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第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)

10話3Part 回想編パート後編!!そして元魔王と堕天使と悪魔、幼女と勇者は過去の記録を垣間見るのです

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 その後の顛末は、父親·カレブはレヴィアタンとの対決で戦死、惨殺された。一方母親·カフィは禁術である蘇生魔法を使おうと躍起になって、街の人と自分を生贄にして蘇生しようと殺人事件を起こし、審議会の神判のもと、火あぶりの刑に処された。                                                                         



                                                     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「......とまあ、可哀想な死に方したわけだな。この親子......」


 そう言って彼は1冊の本を閉じた。途端に記録されていた内容を投影する投影魔法が切れ、部屋が少し暗くなった。彼の名前はサタン、1代目魔王だ。本を閉じた後、顎に手を当てて数秒考えた。その様子を横で見ていた少年は、不思議そうに横で考え込む彼の名前を呼んだ。


「......サタン?」

「ああ、気にするな。聖銃は結局行方不明か......」

「まだ戦争中なんだし、そこら辺のことは後からすればいいんじゃない?」

「まあ、そうだな」


 寝台に腰かけ2人で本、というより投影された映像を見ていたのだが、全て見終わったためにサタンはそのまま考え込み、そして少年はふわふわの八咫烏の羽毛100%の毛布にくるまり、彼が続いて入ってくるのを待っていたのだ。

 少年にとって彼は第2の親的な存在であり、命の恩人。そんな彼を慕って毎日とことこと彼の執務室に来ては、朝(日が昇ったりはしない、時間的な朝)が来たら自分の執務室へと帰っていくのだ。

 そんなふうにまた今日も午後から執務室に入り浸っており、そのまま寝台まで着いてきた。

 悪魔の中では比較的体の作りが人間に近く、大きさも210cmと悪魔としては小さめのサタンと、160cm台とかなり小柄な少年が、5m級の悪魔1人がどこを頭にして寝ても大丈夫なサイズの寝台に並んだとして、なんら支障はないためサタンも気にはしていない。


「てか、まだ寝ないの?」

「基本的に悪魔に睡眠は必要ないからな」

「寝台あるんだから、一緒に寝よ?」

「......はあ......まあ仕事が溜まってる訳でもないし、付き合ってやるとするか」

「......はは、相変わらず僕には甘いんだな、まあアスモデウス戦で頑張ったからな!その分のご褒美だとでも思っておくよ」


 ポフポフ、


「ほら、ここ空けたよ?だから早く来いよ、魔王様」

「その呼び方はやめろ、堅苦しい」

「にひひ」


 ......というより、気に入っている。

 少年は自身の横の空いたスペースを手で軽く叩き、手招きして彼を呼んだ。そして彼は感嘆なのか諦めなのかは分からない、大きなため息をひとつつき、自身も毛布の中に身を填めた。

 少年の名はルシファー。堕天使として堕ちてきた頃のついこの間、東方の砂漠で倒れているところを拾って城に連れ帰ったのが出会いだ。まあ詳しいところは省くが、はじめは警戒されまくっていたのが今ではすっかり懐かれている。


「......なあ、あの父親の遺体......たしか地下室にあったよな?」

「なんで保管してんの?」

「一応とっとかせたんだ。1番早く決着が着いた西方からの土産だし、なにより貴重なサンプルになる。軍を発展させるための研究でも......ってな」

「ふーん......それで、遺体がどうかしたの?」

「や、特に大した要件でもないが......娘の墓場が人間界南方にある。そこに母親の遺体と一緒に持っていって、一緒に埋めてやろうかと」

「へえ......あ、でも母親の遺体って......神判審議会の奴らが処刑した後に埋める共同墓場に埋まってるだろ?」

「ああ、だから人間に化けて取りに行く必要があるな」

「わざわざこんな時に危険背負ってまで取りに行く必要ないだろ」

「まあそうなんだが......もともと聖銃勇者は慈悲も込めて瞬殺してやるつもりだったんだが、手違いか惨殺しちまったみたいだから、せめて娘と同じところに埋めてやろうかって思ったんだ」

「......同情か?」


 魔王はひょこっと顔を出し静かに聞いてきた少年の頭を優しく撫でつけながら、ゆっくり瞬きをした。

 蝋燭の炎だけが部屋を照らし、2人の呼吸音と毛布の摺れる音ですら大きく聞こえるほどに暗く静かな部屋に、時折外で轟く爆音の音がBGMとして部屋に招かれては、すぐさま帰ってしまう。それほどの沈黙に包まれた中で2人はまったりと夜を経ていった。


「......かもしれないな。謝罪の意より、ひょっとしたらそっちの意の方が強いかもな」

「......親がどうこうはお前にとっては1番辛いよな......まあ、僕には関係ないけど」

「どっちかといったら親っぽいの俺だしな」

「まあ、ね......」


 ふわふわした毛布に包まれてだんだんとうとうとし始めた少年を、寝かしつけるように再び撫でつけて、おやすみの前にどうしても伝えておきたかったことを伝えた。


「......聖銃」

「......聖銃が、どうかした......?」

「や、実はこないだ拾ったから、お前にあげようかなと」

「なんで悪魔が、5唯聖武器を拾うわけ......てかいらない......」

「はは、将来使いそう、というか巡り会いそうな気がしたから、先に渡しておこうかと思ったんだがな......」

「......そーいう勘、意外と当たるから気持ち悪いよな......」

「まあ、とりあえず心臓だけ取って人間界の固定ゲート近くにでも埋めておくか」

「いや、5唯聖武器に心臓はないだろ......」


 少年はとろんとした表情の上から苦笑いを少し浮かべたあと、ゆっくり瞼を閉じてすー、すーと穏やかな呼吸をし始めた。その様子をなんとも愛らしそうに見つめ、自身もまた深い夢の中へと潜ろうとして、最後に一言呟いた。


