-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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第一章

017 おかしな三人組が現れた!

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 人生初、リアル『モンスターをやっつけた』を経験した俺たちは、血で汚れた草原を見て見ぬふりして、森へ向かって街道を歩いていた。
 レベルが上がったためか、嬉しそうな顔をしながらステータスを眺めている歩に、最も強く感じていた疑問を口にする。

「つーかさぁ、初モンスターって、〇ライムって決まってないの? 小説では」

 俺のゲーム脳の中では初めて相対するモンスターは、ス〇イムタイプか新しい系だと猪タイプ。
 いきなり尻尾にナイフを生やした犬っころが出てきては、レベル1の勇者は何度復活の呪文のお世話になるか分からないだろう。
 幾百と死に戻りを繰り返し、お城の引きこもりとなって埃を被ること請け合いだ。
 それが3体。
 〇パスさんもいないんだし、最初はスラ〇ム1匹から始めてくれよ、と割と本気で思う。

「小説だとスライム系か、ゴブリンってモンスターが出てくることが多いね。後は狼とか」

「ゴブリン!? ゴブリンって〇ァイナルファンタ〇ーに出てくるあのアレ? 緑色とかしたくっそきもいやつ?」

 先ほどの犬っころは瞳が濁っている、なんてことはなく、クリッとした黒目のどっちかというと可愛らしい感じだった。
 だから罪悪感が湧いたのだが、それで躊躇ってこっちが殺されてたら意味がない。
 正当防衛、正当防衛、と心を納得させ考える。

 俺のゴブリンというモンスターの知識は子鬼。緑色をして気持ちの悪い得体のしれない生き物。
 正直な話を言えば、なぜ弱いモンスターとされているのか分からない。
 鬼と付いている時点で強そうな気がするのだが、そこはゲームとしての不条理。見た目が悪いモノは不遇な扱いをされてしまうのだ。
 そんなことを考えていると、歩は嬉しそうに笑い、

「そうだよ。まずゴブリンの集落とかを一蹴して、俺tueeeeeってやるの!」

 その言葉を聞き俺は思わず声を荒げる。
 
「いやいや、待てよ! 待てって! ゴブリンが強いか弱いかは知らんよ? 善悪も知らん。けどさ、歩の話ではいじめられっ子が主人公になるんだろ?」

 俺の言葉にキョトンとした顔をしながら首を捻った。

「全部が全部そうってわけじゃないけど、いじめられっ子が主人公ってのは多いよ。でも、どうしたの?」

「つーことはだ! モンスターが何かは知らんが、それを一蹴して喜んでる。つまり、いじめられっ子は本当はいじめっ子になりたいと思ってるわけ?」

 歩は俺の言葉を聞き顔を驚愕に染め、項垂れる様に肩を落とした。
 いじめられてた相手に仕返ししたい、復讐したい。まぁこれは分かるよ。分かるし理解も出来るし、自殺すんなら復讐しろくらいに思う。
 勿論、良い子は真似してはいけないが、それくらいの気持ちで生きて欲しい。

 けれど、それを八つ当たりするがごとく他の人間、いや、生物に向けてたらそれはただの犯罪者。


――処罰の対象だ!


 夕刊の一面に悪事が掲載されて、刑務所へ入ることになるだろう。
 小説やゲームの中でヒーローになりたいのは分かる。分かるけれど、そこには意味が必要だと思うのが俺の考えだ。
 ゲームだから仕方なく納得はするが、レベルを上げるために可愛らしいスライムを狩りつくす勇者だなんて、尊敬の対象にはならない。
 ただ、俺はいじめられたことがないから、いじめられっ子の本当の気持ちは分からないと言えるのは確か。

 若干しんみりしつつ歩いていると、歩がポツポツと言葉を口にしだした。

「言われるまで気付かなかった。弱いと奪われる……って話あったよね? それで、僕、ユニーク魔法があって、やっぱり自分が当たり側なんだって思った。
 その時、もう奪われる側じゃなくて、奪う側に回れるんだって思ってた。そう思うと、何だか情けなく思えてきちゃって……」

