【完結】とあるエルフの旅立ちの日

皇ひびき

文字の大きさ
2 / 2

2

しおりを挟む

 ミリアム自身の理想として目指すべき姿と、周りのぬるま湯のような環境に延々と葛藤が続いた。

 ミリアムの心は、少しずつ少しずつ摩耗していたのだろう。親しいものにしかわからない程度ではあったが、笑顔が減っていき、更に彼女自身がその容姿を忌避する様にフードを深く被り隠していく。


『このままでは私は駄目になる……。私自身の弱さを人のせいにしているなんて…。私は享受するのではなく、自分から立ち向かう必要があったのね、きっと…。心が擦り切れる前に、一歩でも良い先に進みたい…』

 その想いから、故郷から離れて生きていける様に、更に剣の鍛錬や日々のクレリックとしての技術を高めていくようになった。

覚悟を決めたあとの彼女は、街に着くまで独りで旅をできるだろうと思えるくらいには、鍛錬を重ね、今ではそれなりに強くなれたと自負している。

『一つ不安があるとすれば、人間とうまく付き合っていけるのってかしら? でも、今のままでは…、生きたまま心が死んでいく…の…。諦めに満ちた長い生なんて欲しくない。そんなのは嫌だから…私は一歩を踏み出したい…』


 僧侶としての仕事は、教会を護る一族という事もあり、問題なく内々で話は進めた。
神に寵愛されているミリアムの高い神聖力はたしかに重宝されている。
けれど、効果の程はさておき、彼女のできることは教会に属する一族の者も出来るのだから。

 両親たちも、彼女の抱えている葛藤に気がついていない訳ではないのだ。
彼女を大切にしながらも厳しく、真っ直ぐにと愛し慈しんでいる。
だからこそ、彼女が壊れる前に好きにさせたいと願っていた。

 旅に出たいと家族に相談をし、了承がもらえたミリアム。
ただすぐに動きだすより、ゆっくりと時間をかけてこの地を離れる準備をする事になった。

しばらく自身を愛し育ててくれた家族へと、会うことが出来なくなるのは、身を裂かれるように辛く感じられた。

家族以外に、この場所から離れることを告げられないのは、申し訳なくもあるが仕方ないことでもあった。

万が一噂になると、ミリアムが望んだわけではないが、無意識にチャームにかかった人々が、強行手段を選ばないとも限らないからだ。

大切な友人達には手紙をしたためる。手紙は後日、家族の手から渡してもらう事で時間稼ぎをすることにした。

 暗闇に包まれ、生き物を拒絶するかの様な荘厳な森の中、エルフの里を背にフードを被った人影が闇の中へと、ゆっくりとした歩みで姿を消していった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...