The best is yet to come.

玄道

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月が……そんなに綺麗に見えない

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「あなたが一番実家が近かったからよ──それだけ。じゃあね、二度と連絡しないで」
 そう言い捨てて別れた。

 私は宮村真奈美みやむら まなみ、30。この離婚届を提出すれば小鳥遊たかなしに戻る。甘い生活は5年で破綻となる。

 ひとまず友人に連絡し、隣町の駅近くの店舗兼住宅に転がり込む。荷は離婚届、少ない着替え、現金、通帳、スマホとコスメ……ボストンバッグに詰めている間は多いかと思っていたが存外に頼りない。考えてみれば数日の旅行ではないのだ。親はこんなに無鉄砲ではなかったのに──。

「では独身女2人の夜にかんぱーい!」
「……かんぱーい」
 これからどうしよう?強めのアルコールを少し口にして考える。とにかくあの何もしない元夫が嫌で嫌で仕方がなかった。カラダしか求めてこない馬鹿だった。ヒモではなかったが。

 ──我慢の限界だったのだ。


 切っ掛けは些細な喧嘩だった。よくある話だと思われるだろうがその日だけは違った。

「だって俺のほうが稼いでるし」
 キレた。
 そこで口論はエスカレートした。
「なら言わせてもらうけどあんたが稼ぐのにご飯食べるよね!スーツだって洗濯してアイロン掛けなきゃ外出られないよね!?掃除だってしなきゃいけない、買い物も家計簿も、あんた口だけ出して何もしないじゃない!!!で、何!?その言いぐさ!!私だって働いてるのよ!!」

「────え?」
 知らなかったのか。どれだけ妻に関心が無い男なのだろう?

 五人まとめて言い寄ってきて一番私に入れ込んでると思ってたから付き合ってたのに──信じられない。

「ほら、これ」
 在宅ワークの証拠諸々が表示されたラップトップのモニターと切り札離婚届を印籠のように見せつける。

「あんたを選んだ理由、わかる?」
 ──そして冒頭の一言を放ったのだ。
 あとは簡単だった。自分しか見えないさす九男に去り行く女を引き留める言葉など思い付く筈がなかった。
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