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第二章 友達編
友達編 17
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「犬山さん、大丈夫ですか?」
先ほどとは打って変わって優しい声音で声を掛けながら、未だ俯いている悠介の隣に再び腰を落ち着けた。すると悠介は、柊一郎が買ってきた飲み物を手にして一口飲んで息を吐くと飲み物を見つめたまま小さな唇を動かした。
「お……女の子、たち……よかった、んです……か?」
悠介の声は低く震え掠れていたが、柊一郎の耳に正しく届くと柊一郎の胸はドクン、と跳ねる。悠介が、どういう気持ちでその言葉を言ったのかは分からないが、柊一郎はこれまで出会ってきた女性達――先程の二人も含む――を思い出し、胸に湧き上がる憤りを感じた。それは勿論悠介への憤りではなく、その女性達へのものだ。
「俺は、ああいう常識も思いやりもない勝手な人は嫌いです」
柊一郎の言葉に悠介は少し顔を上げて驚いたような表情になる。涙で潤んだ目はとてもキレイで柊一郎は吸い込まれそうだと思った。
「っ、ああいう女性達は、男を装飾品としてしかみていない」
一度言葉にすると長年積み重ねてきたストレスや嫌悪感が湧き上がり、ダメだと思いながら止められずに言葉を続けた。
「あの怪物達は見た目のいい男を従えたいだけなんです。自分たちの欲望を押し付けて優越感に浸りたいだけなんてす」
「しゅ、しゅういちろ……さん……?」
悠介がまた驚いた表情をしているが、止まらない。これ以上はやめろと自分に言い聞かせても、口が勝手に喋ってしまう。
「見栄っ張りで男の金は自分の金だと思ってるんです! このブランドのバッグ買って、洋服はこのブランドじゃないと嫌、指輪買って、フランス料理が食べたい、あそこは嫌だ、ここも嫌だ、髪型はこうして服はこれ着てって言うくせにお金は一銭も払わない!」
柊一郎はまくし立てるように言いながら、心の中ではやべーっと思う。こんなことでは犬山さんに引かれてしまう。しかし積もり積もった鬱憤は留まることを知らない。
「……ぷっ」
たが悠介は、柊一郎の予想とは裏腹に軽く握った手で口を押さえ、小さく吹き出した。柊一郎は目を瞠る。
「ふ……ふふ」
肩を震わせて笑う悠介に、柊一郎はポカンとする。どういう状況だろうか。今まで怯えて俯いていた悠介が、視線は合わないが口を押さえて笑っているのだ。柊一郎の理解は追い付かない。
「ふふ……ふ、ご、ごめ……なさ……ふふ」
「い、犬山……さん?」
「しゅ、いちろ……さんが……そんなに、ふふ……ふふふ」
我慢できず全部言い切らずに笑ってしまい、悠介は少しだけ申し訳なく思うが、今までとは違う新しい柊一郎の一面が見られて嬉しくなってしまった。最初から恋愛はもうしないと決めているし、柊一郎とどうこうなるつもりはないが、好きになってしまうのは止められないのかもしれない、と思わずにはいられない。
友達でもいい、もう少しこのまま一緒にいられたら。悠介はそう思いながら柊一郎が買ってきてくれた温かいカフェオレをコクリと飲んだ。
柊一郎は小さく笑いながらカフェオレを飲む悠介に安堵した。あんなに震えて怯えていて心配だったが、まさか自分の他人への悪態で笑ってもらえるなんて思わなかった。
しかし、会場に戻ればまた怯えてしまうかもしれない。やはり、ここを出てドライブにした方がいいのではないかと思う。
「犬山さん……やっぱり、ここを出てドライブにした方がいいんじゃないですか?」
未だに小さく笑っている悠介を見つめながら、柊一郎は優しく提案してみる。すると悠介の肩がピクリ、と微かに跳ねて悠介の視線が柊一郎の肩越しに向けられた。
