世間が何を言おうとも、私たちは夫婦です。

蒼キるり

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セックスをしない夫婦

11話

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 結局のところ、不安なんてすぐには消えないけれど、ずっと続くものでもないのだ。

 明確な解決策もないまま、ゆっくりと薄らいでいく不安を持て余す。

 だって、消えてはくれないのだ。それでも確実に不安は薄らいでいく。



 例えば、二人で使うのに良さそうな湯呑みを見つけた時、将来の話をする時、別れ際にまだ離れたくないなと思う時。

 思い切って一緒に暮らしてみたら、どうだろう。案外なんとかなるんじゃないだろうか。

 そんな風に思うようになった。





「ネットで調べたんだけどね」





 私の突拍子のない言葉にも、正樹は優しく笑って聞いてくれる。

 そのことにひどく安心するから、私はこうして話せるのだ。

 正樹もそうならいいのに、と思う。私に正樹が話しやすく思っていてくれればこんなに嬉しいこともない。





「結婚って本当に婚姻届書いて出すだけなのかなって。細々したことは他にもあったんだけどね、だいたい想像と合ってたの」





 本当に紙に書いて提出するだけで家族になれるのか、とこの歳になっても半信半疑だったのだけど、どうやらそういう風に出来ているらしい。

 天と地がひっくり返るくらいに大きな出来事で、私たちですら変わってしまったらどうしようと不安だったのだけど、案外そうではないのかもしれない。





「もしかしたら、後からすごく不安になるかもしれないし、やっぱり嫌って言うかもしれないけど」





 それでも、一緒にいたいと思うようになっていた。

 それが一緒に暮らすことでもなんでも良かった。ただ、またいつか結婚しようかと悩む時がくるならば、いま家族になっておきたい。





「……私と、結婚しませんか」





 正樹は何かを言いたそうに口を開けたり閉じたりして、それからようやく一言捻り出したように口を開いた。





「亜子」





 その掠れた声に、何故か泣きそうになった。

 正樹さえ泣きそうだったように思う。あんまり見ていたら本当に泣いてしまいそうで、よくは覚えていない。





「……抱き締めても、いいかな」





 とうとう、堪えきれなかった涙がぽとんと一筋落ちて、それからこくんと頷いた。

 嫌じゃない。と、正樹にちゃんと分かってもらうために。



 ゆっくりと正樹の手が伸びて、そっと怯えるように私の身体をほんの少しだけ引き寄せて、身体を寄せ合った。

 初めてだった。抱き合うことすら、これが初めてで、私たちは背中に手を回すこともできずに身体を固く固くして、寄せ合うことしかできなかった。



 でも、幸せだった。セックスをしなくても、抱き締め合うだけで幸せだった。

 その幸せは、結婚した今でも、何も変わっていないのだ。
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