元神の少女に恋を教えたら、その愛が世界を救う力に。変人だらけの仲間と紡ぐ、終焉に抗う僕らの日常と奇跡の物語

papa

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第二部:絆の証明 - 仲間と守るべきもの

第15話:サークルの盾

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ソラの意識を飲み込もうとしていた感情の濁流は、雄斗の手の温もりという、たった一つの確かな感触によって、かろうじて押しとどめられていた。彼女がようやく呼吸を整え、震える身体を雄斗に支えられながら起こした、その時だった。
「来た…!」
静(シズ)が、険しい顔で森の奥を睨みつけた。
その言葉に応えるかのように、木々の影の中から、音もなく複数の人影が現れる。彼らは森の闇が分離して生まれたかのようだった。黒一色の、光を吸収する特殊素材で作られた戦闘服。顔を覆う無機質なゴーグル。その動きには一切の無駄がなく、まるで精密機械の部品のように統率が取れていた。アルゴ・インダストリーの実働部隊。彼らが発する圧力は、これまでのどんな脅威とも次元が違っていた。

部隊を率いるリーダーらしき男が、ソラを一瞥し、ヘルメット越しに合成音声のような冷たい声で告げる。
「対象を確認。『共鳴触媒(レゾナンス・カタリスト)』の捕獲を開始する」 


その言葉には、何の感情も含まれていない。ただの作業。ただの業務。その事実が、彼我の戦力差と、対話の余地がないという絶望的な状況を、サークルメンバーに突きつけた。健太も翼も、その圧倒的な威圧感の前に、言葉を失い立ち尽くす。
一人の隊員が、銃口のような装置を一同に向けた。装置から放たれた、耳に聞こえない低周波が、その場の全員の三半規管を揺さぶり、立っていることすら困難にさせる。

だが、その絶望を最初に切り裂いたのは、この中で最も現実的で、最も夢やロマンを信じていなかったはずの女だった。弁護士、氷川玲子。彼女はよろめきながらも一歩前に出ると、その法廷で鍛え上げた、鋼のような声で部隊の前に立ちはだかった。
「許可なき私有地への不法侵入、及び威力を用いた強要行為!その装備からして銃刀法違反の疑いも濃厚ね!令状はどこ?あなたたちの所属と責任者の氏名を、代理人である私が全て記録させてもらう!」 


玲子の放つ、チクチクと尖った言葉の矢。それは、法律という、彼女が唯一信じる武器だった。圧倒的な暴力に対し、論理の盾で、ほんのわずかな時間を稼ぐ。プロトコルにない「弁護士」というイレギュラーな抵抗に、隊員たちの動きが一瞬、確かに止まった。

その、玲子が命がけで稼いだ数秒を、大輝は見逃さなかった。彼は地面に膝をつきながらも、リュックから取り出した堅牢なノートパソコンを開き、凄まじい速度でキーを叩く。
「…行け」
彼の呟きと共に、手のひらサイズの小型ドローンが射出され、森の別方向へと猛スピードで飛んでいく。ドローンは、この山には生息しないはずの、大型の熊の唸り声と熱源反応を擬似的に発生させ、敵の注意をわずかに逸らした。数人の隊員が、その陽動に釣られて森の奥へと消える。 

「こっちだ、間抜け!」
その隙に、翼が動く。彼はこの山を、遊び場のように駆け回って育った。土地勘は、誰よりもある。彼は敵の進路に巧みに回り込み、石を投げてぬかるみへと誘導し、獣道と見せかけて茨の茂みへと誘う。それは戦闘ではない。ただ、彼の身軽さと土地勘だけを頼りにした、必死の「遅延行為」だった。 

「この神社の裏手にはな、古来より、入った者が二度と戻れないっていう『黄泉の沼』があるんだぞ!祟られても知らねえからな!」
健太の、場違いなほどの大声が響き渡る。彼の都市伝説の知識が、今、心理的な揺さぶりをかけるための、唯一の武器となっていた。それは滑稽に見えるかもしれない。しかし、この神秘的な静寂に包まれた神社で、その言葉は奇妙な説得力を帯びていた。 

そして、雄斗はただ、ソラの手を固く握り、彼女を自分の背中に隠し、決して前線に出さないよう、物理的な壁となっていた。彼の背中は震えていた。しかし、その瞳には、ソラだけは絶対に渡さないという、揺ぎない決意の光が宿っていた。 

ソラの目には、その全てが映っていた。
自分を守るために、恐怖に震えながらも、必死に巨大な敵に立ち向かう仲間たちの姿が。
玲子のチクチクした空気は、今や仲間を守るための鋭い剣だった。大輝の無口は、冷静な判断力に変わっていた。翼の軽やかさは、敵を翻弄する舞となり、健太の馬鹿げた大声は、士気を鼓舞する鬨(とき)の声に聞こえた。
そして、雄斗の背中は、世界で一番、温かくて安全な壁だった。

(なぜ?)
ソラの心に、純粋な問いが浮かぶ。
(私のため? 痛いのは、怖くないの?) 

血の繋がりも、法的な義務もない。ただ、カフェで出会った、少し変わった人たち。彼らが、なぜ。
その答えを、ソラは知っていた。カフェのマスター、桜花が教えてくれた、あの言葉。
「仲間」。
受け取るばかりだった自分が、今、確かに彼らの「献身」によって守られている。その事実が、ソラの胸の奥を、熱く、切ないほどの温かさで満たしていく。 


それは、神社の心臓で感じた、他者の苦しみの流入とは違う。自分一人のために注がれる、あまりにも贅沢で、あまりにも温かい、感情の奔流だった。
ソラの頬を、涙が伝う。それは、神社の社で流した、苦しみが故の涙ではない。生まれて初めて、守られることの幸福を知った、温かい涙だった。
敵の包囲網は、ゆっくりと、しかし確実に狭まってきている。絶望的な状況は、変わらない。しかし、その温かい涙と共に、ソラの心の中に、今までなかった、一つの強い感情が、静かに芽生え始めていた。
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