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第一章
016 初モンスターは二足歩行の犬っころ
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俺は莉緒からメッセージを受け取り、天にも昇りそうな思いを味わった。
とはいえ、二通のメッセージの間に、何が書かれていたのかは分からない。書かれてなかったのかもしれない。
偶然が生み出した産物が、必然のように俺の心を魅了しただけなのかもしれない。
こんな事で喜んで身悶えできるのも童貞の特権である。
ちなみに童貞には、俺達というルビが振られるはずだ。
俺はお客様の立場になって伝えなければいけないと以前言った。砕けすぎても駄目だと言った。
その観点からすれば全文ひらがななんて、愚の骨頂と言えるものになるだろう。
けれど、あの文はひらがなだったからこそ俺の心を打った気がする。
『兵輔の格好良いとこ見てたよ』
いや、これでも十分嬉しいと思え、結局、文字なんかじゃなくて内容と心だということに思い至った。
そんなことを思いながら俺は返信をする。あんまり特別なことを書いたりはしない。勘違い誤爆こそ最大の悪行。
『あゆむは、たてよみにきづかないうちに、がめんをきりかえてやったからだいじょうぶだ』
『といっても、もしほんきでうなだれるようなことがあれば、つたえようとおもう』
『 』
『きにかけてくれてありがとう。りおのやさしさがみにしみるぜ』
『おそらくきけんなせかい。ぶじにさいかいできることをこころからたのしみにしてる』
『そのときはごーるいんだな』
『 』
『あと、たすけにきてくれてほんとうにうれしかった。ありがとう』
*****
歩が実際に縦読みに気付いたかどうかは知らないが、結局そこまで機嫌が悪くならなかったので良しとした。
莉緒からの言葉も伝えないのは、歩にはまだ早すぎるという俺の勝手な考えからだ。
さて――そんなことよりも、気持ちを切り替え今の状況に対応しなくてはいけない。
「さてさて、歩君。一体これはどういう状況でしょうか?」
俺達は南門から伸びる街道に沿って進んで、約2時間。
もうすぐ森に入るのか? 森は迂回しろよ! と思ってた時の事だった。
ガサガサと森の茂みが揺れて、木陰から唸り声を上げながら二足歩行の犬が現れた。
いわゆる『モンスターが現れた!』というやつだ。
尖った耳がピンと伸び、小さな犬歯が口から覗いている茶色の犬。身長は150センチ程で大きいような小さいような大きさだ。
鑑定ではナイフテールドッグという名前のレベル5のモンスター。尻尾が刃渡り20センチ程のナイフのようになった犬ころのモンスター三匹に囲まれているのが今の状況だ。
俺が剣を抜き取り正中線に構えると、鈍色の刃が陽光を煌めかせたためか犬ころ達は警戒した様子となり、現在は輪を狭める様に迫ってきている。
歩はというと隣で武器を魔法で描かせているところ。
「いや! 分かってるでしょ! 今の状況! そんな、落ち着いている場合じゃない……ってかさっき、うおお‼って叫んでたじゃん!」
――バラすなし!
だが、兵士との戦いより緊迫した感じはしない。武器を持ってるからかもしれないが、あまり強そうな気がしないというのもある。
さらにステータスで魔力が既に回復しているのも確認しているし、武器として石ころと枝も拾ってある。
モンスターがいるのは分かっていたので、この状況は想定の範囲内でもあるし、寝起きでもない。万全っちゃ万全の態勢だ。
と、ここで歩の描いた武器が完成する。お粗末な剣。直方体を二つくっつけた柄と鍔に、刀身が伸びているだけの代物に思わず悪態が漏れる。
