、自分が知らない相手だと名前くらいしか分からないという事。
 レベルや希少度というものが分かっても、参考になるのか現状では不明だ

 知ってる知識を思い出す必要がないというのは便利だが、例えば今、俺が江原に鑑定を行ったらどうなるのだろうか……?


『進藤をいじめ、社会の生ごみと呼ばれ、ミミズにゴキブリとして求愛をする不良男』


 とでも出るのだろうか。

 だとしたら流石に可哀そうすぎる。もうこれでは、どっちがいじめられてんのか分からないだろう。
 自分でも酷いかなと思う事を考えていると、王女が言葉を繋げた。

「あ、人間を対象とした場合の鑑定では、有している知識上での名称とレベルしか分かりません。申し訳ありません、言い忘れていました」

 王女の言葉で、江原の人権は紙一重のところで保たれたが、正直な話どうでもいい。
 小さく頭を下げていた王女は体を起こすとさらに言葉を続ける。

「意思疎通は持っている者同士の意思疎通を可能とします。
 それは、文章に込められた物でも同じこと。書いてあるものが読めないと言った事にはならないので安心してください」

 便利なものだと思う反面、いつ身につく能力なのだろうか……という疑問がふってわいた。
 八歳のステータスを得る時であるなら遅すぎるし、生まれた時から所持しているのなら気持ち悪すぎる。

 けれど、再度もうそんな段階ではないという莉緒の言葉が頭を過り、考えないことにした。

「えっと、後は収納庫だけで良いのですよね?怜奈」

「ええ、時計と方位磁針は、教育を受けていれば知っていることですから大丈夫です」

 と言ったが、今度は会長が江原たちに目を向けることはなかった。
 王女は会長の言葉に頷くと、両手で大きく輪っか――円環を作りながら『収納庫』と口にする。
 胸の前で作り上げられた大きな円環の内部がエメラルドグリーンに光り、まるでどこぞの湖のよう。

「こういった円環の中に入る大きさの物が、整理整頓されながら収納されていきます」

 便利だけれど、両手が塞がっているし使い勝手悪いな。

「ちなみに円環を通り抜けられないものは、入れることが出来ませんので、ご注意ください。
 取り出す時はステータスを開く時のように、指で円環を作って、表示される物品名を触れば瞬時に現れます」

 出すときは非常に便利だなぁと思っていると、魔法書に触れていた新垣に異変が起きるのが見えた。
 現在ステータスの儀式が終わったのは、会長と莉緒に高嶋さん。
 皆、魔法書に触れた時の反応は会長の時と同じような感じだ。

 けれど、新垣の時だけ球体が赤く染まり、円錐状の物は全体が白く発光し、そして棘ボールがうねうねとその棘を不気味に動かしていた。

 きっも!と思うと同時に周りから聞こえてくるざわつき。

「見ろ!赤だぞ、赤!」とか「全て光っておるな」とか「潜在球が……」と、最後のはよく分からないが耳に届く。
 さらに王女が新垣に歩み寄り、じっと顔を見つめながら言葉をかけた。

「新垣さんがそうだったのですか……。なるほどなるほど」

「お、王女アレスディア様、僕は一体……?」

 と、聞き返したところで会長が声を上げる。

「いやいや、新垣君。あなた予習組じゃないですかー。ほんとは分かってたのではないですか? 自分が秘めたる力を持つ者だって。ねえ? 高嶋さん」

「あ、はい。私はそうなんじゃないかと思っていました、会長。
 翼は私の勇者様ですから」

 と顔を赤らめながら言葉を口にするのに、会長は露骨に身を翻し、俺のそばまで駆け寄ってくると大きく舌打ちをかました。

――もう、慣れました!

 しかし、会長と高嶋さんの言葉から判断するに、小説だとイケメン王子が英雄ってのが相場ということ。
 それはどう考えても、普通過ぎてつまんないだろう。今は現実だから仕方なく納得できるけれど、小説でくらい違う展開を希望したい。
 正直、さっき王女が予想した事に俺は同意したい。会長が秘めたる力を持つ者だったりしたほうが絶対面白いと思う。
 英雄っていうよりは、悪の大魔女かなんかになりそうだけどな。

 考えながら恐る恐る会長に目を向けると、なぜか歩が密かに笑っているのが見えた。

 なんだろうか。もしかして俺の考えてること分かったのだろうか?
 なら会長にばらさないでね、と歩に親指を立ててみると、親指を立て返してくれた。

 間一髪危機を回避した俺が気になるのは、やはり先ほどの新垣の現象。
 秘めたる力を持つ者という事は分かった。別にそれだけでいいのかもしれない。けれど知っておいた方がいいような気がした。

「あの、会長? さっきの新垣……君のあれ説明してもらいません?」

「そうですね。じゃあ、アレスディア。お願いしてもよろしいです?」

 会長は俺の言葉に頷いて王女様に話しかけてくれる。
 普通人の俺には、なんとなく王女様に話しかけにくい雰囲気があるのだ。

「ええ、勿論です。球体は現在のレベルに対して反応します。5までが白、6~14が青、それ以上が赤ですね。
 円錐は魔力量です。一番下が0、一番上が2000以上です。
 最後のウニ蔵君……ですか?は本来、棘状突起潜在能力判別球と名付けられておりまして、特殊な固有能力を持つ場合にのみ反応します」

 言いながら新垣に顔を向けると王女は優しく微笑んだ。

 けれど、俺は別の事が気になった。

 棘状突起潜在能力判別球。

 なぜお偉いさん方や学者さん方は、難しい言葉を使いたがるのだろうか……?

