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或る男の嫉妬 7
しおりを挟む雨の上がった夜は、不思議な静けさを纏っていた。
遠くで汽笛が鳴り、かすかに濡れた街石を照らす街灯の光が、淡く滲む。
幸助は筆を止め、部屋の片隅に置かれた火鉢に手をかざした。ぱちり、と炭が弾ける。
ふと耳を澄ますと玄関の戸が静かに開き、廊下の軋む音。
「……ただいま、幸助」
その声に、幸助の胸がきゅうと締め付けられる。
一葉の姿が障子越しに映る。そして襖が開くと外気をまとった黒い外套姿の一葉が入ってきた。
高城との再会のあと、二人は互いの想いを確かめ合い穏やかだ。
「遅かったな」
幸助は、火鉢の灰をいじるように言う。
「少し、散歩をしていたんだ。頭を冷やしたくて」
一葉の声は、穏やかで、けれどどこか疲れていた。
「……高城のことか?」
その名を出すと、空気がぴたりと凍る。
幸助は立ち上がり、机のそばから一葉を見た。
灯りに照らされた横顔。睫毛の影。
この男を疑うつもりなどない。けれど、心の奥底でやはり嫉妬心が疼く。
「高城は、幸助のことを『時代の寵児』だと言っていたよ」
「ふん……それで?」
「ただ、それだけだ。ついでに俺が嫌味を言われただけ」
一葉は少し笑い、外套を脱いで壁に掛けた。
幸助は、近づいた。
胸の奥に渦巻く言葉が、喉まで込み上げる。
――どうして、そんなに平然としていられるんだ。
「俺は……」
言葉が震えた。
「俺は、一葉を他の誰にも触れさせたくない。たとえ昔の知り合いだろうと、作家仲間だろうと。一葉は……俺のものだ」
それは、愛よりも、執着に近い響きだった。
一葉は少し驚いたように目を見開いたが、やがて静かに微笑んだ。
「幸助は、本当に可愛いね。言っただろ? 俺、アイツのこと嫌いなんだ」
そう言って、彼はそっと幸助の頬に触れる。
指先は、いつも原稿用紙を滑る優しい手の感触。
「俺は逃げない。誰かと比べられることも、比べることも、ない。俺が愛しているのは、幸助だけ」
「……分かってる……分かってるんだ……っ」
「大丈夫。幸助が俺を信じてるって、ちゃんと分かってる。幸助の書く言葉も、怒りも、嫉妬も、全部が君らしい。俺はそれを全部愛している」
幸助は、一葉の胸に顔を埋めた。
火鉢の赤がちらちらと揺れ、障子の向こうの雨の名残が静かに光る。
抱き寄せる腕の中、一葉の心音が確かに響く。
「俺は、一葉の前では格好をつけたくなるんだ」
「格好をつけても、すぐバレるけどね」
「……うるさい」
幸助が苦笑しながら呟くと、一葉の肩が小さく震えた。
笑っている。
この笑い声に、何度救われたことだろう。
「幸助」
「ん?」
「幸助の嫉妬も、俺への愛の証だろ。だから、 その愛の続きを、俺に頂戴」
その言葉に、幸助は静かに息を呑んだ。
一葉の唇が、灯りに溶けるように近づいてくる。
夜の帳がゆっくりと降り、ふたりの影を包み込む。
指先が触れ、鼓動が重なった瞬間、時間が止まったようだった。
幸助は唇を離さずに囁いた。
「……こんなに愛しいと思うのは、初めてだ」
「俺もだよ、幸助」
一葉の体を幸助の唇が、手が、這いまわる。両方の胸の突起を指で嬲られ、舌で食まれ、甘噛みされて一葉の体は小さく跳ねた。激しく抱かれる日もあれば、ゆっくりと優しく焦らされる日もある。今日は、後者のようだ。
「んっ……あ、こ、すけ……っ」
「ん?」
突起をかしかしと噛まれながら、反対は指で捏ねられて摘ままれる。腰から背中を伝い、首筋までゾクゾクと快感が走った。もっと、先に進んでほしい、そう思って、名前を呼んだのに。幸助は小さく返事をしただけで、ねっとりとした愛撫を執拗に続けるだけ。焦れて思わず幸助の髪を掴む。
「あ、あ……っ、や、もう……っ」
先をねだるように勝手に腰が揺れて、羞恥に一葉の頬が染まる。それだけで、幸助の下腹部が重くなった。
「一葉……好きだ、愛してる」
囁くようにそう言って、ゆっくりと一葉の体に口付けながら移動していく。そして、一葉の中心に辿り着くと、ふぅ、と勃ち上がったモノに息を吹きかけた。
「んあっ」
一葉の声に満足し、幸助はゆっくりと根元から先端へ向けて舌を這わせていく。
跳ねる腰まで愛おしい。その気持ちを伝えるかのように先端に口付け、徐に口内へと迎え入れた。そして先ほどまでとは逆に、愛撫を激しいものへと変えていく。
ねだったとはいえ、突然の強い刺激に一葉の腰はビクン、ビクンと跳ね、幸助の口内で先走りを溢れさせた。
「あっ……んっ待っ、あ!」
火鉢の赤が静かに燃え、障子の外では風が音もなく吹き抜けていった。
ふたりはその夜、言葉よりも深く、心を確かめ合った。
嫉妬も痛みも、すべてを溶かすように。
そして夜明け前、幸助は一葉の寝顔を見つめながら、筆を取った。
まだ白い原稿用紙の上に、最初の一文字が落ちる。
「愛とは、大切に想い尊重し強く惹き付けられるものだ」
墨の匂いが、静かな部屋に漂った。
一葉が寝息を立てながら、幸助の名を呟く。
幸助は筆を止め、そっとその頬に唇を落とした。
そして再び筆を走らせる。
「俺のすべてを、永遠にお前に捧げる」
夜明けの光が障子を透かし、二人の影を柔らかく包んだ。
そのぬくもりの中で、幸助は知る。
愛は束縛ではなく、互いを赦す力だということを。
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