恋の不思議・短編集

蒼キるり

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ラジオ体操のおねえさん

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 今日から毎日ラジオ体操だ。
 最初は早起きして公園に集まることに不思議なワクワクがあるけど、次第に減って行くことをわたしは知っている。
 なぜならわたしは小学二年生。毎日のラジオ体操は初めてじゃない。二回目だ。これはもうプロと言っても過言ではない。

 らじおたいそうだいいちー、という呪文に合わせながらぷらりぷらりと手を揺らし体を動かす。
 ふと、隣で頭ひとつ飛び抜けて大きな人が一緒にラジオ体操をしていることに気がついた。
 わたしはじりじりと腕がぶつからないギリギリまで近づいた。大きい人は腕も長いので当たらないようにしなくては。


「おねえさん、小学生?」


 わたしがこっそり聞くと、おねえさんはひとつに結んだ髪を勢いよく揺らしながらわたしの方を見た。


「違うよ。中二」

「中学生もラジオ体操あるんだ」

「ないよ」


 おねえさんはちょっと笑っていた。丸く握った拳が交差する。
 ないのか、そうか。確かにおねえさん以外に明らかに大きい人はいない。


「じゃあ、なんで中学生なのに、おねえさんはラジオ体操しに来てるの?」

「明……弟と交代する日なの」

「あきら? あきらって、田所あきらくん?」


 知ってるの? とわたしより随分高く飛びながらおねえさんは言う。


「わたしの席の斜め前の前だよ」


 あ、クラスメイトって言えばよかったかな。そっちの方がかっこよかったかもしれない。
 そうなんだ、とおねえさんは軽く頷く。かっこいいな。


「交代ってなに?」

「えーと、私と明、たまに交代するの。やること。私が洗濯の係であいつが掃除の係でも、交代の日は逆のことする。そういう風な日があっても楽しいでしょ。だから今日は明の代わりにラジオ体操しに来たってわけ」


 なんてことなさそうに言う。姉弟ってそんな感じなんだろうか。わたしにきょうだいはいないのでわからない。


「じゃあ、あきらくん、今なにしてるの?」

「私の課題。えーと、宿題」

「えー!」


 深呼吸のターンに入っていたわたしに衝撃が走った。


「そ、そんなことできるの?」

「まあ、さすがに中学生の勉強はできないけどね。あいつ、描く絵が面白いから、絵の課題やってもらってんの」


 ラジオ体操が終わり、ハンコを押してもらう時になって「さすがにコレは貰えないかー」と言っておねえさんは笑った。


「明が描いてるところ、見にくる?」

「いいの?」

「いいよ。友達なんでしょ」


 あきらくんとは別に仲が悪いわけではないが、友達というほど仲がいいわけではない。
 だけど、言うのはやめておいた。中学生に小学生のことはわからないだろう。多分。

 おねえさんに先導され、初めてくる赤い屋根の家に着く。
 中に入ってリビングに行くと、あきらくんが画用紙に向かって筆を滑らせていた。
 振り向きながら「ねえちゃん、帰ったー?」と言いかけていたあきらくんはわたしを見て目を丸くした。


「え、なっちゃん?」


 なんて答えていいかわからず、うんと子どもっぽく頷いた。


「あんたの絵が見たいんだって」

「ふうん。よくわかんないけど、いいよ」


 あきらくんはそう言いながらわたしに絵を見せてくれた。
 あきらくんの絵は確かに面白い絵だった。上手だと間違いなく言い切れるわけではないけど、見たことのない色使いや形のもので溢れていて、とても面白かった。

 中学生のおねえさんがラジオ体操をして、小学生のあきらくんが絵を描く。
 なんだかとても面白いことのような気がしてきて、少し羨ましい。

 わたしはきょうだいがいないから、交代は多分できないけど、楽しそうだなと思いながら二人を見ていた。
 そういえば、初日からラジオ体操の帰りに寄り道したこと、お母さんは怒るだろうか。


「面白いでしょ」


 おねえさんはそう言ってわたしに笑いかけた。うん、と頷きながらあきらくんがもっと羨ましくなる。
 わたしもこのおねえさんに、面白い子だと思われて笑ってくれたらどんなにか嬉しいかと、そう思ったからだ。

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