恋の不思議・短編集

蒼キるり

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約束が果たされませんように

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 麻里香は金曜の夜、必ず駅前で恋人を待つ。
 約束の時間から一時間経っても、二時間経っても、現れない恋人を待ち焦がれ、心配でたまらないという顔でひたすら待っている。
 その姿は誰もが庇護欲を誘うような切なさに溢れていて、誰かが気安く触れたり「大丈夫?」などと馬鹿みたいな優しさでつけ込んだりしないように、私は見張っている。
 そして、麻里香の体力が尽きるころ、たった今見つけたという顔で麻里香に近づく。


「あ、ことはちゃん」


 麻里香は私を見て、ほっとした顔をする。
 本当に見つけたかったのは、私じゃないのにね。


「あのね、みゆちゃんね、ちゃんと来るって約束したのにね、全然来てくれなくてね、わたし、心配で……」

「うん、心配だね」

「どうしよう、みゆちゃん、怪我してたらどうしよう……電車に轢かれちゃってたら、どうしよう……」


 頭のどこかで覚えてるのかな、と言葉を聞きながら曖昧に頷く。


「心配だよね、でも麻里香の体調が悪くなったら『みゆちゃん』はもっと困るんじゃないかな。今日は家に帰って、元気になろうよ。それから『みゆちゃん』を迎えに行こう」


 麻里香はこくんと頷いて私と手を繋いできた。


「そうだね、ありがとう、ことはちゃん」

「……どういたしまして」

「ことはちゃんが来てくれてよかったぁ」


 毎週、ちゃんと来てるよ、なんて言わないけどさ、たまにちょっと切なくなる。
 初めて会った時の麻里香は恋人の『みゆちゃん』を電車に轢かれて亡くしたばかりで、それでも必死で立ち直ろうとしていた。
 そんなあなたに惹かれたよ。強いあなたを好きになったよ。
 でもあなたは、私の知らない『みゆちゃん』が死んで八年も経った日に、まるで吸い込まれるみたいにプラットホームから線路に落ちて、私と付き合ってたことなんて忘れてしまったね。
 私のことも忘れてくれればいいのに、中途半端に覚えて「友達」だと思ってるから、こうして『みゆちゃん』が死んだ金曜日に待ってるあなたを迎えに行かなきゃいけない。私を知ってるあなたのことを見捨てられない。

 どんなあなたも好きだよ、なんて言えない私でごめん。
 今も、昔のあなたに戻ってほしいって、そうじゃなきゃ恋人になれないって、自分勝手に思ってるよ。

 早く、あなたの中の、『みゆちゃん』がいなくなりますようにって──

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