「あの幼女の仇は、お前の"大事な友達"だぞ」



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「お、おかあ、しゃ......うわ、ああ」


 ポタ、ポタ


 ホワイトアウトした視界に色が戻ってきて、それと同時に意識も取り戻した。

 まだ夢じゃないか、と頭の中で1度疑った望桜だったが、自身の顔ら辺にぽたり、ぽたりと落ちてくる雫と幼女の声で、現実だと確信した。


「ん、うう......?」

「あれ、リビングだ」

「帰ってきた......?」


 徐々に他の面子も覚醒しはじめ、口々に同じようなことを呟いている。

 ......にしても、今の映像は一体なんなんだ......?

 頭の中で先程ただ見た、というより空気かなにかになってまるでそこに居たかのような視点の映像。まるで誰か1人の記憶というより、1つの物事もしくは1人の人物に関連する出来事を要約したかのようなものであった。

 1度の視点·時系列の変更があって、前半後半に分けたとしてその両方に登場する人物......フレアリカ。彼女に関係する記憶だったことは間違いないのはっきり断言出来る。

 そう頭の中で1人討論を続ける望桜が一旦討論に終止符を仮刻んだ時には、まだ幼女の声がまだBGMとして響いていて、色を取り戻した視界を未だ支配していた蒼が淡みを帯びてきた頃、


 ドタッ......


 望桜の後方で、誰かが静かに倒れる音がした。途端に別の誰かが慌てふためく音と、先程の血の海の情景が視界に焼き付いて離れない者のうめき声とただ唖然とする者のあれ......?という声が混じりに混じっている。


「主様!!おい沙流川!!119だ!!」

「わかってる!!葵スマホとって..「その必要は無いよ」


 倒れた張本人である瑠凪の忠臣2人が慌てふためく中、地を這うような声が部屋に響いた。......ように錯覚するほどに、周りが急にしんとしたのだ。


「瑠凪、お前大丈夫か......?」


 1度倒れた体をゆっくりと起き上がらせながら、四つん這いでもふらふらとする体で未だしゃくりあげながら涙を零し続ける幼女の元に1歩、1歩、四つん這いのまますり足で歩みを進める。

 詠唱による体へのダメージが襲いかかったのだろう。精神こそ減らず口がきけるほどには元気らしいが、口許に少しの紅が潜伏している。


「大丈夫だよ、お前に心配されるほど落ちぶれてもないしね」

「地味にひどいな!?」

「......お、かあっ、さんっ......ひぐっ、おとお、さんっ......ひぐっ、うう、うああ......」

「......フレアリカ」

「ひっぐ、ひっぐ......なあ、に......?ひっぐ......」


 瑠凪は幼女の名を呼びながら、途切れ途切れながらもしっかり応答するフレアリカの肩にぽんと手を置き、そっと、落ち着かせるように続けた。

 ......幻か現実かは分からないが、その応答する幼女の瞳が望桜には空色に見えた。その空と髪のセピアが相まって、いつかの晩方の晴空を呼び起こした。


「......お父さんとお母さんはフレアリカに、いつか蒼空を見せてあげるって、いつも言ってなかった......?」

「......言って、た......ひっぐ」

「だろ......あの2人はね、まだ戦ってるんだよ」

「......え?」


 驚きを隠せない、といった表情を浮かべたフレアリカに、瑠凪はご来光が射しこんできそうなほどに物優しく微笑みかけた。


「聖火崎や翠川、それに元帥や他の勇者軍兵士達と共に、フレアリカに蒼空を見せるために知らないところで頑張ってる。......でもフレアリカが泣きっぱじゃ、多分2人ともやる気とかでないよ?」

「ふむぅ......」

「だからとりあえずは、こっちの世界でいい子にしてようね」

「......うん、わかった!」


 そしてその微笑みが倍増してうつったようにかのように、フレアリカも笑顔になった。

 雨は過ぎた、涙はもう零れては来ない。台風が過ぎた後空が雲ひとつない晴空に変わるように、フレアリカの表情も晴れ渡っている。......数秒前に再び微かに部屋が蒼づいていなければ、何も疑問には思わなかっただろう。


「よぉーし!それじゃあまずは朝ご飯の準備からだね、キッチンに行くんだ!聖火崎も一緒に行くからさ!」

「うん!!ちよ!いっしょにいこ!」


 ドタドタドタ......


「ルシファー、あなた今何をしたの......?」

「んー?僕何もやってないよ?幼女ってちょろいね」

「いや、でも今部屋が蒼がかったよな?本当に何もしてないのか......?」

「......本当に何もやってないよ、フレアリカがちょろかっただけ。もしかしたら俺の髪の色が目に焼き付いて離れなかったのが見えただけなんじゃない?それにしても、お腹空いたな~、或斗朝ごはんは?」

「......ぇあ、はい、作ってきますね」


 そう言って或斗はキッチンの半島の中へと駆けて行った。

 その後リビングには未だに唖然とし続ける帝亜羅と、或斗を目で追ってそのまま固まってしまった望桜と太鳳、そして嘲るような視線をキッチンの方に向けている瑠凪の傍らで、的李と翠川はようやく目を覚まし、その光景を見て2度目を決め込んだ。



 ──────────────To Be Continued───────────────



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