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6.幼馴染と不思議な言動
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卵は焦げた上に破れ、ケチャップライスは白い部分と赤い部分がまだらで、おまけに野菜はゴツゴツと大きい。
俺はこれは失敗したなと思い亜子に謝ったのだけど、亜子は俺を責めることをなく無言でオムライスを完食してくれた。
そして「おいしいかったよ」と絶対にそんなわけないのに満面の笑みで言ってくれたのだ。
ああ、俺は亜子のこの顔を見るためなら料理だろうとなんでもできるな、と思った。
そして本当に美味しい料理を食べさせるために練習も重ねた。今ではそれなりのものを作れると自負している。
「おかわりあるからな」
ぱくぱくと景気良く箸を進める亜子に言うと、亜子は一層目を輝かせてこくこくと頷いた。
大学に入って定食屋でバイトし始めてよかったなとしみじみ思う。料理のレパートリーが格段に増えた。
それもこれも全部亜子のためだ。
「ほんと、おいしい。涼太は料理人になれるね」
「んー、料理人にはならなくてもいいかなぁ」
なんで?と首を傾げる亜子には少々恥ずかしくて言えないのだけど、亜子以外のやつに美味しいと言われても意味なんてないのだ。
俺は亜子に食べさせたいのだから。
「亜子、明日なに食べたい?」
「んー、クリームシチュー」
「あー、はいはいシチューな。ほんと温かいものが好きだなぁ、亜子は」
亜子の好きなクリームシチューは煮込むのにだいぶ時間がかかるため忙しい日には出来ないのだけど、頭の中で明日のスケジュールを確認するとなんとかなりそうだった。
「いいよ。明日バイト早く上がるし」
わーい、と無邪気に喜ぶ亜子を見ながら、明日も美味しいと言わせるんだと心の中でいつものように決意を固めた。
俺の毎日はつくづく亜子を中心に回っている。
ご飯を食べ終え、俺の周りをうろちょろする亜子を宥めながら後片付けを終える。
それからしばらく亜子と話したり亜子が絵を描くのを眺めながらまったりと過ごす。
正直に言って自分が一人暮らししている部屋よりも亜子の部屋にいる時間の方が長いのではと最近思う。寝るのは自分の部屋なのでそうでないことを祈りたい。
ほどほどの時間で帰ろうと重い腰を上げると、亜子が何やら神妙な顔をしてやけに畏まった様子で俺を引き止めた。
「あのですね、涼太」
「なんですか、亜子」
なんで服の裾掴まれてんだろ、と思いながらつられて畏まりながら答える。
「もう夜です」
「夜ですね?」
「夜ってことは道も夜ってことで夜道ってことで、つまり歩くのは危ないってことです」
亜子の言っていることがいよいよ分からない。いや前々からわからなかったけど今は一から十まで分からない。
「だから今日はうちに泊まっていったらどうでしょう」
「いや、毎日この時間に帰ってるし」
何をいきなり言い始めたのだろうか、俺の幼馴染は。あとそれは駄目だ色々と駄目だ。
亜子が俺のことを信用してくれているというより意識を欠片もされてないのは分かったからそれは駄目だ。
今度里帰りした時に亜子の両親に土下座しなければいけないかもしれないじゃないか。
俺が断ったからだろうか。うぐぐ、と亜子は呻き声を上げつつしぶしぶ頷いてくれた。聞き分けてくれたようで何よりだ。
「じゃあな、あんまり夜更かしするなよ」
ぽんぽんと亜子の頭を撫で、しぶとく服の裾を掴む手は離させた。
玄関まで行ったところで少しだけ部屋を振り返る。
亜子はさっきまで駄々をこねていたのが嘘のように静かにキャンバスに向き合っていた。
すっと伸びたその背を見つめながら、きっとさっきのは亜子のただの気まぐれなんだろうなと少しだけ寂しくなる。
でもすぐにその気持ちは薄らいだ。気まぐれだろうとなんだろうと亜子が俺を気に入ってくれてるんだからいいじゃないか。
今の亜子が食べている料理のほとんどは俺が作った料理だというだけで、充分に満足できることなのだから。
