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第2章
大切な人たち3
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そして――母様は奴隷の身分に落とされ、無一文の状態で国外追放となったのだ。
仕事の時間に遅れるからと兄様とビルと別れ、それぞれの持場へ向かう。
僕は文官棟の門まで歩いていった。門兵に挨拶をして扉を開けてもらい、中へ入る。
入った途端、学院時代からの親友のピーターに力いっぱい抱きしめられた。
「おはよう、ルカ。元気になったんだな、快復おめでとう!」
「ピーター! 会いたかったよ……」
ピーターにも申し訳ないことをしたと思う。彼には婚約者がいて結婚を間近に控えていた。
ぼくの一件で勢いづいたノエルさまとエドワードさまのあらゆる暴挙について、民衆が異を唱えたんだ。
おふた方は、近衛兵やエドワードさま側に寝返った兵や騎士たちを使って、「暴動を起こし、王族の転覆を望んでいる」と民衆に因縁をつけて彼らを粛清しようとしたんだ。
もちろん庶民出身のピーターは、力を持たない民衆や家族を守るために矢面に立ち、死んでしまった……。
ぼくらは熱い抱擁を終えると並んで歩いた。
「具合のほうは大丈夫なのか?」
「うん。ちょっと熱が出ただけだから、もう平気だよ」
「そっか。でも油断は禁物だ。何かあったら、すぐに言えよ。今日は訓練だけだから一日王宮にいる。先輩たちの許可をもらって中抜けできるから館まで送っていけるぞ」
「ありがとう。でも仕事を休んでばかりもいられないよ。無理はしないから心配しないで。ところで、どうしたの? もうすぐ訓練の時間でしょ?」
「あー……」とピーターは気まずそうに頭の後ろを掻いた。僕の耳元に顔を寄せ、小声で喋る。
「エドワードさまから言伝を頼まれたんだ」
思わず、ひゅっと息を呑んだ。
胸がざわざわする。震えそうな声で「彼はなんて?」とピーターに訊く。
「『今日のお昼に、いつもの場所で待ってる』だってさ」
「そう……ありがとう」
「なあ、ルカ」
「何?」と返事をすれば、ピーターは眉間にしわを寄せて何か思案するような顔をしている。
「外野がゴチャゴチャ言う話じゃないけど……やっぱりエドワードさまと付き合うのは、やめたほうがいいんじゃないか?」
「なんで?」と尋ねれば、ピーターは難しそうな顔をして顎に手をやって唸った。
「あの方のいい噂を聞かないし、おまえには合ってないような気がしてならないんだ」
ピーターの言葉にドキリとする。
不意に、やり直す前の世界でエドワードさまが僕にした仕打ちを思い出す。
「大丈夫だよ。ピーターは心配性だね。エドワードさまは、そんな人じゃないよ」
「そうか……なら、いいんだ。ごめんな」
「ううん、謝らないで。エドワードさまには『承知しました』って伝えておいてもらえるかな?」
「ああ、わかった。じゃあ、そろそろ行くわ! 遅れると上官に怒られるから」
「ごめんね、こんな役回りを、きみにさせちゃって」
「気にするなって。それじゃあ、またな!」
「うん、またね」
お互いに手を振り、それぞれの職場へ向かう。
扉をくぐり、仕事仲間や先輩方に挨拶をする。みんな、仕事を休んだことを咎めたりせずに、体の心配をしてくれた。
「ルキウスさん、私の姉がいいお茶とはちみつをくれたの。休憩時間に、はちみつ入りの紅茶を飲んでみて。喉にいいわよ」
「クライン、今日は定時上がりにしろよ。病み上がりなんだから根詰め過ぎるな」
「クラインさん、心配したよ。何か困ったことがあったら、いつでもサポートするから言ってね」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」と職場の人に頭を下げ、上長であるスチュワートさまに仕事を休んだことを謝罪する。
聖者のように穏やかな顔つきをしたスチュワートさまが「熱が出たと言う話を聞いたよ。クラインくん、調子はどうだい?」とおっとりとした口調で、お心遣いをしてくださった。
ここの文官棟の人たちは、反逆者である僕を匿った罪を問われ、全員解雇となった。
上官であるスチュワートさまに至っては僕の計画を知っていながら見逃した罪により、斬首刑となってしまったのだ。
「おかげさまで、よくなりました。急なお休みをすることになってしまい、申し訳ございません」
「いいんだよ、気にしないで。きみはいつも、仕事を頑張っている。また今日からよろしくね」
「はい、お言葉ありがとうございます。失礼いたします」
自分のデスクにつき、いつも通りに仕事をこなしながら、頭の片隅でこれからのことを考えた。
仕事に夢中になっていれば、あっという間に昼時を告げる鐘の音がする。
きりのいいところで仕事を中断して持ち場を離れる。そのままエドワードさまが待っているバラ園まで走った。
王宮のバラ園は、王族や血族以外は立ち入れない場所で、色とりどりの美しいバラとその周りを飛び交う蝶やミツバチの姿を見られる。
幼かった僕はバラの花を見ることで自らの心を癒していたんだ。そして――あの場所でエドワードさまと出会い、言葉を交わし、そして愛の告白を受けた。
