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本編

35(アレク視点)

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「魔族領には草一つ実らなかった。たとえ今後豊かになったとしても、忘れない。その力のおかげで民が飢えずにいられる今を、感謝こそすれ、そんなに不義理にみえるか?」

 真剣に思いを話した。少しでも伝わるといい…、そんな思いを込めて。

「いえ……、いえ…。怖くて…。以前は精霊様の姿や声をとらえてたらしいのです。でも…、今は夢でしか触れ合えない……。それに感謝や信仰といったものに、なにか関係がある気がしてならないのです……」

 精霊への感謝か……。神や邪神でも信仰が無ければ、力を失くすというし、荒唐無稽な話でもない。

「食物を植えられる事を、自分が助かるための条件にすれば、楽ができただろうし、きっと今みたいに豊かには、なっていなかった。本当に魔族領の為を考えていたと思う。そんな君だから惹かれたんだ」

 リルの額、頬へとキスを落とす。俺とリルの瞳が絡み合う。少しずつリルの顔に近づいていき、唇にキスを落とす。

「私達の存在を忘れていませんか?」

 ちょっと切れ気味に、ロイさんに言われた。……リルしか見えていなかった…。


 最近の俺はリルがいないと駄目みたいだ。不意に抱きしめたり、額にキスを落としたり、「ずっと立ってるのは疲れるだろう?」なんて彼女を膝に座らせたり、膝に座らされたりといささか、スキンシップが過剰かもしれない。

 そうは思うけれど、恥ずかしそうでいて、それでも幸せそうに笑うリルを見てると触れ合っていないと満たされない…。


 考え事をしていたように見えていたリルが、不意に口を開いた。

「あれ? 以前精霊様の姿が見えてた……? 声も聞こえてた……? ならなんで今は見えなくなったのかしら……」

 その力に助けられているとしても、2人でいる時には、俺だけを見てほしいと思ってしまうのは我儘なのだろうか。でもそう言ってしまうと、きっとリルは悲しい思いをする。考えていた事に罪悪感を抱いてしまう。だから話に付き合うことにする。

「親和性の問題じゃないかな……」

 言葉を選びながら、俺は曖昧な思いを形にしようと口にする。

「親和性……?」

 意図を掴みかねたのか、リルが繰り返した。

「なんていうのかな……。昔は、みんな精霊を信じて、感謝していたんだろう? 精霊の世界と、近かったというか…」

 俺はうまく言い表せていない気がして、途中で言い淀む。けれど、伝えた。

「だから、昔は声が聞こえたんじゃないかな…」と。

「皆が精霊様を信じて感謝をしていけば、再び会えるかもって事ですね……?」
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