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第二章 友達編
友達編 18
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「じゃ、じゃあ……そろそろ……い、行きます、か……」
飲み終えた悠介は低く小さい声でそう言いながら立ち上がり、空になった紙コップと猫用の空になった紙皿を手に持った。ゴミ箱を探してキョロキョロしていると、柊一郎も立ち上がり、捨ててきますよ、と言って悠介の手から優しく紙コップと紙皿を取ると近くにあるゴミ箱に歩き出す。悠介は慌ててニャーと一緒に柊一郎を追いかけた。
柊一郎のさり気ない優しさに胸がキュンと締め付けられる。やはり、柊一郎とどうこうなりたいなどとは露ほども思わないが、好きでいるだけならいいよね、と既に大きくなっている想いを自覚しながら柊一郎を見つめた。
「犬山さん」
ボーッと柊一郎を見つめていた悠介は、ゴミを捨て終えて振り返った柊一郎に呼ばれてハッと我に返る。近付いてきた柊一郎の手が差し出された。
「あ……」
意図は分かっているのに、差し出された手をすぐに取れずに小さく声が溢れる。しかし柊一郎が気にした様子はない。
「手、繋ぎましょう」
優しい声音にまた胸がキュンと締め付けられる。悠介はドキドキと高鳴る鼓動を感じながらゆっくりと柊一郎の手に自分の手を重ねた。
「無理せずに、ゆっくり行きましょう」
「は、はい……」
きゅ、と柊一郎の温かい手を握ると顔が熱くなる。
「リードは犬山さんにお任せします」
そう言って柊一郎は悠介の手にリードを握らせた。悠介の細い手を握り、手を繋ぐだけで高揚するなんてと思うが触れ合えることが嬉しい。柊一郎は嬉しさを噛み締めながら、しっかりと悠介の手を握ると目に付いた案内板に近付いた。
「どこから見ましょうか。行ってみないと空いてるところは分かりませんけど……見たいところを予め決めておきましょう」
案内板を見ながら柊一郎がそう言うと、悠介も案内板を見てコクリ、と頷く。ニャーは悠介はの肩に飛び乗り、一緒になって案内板を見た。
「ニャーは、どこがいい?」
案内板を真剣に見ているニャーに悠介は声を掛ける。
「ニャーはキャットタワーに行きたいニャ」
柊一郎にはニャーニャーと言っているだけに聞こえるが、悠介はニャーの言葉に頷いていて微笑ましい。いつか自分もニャーと会話ができるようになったらいいのになぁ、と思ったが無理だな、と小さく笑う。それでも何となくだがニャーの言わんとしていることは分かる。さすがに悠介とニャーの会話は分からないが。
「しゅ、いちろ……さん……ニャーは、キャットタワーに、行きたいそう、です」
「いいですね。そこは見に行きましょう。犬山さんはどうですか?」
「お、俺は……さっき、の……出店、ブースで、買い物……したい、です」
悠介が遠慮などせずにちゃんと話してくれたことが嬉しくて、柊一郎はニコリと笑う。
「じゃあ、両方行きましょう。その後お昼食べて気になったところを見に行きましょうか」
そう提案すると、悠介はコクコクと頷いて口元を緩めている。可愛い、そう思うとつられて自分も微笑んでいた。
***
それからの悠介は、時折人と触れ合いそうになってビクッと肩を跳ね上げることはあったが、柊一郎の手をギュッと握り深呼吸をして落ち着いていた。柊一郎はこの短時間で悠介の気持ちに変化があったのだろうと思い嬉しくなる。そのきっかけが自分だったらいいな、と思うが、そこは犬山さんの努力だろう。それでも柊一郎が嬉しく思うことに変わりはない。
「あ……ニャー、あそこ、キャットタワー」
目的地の建物の入口に向かいながら大きな窓ガラスから中を覗き、フロアいっぱいに設置されているキャットタワーに声を上げた。
ニャーは悠介が覗いている窓枠に飛び乗り同じように中を覗き込む。普段から賢く落ち着いているように感じるニャーでも本能で反応しているのか、尻尾をユラユラと揺らしてソワソワとしている。こうして見ると普通の猫みたいだ、と柊一郎はクスッと笑う。