「歩……絵心ねぇな……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 絵はちゃんと練習するよ!」
「やべ! 来るぞ! 俺二匹やるから、お前一匹はやれよ!」
俺は声を上げると同時に、歩から走って距離を取り、石ころ数個を拾い上げて犬ころに投げつける。魔法ではなくただ投げつけ注意を引かせるための布石。
成功したのか、二体の犬ころは俺を追ってくる。
そのまま片手で二つの円環を作り、木の枝と石ころを魔法に変換。
『絡みつく枝』
半径20センチ以内の物に大量の根を伸ばし絡みつく。
『投石』
指定した方向へ秒速30メートルで飛ばす。
枝の変換は既に実験済み。飛び掛かってくる犬ころに向け投石を空中設置。
そのまま振りかぶってくる爪の伸びた腕を、回避するために草むらを転がりながら――って
「痛っ!?」
伸ばす尻尾剣に、腕を切られたのか、僅かに出血する。ジクジクと傷は痛むが、我慢はできる。
俺を切った犬ころに向かって牽制のため、一度剣を振り顔先を掠めさせる。というより、普通に外れた。
気を取り直して、もう一体の犬ころの足元に向かって、枝の魔法を投げつけると同時に駆けつけていく。
待機させていた投石魔法がヒットしたのか、ガッという鈍い音と共に「ギャン」と鳴きながら倒れ込み、後頭部からブシュッと血飛沫を上げるもう一体を横目に、足が根で絡まった犬ころに剣を投げつけた。
「おらぁ!」
避けようとして足を動かそうとしたが、両足が絡みつきよろめいて目線を下に向けた瞬間、
モンスターは胸に剣を生やし、こと切れる様に後ろに倒れ込む。
さらに石を拾い上げ魔法化しつつ、モンスターから剣を抜き取り、振り返る。
抜いた瞬間血飛沫が舞ったが、おかまいなしに立ち上がろうとするモンスターに向けて魔法を空中設置して、迂回するように走りだす。
と、同時に発動する魔法。
目線を俺に向けていたモンスターに投石がヒットするのを確認し、俺は怯んだモンスターに剣を振り下ろした。
「しっ!」
剣線が顔面を捉え俺は勝利を確信。そのまま歩に目を向けると、歩は剣を三本程出して、それを投げつけたのか余裕で犬っころを倒していた。
怪我もしてないようだし、完勝ってところか。
剣にこびりついた血を振り払い腰の鞘へと納める。
歩の勝利を見た事と自身の戦闘による歓喜で、口の端が上がるのを感じながら、歩に駆け寄って手を掲げた。
「うっしゃ! おつかれさん!」
「はぁ~~、怖かったぁ~。てか! さっきも思ったけど、兵輔ってめちゃくちゃアクティブだね? ゲームみたいな動きしてたよ」
俺が歩とハイタッチをかましながら言うと、かなり驚いたような顔をされる。
確かに自分でもびっくりするくらい動けていると思う。犬ころの動きも基本的には見えていた。
赤ん坊に毛が生えたレベルのステータス解放だが、有効に機能しているのかもしれない。
「俺、小説は読まねーけど、ゲームは好きだぞ?
つか、待機時間の関係で、俺の魔法、牽制手段としてだとくっそ使いやすいんだよ! ――って……痛てぇな……」
「あ、ほんとだ……。怪我しちゃったの? 大丈夫?」
戦闘の高揚感がなくなれば傷は痛む。浅いといっても魔物の刃で切れた傷、三ミリ程の深さで切れていてそこそこの出血はある。
「あー大丈夫。けど、血って魔法に出来るのかな……。試してみるか」
言いながら円環を近付けてみる。と、流れ出る血が光り魔法化が成功した。
『輸血(20㏄)』
指定した対象に血液型を無視出来る輸血を行う。
いやいやいや、今血流してるの俺ですから。血液型を無視する必要もないし。血漿を魔法化して血止めとかにして欲しいところだ。
俺は息をつきながら自分に向けて魔法を放つ。魔法は成功し、おそらく俺の体内には血が補給されたのだろう。けれど当然、傷口からはジクジクと出血している。
――何これ!
