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第4章
長くそばに……4
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ふたりで公園近くの駅まで全速力で走り、ちょうどよくやってきた電車に飛び乗る。人も少なく、空いている席が多い。
「はい、葵のタオル。使って」
「……サンキュー」
ストバスを楽しみ、怪しい不審者を追いかけたかと思ったら、今度は駅まで猛ダッシュだ。俺はヘトヘトになって息切れしていた。
涼しい顔をして、息切れもしていない尊を小憎らしく思いながら息を整え、ぐっしょりかいた汗を拭いていく。
汗を吹き終わった尊がスポドリの入った水筒を飲んでいる。
「俺も」と、あいつが飲んでいた水筒をもらい、口をつけて一気にあおった。
ふと中学生のときに「尊と関節キスだ」とドキドキするあまり、公式試合中にもかかわらず鼻血を出したこともあったな……なんて恥ずかしい過去の記憶を思い出す。
「サンキュー、生き返ったわ」と水筒を突き返し、前髪を手であげる。
「どういたしまして。僕がいきなり葵を連れ出して走らせちゃったしね」
「で、この後、どこに行くんだよ? 中華街やみなとみらいに行くんじゃないのか?」
「違う、違う。僕たちの住んでいるところに帰るんだよ」
「はあ? どういうことだよ。あそこら辺にイルミネーションが見られる施設や建物なんてねえだろ」
「まあ、着いてからのお楽しみだよ」
「わけわけんねえな」
俺らは互いにスマホを手に取り、バスケ関係の連中にSNSでメッセージを送った。
今年は一緒に除夜の鐘を聞いたり、お参りに行くわけじゃない。SNSであけおめ、ことよろのメッセージやスタンプを送るだけ。そうだとしても今夜も、そして明日の朝もふたりで過ごしたかったし、誰にも邪魔されたくなかったのだ。
昼間、買い物をしたデパートの近くにある駅で下りる。エアコンがかかって温かい車内から、ひゅうひゅうと北風が吹く寒空の下に出て、汗が急速に体温を奪っていく。そのせいか異様に寒く感じる。
「やっばい、寒すぎる! 早く家に帰って、あったかい風呂に入ろうぜ」と俺はブルブル震えながら両腕をさすった。
「そうだね、柚子の入浴剤でも入れて温かいおそばをこたつで食べよう。その後、みかんをデザートにしよっか」
白い息を吐いた尊の頬や鼻先は真っ赤になっていた。
ふたりで人の少ない道を歩いてストーブのかかっている家へと足早に向かう。
「ああ、そうしようぜ。で、イルミネーションは、どこにあるんだよ? 見当たらねえぞ」
「えっと、もう少し。ほら……」
商業施設や広場に植えられているメタセコイアのオレンジの木が、青やオレンジの電飾で飾られている姿が目に飛び込んだ。
「なるほどな……高校入ってからは、この駅なんて、ほとんど使わねえから気づかなかった」
昔、まだ小学生だったとき、クリスマスの夜に尊とここでツリーを見たことを思い出す。
「懐かしいよね。毎年ここでイルミネーションの点灯式をやってるけど、僕たちがこっちに来ることも少なくなったし」
「だな、バスケの試合に大会、帰省でバタバタしてるから忘れてたわ。前より、ずっと豪華になったんだな」
「うん、すごいよね」
歩くスピードを少しだけ落として尊とともにキラキラと光る明かりを見ていく。
「春には東京に行って、こことさよならするわけでしょ。見納めって感じ?」
「でも実家が、こっちにあるのは変わらねえだろ。なんで、わざわざこんなことをする必要を感じねえけど」
「んーと、その……」と歯切れ悪い返事をして苦笑する。「もし、おじさんたちがさ、今回みたいに年末年始をふたりでいることを許してくれたら、旅行でもして別の場所で過ごせたらいいなって思うんだ」
「旅行?」
「そう、僕が免許を取って車を運転するのでもいいし。新幹線に乗って他県の旅館で温泉でゆったりしたり、飛行機に乗って沖縄やハワイとかで温かく過ごせたらいいなーって。葵はやだ?」
「いやなわけねえだろ。俺もおまえと、ふたりで過ごしたいと思う」
冷たくなった手を温めるように尊の手を握る。
一瞬びっくりしたような顔をした尊が、すぐに俺の手を握り返してくれた。それからつないでいる手をモッズコートの上着のポケットに入れる。
「住み慣れたここじゃない場所で暮らすことになっても、おまえの隣にいるのは変わらねえから」
「うん……僕も、葵のそばにずっといたい。来年も、再来年も、それこそおじいさんになって死ぬまで、ずっと……」
「ああ、そうだな。この国で結婚はできなくても同じようなことはできるし、国外で同性愛者の結婚を認めてくれる場所もある。おまえがもし……NBAのプロ選手になってもそのときはサポートするし、必ず着いていく」
ギュッと互いの手を離れないように握りしめる。
尊がどんなに俺を見てくれても先のことは誰にもわからない。
心変わりをして、女の子と結婚したり、ほかの男とつき合う可能性はなくならない。
それに自分を尊の恋人だって思い込んだやつが尊を自分のものにするために殺そうとしたり、今日みたいに変なやつがつきまとったりすることだってあるんだ。中学のときみたいに車が突っ込んできて尊が……なんてことだって大いにありうる。