金髪碧眼の貴公子が椅子に腰掛け、みずみずしく咲き誇っている黄色のバラを眺めている。
「エドワードさま!」
仕事の時間に遅れるからと兄様とビルと別れ、それぞれの持場へ向かう。
僕は文官棟の門まで歩いていった。門兵に挨拶をして扉を開けてもらい、中へ入る。
入った途端、学院時代からの親友のピーターに力いっぱい抱きしめられた。
「おはよう、ルカ。元気になったんだな、快復おめでとう!」
「ピーター! 会いたかったよ……」
ピーターにも申し訳ないことをしたと思う。彼には婚約者がいて結婚を間近に控えていた。
ぼくの一件で勢いづいたノエルさまとエドワードさまのあらゆる暴挙について、民衆が異を唱えたんだ。
おふた方は、近衛兵やエドワードさま側に寝返った兵や騎士たちを使って、「暴動を起こし、王族の転覆を望んでいる」と民衆に因縁をつけて彼らを粛清しようとしたんだ。
もちろん庶民出身のピーターは、力を持たない民衆や家族を守るために矢面に立ち、死んでしまった……。
ぼくらは熱い抱擁を終えると並んで歩いた。
「具合のほうは大丈夫なのか?」
「うん。ちょっと熱が出ただけだから、もう平気だよ」
「そっか。でも油断は禁物だ。何かあったら、すぐに言えよ。今日は訓練だけだから一日王宮にいる。先輩たちの許可をもらって中抜けできるから館まで送っていけるぞ」
「ありがとう。でも仕事を休んでばかりもいられないよ。無理はしないから心配しないで。ところで、どうしたの? もうすぐ訓練の時間でしょ?」
「あー……」とピーターは気まずそうに頭の後ろを掻いた。僕の耳元に顔を寄せ、小声で喋る。
「エドワードさまから言伝を頼まれたんだ」
思わず、ひゅっと息を呑んだ。
胸がざわざわする。震えそうな声で「彼はなんて?」とピーターに訊く。
「『今日のお昼に、いつもの場所で待ってる』だってさ」
「そう……ありがとう」
「なあ、ルカ」
「何?」と返事をすれば、ピーターは眉間にしわを寄せて何か思案するような顔をしている。
「外野がゴチャゴチャ言う話じゃないけど……やっぱりエドワードさまと付き合うのは、やめたほうがいいんじゃないか?」
「なんで?」と尋ねれば、ピーターは難しそうな顔をして顎に手をやって唸った。
「あの方のいい噂を聞かないし、おまえには合ってないような気がしてならないんだ」
ピーターの言葉にドキリとする。
不意に、やり直す前の世界でエドワードさまが僕にした仕打ちを思い出す。
「大丈夫だよ。ピーターは心配性だね。エドワードさまは、そんな人じゃないよ」
「そうか……なら、いいんだ。ごめんな」
「ううん、謝らないで。エドワードさまには『承知しました』って伝えておいてもらえるかな?」
「ああ、わかった。じゃあ、そろそろ行くわ! 遅れると上官に怒られるから」
「ごめんね、こんな役回りを、きみにさせちゃって」
「気にするなって。それじゃあ、またな!」
「うん、またね」
お互いに手を振り、それぞれの職場へ向かう。
扉をくぐり、仕事仲間や先輩方に挨拶をする。みんな、仕事を休んだことを咎めたりせずに、体の心配をしてくれた。
「ルキウスさん、私の姉がいいお茶とはちみつをくれたの。休憩時間に、はちみつ入りの紅茶を飲んでみて。喉にいいわよ」
「クライン、今日は定時上がりにしろよ。病み上がりなんだから根詰め過ぎるな」
「クラインさん、心配したよ。何か困ったことがあったら、いつでもサポートするから言ってね」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」と職場の人に頭を下げ、上長であるスチュワートさまに仕事を休んだことを謝罪する。
聖者のように穏やかな顔つきをしたスチュワートさまが「熱が出たと言う話を聞いたよ。クラインくん、調子はどうだい?」とおっとりとした口調で、お心遣いをしてくださった。
ここの文官棟の人たちは、反逆者である僕を匿った罪を問われ、全員解雇となった。
上官であるスチュワートさまに至っては僕の計画を知っていながら見逃した罪により、斬首刑となってしまったのだ。
「おかげさまで、よくなりました。急なお休みをすることになってしまい、申し訳ございません」
「いいんだよ、気にしないで。きみはいつも、仕事を頑張っている。また今日からよろしくね」
「はい、お言葉ありがとうございます。失礼いたします」
自分のデスクにつき、いつも通りに仕事をこなしながら、頭の片隅でこれからのことを考えた。
仕事に夢中になっていれば、あっという間に昼時を告げる鐘の音がする。
きりのいいところで仕事を中断して持ち場を離れる。そのままエドワードさまが待っているバラ園まで走った。
王宮のバラ園は、王族や血族以外は立ち入れない場所で、色とりどりの美しいバラとその周りを飛び交う蝶やミツバチの姿を見られる。
幼かった僕はバラの花を見ることで自らの心を癒していたんだ。そして――あの場所でエドワードさまと出会い、言葉を交わし、そして愛の告白を受けた。
金髪碧眼の貴公子が椅子に腰掛け、みずみずしく咲き誇っている黄色のバラを眺めている。
「エドワードさま!」
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