意味不明な無限サイクルが、俺の魔力をきっちり消耗して起きる。当然永久機関ではない。しかも俺の魔力は0となったはず。後は自然に血液が流れるに任すまま。
というわけにもいかないので、俺は歩に顔を向ける。
「あ、そうだ。歩、絆創膏でも出してくれよ。大き目のやつ」
歩も次の魔法で魔力は0になる計算。当然失敗は許されないんだぞ!という思いを込めてじっと見つめる。
俺の真剣な面差しに若干たじろいだ様子を見せながら、円環を作ろうとして、
「う、うん、いいよ。けど、10分で消えちゃうけどそれでもいいの?」
「ああ。構わんよ。10分で塞がってなかったらまた頼むかもしれないし、治まってたらそのまま行くわ」
普通なら治まることはないだろう。けれど、ステータス解放が肉体にどれほどの影響を与えているかは不明。
痛みというモノに対する耐性も、なんとなく上がっているような気もするのだ。
歩は俺の言葉に頷き静かに黙考。10秒しかないのでどう描くか考えているのだろう。
そして、光の軌跡と共に完成したのは、案の定というか肌色でただ空気穴が開いただけの、陸上のトラックのような形の大きなテープのような代物だった。
「これ……ガーゼ部分がないじゃんか……。いや、何となく予想はしてたけどさ。こういう機能的なのはまだ早いんかな」
「むぅ~。難しいなぁ。でもさ、いいじゃん、それ貼っておけば! 10分で自動で消えるなら、剝がす痛みもないわけだし。
確かに、と歩が出した絆創膏を見ながら考える。
シールみたいに張り付くようにはなっているし、血止めとして使えなくはない。絆創膏というものは想像以上に機能的な作りなんだな、と感じた。
この世界に来て色々なことを考えさせられる。やはり日本は便利すぎたのだといえるだろう。
機械もなければ車もない。娯楽もあるのか分からない。こういうモンスターとの戦闘が娯楽になんのかな、と絆創膏を腕に巻き歩に顔を向ける。
「そういや、モンスターの死骸ってどうすればいいんだろ? つか、ぐ、ぐろいよな」
目を向けてみると血だまりを作りながら、まだぴくぴくと指先を痙攣させている。
ゲームの経験値稼ぎなんてしてる場所は、一体どんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する地獄絵図が繰り広げられているんだよ。
と想像すると胃液が逆流しそうになったので、頭から消し去ると、歩が「おえっ」とやって口を押さえていた。
「や、やめてよ。眼を向けないようにしてたのに……。お金は拾ったの?」
ん、あ、ああ。そういえばお金を落とすんだったな、と思いつつ犬っころの元へと歩み寄る。
目を背けたいのを必死に我慢し確認すると、どうやら致命傷となった傷からお金が零れ出ている様子。
ガラスのようなお金――10円の価値のものが八枚と水色の100円の価値のコインが二枚程出ているが、血で真っ赤に染まり10000円の赤のコインのようになっていた。
「リ、リアルって残酷ぅ……」
思わず呟きそれを拾い上げる。ただ、摩擦係数が異様に低いのか血はするりと滑り落ち、綺麗なガラスのようなコインとなった事に、ホッと一安心。
そのまま収納庫の袋は渡しちまったのか、と思いつつ、腰の革袋の中にしまいこむ。
あとで、金用の袋を買おうと思いつつも見たくもない魔物の死体に目を向け、
「で、このわんちゃんの……は、ど、どうすんの?」
わんちゃんと口にした瞬間、心の中に罪悪感が芽生える。
食肉に愛着を持ってはいけないというのはこういう事なんだろう。
そんなことを思っていると、歩が犬ころを持ちながら歩いてくるのに、俺は一人驚いた。
「小説だとモンスターの死体は、素材とか何とかで買い取って貰えるって決まってるんだ。だから収納庫に入れておこうよ」
その言葉を聞き、決まっているんですね、と俺の口から乾いた笑いが漏れる。
尻尾の先はナイフとして使えそうだけど、刃幅1センチ程のしょぼナイフ。果物の皮むきには使えそうだとは思うが。
とはいえ、歩にそう言われてしまえば俺は納得するしかない。非常に気味が悪いが、言うとおりにすることにした。
お互いに両腕で円環を作りその中に放り込む。一人ならやり辛いんじゃないかと思ったが、二人でなら収納庫もそれほど不便ではないなと感じた。
「で……」
と、言って何かが足りないと考える。
モンスターを倒した後にすることと言えば……?