また明日の朝に来るからな、ともう聞こえてはいないであろう亜子に声をかけてから亜子の部屋を後にした。
俺はこれは失敗したなと思い亜子に謝ったのだけど、亜子は俺を責めることをなく無言でオムライスを完食してくれた。
そして「おいしいかったよ」と絶対にそんなわけないのに満面の笑みで言ってくれたのだ。
ああ、俺は亜子のこの顔を見るためなら料理だろうとなんでもできるな、と思った。
そして本当に美味しい料理を食べさせるために練習も重ねた。今ではそれなりのものを作れると自負している。
「おかわりあるからな」
ぱくぱくと景気良く箸を進める亜子に言うと、亜子は一層目を輝かせてこくこくと頷いた。
大学に入って定食屋でバイトし始めてよかったなとしみじみ思う。料理のレパートリーが格段に増えた。
それもこれも全部亜子のためだ。
「ほんと、おいしい。涼太は料理人になれるね」
「んー、料理人にはならなくてもいいかなぁ」
なんで?と首を傾げる亜子には少々恥ずかしくて言えないのだけど、亜子以外のやつに美味しいと言われても意味なんてないのだ。
俺は亜子に食べさせたいのだから。
「亜子、明日なに食べたい?」
「んー、クリームシチュー」
「あー、はいはいシチューな。ほんと温かいものが好きだなぁ、亜子は」
亜子の好きなクリームシチューは煮込むのにだいぶ時間がかかるため忙しい日には出来ないのだけど、頭の中で明日のスケジュールを確認するとなんとかなりそうだった。
「いいよ。明日バイト早く上がるし」
わーい、と無邪気に喜ぶ亜子を見ながら、明日も美味しいと言わせるんだと心の中でいつものように決意を固めた。
俺の毎日はつくづく亜子を中心に回っている。
ご飯を食べ終え、俺の周りをうろちょろする亜子を宥めながら後片付けを終える。
それからしばらく亜子と話したり亜子が絵を描くのを眺めながらまったりと過ごす。
正直に言って自分が一人暮らししている部屋よりも亜子の部屋にいる時間の方が長いのではと最近思う。寝るのは自分の部屋なのでそうでないことを祈りたい。
ほどほどの時間で帰ろうと重い腰を上げると、亜子が何やら神妙な顔をしてやけに畏まった様子で俺を引き止めた。
「あのですね、涼太」
「なんですか、亜子」
なんで服の裾掴まれてんだろ、と思いながらつられて畏まりながら答える。
「もう夜です」
「夜ですね?」
「夜ってことは道も夜ってことで夜道ってことで、つまり歩くのは危ないってことです」
亜子の言っていることがいよいよ分からない。いや前々からわからなかったけど今は一から十まで分からない。
「だから今日はうちに泊まっていったらどうでしょう」
「いや、毎日この時間に帰ってるし」
何をいきなり言い始めたのだろうか、俺の幼馴染は。あとそれは駄目だ色々と駄目だ。
亜子が俺のことを信用してくれているというより意識を欠片もされてないのは分かったからそれは駄目だ。
今度里帰りした時に亜子の両親に土下座しなければいけないかもしれないじゃないか。
俺が断ったからだろうか。うぐぐ、と亜子は呻き声を上げつつしぶしぶ頷いてくれた。聞き分けてくれたようで何よりだ。
「じゃあな、あんまり夜更かしするなよ」
ぽんぽんと亜子の頭を撫で、しぶとく服の裾を掴む手は離させた。
玄関まで行ったところで少しだけ部屋を振り返る。
亜子はさっきまで駄々をこねていたのが嘘のように静かにキャンバスに向き合っていた。
すっと伸びたその背を見つめながら、きっとさっきのは亜子のただの気まぐれなんだろうなと少しだけ寂しくなる。
でもすぐにその気持ちは薄らいだ。気まぐれだろうとなんだろうと亜子が俺を気に入ってくれてるんだからいいじゃないか。
今の亜子が食べている料理のほとんどは俺が作った料理だというだけで、充分に満足できることなのだから。
また明日の朝に来るからな、ともう聞こえてはいないであろう亜子に声をかけてから亜子の部屋を後にした。
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