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第二章 友達編
友達編 16
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柊一郎が悠介とニャーの分の飲み物を両手に戻ってくると、それに合わせるかのように二人の女性が近付いてきた。柊一郎は気付かないふりをして悠介の前に飲み物を置き、悠介の隣に座る。するとすかさず女性が話しかけてきた。
「あのぉ、お二人ですか? 良かったら一緒に回りません?」
遠慮のない眼差しに媚びたような声と話し方。柊一郎は苛立つ気持ちを抑え、無視を決め込んで悠介の膝の上にいるニャーの前にミルクを差し出した。しかし女性達はめげない。イケメンである柊一郎を逃したくないのだろう。そして一人の女性が俯いている悠介に目を付けた。
「具合悪いんですか? 大丈夫ですか?」
女性二人は口々にそう言い、あろうことかビクリ、と跳ねた悠介の肩に手を伸ばす。それを見た柊一郎の苛立ちは上昇する。
「あなた達には関係ないです。気安く触らないでください」
柊一郎は立ち上がり悠介を庇うように女性と悠介の間に立ちはだかった。
「具合わるいなら、私たち看病しますよ?」
上目遣いであざとく見上げてくる女性に苛立ちが抑えきれない。自分達が受け入れられて当然だというような態度に嫌悪感を抱く。
「頼んでないですし、迷惑なんで」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。犬山さんには聞かせたくなかったな、と瞬時に思う。しかし女性達にはそれがどう聞こえたのか、顔を輝かせてきゃっきゃとはしゃいでいる。
「でも具合悪いなら女子がいた方が良くないですか?」
わけの分からない言い分に柊一郎の中で何かプツリ、と切れた。
「迷惑だって言ってるの分からないんですか? 邪魔だっていってるんですよ」
柊一郎は体勢を変え、腕を広げて悠介を隠すように立ち、嫌悪を隠さない目で女性達を見下ろす。イライラが収まらない。
「で、でもぉ……」
「鬱陶しいんですけど。初対面で馴れ馴れしすぎでしょ。このフェスにナンパしにきたんですか? ガイドライン読みました? ホント迷惑」
早口にそう言って、女性がたじろいでいる隙にチラリと視線を一番近くに立っている警備員に向けた。
「私たち、本当に好意でぇ……」
「警備員さーん! ちょっといいですか!」
媚びるような言い方をする女性たちの言葉を無視して、視線に捉えた警備員に手を振りながら声をかける。気付いた警備員はすぐに小走りでやって来ると柊一郎に視線を向けて、どうしましたか、と声を掛けた。柊一郎は思ったより若いその警備員を見て、なかなかの男前だなと何気なく思う。しかし今はそうじゃない、と気を取り直し、女性二人を冷たく見下ろした。
「この人達しつこいんです」
「知り合いではないんですか」
警備員は柊一郎と女性二人を交互に見て、一先ず状況確認といった様子で柊一郎で視線を止める。真面目に対応してくれそうだ。
「全然知り合いじゃないですし、ナンパ目的みたいなんです」
柊一郎がそう言うと、女性達は慌てた様子で首を振った。
「ち、違います! お連れの方が具合悪そうだったので介抱しようと……」
と言いながら、警備員に視線を向けて言葉を止めた女性の表情が微かに変わった。柊一郎はそれを見逃さす、小さく口の端を上げる。
「警備員さん、本当に迷惑してるんです。この人たちを連れて行ってくれませんか」
「そうですね。ここはナンパするイベントではありません。それに、そういう目的で迷惑をかけるのも見逃せません」
警備員はなかなか真面目な男のようで、柊一郎は内心で謝罪しながらも女性二人を警備員に押し付けようと画策する。とはいっても、画策すると言うほど大袈裟なものでもない。なんせ、この節操のない女性二人は柊一郎と悠介がダメだと悟るとあっさりと諦めたようで、既に男前な警備員に擦り寄っている。柊一郎は、気持ち悪いな、と思いながら顔には出さずに警備員に視線を向けた。どうしても、自己中心的で外見で人を判断し、異性を弄んているような人を嫌悪してしまう。
「本当に迷惑していたので、お願いします」
「分かりました。今後このような事がないよう、私が責任を持ってお預かりします」