「ステータスの確認だな!」
「うん! そうだね。流石にこれは結構な経験を積んだと思うよ!」
歩の嬉しそうな顔を見ながらステータスを確認すると、二人とも中々の成長を遂げていた。
俺がレベル『9』で歩がレベル『7』
魔力量が俺が800になり、歩が400になっている。
さらに魔法も成長してるみたいで、俺の魔法はレベル3、歩の魔法はレベル2になっていた。
「一気に上がり過ぎじゃね……? いや、でも、そうか、新垣とかがレベル20を越えてたってことを考えれば、これくらい上がってもいいもんなのかもな」
怪我も負ったし、一歩間違えていれば死んでいてもおかしくはない。
兵士たちとの戦闘の方が緊迫感が髙かったが、モンスターは金塊じゃ引いてくれないだろうという面はある。
「どうなんだろうね? でも、ま、いくらなんでも赤ちゃんよりは能力ある自信あるよ」
そりゃそうだよな、と思いつつ街道の先に目を向ける。
広がるのは森。
僅かながらにも不安感を煽るが、このレベルの上がりなら大丈夫かな?となんとなく希望を抱きこの先楽勝かもな、とか考えていた。
――はずだったのだが……。
とはいえ、二通のメッセージの間に、何が書かれていたのかは分からない。書かれてなかったのかもしれない。
偶然が生み出した産物が、必然のように俺の心を魅了しただけなのかもしれない。
こんな事で喜んで身悶えできるのも童貞の特権である。
ちなみに童貞には、俺達というルビが振られるはずだ。
俺はお客様の立場になって伝えなければいけないと以前言った。砕けすぎても駄目だと言った。
その観点からすれば全文ひらがななんて、愚の骨頂と言えるものになるだろう。
けれど、あの文はひらがなだったからこそ俺の心を打った気がする。
『兵輔の格好良いとこ見てたよ』
いや、これでも十分嬉しいと思え、結局、文字なんかじゃなくて内容と心だということに思い至った。
そんなことを思いながら俺は返信をする。あんまり特別なことを書いたりはしない。勘違い誤爆こそ最大の悪行。
『あゆむは、たてよみにきづかないうちに、がめんをきりかえてやったからだいじょうぶだ』
『といっても、もしほんきでうなだれるようなことがあれば、つたえようとおもう』
『 』
『きにかけてくれてありがとう。りおのやさしさがみにしみるぜ』
『おそらくきけんなせかい。ぶじにさいかいできることをこころからたのしみにしてる』
『そのときはごーるいんだな』
『 』
『あと、たすけにきてくれてほんとうにうれしかった。ありがとう』
*****
歩が実際に縦読みに気付いたかどうかは知らないが、結局そこまで機嫌が悪くならなかったので良しとした。
莉緒からの言葉も伝えないのは、歩にはまだ早すぎるという俺の勝手な考えからだ。
さて――そんなことよりも、気持ちを切り替え今の状況に対応しなくてはいけない。
「さてさて、歩君。一体これはどういう状況でしょうか?」
俺達は南門から伸びる街道に沿って進んで、約2時間。
もうすぐ森に入るのか? 森は迂回しろよ! と思ってた時の事だった。
ガサガサと森の茂みが揺れて、木陰から唸り声を上げながら二足歩行の犬が現れた。
いわゆる『モンスターが現れた!』というやつだ。
尖った耳がピンと伸び、小さな犬歯が口から覗いている茶色の犬。身長は150センチ程で大きいような小さいような大きさだ。
鑑定ではナイフテールドッグという名前のレベル5のモンスター。尻尾が刃渡り20センチ程のナイフのようになった犬ころのモンスター三匹に囲まれているのが今の状況だ。
俺が剣を抜き取り正中線に構えると、鈍色の刃が陽光を煌めかせたためか犬ころ達は警戒した様子となり、現在は輪を狭める様に迫ってきている。
歩はというと隣で武器を魔法で描かせているところ。
「いや! 分かってるでしょ! 今の状況! そんな、落ち着いている場合じゃない……ってかさっき、うおお‼って叫んでたじゃん!」
――バラすなし!
だが、兵士との戦いより緊迫した感じはしない。武器を持ってるからかもしれないが、あまり強そうな気がしないというのもある。
さらにステータスで魔力が既に回復しているのも確認しているし、武器として石ころと枝も拾ってある。