 別にこれならさっき兵士が口にした潜在球でいいではないか。
 棘状突起なんてみりゃ分かるんだし、わざわざ名称に入れる必要はない。
 不必要に理解しにくい言葉や難しい漢字を使用するのは、自分が無能だと晒しているようなもの。

 大衆、民衆に分かりやすい言葉を使うのが、頭の良い人間の責務。
 だから、俺達若者が政治から離れていく。
 その視点からなら会長が口にしたウニ蔵君でも良い。
 俺はそう呼ぶと決めた。そうすれば原宿系のギャルが、きゃわいい、ともてはやしてくれることだろう。

 いや、それは流石に鬱陶しいか。

 とはいえ簡単にすれば良いというものでもない。
 『公約』を『マニフェスト』とカタカナ語にした時なんて思ったね。
 アホの極みだろ!と。
 なぜ『こ・う・や・く』の四文字を分かり辛い六文字に変えてしまうのか。ただ、言いたいだけちゃうんかと。

 でも、流行語大賞とったもんな……。

 うん、そうだよな。お偉いさん方も色々お考えになってるよな。お仕事ごくろうさまです。

 と一人腕を組みうんうんと頷いている間に、王女様が新垣に上目遣いで言葉をかけた。

「ステータスを開いてもらっても良いですか? もし、良ければ公開にして……。
 駄目でしたら、固有能力に先ほどの六つ以外の物がないかを確認していただきたいのです」

 新垣は高嶋さんと顔を見合わせると、頷きながらステータスを出現させ、俺達に公開した。


『名称』        新垣翼
『レベル』       26
『現魔力量/総魔力量』 4740/4740

『固有能力』     
  鑑定、意思疎通、時計、方位磁針、収納庫、ステータス、光の戦士

『潜在魔法能力』
  風属性魔法(レベル2)、雷属性魔法(レベル2)、光属性魔法(レベル2)


 こいつ学校ではスポーツも勉強も中の上みたいな感じの、見た目だけイケメン王子と思っていたのに、このレベルと魔力量、潜在魔法能力には俺は疑問を感じるしかない。
 新垣のステータスを見ていると、王女が嬉しそうに新垣の手を取りステータスは消えた。高嶋さんも王女だからか知らないが、顔を僅かに曇らせたが我慢している様子だ。

「これは……素晴らしいですね。光の戦士ですか。新垣さん……は、そうですね、高嶋さんと仲が良いのですよね?」

 王女の言葉に高嶋さんが新垣の腕を取りながら手を挙げた。

「はい!はい!はい! カップルです! 彼女です! 将来結婚します!」

 その頭を新垣が撫でるのに、もはや穏やかな気持ちにさえなる……わけねぇだろ! と、俺は会長と密かに舌打ちを交わし合った。

――勿論、親指付きでなっ! グッジョブ!

 莉緒が俺と会長の舌打ちに小さく息をついたのを横目に、王女に顔を向ける。
 王女は高嶋さんの言葉を気にした様子もなく、新垣の手を離すと「それでは、二人で北方を担当して貰いたいと思います」と、笑いかけた。

「方角によって難易度が変わるのですか?アレスディア」

「あ、はい。そうですね。北と西の勢力が強くて、東と南は若干弱いはずです。
 とはいえ戦力もそれに合わせて傾けているので、単純には判断できませんが」

 これでほぼ説明は終わったらしく、穏やかな会話を交わしながら、順々にステータスを解放していった。
 莉緒とギャルも、会長と同じような魔法書の反応。

 だが、意外なことに江原も新垣と同じ反応を見せた。
 ステータスを見せることはなかったが持つ能力は口にし、それが『闇の戦士』というものだという事が判明した。
 何となく危険な名称だが、特別悪役だったりとかするわけではない。強さの象徴のようなもので、デメリットはないと王女は言っていた。

 勿論、王女は江原の手を取ったりはしてしない。
 いじめの現場は見ていないが、会長がぼっこぼこにしてるのを見て空気を読んだのだろう。見た目も怖いし気持ちは分かる。

 しかし、いじめっ子が秘めたる力を持つ者ってのはどうなんだろうか?
 何となく不公平な世の中だなと感じて、若干嫌な気持ちが心に芽生える。
 けれど、江原もギャルもここまで会長に十分な制裁は受けた。
 いじめられていた本人である歩は納得できていないと思うけれど、受けたのは受けた。
 
 会長にでも話せば『あれはゴキブリ由来のしぶとい生命力によるものです』とか言いそうだけれど。

 そんなことを思っているうちに、歩の番がやってきたので、魔法書に向けて歩み寄っていった。
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