My Love〜ぼくのミニチュアドール〜

鶴機 亀輔

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第1章

ぼくのミニチュアドール3

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 机の上には三角座りをして、にこにこ機嫌よく笑っているミドリがいる。

「優馬の料理、おいしそうだね! あーあ、おれも一緒に食べられたらよかったのになー。残念」

「本当に食べなくていいのか? ミドリが食べると思って作ったのに」

「うん、大丈夫だよ」

「食べられやすいサイズにできるぞ」と言おうとしたら、「だって人形がご飯を食べたり、トイレに行ったら、おかしいでしょう」とおどけた調子で話す。

「……ミドリは小さな人間や妖精、幽霊じゃなく、ミニチュアドールなんだよな?」

 箸を置いて手をのばし、右手の人差し指で彼の頬へ触れてみた。

 温かく、やわらかい感触がする。ドールたちの血の通っていない冷たく固い肌とは違う。

 まるで生きている人間の肌と変わらない。

 どうしてスーパーにいた幼女や、赤ちゃんはミドリの温かさに気づかなかったんだろう? 最近は人の体温に近い温度を保つロボットなんかも登場していることが原因か? たまたま、あの母親がアニメオタクで平成の時代にやっていたドールアニメをあの子たちにも見せていたって線はなさそうだし……。

 だけどミドリは「そうだよ、おれはミニチュアドール。優馬が作った人形だよ。座敷わらしや付喪神みたいな妖怪ではないけどね! おれのこと、忘れちゃった?」と快活に笑う。

「……だったら、なんで、きみはこの部屋にいたんだ? ミドリを作ったのは確かにぼくだよ。だけど、きみはべつの人にプレゼントした。それなのに、どうやって、この家まで来たんだ。まさか徒歩じゃないよな……鳩とかカラス、スズメやツバメ、猫や犬にここまで運んでもらったのか?」

 ずっと疑問に思っていたことを尋ねると、あごに手をやって首をかしげた。

「うーん……おれにもよくわからないや!」

「『わからないや』って……」

 突然、ミドリは、さびしげな顔をして頭をうつむかせた。

「おれ、何も覚えてないんだ。自分が何者で、どこで生まれ、今までどうやって生きてきたのか、さっぱりわからない。自分の名前が『ミドリ』ってことと、きみの名前が『優馬』ってこと。いつからなのかはわからなくても、ずっと『優馬に会いたい』って思ってた。覚えていることは、それだけ。気がついたら、きみの家の玄関の前にあるフローリングの床の上で寝て。真っ暗闇の中をひとりぼっちでいるのが怖くて、パニックを起こしそうになったら、きみが帰ってきてくれたんだ。だから『おかえり』って言ったの」

 瞬間、針で刺されたかのような痛みを胸が発する。

 まるで猫や犬が主人に甘えるように、彼はぼくの人差し指に頭や頬を擦りつけた。小動物のような姿は、かわいらしいと思う。

 だけど自らを「ミニチュアドール」と主張する姿に胸が締めつけられ、唇をきゅっと軽く結んだ。

「こんな奇妙なやつが急に現れたりしたら気持ち悪いよね。でも、ここから追い出さないで! おれ、優馬しか頼る人がいないんだ……この部屋を追い出されたら行き場がないよ」

 切実な顔をして人差し指に縋りつく。人間の赤ちゃんよりも、もっと小さくて、それこそ豆粒みたいな手が触れた。

「優馬を困らせるようなわがままを言わないよ。おしゃべりが嫌いなら人形らしく黙ってる。今日みたいな失敗は二度としないって誓う! 動くなって言うなら指先ひとつ、まばたきひとつ絶対にしないって約束する。ほかの人に見られて変なやつって優馬が思われないように、ここから一歩も出ない。だから、お願いだよ。ここにいさせて……おれをひとりにしないで」

 これは罰なのだろうか? そんなことを思いながら決まりきった言葉を口にした。

「安心してくれ。ぼくはミドリを追い出したりしないよ」

 小さな頬を軽くトントンと指先で叩いてやる。

 クリクリと丸いビー玉みたいな目を大きく見開き、両手を離した碧が「……ほんと?」と半信半疑の様子で、まばたきをした。

「いつまでも、ここにいてくれ。わがままを好きなだけ言っていいし、おしゃべりをしてもいい。一緒に住むんだからこの部屋を自由に使って大丈夫だ。外に出かけたいときは言ってくれ。バックやカバン、服の胸ポケットにおまえを入れることになってしまうが一緒に出かけよう」

「いいの? おれ、優馬のそばにいても邪魔にならない?」

「邪魔になるわけないだろ。ぼくのほうが頭を下げて一緒にいてほしいって頼みたいくらいなんだから。ねえ、そばにいてくれよ、ミドリ。こうやって会いに来てくれて、すっごくうれしいよ」

 丸い頭を撫でれば破顔した。

「よかった。おれも優馬に会えて、うれしいよ! 優馬、大好き!」

「……おれもミドリのことが好きだよ」

 そうして、ぼくたちは他愛もない話しをした。といっても、ぼくが今やっている仕事や世間について思っていること、家族の近況を記憶のないミドリに一方的にしゃべり、彼が相槌を打つ形だけど。

 父からも「話すのがへただ」と罵られ、職場でも上司や先輩から「きみは何を言ってるかわからない」と困惑顔をされる。

 ユーモアも、センスの欠片もない、つまらない話なのにミドリだけは興味津々といった様子で、ぼくの話に耳を傾けてくれたんだ。
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