モンスターがいるのは分かっていたので、この状況は想定の範囲内でもあるし、寝起きでもない。万全っちゃ万全の態勢だ。
と、ここで歩の描いた武器が完成する。お粗末な剣。直方体を二つくっつけた柄と鍔に、刀身が伸びているだけの代物に思わず悪態が漏れる。
「歩……絵心ねぇな……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 絵はちゃんと練習するよ!」
「やべ! 来るぞ! 俺二匹やるから、お前一匹はやれよ!」
俺は声を上げると同時に、歩から走って距離を取り、石ころ数個を拾い上げて犬ころに投げつける。魔法ではなくただ投げつけ注意を引かせるための布石。
成功したのか、二体の犬ころは俺を追ってくる。
そのまま片手で二つの円環を作り、木の枝と石ころを魔法に変換。
『絡みつく枝』
半径20センチ以内の物に大量の根を伸ばし絡みつく。
『投石』
指定した方向へ秒速30メートルで飛ばす。
枝の変換は既に実験済み。飛び掛かってくる犬ころに向け投石を空中設置。
そのまま振りかぶってくる爪の伸びた腕を、回避するために草むらを転がりながら――って
「痛っ!?」
伸ばす尻尾剣に、腕を切られたのか、僅かに出血する。ジクジクと傷は痛むが、我慢はできる。
俺を切った犬ころに向かって牽制のため、一度剣を振り顔先を掠めさせる。というより、普通に外れた。
気を取り直して、もう一体の犬ころの足元に向かって、枝の魔法を投げつけると同時に駆けつけていく。
待機させていた投石魔法がヒットしたのか、ガッという鈍い音と共に「ギャン」と鳴きながら倒れ込み、後頭部からブシュッと血飛沫を上げるもう一体を横目に、足が根で絡まった犬ころに剣を投げつけた。
「おらぁ!」
避けようとして足を動かそうとしたが、両足が絡みつきよろめいて目線を下に向けた瞬間、
モンスターは胸に剣を生やし、こと切れる様に後ろに倒れ込む。
さらに石を拾い上げ魔法化しつつ、モンスターから剣を抜き取り、振り返る。
抜いた瞬間血飛沫が舞ったが、おかまいなしに立ち上がろうとするモンスターに向けて魔法を空中設置して、迂回するように走りだす。
と、同時に発動する魔法。
目線を俺に向けていたモンスターに投石がヒットするのを確認し、俺は怯んだモンスターに剣を振り下ろした。
「しっ!」
剣線が顔面を捉え俺は勝利を確信。そのまま歩に目を向けると、歩は剣を三本程出して、それを投げつけたのか余裕で犬っころを倒していた。
怪我もしてないようだし、完勝ってところか。
剣にこびりついた血を振り払い腰の鞘へと納める。
歩の勝利を見た事と自身の戦闘による歓喜で、口の端が上がるのを感じながら、歩に駆け寄って手を掲げた。
「うっしゃ! おつかれさん!」
「はぁ~~、怖かったぁ~。てか! さっきも思ったけど、兵輔ってめちゃくちゃアクティブだね? ゲームみたいな動きしてたよ」
俺が歩とハイタッチをかましながら言うと、かなり驚いたような顔をされる。
確かに自分でもびっくりするくらい動けていると思う。犬ころの動きも基本的には見えていた。
赤ん坊に毛が生えたレベルのステータス解放だが、有効に機能しているのかもしれない。
「俺、小説は読まねーけど、ゲームは好きだぞ?
つか、待機時間の関係で、俺の魔法、牽制手段としてだとくっそ使いやすいんだよ! ――って……痛てぇな……」
「あ、ほんとだ……。怪我しちゃったの? 大丈夫?」
戦闘の高揚感がなくなれば傷は痛む。浅いといっても魔物の刃で切れた傷、三ミリ程の深さで切れていてそこそこの出血はある。
「あー大丈夫。けど、血って魔法に出来るのかな……。試してみるか」
言いながら円環を近付けてみる。と、流れ出る血が光り魔法化が成功した。
『輸血(20㏄)』
指定した対象に血液型を無視出来る輸血を行う。
いやいやいや、今血流してるの俺ですから。血液型を無視する必要もないし。血漿を魔法化して血止めとかにして欲しいところだ。
俺は息をつきながら自分に向けて魔法を放つ。魔法は成功し、おそらく俺の体内には血が補給されたのだろう。けれど当然、傷口からはジクジクと出血している。
――何これ!
