荊棘の檻

鶴機 亀輔

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Act1.帝光学園

アンチ王道転校生?1《Side 荊棘切頼人》

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 俺は、ひどくイライラしながらひとり、机に向かっていた。右手には赤紫色の万年筆を握り、左手でキーボードを打ちながら独り言を口にする。

「まったく、どいつもこいつもふざけてる。仕事を放り出し、遊びほうけている連中も。ブラックリスト入りの生徒たちに手を焼く風紀も。不平不満を口にするだけで何もしない一般生徒も。そんな彼らを管理できず、頭を抱えるだけの教師も……」

 万年筆による書き損じが発生し、手を止め、本日何度目かわからない、ため息をつく。

 九百年前の世界では地球温暖化や資源の確保のため、紙の文書でなく電子文書で仕事の内容をすべて済ませていたそうだ。

 しかしながら国際的なテロ組織に加担するハッカーたちによって大規模なハッキングやウイルスの送付が行われ、企業や行政の文書が悪用されたり、見られなくなってしまった。

 この一件で、旧・日本国――現在のミズホの国では、ホワイトハッカーが大量に雇われ、活躍した。

 そうして三十世紀の現在は紙の文書や書籍は図書館や博物館での過去の遺物とされている。それなのに……「なんで、うちの学校は電子文書だけでなく、紙の文書まで作っているんだ……!」

 頭がひどく痛み出し、カップに入ったコーヒーを飲もうと手をのばす。薄茶色に汚れた白いマグカップの中身は空だった。嫌気が差した俺は立ち上がり、仮眠用に使っているソファーへ突っ伏し、目を閉じた。

 ――この状況を打破する術などないと、とうに諦めている。

 生徒会顧問に提出しなくてはいけない今月の決算書のデータ、三日後に開かれる生徒総会で必要な書類も作り終わってない。それなのに、机上に天高く積み上げられた、おびただしい数の書類をすべてひとりで処理するなど不可能だ。

 電子文書ならAIに任せて振り分けられた。

 だが残念なことに、どれも俺の直筆サインが必要なものばかりだし、スキャナーを使えない仕様だ。

 一枚一枚紙の書類に目を通し、右手で休むことなく名前を書く。左手はパソコンのキーを打って、学園や生徒会のホームページを更新し、IT部門の外部コンサルタントやエンジニア、プログラマーの方々から送られてきているメールの内容とカレンダーの予定を確認した。

 ここ一週間、自分以外の生徒会役員が仕事を放棄し、溜めに溜めたこの書類を整理し続けて、ろくに睡眠も取れていない。休み時間も、放課後も、寮に帰った後も仕事。

 おまけに抜き打ちテストや英語の実技テスト、試験勉強や模試の勉強でおかげで大忙しだった。近頃の睡眠時間は四時間にも満たない。

 運が悪いことに生徒会顧問が初めて、三年のクラスを担任として受け持った。授業の準備や中間考査のテストを作るだけでなく、進路相談に三者面談。果ては、修学旅行の準備をしなくてはと多忙だ。だから生徒会が、どんな状況になっているのか把握できないし、手を貸す余裕はない。

 生徒会と対をなす風紀委員会は、生徒会メンバーを持てはやす親衛隊の過激派の暴走を防ぐことにほんそう中。ブラックリスト入りの問題児が彼らと意気投合したことで、暴力行為の数は増加の一途をたどる。そちらに対応するので、手がいっぱいなのだ。むしろ「猫の手も借りたいぐらいの状況だ!」と泣きついてきた。

 教師の仕事を減らすために生徒会や風紀が仕事をしている。

 小遣い稼ぎになるし、大学でのアルバイトやパート、派遣の面接を受ける際に有利になる。

 一般家庭や貧困家庭の子どもであれば、奨学金をもらいながら手取り十五、六万は余裕でもらえて、ボーナスもつくから生活に困らない。その金を親兄弟へ仕送りしている子どももいる。

 何より公務員となるための高校認定試験の面接で、「授業を受けながら、よい成績を納め、ていこう学園の生徒会・風紀として活動していました」とアピールできる。

 だが、現・生徒会メンバーは富豪の家の御曹司や令嬢ばかり。俺以外の連中は金に困ったことも、食うや食わずで野垂れ死にしそうになった経験もないし、一時的にホームレスとなって寒空の下で生活をしたやつの心も理解しようとは思っていない。

 だから「そんな、はした金があってもなくても関係ないでしょ?」と、すっとぼけた顔をする。

 超能力の力とセンスで選ばれたエリート中のエリート。

 俺が逆立ちしても、空から槍が降ってきても手の届かない存在。

 生まれも、育ちも違う。この世の頂点に立つため、選ばれ、教育されてきた人間たち。

 親に恵まれず、手を汚すことと引き換えに生きながらえている俺なんかとは生きている世界が最初から違うのだ。

「使われる者と使う者か……」



 まだけいきょくぎりとして就任しておらず、こんごうの家の子として、この学園に入った。

 見るものすべてが何もかも、まぶしかった。の中で長年VRを使って見続け、憧れ、見ていた世界が眼前に広がっていたのだ。

 真新しい制服に身を包み、校舎へ向かって歩いていると人の肩にぶつかった。人と触れ合うことが十年間なかった俺にとっては、それすらも新鮮で驚かされた。突っ立っていれば、『あなた、人に謝らないなんて、いくらなんでも失礼でしてよ』とお叱りを受ける。

『すみませんでした』と謝罪の言葉を述べたら、男に肩を叩かれた。
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