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或る男の渇望 2
しおりを挟む一葉は筆圧強く紙を削るペン先と、額に汗をにじませ必死の形相で書き殴る幸助の横顔とを交互に見つめ、ふっと微笑んだ。
――幸助――
夜気に閉ざされた室内には、彼の小さな呟きと、原稿が破れんばかりに走るペンの音だけが響いている。その音は、時に荒く時に迷いながらも力強く、一葉の鼓膜を心地よく揺らした。幸助の呼吸、紙の擦れる音、インクの匂い――すべてが彼の存在そのもののようで、一葉はその空気を胸いっぱいに吸い込み、穏やかさと幸福に包まれていた。
どれほど時が経ったのだろう。ペンの音は止むことなく続き、一葉もまた瞬きすら惜しむように彼を見守り続けていた。静止したままの体は痺れているはずなのに、不思議と苦ではない。ただ、彼の傍らにあることが、何よりの安らぎだった。
一葉は幸助を見つめながら無意識に、浅くなっていた呼吸を深くした。すると、唐突に部屋を満たしていた音が途絶えた。辺りを包む静寂はあまりに濃く、息を呑むほどだった。一葉は怪訝な面持ちで幸助を見つめ――その刹那、彼の顔ごと視線が、ゆっくりと自分へと向けられる。
鋭くも熱のこもった眼差しが絡みついた瞬間、一葉の鼓動がドクンと胸を叩き、大きく跳ね上がった。
「こう、すけ……?」
震える声で名を呼んだ瞬間、幸助の手が原稿の上に置かれ、そのまま立ち上がる勢いで机を押さえつけた。バン、と乾いた音。反動で原稿用紙が宙を舞い、ひらひらと抵抗するように散らばり落ちてゆく。白に黒い文字が、幸助の想いが詰まったその紙は、まるで雪のように二人を包み込み静謐な世界を一瞬にして混乱へと変えた。
気付けば一葉は床に押し倒されていた。幸助の両手が彼の顔の左右に置かれ、逃げ場を塞ぐ。至近距離で見つめ返しながらも、一葉は困惑と熱に頬を染めた。
「こ、すけ……?」
「ッ、かず……は……っ」
切羽詰まった、掠れるような声。幸助の瞳は苦悩と渇望が入り混じり、今にも泣き出しそうなほど必死だった。彼は一葉の胸元をはだけ、白くきめ細かな肌に指を這わせながら、首筋へと唇を落とす。
「っあ……」
小さく零れた声と共に、一葉の身体が跳ねた。幸助は焦がれるように肌を吸い、時に優しく、時に激しく痕を刻んでゆく。そのひとつひとつが愛の証のようで、痛みさえ甘く感じられた。一葉の胸の中に、温かく切ない想いが湧き上がる。
「あ、っ、ン……っ」
「かずは……っ、お前だけだ……お前がいなきゃ、俺は……ッ」
熱に浮かされたように、絞り出すように綴られる言葉。その想いは荒れ狂う激情となって一葉を貫く。羞恥に頬を染めながらも、一葉の心は歓喜で満たされ、火照る身体は彼の求めに応えてしまう。
「ん、あっ……っ、こ、すけぇっ」
「は、足りない……! これは、お前のためだけの……お前だけの……ッ!」
衣服はもどかしげに引き剝がされ、裸身が白日の下に晒される。羞恥と快感が入り混じる中、指先が肌を辿り、唇が胸の頂きを捕らえると、一葉の背中を震える快感が突き抜けた。ねだるように体が勝手に胸を突き出し、一葉の顔が熱くなる。
「んぁっ! あっ……あっ」
「かず、は……っ、一葉ッ! お前だけだ、一葉っ」
幸助の荒い呼吸、滴る汗、燃え盛る想い。そのすべてが「一葉」という名に収束していた。彼は散らばった原稿の上に一葉の手を押さえつけ、強く握りしめながら唇を重ねる。舌が絡み、息を奪い合い、求めても求めても満たされぬ焦燥が二人を支配した。
「んっ……んんぅっ」
「はぁっ……っ、かず、は……っ」
苦しさに一葉が背を叩けば、幸助はわずかに動きを緩め、しかし次の瞬間にはより深く舌を絡め取ってくる。その必死な想いに、一葉の胸は幸福で溢れた。
「んっ、ンぅ、こ、すけっ……大、丈夫、大丈夫ッ、だから」
一葉は口付けの隙を見てそう言うと、震える彼の頬を撫で愛情を込めて見つめる。そして優しく甘く、囁く。
「俺が、全部……受け止めるから」
その言葉に幸助の目が大きく見開かれ、次の瞬間、何かが弾けるように一葉の脚を左右に割り開き、その奥へと顔を埋めていった。
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