 聞きながら頭に浮かぶのは、江原に頭を踏みつけられて泣いていた歩の姿。
 泥と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、渡す金がなくなる程に奪われたあの姿。
 あんな経験はしたことがないし、当然したくもない。
 そう思えば、自分で情けないと考えれた歩はすげぇなって思う。
 いや、ほんと奪う側に回るのが当たり前!とか言う奴じゃなくて良かった。

 もし、歩がそんなクズ野郎だったら、す巻きにして川に放り込んでるところだろう。
 そうすると俺が夕刊の一面を飾っちゃうのは間違いないがな、と小さく舌を覗かせた。

「な、何気持ち悪い顔――」

「シャラーーーップ!」

 鼻をひくつかせながら俺の顔を見つめてきていた歩の言葉に、顔の前に手を付きつけながら制止をかけた。

 今、俺に触れるな。

 相手は死ぬ。

 ま、そんな阿呆な考えはどうでも良いとして、歩に声をかけてやらねばならぬ。

「奪う側に回れる力を持って、奪われる側を守ってやる。それがいいんじゃね? 勿論、正当防衛は俺はいいと思う。やられる前にやれ!くらいに思ってる」

「そーだね! 何だか兵輔といると僕の考えが変わっていくような気がするよ」

「はは、そうか? 俺は直前に頑張る組だからな。小説を読んでたらまた考えが変わってたかもしれんけど」

 俺の言葉に「うーん」と唸り声を上げながら腕を組んでみせる。

「どーなんだろ? 兵輔の考えでは勧善懲悪が良くないっていう事なんでしょ? ちょっと違うかな……?」

 勧善懲悪ってのは、善い行いをして、悪いモノは罰しなさいという意味だったと記憶している。
 俺も歩のように腕を組んでしばし黙考。そして、口を開く。

「完全懲悪ならいいよ。完全ってのはパーフェクトの完全な? でもさ、善悪って結局誰が決めるわけ?」

「誰が……。何だか哲学的だね? 難しいなぁ……、兵輔ってお調子者系なのに……」

 し、失礼な奴だな、と俺は唇がプルプルと震えるのを感じながら口を開く。

「ふ、ふふ。お、お調子者ですか……? まぁいいや。俺の考えでは世の中の善悪は多数決で決まる、はいおわり」

「ええっ!? 何その単純な結論……。多数決……、じゃあ例えば人を殺しても良いと思ってる人が、半数を超えたらそれが善いことになるわけ?」

「そういうことになるな。けどな、それはあくまで『世の中の』理屈だ。俺が言いたいのはそういう事じゃない」

 俺の疑問に再度コテンと首を傾げて見せる。

「結局何が言いたいの?」

「俺が言いたいのは世の中の善悪じゃなくて、俺達の善悪を貫こうって事。
 日本で現代人として誇りを持って生きてきただろ? なら、異世界に来たとしても、その誇りは失わないようにしようぜってな」

「なるほどね! 分かったよ。いやいや、目から鱗というかなんというか……」

「ま、そうは言っても、俺はなるべく来て欲しくはないと思っているが、来る時が来たら人を殺す覚悟もしてる。
 言ったろ? 郷に入っては郷に従えって。仕方ない……の言葉で済ませたくはないが、大切なモノを守る為なら力と覚悟が必要なんだよ」

 自分で言ってて矛盾してるかな、と思いつつ、これが俺自身の考えなんだよなぁと考える。
 現代と異世界では、おそらく文化から考え方まで何から何まで違うはず。
 現代人の誇りを保ちつつも、それに順応出来なければ、ただ骸となって打ち捨てられてしまうだけだろう。

 これで大体話は終わったかな……と歩いていると、後方からガサっと大きな音が耳に届く。
 話が終わるの待っててくれてたんですか? ご都合主義な世界ですねぇ、と思いつつ、歩に向かって口を開く。