だから一秒でも長く尊のそばにいたい。
この夜を後悔したくないんだ。
「はい、葵のタオル。使って」
「……サンキュー」
ストバスを楽しみ、怪しい不審者を追いかけたかと思ったら、今度は駅まで猛ダッシュだ。俺はヘトヘトになって息切れしていた。
涼しい顔をして、息切れもしていない尊を小憎らしく思いながら息を整え、ぐっしょりかいた汗を拭いていく。
汗を吹き終わった尊がスポドリの入った水筒を飲んでいる。
「俺も」と、あいつが飲んでいた水筒をもらい、口をつけて一気にあおった。
ふと中学生のときに「尊と関節キスだ」とドキドキするあまり、公式試合中にもかかわらず鼻血を出したこともあったな……なんて恥ずかしい過去の記憶を思い出す。
「サンキュー、生き返ったわ」と水筒を突き返し、前髪を手であげる。
「どういたしまして。僕がいきなり葵を連れ出して走らせちゃったしね」
「で、この後、どこに行くんだよ? 中華街やみなとみらいに行くんじゃないのか?」
「違う、違う。僕たちの住んでいるところに帰るんだよ」
「はあ? どういうことだよ。あそこら辺にイルミネーションが見られる施設や建物なんてねえだろ」
「まあ、着いてからのお楽しみだよ」
「わけわけんねえな」
俺らは互いにスマホを手に取り、バスケ関係の連中にSNSでメッセージを送った。
今年は一緒に除夜の鐘を聞いたり、お参りに行くわけじゃない。SNSであけおめ、ことよろのメッセージやスタンプを送るだけ。そうだとしても今夜も、そして明日の朝もふたりで過ごしたかったし、誰にも邪魔されたくなかったのだ。
昼間、買い物をしたデパートの近くにある駅で下りる。エアコンがかかって温かい車内から、ひゅうひゅうと北風が吹く寒空の下に出て、汗が急速に体温を奪っていく。そのせいか異様に寒く感じる。
「やっばい、寒すぎる! 早く家に帰って、あったかい風呂に入ろうぜ」と俺はブルブル震えながら両腕をさすった。
「そうだね、柚子の入浴剤でも入れて温かいおそばをこたつで食べよう。その後、みかんをデザートにしよっか」
白い息を吐いた尊の頬や鼻先は真っ赤になっていた。
ふたりで人の少ない道を歩いてストーブのかかっている家へと足早に向かう。
「ああ、そうしようぜ。で、イルミネーションは、どこにあるんだよ? 見当たらねえぞ」
「えっと、もう少し。ほら……」
商業施設や広場に植えられているメタセコイアのオレンジの木が、青やオレンジの電飾で飾られている姿が目に飛び込んだ。
「なるほどな……高校入ってからは、この駅なんて、ほとんど使わねえから気づかなかった」
昔、まだ小学生だったとき、クリスマスの夜に尊とここでツリーを見たことを思い出す。
「懐かしいよね。毎年ここでイルミネーションの点灯式をやってるけど、僕たちがこっちに来ることも少なくなったし」
「だな、バスケの試合に大会、帰省でバタバタしてるから忘れてたわ。前より、ずっと豪華になったんだな」
「うん、すごいよね」
歩くスピードを少しだけ落として尊とともにキラキラと光る明かりを見ていく。
「春には東京に行って、こことさよならするわけでしょ。見納めって感じ?」
「でも実家が、こっちにあるのは変わらねえだろ。なんで、わざわざこんなことをする必要を感じねえけど」
「んーと、その……」と歯切れ悪い返事をして苦笑する。「もし、おじさんたちがさ、今回みたいに年末年始をふたりでいることを許してくれたら、旅行でもして別の場所で過ごせたらいいなって思うんだ」
「旅行?」
「そう、僕が免許を取って車を運転するのでもいいし。新幹線に乗って他県の旅館で温泉でゆったりしたり、飛行機に乗って沖縄やハワイとかで温かく過ごせたらいいなーって。葵はやだ?」
「いやなわけねえだろ。俺もおまえと、ふたりで過ごしたいと思う」
冷たくなった手を温めるように尊の手を握る。
一瞬びっくりしたような顔をした尊が、すぐに俺の手を握り返してくれた。それからつないでいる手をモッズコートの上着のポケットに入れる。
「住み慣れたここじゃない場所で暮らすことになっても、おまえの隣にいるのは変わらねえから」
「うん……僕も、葵のそばにずっといたい。来年も、再来年も、それこそおじいさんになって死ぬまで、ずっと……」
「ああ、そうだな。この国で結婚はできなくても同じようなことはできるし、国外で同性愛者の結婚を認めてくれる場所もある。おまえがもし……NBAのプロ選手になってもそのときはサポートするし、必ず着いていく」
ギュッと互いの手を離れないように握りしめる。
尊がどんなに俺を見てくれても先のことは誰にもわからない。
心変わりをして、女の子と結婚したり、ほかの男とつき合う可能性はなくならない。
それに自分を尊の恋人だって思い込んだやつが尊を自分のものにするために殺そうとしたり、今日みたいに変なやつがつきまとったりすることだってあるんだ。中学のときみたいに車が突っ込んできて尊が……なんてことだって大いにありうる。
だから一秒でも長く尊のそばにいたい。
この夜を後悔したくないんだ。
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