新たな世界へ導かれた俺と、迎え入れてくれたきみ。

皇ひびき

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歩み寄る闇

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 めいは「美味しい」とつぶやきながらも、涙が流れるのを自覚した。

 人前で泣きたくなんてないのに、格好悪いなと思うのに止まらない。

 いつもなら頭をポンポンと軽く撫でてくれるあおも、首に巻かれた包帯から感じる痛々しさのせいなのか、いつもの様に撫でてくれない。

「ずっと我慢してたのよね…、今は泣きたいだけ泣いていいのよ。 自分でなんとかしたいという、あなたの意思を尊重しようとして、危険な思いをさせてごめんね…」

 千聖ちさとさんはそう言うと、ふんわりと鳴を抱きしめた。

 その目にも光る水滴は浮かんでいた。

「本当に無事で良かった…!」

 涙が溢れ出すままに鳴を、抱きしめる千聖。
 彼女も鳴を助けたくて、手を貸したくて仕方なかったのかもしれない…。

 けれど、必至に立ち向かおうとしている鳴の為に、知らないふりをして、笑っていたのだろうか。

 『強いな……』

 あおはそんな千聖を見て思った。

 碧には持てない、強さだとも思う。

 鳴も周りに泣きつけば、楽になれたかもしれないのに……、一人で戦っていたのだと思うと、もっと彼女達の力になれたなら…、そんな存在になれたら…、いや、なりたいと思った。


 しばらく、涙するだけの静かな時が流れていく。

 不意に、涙を拭うと千聖は口を開いた。

「鳴が好きな白桃にアイス添えて食べよう! 準備してたのよ! だからお雑炊を食べちゃわなきゃね」

 そう言うと、また食事を始める。

「白桃好きだから嬉しい」

 そう言って、涙の残った顔に笑みを浮かべる。

「俺は、食べたことないけど、鳴がそういうなら、食べてみないとな!」

 碧がそう言うと、「文鳥の姿だったら初めてよね、楽しみにしててね」千聖さんもそう言いながら笑みを浮かべた。

 皆が雑炊を平らげた様子を見て、千聖さんは冷やしていたアイスカップとアイスディッシャーを出してきた。
見るからに冷え冷えの白桃を、盛りつけると冷凍庫に入れていたバニラ味のアイスをディッシャーで取り分けアイスカップに飾り付ける。

 仕上げとばかりに、ミントの葉を飾り付ける。

「さぁ食べて!」

 冷凍庫にアイスをしまいながらも、そういう千聖にそばに用意してあったスプーンを取り、はくりと口にしてみる碧。

 余りの冷たさに目を白黒させるも、アイスも白桃もお気に召した様だった。

「鳴、これ旨い!」

 ワクワクとそういう碧に、笑みを浮かべつつ、鳴もスプーンを取り、アイスを口へと運ぶ。

「アフォガードとかも、美味しいけどこれも好き!」

 笑って団らんな時が過ごせる幸せを噛みしめる3人だった。
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