「聞こえたか? 一応武器を描けるようにしとけ、んで振り返るぞ」

「うん、分かった」

 魔力はレベルアップで微妙に回復したが、それでも現在魔力量は150程。歩もほとんど魔力はないだろう。
 俺は剣の柄に手を当てつつ、落ちていた石ころを3個ほど拾い上げ振り返る。
 けれど木の幹が立ち並ぶだけで――って、いやいや、全然隠れられてねーし!
 という感じで、木の幹の倍程の体躯の男が、必死に隠れようとしているのが目に映った。

「おい! 俺達を尾けてんのか? ぜんっぜん隠れられてねーぞ!」

 コメディかよ、と思いつつ見ていると、予想外に木の幹から出てきたのは三人。大男を除けば、変な女と小さな男。しかも、全員同じ幹からわさわさと現れた。
 そのまま女と男にその大男は殴られて地面に転がると、ゲシゲシと足蹴にされる。
 なんなんだこいつら、頭おかしいんじゃないのか?そんな考えが頭をよぎる。

「だぁから、痩せなさいって、いつも言ってんでしょーがぁ!」

「ほんとですよ。私とレミュエラ姉さんだけなら、見つかることもなかったのですよ」

「ご、ごめぇん。兄ちゃんと姉ちゃぁん。謝ってるんだから蹴らないでくれよぉ」

 いや、同じ木に隠れてたら、大男がいなくてもいずれ見つかるだろ、と思いつつ三人の姿を観察する。

 まるで仮面舞踏会のような変なマスクを付けた、細身のくせにナイスバディで露出度の髙い赤と黒の軽装鎧のようなものをつけている女……は、言葉からするにレミュエラ姉さんだろう。
 ウェーブがかったド派手なピンク色の髪をして、マスクから覗く瞳は青色に輝いている。変な蠅叩きのようなものを持っていて、まるでどこぞのSM女王。

 次は俺よりも身長がかなり低い男。おそらく160センチないくらいだろう。顔立ちは整っているが、目にクマがあり若干不健康に見える
 カールした金髪が特徴的だが、服装は俺たちと似たような服装で、腰にはおそらくレイピアとかいう剣の鞘を差している。

 そして、その二人に足蹴りを食らっているのが、太さ50センチ程の木の幹に全く隠れられない大男。
 黒髪に無精ひげが目立ち、鎧を着こんだ割と強面の男だが、二人に蹴られて涙を流している様子。は背中に大きな斧を携えている。。

 俺も歩もその様子を見て呆然。何が目的なのかも、どうしたらいいのかも分からない。
 逃げてもいいけど、そうすれば追ってくるだろう。そうだとするなら撃退しておきたい。
 しっかし、気になるところとツッコミどころが多すぎて、逆にツッコム気にもなれないほどの三人組。

「ど、どうする……歩?」

「どうしようね……、様子見てからと思ってまだ武器は描いてないけど。敵……なのかな?」

「だからさっき言ったじゃん? それは自分で感じて判断するしかねーって。見た目は確かに面白軍団だけど、それで判断するなよ」

 と、俺が言った瞬間、三人の双眸が俺たちに向き交錯した。
 大きく息を吸い込むと意を決したように声を上げる。しかも三人全員が声をそろえて。

「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」

 あまりのやかましさと、ごちゃごちゃと絡み合うノイズに俺は声を荒げる。
 これこそ聖徳太子かっつー話だ。

「一気に喋んな! うぜぇ! 聞き取れねぇ!」

 俺の言葉に三人は顔を見合わせて、うんうんと頷き合う。
 まるで意思疎通のジェスチャー。そのまま三人で息を吸い込み、

「誰が面白軍団ですってぇ!」
「誰が面白軍団なのですか!」
「面白軍団なんかじゃぁないんだぞぉ!」

 狙っているのか、天然なのかも分からないが、とにかくうるさい三人組に再度声をぶつけてやった。

「だから、何なんだよ! 鬱陶しいぞ!」

 あまりの五月蠅さに思わず握る小石を魔法化しぶつけてやろうかと思う程だ。
 もっともなるべく魔力は温存したいので魔法は使いたくはない。
 相手の存在も何なのかよく分からないのだから。