警備員はそう言うと女性二人を促し、柊一郎に背中を向けて歩き出す。おそらく警備室に行くのだろう。しかし女性達は状況を理解しているのかいないのか、今度は警備員をナンパし始めていて、柊一郎は呆れと嫌悪の眼差しを向けて見送ったのだった。
「あのぉ、お二人ですか? 良かったら一緒に回りません?」
遠慮のない眼差しに媚びたような声と話し方。柊一郎は苛立つ気持ちを抑え、無視を決め込んで悠介の膝の上にいるニャーの前にミルクを差し出した。しかし女性達はめげない。イケメンである柊一郎を逃したくないのだろう。そして一人の女性が俯いている悠介に目を付けた。
「具合悪いんですか? 大丈夫ですか?」
女性二人は口々にそう言い、あろうことかビクリ、と跳ねた悠介の肩に手を伸ばす。それを見た柊一郎の苛立ちは上昇する。
「あなた達には関係ないです。気安く触らないでください」
柊一郎は立ち上がり悠介を庇うように女性と悠介の間に立ちはだかった。
「具合わるいなら、私たち看病しますよ?」
上目遣いであざとく見上げてくる女性に苛立ちが抑えきれない。自分達が受け入れられて当然だというような態度に嫌悪感を抱く。
「頼んでないですし、迷惑なんで」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。犬山さんには聞かせたくなかったな、と瞬時に思う。しかし女性達にはそれがどう聞こえたのか、顔を輝かせてきゃっきゃとはしゃいでいる。
「でも具合悪いなら女子がいた方が良くないですか?」
わけの分からない言い分に柊一郎の中で何かプツリ、と切れた。
「迷惑だって言ってるの分からないんですか? 邪魔だっていってるんですよ」
柊一郎は体勢を変え、腕を広げて悠介を隠すように立ち、嫌悪を隠さない目で女性達を見下ろす。イライラが収まらない。
「で、でもぉ……」
「鬱陶しいんですけど。初対面で馴れ馴れしすぎでしょ。このフェスにナンパしにきたんですか? ガイドライン読みました? ホント迷惑」
早口にそう言って、女性がたじろいでいる隙にチラリと視線を一番近くに立っている警備員に向けた。
「私たち、本当に好意でぇ……」
「警備員さーん! ちょっといいですか!」
媚びるような言い方をする女性たちの言葉を無視して、視線に捉えた警備員に手を振りながら声をかける。気付いた警備員はすぐに小走りでやって来ると柊一郎に視線を向けて、どうしましたか、と声を掛けた。柊一郎は思ったより若いその警備員を見て、なかなかの男前だなと何気なく思う。しかし今はそうじゃない、と気を取り直し、女性二人を冷たく見下ろした。
「この人達しつこいんです」
「知り合いではないんですか」
警備員は柊一郎と女性二人を交互に見て、一先ず状況確認といった様子で柊一郎で視線を止める。真面目に対応してくれそうだ。
「全然知り合いじゃないですし、ナンパ目的みたいなんです」
柊一郎がそう言うと、女性達は慌てた様子で首を振った。
「ち、違います! お連れの方が具合悪そうだったので介抱しようと……」
と言いながら、警備員に視線を向けて言葉を止めた女性の表情が微かに変わった。柊一郎はそれを見逃さす、小さく口の端を上げる。
「警備員さん、本当に迷惑してるんです。この人たちを連れて行ってくれませんか」
「そうですね。ここはナンパするイベントではありません。それに、そういう目的で迷惑をかけるのも見逃せません」
警備員はなかなか真面目な男のようで、柊一郎は内心で謝罪しながらも女性二人を警備員に押し付けようと画策する。とはいっても、画策すると言うほど大袈裟なものでもない。なんせ、この節操のない女性二人は柊一郎と悠介がダメだと悟るとあっさりと諦めたようで、既に男前な警備員に擦り寄っている。柊一郎は、気持ち悪いな、と思いながら顔には出さずに警備員に視線を向けた。どうしても、自己中心的で外見で人を判断し、異性を弄んているような人を嫌悪してしまう。
「本当に迷惑していたので、お願いします」
「分かりました。今後このような事がないよう、私が責任を持ってお預かりします」
警備員はそう言うと女性二人を促し、柊一郎に背中を向けて歩き出す。おそらく警備室に行くのだろう。しかし女性達は状況を理解しているのかいないのか、今度は警備員をナンパし始めていて、柊一郎は呆れと嫌悪の眼差しを向けて見送ったのだった。
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