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第二章 友達編
友達編 11
しおりを挟む「あ、あの……ところで、ど、どこに向かって、いるんでしょ、う」
「ニャー!」
ほのぼのとした空気の中、他愛のない会話をしながら車を進めていると店主もニャーも、だんだん目的地が気になってきたようで、少しソワソワしながら――横目で見える店主の顔は柊一郎に向いているが、恐らく視線は虚空を見ているのだろうと柊一郎は推測する――柊一郎に問い掛ける。しかし柊一郎としては目的地に着いてからのお楽しみ、としたい。
「今はまだ秘密ですよ。でも、ちゃんとニャーも一緒に楽しめるところです」
実際にニャーと店主が楽しめるのかどうかは行ってみなくては分からないが、出かける機会のない店主とニャーなら少しくらいは興味を持って楽しんでくれるのではないかと思うし、そうであってほしいと願う。
「ニャニャー」
「ニャーも、気ににゃるニャ……って、言って、ます」
店主のニャー語(?)は唐突にくると心臓に悪い、と柊一郎は思った。可愛くて愛くるしくて締め付けられた胸が苦しい。運転中でなければやばかった。柊一郎は一度深く息を吸い、ゆっくりと吐く。そして少し考えて
「……じゃあひとつ教えますね。向かう場所は、あるイベント会場です」
少しの脇見をすることなく答えながらもしっかりとハンドルを操作して運転する。店主とニャーの命を預かっているのだから、いつも以上に気を配るのは当然だろう。しかしそうしながらも店主とニャーを退屈させまいと神経を巡らせ気配を探る。
「い、イベント……かいじょ、う?」
返した言葉に一瞬で怯えた声を出す店主に不安を覚えるが、絶対に楽しんで欲しいと言う気持ちが柊一郎の胸に湧き上がった。
「心配しないでください。俺が、傍にいますから」
柊一郎はハンドルを切り交差点を曲がって街中を抜けながら、極力優しく声を出す。
「ニャニャー」
「柊一郎さん……ニャー……」
柊一郎は街中から長閑な住宅街と田園風景の道に入るとハザードを出して道の脇にゆっくりと車を停めた。ニャーはきっと、ニャーがついてるニャ、なんて言ったのではないかと柊一郎は思った。店主の声が、少し震えているように感じてどうしても顔を見て話したいと思ったのだ。
ギアをニュートラルに入れてサイドブレーキをかける。そして視線を店主に向けた。
「ニャーも、俺もいます。大丈夫ですよ」
もう一度優しくそう言って微笑めば、店主は頬を染めて潤んだ瞳を柊一郎の肩の向こうへ向ける。キュッと固く結んだ小さな唇が可愛らしい。
「す、すみま、せん……車……停め……」
「早く出たから時間はまだたっぷりありますから」
そう言って、安心してほしくて店主の手をソッと握る。馴れ馴れしすぎるかとも思ったが、他に思い浮かばなかった。
ニャーは静かに成り行きを見守っている。
「あ……」
店主の頬が更に赤くなり、視線が泳ぎ始めた。それでも柊一郎は店主の手を握り、微笑んで見つめる。
「俺だけじゃ、まだ安心させてあげられないかもしれませんけど……ニャーもいますから」
「っ、そ、そうです……ね。しゅ、いちろうさん、も……ニャーも……一緒、ですもん、ね」
店主がそう言うと、ニャーは後部座席から移動して店主の膝にちょこんと座る。そして店主と柊一郎の手の上に可愛らしい手をポンッと置いた。
「ニャーニャニャー」
「っ、ニャー……うん、そうだね……ごめん……えへへ」
ニャーと言葉を交わした店主は恥ずかしそうに小さく笑って柊一郎の肩越しに視線を向ける。
「しゅ、いちろうさ、ん……すみま、せん……だい、じょうぶ、です……」
そう言ってまた小さく笑った店主にときめきながらも安堵して柊一郎は息を吐いた。ニャーがいてくれたことに、店主が安心できた様子に、心の底から良かったと思った。
「絶対に楽しめるところですから安心してください」
「……はい。ニャーと、楽しみに、してたんです……ほんとう、です」
「嬉しいです。俺も、楽しみにしてました。初デートですから、不安なことは全部教えてください。俺は、必ず傍にいますから」
「……デ、デー……っ!?」
柊一郎の言葉に安心した様子を見せた店主の表情が一気に真っ赤に染まった。パニックになっているのか店主の潤んだ視線は忙しなく動き、小さくプルンとした唇はむにゅむにゅと動いている。柊一郎はプッと吹き出してから声を出して笑った。それを見たニャーもニャニャニャニャッと笑っているようだ。
「わ、らわないで、くださいっ! ニャーも!!」
店主は赤い顔のままオロオロと体を揺らしてぷうっと頬を膨らませている。ヤバい可愛い、柊一郎は笑ってはいるが優しい眼差しで店主を見つめて、このままもっともっと仲良くなれたらいいな、と思った。
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