 今度はぼそぼそと三人で話し合いを始め、三回目が来んのか!?と思っていると、女が蠅叩きのような物を口に当てながら声を上げた。

「オォーホッホッホッホ。まんまとワタクシたちの作戦、多重層声域に惑わされたわねぇ!」

「いや、つーか! こねーのかよ! もっかい来ると思ってたよ! やり直しっ!」

 俺がビシッと指をつきつけてそう言うと、女はポカンと真っ赤な唇を開けた後、再度三人は口を近付けぼそぼそと話を始める。
 そして大きく息を吸い込み、

「だ――」
「だ――」
「お――」

「もういいわ‼」

 言いかけた瞬間俺が大声を被せて止める。
 俺は多重層声域とか訳わからんことぬかして勝ち誇っていた女に、ドヤ顔を向けて勝ち誇る。

「――もしろ軍団なんかじゃぁないんだぞぉ」

 しかし大男だけは止まらなかった。一人のろい口調が森に響く。
 だがまぁ良しとすることにした。またよく分からないがゲシゲシ蹴られているしそれで十分だ。
 そんな時、俺の服が引っ張られ、歩が小声で不安そうに声を掛けてくる。

「だ、大丈夫? そんな無茶苦茶やって。あの斧持ってる人、怒らせたらやばい気がするよ?」

 大男が背負っているのは刀身本体が直径50センチはありそうかという斧。おそらく重さも相当なものだろう。
 確かにあれを振り回されると危険。俺達で対応できるとは思えない。
 先制攻撃をかますならいけるだろうが、リスクはなるべく背負わないほうがいいだろう。

「いや、ついな……。俺、変な奴にはちょっかい出したくなるんだよ……」

 けど、なんとなく大丈夫なような気がしていた。なぜなら、兵士との戦闘の時の様な緊迫感が一ミリも湧いてこないから。
 もしこれが作戦なら俺達の首は胴体と離れて、落ち葉の上に転がるだろう。けれど、こいつらのは天然ものだと感じている。
 そう思っているとチラチラと俺達の事を見ながらの、三人の特に隠そうとしてない様子の会話が耳に届いてくる。

「あいつらやるわね」「はい、驚きましたよ」「蹴らないでくれよぉ」

「でも、あの二人で間違いないんでしょ?」「ええ、今朝しっかりとこの目で見ましたから」「そろそろお腹空いたよぉ」

「せ、背の高いほうは、け、結構私の好みなのよ」「ま、またいつもの癖ですか?」「ねぇちゃん惚れ性過ぎるぞぉ」

 会話からするに朝の物陰の音が、この背の小さい奴だったってことなのだろう。
 しかし、女は俺に気があるといった話が聞こえてきたことに少しだけテンションが上がる。歩より俺の方が明らかに背が高いのは見紛うことなき事実。
 そう思いながら念のため後ろを振り向いてみたが、誰もいたりはしなかった。

 当然、莉緒が一番好きなのは確定としても、男としてどんな変な女の子にでも、好意を持たれたら嬉しいもの。
 別に俺と莉緒は付き合っているわけではないのだ。当然、好き合っているわけでもない。

 かなりのナイスバディ―の女の子に好かれて嬉しくない男がいるだろうか?
 いや、いないだろう。
 なぜならそれが遺伝子に組み込まれた本能であるからだ。

 勿論、そうでないからといっても心配はいらないよ!
 遺伝子を超越した個性を持っているだけなのだから。

 だが俺は普通に遺伝子の忠実な犬なので、女の子に好かれりゃ当然嬉しい。
 変なマスク付けて敵であほっぽいのはこの際目を瞑ることにする。
 若干の嬉しさで心拍が高鳴るのを感じつつ、最大の疑問を尋ねてみることにした。

「つーか、結局お前らは誰で、何の目的で尾けてきてたんだよ?」
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