「しゅ、いちろ、さん……気遣ってくれて、ありがと、ございます……でも、だいじょぶ、です……今度は、本当に……大丈夫、です……」
そう言って悠介は微笑んだ。ニャーもいて、これ程までに優しくて気遣ってくれる柊一郎がいるのだから大丈夫。悠介は、柊一郎さんと一緒なら大丈夫、そう思えている自分に少し驚きながらも隣にいてくれる柊一郎に安心感を覚えていた。それでも心配は拭えないが、柊一郎の優しさを無下にはしたくない。
「ニャーと……柊一郎さんが、一緒に……いてくれる、から……大丈夫、です」
悠介もニャーも楽しみにしてくれていたのは本当なのだろう。柊一郎は心配ではあるが、悠介の希望を尊重したい、そう思った。
「分かりました。それなら、手を繋ぎましょう」
「……え?」
少しでも悠介の不安を減らしたい一心での提案だったが、悠介の驚いた表情を見て自分の提案に気付き、しまったと思い必死に言い訳を考える。
そんな柊一郎を余所に、悠介は驚き頬が真っ赤に染まった。しかしすぐに小さく首を振る。きっと何の意図もないはず。ただ、心配してくれているだけ。柊一郎みたいな優しい人はそうそういない。友達でも十分幸せだもん、これ以上高望みはしない。悠介は自分に言い聞かせ、唇をキュッと結んだ。
「触れ合ってる方が、安心できると思うんです」
にこやかにそう言う柊一郎は、やはり心配している以外の意図はないように思えた。少しだけ胸が痛むけど、悠介は気付かないふりをして小さく微笑む。
「そ、うですね……」
「そうですよ! そうしましょう」
「分かり、ました……よろしく、お願い、します」
頬を赤く染めてペコリと頭を下げる悠介に少し強引かとも思ったが、悠介を安心させたい気持ちも本当だし手を繋げることも勿論嬉しい。
「飲んだら、人が少ないところから回りましょう」
「は、はい……っ、すぐ、飲みます、ね……っ」
柊一郎は慌てて飲み干そうとする悠介に、ゆっくりでいいですから、と笑って言うと放ったらかしてしまったニャーを撫でながら悠介を見つめた。
先ほどとは打って変わって優しい声音で声を掛けながら、未だ俯いている悠介の隣に再び腰を落ち着けた。すると悠介は、柊一郎が買ってきた飲み物を手にして一口飲んで息を吐くと飲み物を見つめたまま小さな唇を動かした。
「お……女の子、たち……よかった、んです……か?」
悠介の声は低く震え掠れていたが、柊一郎の耳に正しく届くと柊一郎の胸はドクン、と跳ねる。悠介が、どういう気持ちでその言葉を言ったのかは分からないが、柊一郎はこれまで出会ってきた女性達――先程の二人も含む――を思い出し、胸に湧き上がる憤りを感じた。それは勿論悠介への憤りではなく、その女性達へのものだ。
「俺は、ああいう常識も思いやりもない勝手な人は嫌いです」
柊一郎の言葉に悠介は少し顔を上げて驚いたような表情になる。涙で潤んだ目はとてもキレイで柊一郎は吸い込まれそうだと思った。
「っ、ああいう女性達は、男を装飾品としてしかみていない」
一度言葉にすると長年積み重ねてきたストレスや嫌悪感が湧き上がり、ダメだと思いながら止められずに言葉を続けた。
「あの怪物達は見た目のいい男を従えたいだけなんです。自分たちの欲望を押し付けて優越感に浸りたいだけなんてす」
「しゅ、しゅういちろ……さん……?」
悠介がまた驚いた表情をしているが、止まらない。これ以上はやめろと自分に言い聞かせても、口が勝手に喋ってしまう。
「見栄っ張りで男の金は自分の金だと思ってるんです! このブランドのバッグ買って、洋服はこのブランドじゃないと嫌、指輪買って、フランス料理が食べたい、あそこは嫌だ、ここも嫌だ、髪型はこうして服はこれ着てって言うくせにお金は一銭も払わない!」