意味不明な無限サイクルが、俺の魔力をきっちり消耗して起きる。当然永久機関ではない。しかも俺の魔力は0となったはず。後は自然に血液が流れるに任すまま。
というわけにもいかないので、俺は歩に顔を向ける。
「あ、そうだ。歩、絆創膏でも出してくれよ。大き目のやつ」
歩も次の魔法で魔力は0になる計算。当然失敗は許されないんだぞ!という思いを込めてじっと見つめる。
俺の真剣な面差しに若干たじろいだ様子を見せながら、円環を作ろうとして、
「う、うん、いいよ。けど、10分で消えちゃうけどそれでもいいの?」
「ああ。構わんよ。10分で塞がってなかったらまた頼むかもしれないし、治まってたらそのまま行くわ」
普通なら治まることはないだろう。けれど、ステータス解放が肉体にどれほどの影響を与えているかは不明。
痛みというモノに対する耐性も、なんとなく上がっているような気もするのだ。
歩は俺の言葉に頷き静かに黙考。10秒しかないのでどう描くか考えているのだろう。
そして、光の軌跡と共に完成したのは、案の定というか肌色でただ空気穴が開いただけの、陸上のトラックのような形の大きなテープのような代物だった。
「これ……ガーゼ部分がないじゃんか……。いや、何となく予想はしてたけどさ。こういう機能的なのはまだ早いんかな」
「むぅ~。難しいなぁ。でもさ、いいじゃん、それ貼っておけば! 10分で自動で消えるなら、剝がす痛みもないわけだし。
確かに、と歩が出した絆創膏を見ながら考える。
シールみたいに張り付くようにはなっているし、血止めとして使えなくはない。絆創膏というものは想像以上に機能的な作りなんだな、と感じた。
この世界に来て色々なことを考えさせられる。やはり日本は便利すぎたのだといえるだろう。
機械もなければ車もない。娯楽もあるのか分からない。こういうモンスターとの戦闘が娯楽になんのかな、と絆創膏を腕に巻き歩に顔を向ける。
「そういや、モンスターの死骸ってどうすればいいんだろ? つか、ぐ、ぐろいよな」
目を向けてみると血だまりを作りながら、まだぴくぴくと指先を痙攣させている。
ゲームの経験値稼ぎなんてしてる場所は、一体どんな魑魅魍魎が跳梁跋扈する地獄絵図が繰り広げられているんだよ。
と想像すると胃液が逆流しそうになったので、頭から消し去ると、歩が「おえっ」とやって口を押さえていた。
「や、やめてよ。眼を向けないようにしてたのに……。お金は拾ったの?」
ん、あ、ああ。そういえばお金を落とすんだったな、と思いつつ犬っころの元へと歩み寄る。
目を背けたいのを必死に我慢し確認すると、どうやら致命傷となった傷からお金が零れ出ている様子。
ガラスのようなお金――10円の価値のものが八枚と水色の100円の価値のコインが二枚程出ているが、血で真っ赤に染まり10000円の赤のコインのようになっていた。
「リ、リアルって残酷ぅ……」
思わず呟きそれを拾い上げる。ただ、摩擦係数が異様に低いのか血はするりと滑り落ち、綺麗なガラスのようなコインとなった事に、ホッと一安心。
そのまま収納庫の袋は渡しちまったのか、と思いつつ、腰の革袋の中にしまいこむ。
あとで、金用の袋を買おうと思いつつも見たくもない魔物の死体に目を向け、
「で、このわんちゃんの……は、ど、どうすんの?」
わんちゃんと口にした瞬間、心の中に罪悪感が芽生える。
食肉に愛着を持ってはいけないというのはこういう事なんだろう。
そんなことを思っていると、歩が犬ころを持ちながら歩いてくるのに、俺は一人驚いた。
「小説だとモンスターの死体は、素材とか何とかで買い取って貰えるって決まってるんだ。だから収納庫に入れておこうよ」
その言葉を聞き、決まっているんですね、と俺の口から乾いた笑いが漏れる。
尻尾の先はナイフとして使えそうだけど、刃幅1センチ程のしょぼナイフ。果物の皮むきには使えそうだとは思うが。
とはいえ、歩にそう言われてしまえば俺は納得するしかない。非常に気味が悪いが、言うとおりにすることにした。
お互いに両腕で円環を作りその中に放り込む。一人ならやり辛いんじゃないかと思ったが、二人でなら収納庫もそれほど不便ではないなと感じた。
「で……」
と、言って何かが足りないと考える。
モンスターを倒した後にすることと言えば……?
「ステータスの確認だな!」
「うん! そうだね。流石にこれは結構な経験を積んだと思うよ!」
歩の嬉しそうな顔を見ながらステータスを確認すると、二人とも中々の成長を遂げていた。
俺がレベル『9』で歩がレベル『7』
魔力量が俺が800になり、歩が400になっている。
さらに魔法も成長してるみたいで、俺の魔法はレベル3、歩の魔法はレベル2になっていた。
「一気に上がり過ぎじゃね……? いや、でも、そうか、新垣とかがレベル20を越えてたってことを考えれば、これくらい上がってもいいもんなのかもな」
怪我も負ったし、一歩間違えていれば死んでいてもおかしくはない。
兵士たちとの戦闘の方が緊迫感が髙かったが、モンスターは金塊じゃ引いてくれないだろうという面はある。
「どうなんだろうね? でも、ま、いくらなんでも赤ちゃんよりは能力ある自信あるよ」
そりゃそうだよな、と思いつつ街道の先に目を向ける。
広がるのは森。
僅かながらにも不安感を煽るが、このレベルの上がりなら大丈夫かな?となんとなく希望を抱きこの先楽勝かもな、とか考えていた。
――はずだったのだが……。
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あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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