【完結】とあるエルフの旅立ちの日

皇ひびき

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 その娘は、とあるエルフの里で産まれた。

 流れるようなストレートの銀髪に、透き通るように透明感のある白い肌。
光の加減で色を変える宝石の様に輝く紅い瞳。
薄く紅をさしたような唇には、慈愛に満ちた笑みが浮かんでいる。

元々の種族として美しいと云われる、エルフの中にあっても、彼女の外見は人々が女神と讃えたくなる程に異質だった。
人々にとっては知る由もないことだが、神々の世界にあってもその美貌は寵愛され求められ嫉妬をうけるものでしかない…。


 幼い頃からその外見のためか、周りの者たちは少しでも彼女を甘やかそうとし、彼女の愛を求め無理矢理にでも手に入れようとするような者たちが大半であった。

エルフの創造主にただひたすらに仕える
信仰深い厳格なクレリック(僧侶)である父母の影響もあり、彼女も同じ道を生きて行こうと思っていた。

けれど、周りは彼女の器に翻弄され、ただただ好意からあらゆる物を差し出し、見返りのように彼女を求める。

いつも誰かしらに甘やかされていると、感じてた彼女は聖職者としての己は、いかがなものなのだろうかと自問自答を繰り返していた…。

今の状態を甘受していく内に、傲慢な感情に自身が塗り変えられていくのでは…という恐怖。

彼女の中にはそんな思いがいつもあった。
目立つ外見のせいで、人間の権力を持つらしいものや無法者にも狙われやすい。

自身の尊厳と自由、そして防衛手段として、クレリックとして相反するような剣の修業も日々行う様になった。
誰かの守りがなければ何も出来ない者、そして、自身の為に誰かを傷つけるそんな存在にはなりたくなかった。

買い物をしようとしただけで、差し上げますと、言い出す者が後を立たない。
代わりに、代金を支払いましょうというものまで、現れる始末。

普通に会話するだけで、余程知能や意志の強い者でない限り、チャームの魔法をかけられたかの様な、好意や求愛の態度に溺れてしまうのだ。
彼女が意図しなくとも、周りが変わってしまう。少なからず、普通に扱ってもらえないその容姿と、周りの態度に辟易していく一方だ。

そんな彼女の名はミリアム。
長いマントにフードを被り、首からはエルフの創造主たるマルス神のシンボルを下げている。
腰には細い体には不似合いにも見える、ロングソードらしきものを下げている。

齢120歳にして、マルチと呼ばれるファイタークレリック(複数)の職業を手にした、エルフとしてはまだまだ年若き娘であった。

人やエルフに関わらず、教会では怪我をしたものの治癒、冒険で命を落とした者の復活の魔法をかける、そういった仕事がある。
復活の魔法と言っても、全ての者が生き返るわけでもないのだが。
ごくごく稀に魔法が効果を発揮するまでの間に、輪廻の輪に入ってしまうものがいる。

そういうものは、生き返る為の祈りの魔法も受けつけず、現世には戻っては来ない。

ミリアムは仕事の最中や祈りの時間、といった彼女が神に向き合う時間にだけ、フードを取り払い彼女の美しいかんばせを周りにみせるのだ。

いつの日からか深くフードを被り、家族以外の前では顔をさらさなくなった。祈りを捧げる時は別だが、自身の姿を人目に晒すのを無意識に避けるようになった。

そんな彼女の両親や兄達は、このままではミリアムの心が、いつか壊れてしまうのではと心配でたまらなかった。

「マルス神よ…、私はどうすれば貴女の敬虔な徒でいられるのでしょうね…」
誰に話すでもなく、件のエルフの少女ミリアムは独りごちた。
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