恋の不思議・短編集

蒼キるり

文字の大きさ
2 / 11

ラジオ体操のおねえさん

しおりを挟む
 今日から毎日ラジオ体操だ。
 最初は早起きして公園に集まることに不思議なワクワクがあるけど、次第に減って行くことをわたしは知っている。
 なぜならわたしは小学二年生。毎日のラジオ体操は初めてじゃない。二回目だ。これはもうプロと言っても過言ではない。

 らじおたいそうだいいちー、という呪文に合わせながらぷらりぷらりと手を揺らし体を動かす。
 ふと、隣で頭ひとつ飛び抜けて大きな人が一緒にラジオ体操をしていることに気がついた。
 わたしはじりじりと腕がぶつからないギリギリまで近づいた。大きい人は腕も長いので当たらないようにしなくては。


「おねえさん、小学生?」


 わたしがこっそり聞くと、おねえさんはひとつに結んだ髪を勢いよく揺らしながらわたしの方を見た。


「違うよ。中二」

「中学生もラジオ体操あるんだ」

「ないよ」


 おねえさんはちょっと笑っていた。丸く握った拳が交差する。
 ないのか、そうか。確かにおねえさん以外に明らかに大きい人はいない。


「じゃあ、なんで中学生なのに、おねえさんはラジオ体操しに来てるの?」

「明……弟と交代する日なの」

「あきら? あきらって、田所あきらくん?」


 知ってるの? とわたしより随分高く飛びながらおねえさんは言う。


「わたしの席の斜め前の前だよ」


 あ、クラスメイトって言えばよかったかな。そっちの方がかっこよかったかもしれない。
 そうなんだ、とおねえさんは軽く頷く。かっこいいな。


「交代ってなに?」

「えーと、私と明、たまに交代するの。やること。私が洗濯の係であいつが掃除の係でも、交代の日は逆のことする。そういう風な日があっても楽しいでしょ。だから今日は明の代わりにラジオ体操しに来たってわけ」


 なんてことなさそうに言う。姉弟ってそんな感じなんだろうか。わたしにきょうだいはいないのでわからない。


「じゃあ、あきらくん、今なにしてるの?」

「私の課題。えーと、宿題」

「えー!」


 深呼吸のターンに入っていたわたしに衝撃が走った。


「そ、そんなことできるの?」

「まあ、さすがに中学生の勉強はできないけどね。あいつ、描く絵が面白いから、絵の課題やってもらってんの」


 ラジオ体操が終わり、ハンコを押してもらう時になって「さすがにコレは貰えないかー」と言っておねえさんは笑った。


「明が描いてるところ、見にくる?」

「いいの?」

「いいよ。友達なんでしょ」


 あきらくんとは別に仲が悪いわけではないが、友達というほど仲がいいわけではない。
 だけど、言うのはやめておいた。中学生に小学生のことはわからないだろう。多分。

 おねえさんに先導され、初めてくる赤い屋根の家に着く。
 中に入ってリビングに行くと、あきらくんが画用紙に向かって筆を滑らせていた。
 振り向きながら「ねえちゃん、帰ったー?」と言いかけていたあきらくんはわたしを見て目を丸くした。


「え、なっちゃん?」


 なんて答えていいかわからず、うんと子どもっぽく頷いた。


「あんたの絵が見たいんだって」

「ふうん。よくわかんないけど、いいよ」


 あきらくんはそう言いながらわたしに絵を見せてくれた。
 あきらくんの絵は確かに面白い絵だった。上手だと間違いなく言い切れるわけではないけど、見たことのない色使いや形のもので溢れていて、とても面白かった。

 中学生のおねえさんがラジオ体操をして、小学生のあきらくんが絵を描く。
 なんだかとても面白いことのような気がしてきて、少し羨ましい。

 わたしはきょうだいがいないから、交代は多分できないけど、楽しそうだなと思いながら二人を見ていた。
 そういえば、初日からラジオ体操の帰りに寄り道したこと、お母さんは怒るだろうか。


「面白いでしょ」


 おねえさんはそう言ってわたしに笑いかけた。うん、と頷きながらあきらくんがもっと羨ましくなる。
 わたしもこのおねえさんに、面白い子だと思われて笑ってくれたらどんなにか嬉しいかと、そう思ったからだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...