「入ってみましょうか。ニャーも興味あるみたいだし」
窓から覗いてずっと見ているだけでは勿体無い。やはりここはニャーに遊んでもらった方がいいだろう。柊一郎はそう思って声を掛けた。するとニャーの耳がピクピクと動く。
「ニャニャー」
ニャーが鳴くと、悠介は一瞬ポカンとしてすぐに笑った。その笑顔の可愛さといったら……いやいや、そうじゃない。柊一郎は脳内で一人会話をしながら悠介を見つめて様子を伺う。
「ふ、ふふ……分かってるよう」
「ニャニャニャ」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
「ニャニャニャー!」
何て言っているのかは分からないが、悠介が楽しそうに笑っている事に改めて安堵する。やはりこうして笑っている方がいい。柊一郎は悠介を見つめて無意識に微笑んでいた。
「中で遊んでもいいみたいですし、行ってみましょう」
柊一郎はニャーの遊ぶ姿が見たくなり、二人の会話を遮るのは申し訳ないと思ったが声を掛けた。すると悠介はハッとして慌てた様子で柊一郎の肩越しに視線を向ける。
「す、すす、すみません……」
柊一郎を放っておいてしまったと思った悠介はしどろもどろで謝るが、柊一郎はキョトンとして悠介を見つめた。
「え? 何がですか?」
「……え? あ、あの……ほったら、かしに……」
「え?」
「……え?」
放っておかれていると思っていなかった柊一郎は悠介の言葉をすぐには理解できず、気の抜けた返事をしてしまう。しかしそれに対し悠介までポカンとする。互いに暫しポカンとしていたが、我に返ると二人で小さく吹き出して笑った。
「俺、放っておかれてたんですか?」
笑いながらそう言うと悠介はブンブンと頭を振って、ち、ちがいますっ、と慌てて否定する。
「はははっ。分かってますよ。気にしてませんから」
「うぅ……い、意地悪、です……っ」
小さい唇をさらに小さく窄め、ほんのり色付いた頬を膨らませて拗ねる悠介の新しい表情に柊一郎の胸がキュンと疼く。少しは安心してくれているのかもしれない。そう思うと愛しくて堪らなくなる。
「冗談ですって。さ、行きましょう」
ギュッと握った手に力が込められて、悠介はドキドキと脈打つ胸を気にしないように意識しながら柊一郎の手を握り返した。
飲み終えた悠介は低く小さい声でそう言いながら立ち上がり、空になった紙コップと猫用の空になった紙皿を手に持った。ゴミ箱を探してキョロキョロしていると、柊一郎も立ち上がり、捨ててきますよ、と言って悠介の手から優しく紙コップと紙皿を取ると近くにあるゴミ箱に歩き出す。悠介は慌ててニャーと一緒に柊一郎を追いかけた。
柊一郎のさり気ない優しさに胸がキュンと締め付けられる。やはり、柊一郎とどうこうなりたいなどとは露ほども思わないが、好きでいるだけならいいよね、と既に大きくなっている想いを自覚しながら柊一郎を見つめた。
「犬山さん」
ボーッと柊一郎を見つめていた悠介は、ゴミを捨て終えて振り返った柊一郎に呼ばれてハッと我に返る。近付いてきた柊一郎の手が差し出された。
「あ……」
意図は分かっているのに、差し出された手をすぐに取れずに小さく声が溢れる。しかし柊一郎が気にした様子はない。
「手、繋ぎましょう」
優しい声音にまた胸がキュンと締め付けられる。悠介はドキドキと高鳴る鼓動を感じながらゆっくりと柊一郎の手に自分の手を重ねた。
「無理せずに、ゆっくり行きましょう」
「は、はい……」
きゅ、と柊一郎の温かい手を握ると顔が熱くなる。
「リードは犬山さんにお任せします」
そう言って柊一郎は悠介の手にリードを握らせた。悠介の細い手を握り、手を繋ぐだけで高揚するなんてと思うが触れ合えることが嬉しい。柊一郎は嬉しさを噛み締めながら、しっかりと悠介の手を握ると目に付いた案内板に近付いた。
「どこから見ましょうか。行ってみないと空いてるところは分かりませんけど……見たいところを予め決めておきましょう」
案内板を見ながら柊一郎がそう言うと、悠介も案内板を見てコクリ、と頷く。ニャーは悠介はの肩に飛び乗り、一緒になって案内板を見た。
「ニャーは、どこがいい?」
