荊棘の檻

鶴機 亀輔

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Act1.帝光学園

乱闘騒ぎ2

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 オープンサンドを食べている太郎ちゃんがゲンナリした様子でホットミルクを口にした。

 なんで、そんな疲れきった顔をしているのだろうと不思議に思いながらしゃくしたハムサンドを飲み込み、玉子サンドへ手をのばす。

「ちょっと太郎くん。そんな言い方はないんじゃないの?」

「そうだぜ、まるでおれらが素行不良なヤンキーみたいな言い方じゃねえか? 彩都が誤解したらどうするんだよ!?」

「実際、そうだろ!」と頬を引きつらせた太郎ちゃんが腕組みをした。「きみたちが警察のご厄介にならないのは、やってることが、理にかなっているからだってことを忘れないようにね」

「んなもん、当たり前だ。なあ、ルーカス」

「だよねえ、伊那」

 息ピッタリな様子で話しているふたりの姿を目にした太郎ちゃんは、こめかみに青筋を立てていた。

「清く正しく美しく生きてる一般人はバットを持って、いじめっ子に全治三ヵ月の怪我を追わせた主犯格のところへ殴り込みに行かないし、教師をぶん殴った生徒にナックルつけた拳で落とし前をつけたりしないんだよ。そもそも女子生徒に集団暴行しようとしたやつらをバイクで追い回さないから」

「そう言われても、ボクたち一般人ってわけじゃないし」とルーカスがベトベトの包装紙を丸め、三個目のてりやきバーガーの包装を開けた。「形は人間でも、の血がまじったハイブリッドだから」

 眉間にしわを寄せた伊那が、ひどく苛立っているようすの太郎ちゃんに追い打ちをかける。

「人のことをとやかく言う前に、おまえはどうなんだよ? 今の仕事に就く前は八歳でスイス銀行の金を盗んで少年院。シャバに出てからは不良グループに在籍してハッカ……」

 ベチャッと音がしたかと思えば、ルークの食べていたハンバーガーが、伊那の口に詰められていた。

 ルークはおもちゃを親に取り上げられた子どもみたいに泣きそうな顔をしているし、僕は呆然とする。

 口周りにソースとマヨネーズがついた伊那は、肩をわななかせた。

「人前で言っていいことと悪いことがあるんだよ、守家くん。これで少しは、お利口になれたね」

「てめえ……」

 怒り心頭の太郎ちゃんが、わざとらしい笑みを浮かべ、口元を引きつらせる伊那が立ち上がり、拳を作る。

「ちょっと、そこの駄犬ども。ぼくらを無視しないでくれる?」

 突然、話しかけられて僕たちは、一斉に声の主のほうへと顔を向けた。

 深緑色のネクタイをした二年生の先輩たちだ。三人とも、そっくりな顔をしているし、アイドルの女の子と同じくらい、かわいらしい。

 まじまじと彼らの顔を眺めていると、三つ子のひとりに指を差される。

「桐生彩都。自分の立場がわかっていないみたいだね」

 また、いつものかと思いつつ、「いきなり、なんでしょう?」と尋ねる。

「副会長様をたぶらかしているくせに、よくも、いけしゃあしゃあと……!」

「あの方の告白を何度も断るなんて生意気だよ!」

「だったら、僕にどうしろって言うんです?」と訊き返す。「好きでもない水無月先輩の告白を受けて恋人になれとでもいうんですか?」

 同時に三人は顔を真っ赤にさせた。

「そんなわけないだろ、頭おかしいんじゃないの?」

「目障りだから消えろって言ってるのが、わからんいわけ!?」

「この学園にふさわしくない異質因子なんだから、さっさと出てけよ!」

「そんな理不尽な……」

「理不尽なのは、おまえの存在だ!」と声を合わせ、つばを飛ばしながら、わめき散らした。

「ねえねえ、この人たち、誰ー?」

 退屈そうにルークがストローで空気を送りながら、コーラをボコボコと泡立たせる。

「水無月副会長の親衛隊だよ!」

 伊那と睨み合いをしている太郎ちゃんが大声で答えた。

 太郎ちゃんの黒い目を、三白眼の黄色い目で見据えながら、伊那が怒りをにじませた声を出す。

「キャンキャンうるせえ犬みたいだな。副会長さんに構ってもらえなくて、彩都に八つ当たりか。みっともねえ」

「なんだと……!」と三つ子が、がなり立てる。

 そこに――「お客様!」

 ワイシャツの上に緑のエプロンを着用した、ひまわりの花を思わせる容貌をした少女が現れる。

 目をらんらんと輝かせたルークが「かわいいじゃん」と口笛を吹いた。

 慌てて伊那は口元をナプキンで拭いて、身だしなみを整え始める。

「ここは、お食事をするところです。それに、ほかのお客様の目もあります。どうか暴言は、お控えください」

 毅然とした態度をとる女の子の出現に三つ子は、たじたじしている。

 一体全体、彼女は誰だろう? 

「荊棘切さんの付き人だ」

 目を丸くした太郎ちゃんが混乱した様子で僕のほうを見た。

「荊棘切さんの?」

 つい声に出してしまい、口元を手で押さえる。

 すると彼女は、こちらへ顔を向け、朗らかな笑みを浮かべた。

「天使だ……」

 夢見心地な様子で伊那がつぶやくのも、わかる。

 しかし、僕の胸は、ざわついた。この子と荊棘切さんは、もしかして――といやな考えが浮かんで心臓がズキンと痛みを発した。

「い、今は男同士の話をしてるんだから女子は関係ないでしょ」
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