柊一郎はまくし立てるように言いながら、心の中ではやべーっと思う。こんなことでは犬山さんに引かれてしまう。しかし積もり積もった鬱憤は留まることを知らない。
「……ぷっ」
たが悠介は、柊一郎の予想とは裏腹に軽く握った手で口を押さえ、小さく吹き出した。柊一郎は目を瞠る。
「ふ……ふふ」
肩を震わせて笑う悠介に、柊一郎はポカンとする。どういう状況だろうか。今まで怯えて俯いていた悠介が、視線は合わないが口を押さえて笑っているのだ。柊一郎の理解は追い付かない。
「ふふ……ふ、ご、ごめ……なさ……ふふ」
「い、犬山……さん?」
「しゅ、いちろ……さんが……そんなに、ふふ……ふふふ」
我慢できず全部言い切らずに笑ってしまい、悠介は少しだけ申し訳なく思うが、今までとは違う新しい柊一郎の一面が見られて嬉しくなってしまった。最初から恋愛はもうしないと決めているし、柊一郎とどうこうなるつもりはないが、好きになってしまうのは止められないのかもしれない、と思わずにはいられない。
友達でもいい、もう少しこのまま一緒にいられたら。悠介はそう思いながら柊一郎が買ってきてくれた温かいカフェオレをコクリと飲んだ。
柊一郎は小さく笑いながらカフェオレを飲む悠介に安堵した。あんなに震えて怯えていて心配だったが、まさか自分の他人への悪態で笑ってもらえるなんて思わなかった。
しかし、会場に戻ればまた怯えてしまうかもしれない。やはり、ここを出てドライブにした方がいいのではないかと思う。
「犬山さん……やっぱり、ここを出てドライブにした方がいいんじゃないですか?」
未だに小さく笑っている悠介を見つめながら、柊一郎は優しく提案してみる。すると悠介の肩がピクリ、と微かに跳ねて悠介の視線が柊一郎の肩越しに向けられた。
「しゅ、いちろ、さん……気遣ってくれて、ありがと、ございます……でも、だいじょぶ、です……今度は、本当に……大丈夫、です……」
そう言って悠介は微笑んだ。ニャーもいて、これ程までに優しくて気遣ってくれる柊一郎がいるのだから大丈夫。悠介は、柊一郎さんと一緒なら大丈夫、そう思えている自分に少し驚きながらも隣にいてくれる柊一郎に安心感を覚えていた。それでも心配は拭えないが、柊一郎の優しさを無下にはしたくない。
「ニャーと……柊一郎さんが、一緒に……いてくれる、から……大丈夫、です」
悠介もニャーも楽しみにしてくれていたのは本当なのだろう。柊一郎は心配ではあるが、悠介の希望を尊重したい、そう思った。
「分かりました。それなら、手を繋ぎましょう」
「……え?」
少しでも悠介の不安を減らしたい一心での提案だったが、悠介の驚いた表情を見て自分の提案に気付き、しまったと思い必死に言い訳を考える。
そんな柊一郎を余所に、悠介は驚き頬が真っ赤に染まった。しかしすぐに小さく首を振る。きっと何の意図もないはず。ただ、心配してくれているだけ。柊一郎みたいな優しい人はそうそういない。友達でも十分幸せだもん、これ以上高望みはしない。悠介は自分に言い聞かせ、唇をキュッと結んだ。
「触れ合ってる方が、安心できると思うんです」
にこやかにそう言う柊一郎は、やはり心配している以外の意図はないように思えた。少しだけ胸が痛むけど、悠介は気付かないふりをして小さく微笑む。
「そ、うですね……」
「そうですよ! そうしましょう」
「分かり、ました……よろしく、お願い、します」
頬を赤く染めてペコリと頭を下げる悠介に少し強引かとも思ったが、悠介を安心させたい気持ちも本当だし手を繋げることも勿論嬉しい。
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