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第二章 友達編
友達編 3
しおりを挟む今日も今日とて柊一郎は古書店へ足を運んでいた。平日は昼夕、休日は昼前後に顔を出し本を買う。ニャーと戯れ店主と話す毎日は楽しくて仕方がなかった。以前よりも会話も続くようになり、店主も時折笑顔を見せてくれるようになって、柊一郎の店主への想いは募るばかりだった。
「ニャー、お疲れ」
仕事を終えた柊一郎はいつものように古書店へ行くと、ニャーがいつもの定位置に鎮座していた。その美しい肢体は輝いているように見え、本当に神のようだ、と柊一郎は思う。
「ニャー!」
ニャーが返事をしてくれると嬉しくて微笑む。最近は柊一郎が手を伸ばさなくてもニャーが自ら柊一郎の胸に飛び込んでくる。それを優しく受け止めて胸に抱くのも日常化していた。
「今日も元気に招いてたか?」
「ニャー!」
柊一郎にはニャーがもちろんニャ、と言っているように聞こえてまた微笑む。
「そうかそうか。お疲れ様」
そう言ってニャーと話しながら店内へと入っていく。初めての時はニャーにせっつかれて入ったんだよなぁ、緊張したなぁ、柊一郎はそう思うとふふっと小さく声を出して笑う。
「あ、柊一郎さん、お、お疲れ様です」
「犬山さん。お疲れ様です」
先に気付いた店主が柊一郎へ声を掛けた。店主から声をかけてくれるようになったことは凄い進歩だと柊一郎は思っている。毎日関係が進化しているようで嬉しい。そして今日もモノトーンでシンプルなエプロンの下にはカラフルなシャツを着ていて可愛いなぁと思う。どこに売っているのだろうか。店主の着る服は柄が派手だったり色が原色だったりと奇抜な服ばかりで、柊一郎はいつも興味をソソられている。
「犬山さんは、いつもどこで服を買っているんですか?」
つい、聞いてしまった。唐突すぎたかと思ったが、店主はキョトンとして柊一郎の肩越しに虚空を見つめている。だいぶ慣れたとはいってもそこは変わらない。しかし柊一郎はもう気にしない。
「服、ですか……?」
「あー……いつも可愛い服着てると思って……」
男性に可愛いというの失敗だったかと思ったが、店主の表情が明らかに明るくなったのを見て、少し驚いたが杞憂だった事に安堵した。
「えへへ……この服も、か、可愛い、ですよね。えへへ」
服を褒められた事が嬉しかったのか、店主は照れたようにいつになく可愛く笑っていて柊一郎の胸は苦しいくらいに締め付けられる。この質問は正解だったと心の中で過去の自分にグッジョブと親指を立てた。
「可愛いですけど、売ってるのを見たことがない気がして気になったんです」
「しゅ、柊一郎さんも、お洋服、好きです、か?」
グッと顔を近付けてキラキラした瞳を柊一郎には向けずに耳辺りを見ている店主に、惜しい、もう少し内側に視線を向けてほしい、と柊一郎は思う。しかし店主の瞳は吸い込まれるのではないかと思うほどに澄んでいて柊一郎はゴクリ、と喉を鳴らした。聞こえてしまっただろうかと思ったが、店主は瞳を輝かせて柊一郎の耳を見ている。杞憂だったと息を吐き、小さく深呼吸すると優しく微笑んで口を開いた。
「洋服、好きですよ。仕事柄スーツばかりですけど」
「スーツ……スーツも、いいです、ね。柊一郎さんに、似合って、ます」
店主は体を引くと今度は柊一郎のスーツを見ながらニコニコとしている。可愛い可愛すぎる……どうしてこうも可愛いのか、と柊一郎はニャーを抱く腕に力を入れてぎゅっとすると、ニャーから抗議の声が上がり慌てて力を抜いた。
「ごめん、ニャー」
「ニャー!」
全く痛いじゃないか、と言われた気がして謝るとニャーはフンッと鼻から息を吐き出してから大人しく柊一郎の胸に頭を置いた。やばいぞ、こっちもめちゃめちゃ可愛いな、と思い柊一郎は幸せが過ぎる、と困り果ててしまう。
「しゅ、柊一郎さんは、ニャーの言葉が、わかります、か?」
ニャーと柊一郎のやり取りを見ていた店主が柊一郎の肩越しに虚空を見ながら不思議そうに問いかけてくる。以前にニャーと会話ができれば、というような会話はしたと思うが、あの時はそれよりもニャーの事が主だったな、と柊一郎は一人納得する。
「え? あ、いや……分からないです。でも、なんとなく……こう言っているんじゃないかって思って俺が勝手に解釈して会話してるつもりなんです」
そう言って柊一郎は笑うとニャーの頭を優しく撫でる。それが気持ちいいのか、ニャーはふぁあっとあくびをして柊一郎の腕の中で丸くなりむにゃむにゃしている。
「そうなんですか。ニャーは、柊一郎さんが自分の言葉を、分かっていると思ってたんですよ」
「……ということは、俺がニャーはこう言ってるのかなと思うことは合ってるってことですかね」
「あ……はい。あって、ますね。だ、だからこの間も、ニャーはすごく、びっくりしてたんです。柊一郎さんが、理解してると思ってたから」
驚いていたニャーを思い出したのか、小さくふふふと笑う店主は天使かと思うほどに可愛くて美しくて柊一郎の胸は幾度となくキュンと締め付けられる。いつかこの笑顔に慣れる日が来るのだろうかと思いながら、柊一郎はこれから先もこうして店主の笑顔を見ていたいと思った。
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