案内板を真剣に見ているニャーに悠介は声を掛ける。
「ニャーはキャットタワーに行きたいニャ」
柊一郎にはニャーニャーと言っているだけに聞こえるが、悠介はニャーの言葉に頷いていて微笑ましい。いつか自分もニャーと会話ができるようになったらいいのになぁ、と思ったが無理だな、と小さく笑う。それでも何となくだがニャーの言わんとしていることは分かる。さすがに悠介とニャーの会話は分からないが。
「しゅ、いちろ……さん……ニャーは、キャットタワーに、行きたいそう、です」
「いいですね。そこは見に行きましょう。犬山さんはどうですか?」
「お、俺は……さっき、の……出店、ブースで、買い物……したい、です」
悠介が遠慮などせずにちゃんと話してくれたことが嬉しくて、柊一郎はニコリと笑う。
「じゃあ、両方行きましょう。その後お昼食べて気になったところを見に行きましょうか」
そう提案すると、悠介はコクコクと頷いて口元を緩めている。可愛い、そう思うとつられて自分も微笑んでいた。
***
それからの悠介は、時折人と触れ合いそうになってビクッと肩を跳ね上げることはあったが、柊一郎の手をギュッと握り深呼吸をして落ち着いていた。柊一郎はこの短時間で悠介の気持ちに変化があったのだろうと思い嬉しくなる。そのきっかけが自分だったらいいな、と思うが、そこは犬山さんの努力だろう。それでも柊一郎が嬉しく思うことに変わりはない。
「あ……ニャー、あそこ、キャットタワー」
目的地の建物の入口に向かいながら大きな窓ガラスから中を覗き、フロアいっぱいに設置されているキャットタワーに声を上げた。
ニャーは悠介が覗いている窓枠に飛び乗り同じように中を覗き込む。普段から賢く落ち着いているように感じるニャーでも本能で反応しているのか、尻尾をユラユラと揺らしてソワソワとしている。こうして見ると普通の猫みたいだ、と柊一郎はクスッと笑う。
「入ってみましょうか。ニャーも興味あるみたいだし」
窓から覗いてずっと見ているだけでは勿体無い。やはりここはニャーに遊んでもらった方がいいだろう。柊一郎はそう思って声を掛けた。するとニャーの耳がピクピクと動く。
「ニャニャー」
ニャーが鳴くと、悠介は一瞬ポカンとしてすぐに笑った。その笑顔の可愛さといったら……いやいや、そうじゃない。柊一郎は脳内で一人会話をしながら悠介を見つめて様子を伺う。
「ふ、ふふ……分かってるよう」
「ニャニャニャ」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
「ニャニャニャー!」
何て言っているのかは分からないが、悠介が楽しそうに笑っている事に改めて安堵する。やはりこうして笑っている方がいい。柊一郎は悠介を見つめて無意識に微笑んでいた。
「中で遊んでもいいみたいですし、行ってみましょう」
柊一郎はニャーの遊ぶ姿が見たくなり、二人の会話を遮るのは申し訳ないと思ったが声を掛けた。すると悠介はハッとして慌てた様子で柊一郎の肩越しに視線を向ける。
「す、すす、すみません……」
柊一郎を放っておいてしまったと思った悠介はしどろもどろで謝るが、柊一郎はキョトンとして悠介を見つめた。
「え? 何がですか?」
「……え? あ、あの……ほったら、かしに……」
「え?」
「……え?」
放っておかれていると思っていなかった柊一郎は悠介の言葉をすぐには理解できず、気の抜けた返事をしてしまう。しかしそれに対し悠介までポカンとする。互いに暫しポカンとしていたが、我に返ると二人で小さく吹き出して笑った。
「俺、放っておかれてたんですか?」
笑いながらそう言うと悠介はブンブンと頭を振って、ち、ちがいますっ、と慌てて否定する。
「はははっ。分かってますよ。気にしてませんから」
「うぅ……い、意地悪、です……っ」
小さい唇をさらに小さく窄め、ほんのり色付いた頬を膨らませて拗ねる悠介の新しい表情に柊一郎の胸がキュンと疼く。少しは安心してくれているのかもしれない。そう思うと愛しくて堪らなくなる。
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