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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と
✨14話1Part 大悪魔と堕天使、小さな部屋の中でなにやら重苦しい話し合いを執り行っているようです...
しおりを挟む「きっちり話、突き詰めようか」
光など一切宿していない冷酷な視線を葵雲に向ける瑠凪は、そう冷たく言い放った。葵雲も場の空気の変化に一瞬身をすくめたが、その直後からいつものあどけなくて怠惰性で、それでいて戦闘狂で元気な"御厨葵雲"の姿はその場になくなってしまった。
「......隔離結界」
......パリーンッ!!!
「結界破り」
「......うーっざ......」
瑠凪は隔離結界を貼ったが、それは葵雲の手で簡単に破られてしまった。何ら特別な魔法など使っていない、純粋な力のみで破ったのだ。
......そして今そこに居るのは、神に最も近いとまで言われた光をもたらす明けの明星、大天使筆頭熾天使"ルシフェル"と、その名を呟いただけで歴戦の勇士ですら身を震わせ歯を鳴らすとまで言われる、魔王軍最高火力の7罪で空天の覇者"アスモデウス"だ。
ただその場にいる"天使"と"悪魔"は互いの持つ魔力がその場の空気を喰って重く冷たく沈んでいるのがありありと目に浮かぶその空間で、魔力の波動を静かにぶつけ合っている。......"天使"が邪悪な力たる魔力を使うという事はおかしいのだが、如何せん事実なのだから仕方ない。
「で、なんの話を突きつめたいの?」
「いやいや、お前はもう既に察してるんだろ?場の空気とかでさ」
さっと顔の色を変えて葵雲は瑠凪になにを、と質問した。それに瑠凪はまともに取り合うつもりがあるのかないのか、しっかり返答しなかった。
「......まあそうだけど......」
「............単刀直入に聞くけど、イヴを日本に呼んだのお前だろ」
「え?......なんでそう思うの?」
しかし瑠凪からの問いに、場の空気など関係ないと言わんばかりの間抜けな声を葵雲は上げてしまった。......え?今なんて言ったの?
「......とぼけるなよ、お前以外に誰が............ちょっと待って、お前は9日前......10月24日に僕を襲った、合ってるだろ?」
葵雲の反応に瑠凪まで拍子抜けしてしまった。彼のあまりにも予想外すぎる反応に瑠凪はよもや互いの認識が違ってしまっているのでは?と自身が今聞こうとしていることの詳細を確かめるところから仕切り直すことにした。
「うん」
「......その時、僕と一緒に誰が居た?そしてお前はそこで何をした?」
「うん、ちょっと待ってね......望桜、聖火崎、翠川......あと、えっと......」
「......は?」
「ごめん、僕ちょっと覚えてないっていうか、記憶が曖昧っていうか......」
「......は?ちょっと意味がよくわかんない............他のやつが襲ってきてたってことは......ないよな、だって魔斧はたしかに葵雲のだったし、何より詠唱が葵雲しか使えないものだったし」
......詠唱は大悪魔クラスになるとそれぞれ個別のものがあり、他人の詠唱を唱えてもリミッター解除はされない。もしあの時葵雲では無い他の悪魔が襲ってきていたのなら、詠唱を唱えてもリミッター解除はされなかったはずだ。でも詠唱後にはしっかりリミッター解除されていた。
──『特に頭領は......本気を出せば隔離結界すら力のみで破るらしい、ただの噂に過ぎんが......』
......隔離結界は、世界の空間自体から結界を使い、特定の存在を隔離するための結界だ。隔離された者は、まるでそこから居なくなったかのように消えてしまう。魔法を使えば破ることも出来るがそれを力のみで、上位の解除魔法に頼らずに解除するほどの力を持っているのが葵雲が頭領を務める凶獣族だ。
そして結界を力のみで破るには"音速を超える物理打撃"が必要となる。......火のないところに煙は立たないというように、凶獣族の頭領は実際にそれが可能だからそーいった噂が広まったのだ。
「......じゃあ、お前はあの日どんな口調で話してた?何か別の口調で話してたりとかは......」
「別の口調って......あの時もいつも通りだったでしょ?」
「............」
次に口調のことについて瑠凪は葵雲に訊ねてみた。......自身が何か特別な細工をしていた......"口調を変える"という簡単な細工でも行っていたとするなら少なからず覚えているだろう。
この小さな矛盾を辻褄が合うものに変えるためなら、何ならあの日の屋上監視カメラの映像を持ち出してきたっていい、そう瑠凪は思っている。それに何よりあの時本人の意識はしっかりあったし、そこまで記憶力悪くもないだろ......と藁にもすがる思いで訊ねたのた。
しかし葵雲は疑問形ではあるが"いつも通りだった"と返してきた。おかしい、だってあの時の葵雲は『~してやろうか』、『~といこう』等といった口調で話していた。まあ時折、無邪気な1面が顔を覗くときもあったが......とまで考えて、瑠凪ははっとした。無邪気な1面、つまりいつも通りの"彼"が顔を覗いていた時の事のみ葵雲は覚えているのではないだろうか、そう考えて瑠凪は未だ鮮明に記憶に残るあの日の記憶を軽く漁った。
「......あの、瑠凪?」
「......」
「......むう......」
......あの時、まずアオンモールの屋上で瑠凪、望桜、聖火崎、翠川の4人で初めは事を構えていた。でもそこに帝亜羅が来て、その帝亜羅を葵雲は人質に取り堺市屋上へと現場は移った。そこまででも既に数箇所"無邪気な彼"が顔を覗かせていた。
望桜曰く、葵雲は帝亜羅の腕を切ったこととその時の心情を事細かにしっかりと記憶しているらしい。つまりはその時点でも少しはいつも通りの"彼"が残っていたということ。
......しかし実際にはその辺の記憶も実は朧気らしく、その間にもいくつか質問をしてみたがどれも返答が曖昧だった。心情を覚えているのはその覚えている"記憶"を掘り起こした際に彼がそう思った、とかかもしれないし。もしかしたらあの日の記憶のみを覚えていて、本人の意識でそれをやっていなかった......何者かに体を操られていたのかもしれない。そうなると話は別だ。
「......ねー、ねーってば!話を突きつめるんでしょ?もっと単刀直入に聞いてよ!」
「......」
「も"ー!!」
リストレイント·コントローラーではない。あの魔法には"○○を殺せ"や"××を壊せ"といった大まかな指示は出すことは出来ても、"○○と△△に攻撃して××と会話で時間を稼ぎ、準備が整ったら爆炎術式で建物を破壊しろetc......"といった細かい指示は出すことが出来ない。そこまでいったら最早寄生繰身術式の域だ。そして今件もそちらの方が葵雲の行動には合っている。
......つまりそれが使える奴が、あの時聖火崎達を殺しにやってきた真犯人だ。
「瑠凪!るーなー!!!!」
と、そこまで考えた時に葵雲の不機嫌そうに自分を呼ぶ声が耳に届き、鼓膜を劈くような声に耐えかねて瑠凪は耳を押さえた。
「......五月蝿いなもう......」
「うるさいなじゃないよ!!そんなに考え込んでどしたの!?聞きたいことがあるならもっと手短で単刀直入に......」
「わ、わかったよ......あと1つだけお前に聞きたいことがある」
「......なに?」
未だ不機嫌そうに瑠凪の方に視線を向ける葵雲に、瑠凪は本日最後の質問をした。
「......お前はフレアリカとその両親......を殺した?」
──────────────To Be Continued───────────────
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