異物が侵食する日常:不条理が描く忌まわしき物語集

玄道

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カタルオトコ

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 折からの通り雨が漸くあがった。
 郊外の教会の告解室で一人の男が罪の告白をしていた。

 ──生まれて初めて告解します。
 先刻の事です。
 街に向かう途中、酷い通り雨に降られました。私は山道にあるバス停で雨宿りをする事にしました。
 そこに一人の若い女が走ってきたのです。
 私は雨に濡れ、ぴったりと布地が張り付いた艶かしいその姿に浅ましくも欲情してしまったのです。
 
 神父は息を呑んだ。
 
 ──そして私は彼女を荒々しく犯しました。瑞々しい肢体は私の中の獣を満足させるのに十分でした。
 彼女は涙ながらに言いました。

「こんなことをして、帰ってあなたの愛する人達にどんな顔をして会うというのですか!?」

 ──そんなものはいないと言うのに。
 私はそのまま名も知らぬその女の首を絞め、息の根を止めたのです。そうすべきだと思ったからです。亡骸は銀杏いちょうの木の下に埋めました。幹には"Lilithリリス"と彫りました。
 
 ──神父は告解を聞き終えた後、男を赦した。
 そして物置からシャベルを持ち出し、男の話したバス停のある山へ走った。
 告解の通り"Lilith"とナイフで彫った銀杏の大木を見つけ、根元を掘り返す。

 湿り気を帯びた土は重く、壮年の神父には荷が勝ちすぎた。
 数十分の受難が続いた。
 果たして土の中に遺体はあった。
 それは黒い翼に禍々しい爪と牙を持った夢魔サキュバスの亡骸であった。否、残骸と呼ぶのが相応しいと神父には思われた。

 男を誘惑する扇情的な顔は胴体から切り離され、右腕も肩から離れている。
 乳房は原型を留めている。
 腹部の艶かしい膨らみには無数の釘が打ち込まれ、黒々とした血が土に吸われている。
 左の翼はげ、無惨に切り刻まれていた。
 両足は鈍器のようなもので潰され、原型を留めていなかった。
 吐き気を堪えて残骸の秘部を触ると、指先から血の臭いに混じって男の精の臭いがした。

 神父は悪魔の共喰いの現場を垣間見た思いで堪えきれず胃の中身を辺りに撒いた。

 暫くして気を落ち着かせると、哀れな夢魔の為に祈り、十字を切った。

 その時、彼は言い知れぬ違和感を覚え、周囲の土も掘り返した。

 すると一帯に大量の遺体が葬られていた。夢魔の餌となった男達の木乃伊ミイラであった。その数は三十を数えた。

 その内一体だけ新しい、損傷の激しい遺体があった。胸部に銃創が見られた。狩猟に使用される散弾によるものであった。
 
 ──男は嘘をついている。
 ──何の為に?
 ──何故このような暴力を振るわなければならなかったのか?

 それを推理する事は片田舎の神のしもべには叶わなかった。

 神父は思考を放棄し、全てを再度土に葬った。

 一週間悪夢に苛まれた後、彼は棄教して教会を去った。

 残骸は土の中で朽ちている。
 それを知る生者は二人だけだ。
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