Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と

14話7Part 聖弓勇者は心に深い傷を負っているのですね...でもそれを糧に頑張っているのです

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「......私達は元々、聖教の神官一族だったわ。でも12代目魔王による進行で西方は聖教の重要地以外は危機に晒されたから北方に移住することになったの。経済状況の良い東方は移動するのにもリスクが伴うから、環境は厳しいけどその分魔王軍の進行にも晒されない北方に......」


 目に涙をうかべ、唇をわなわなと震わせながら望桜の方を向いて激昴するジャンヌ。その様子を見て望桜はジャンヌの家族愛をひしひしと感じた。


「......でもね、その北方で私達は襲われたわ。神官や元帥を先に潰してから他の軍関係者を討つっていうどこぞの誰かさんが考えた作戦の所為で、私達を襲いに来る悪魔による被害を恐れた街の住民にね......」


 そう呟く聖火崎の瞳は、ただ暗く自身の過去を物語っていた。そして......大好きな家族は何処に......と捜しまわる幼子の様なあどけなさも秘めていた。どこを探してもいない、私1人だけが現世に取り残されているの?そう問いかけてくるようで、望桜は目を合わせることが出来なかった。


 ───玩具も家も何もかも燃えていた。赤々とした炎はただめらめらと辺りの物を燃やし尽くして、住民の嘲笑う安堵の瞳がさらに炎に油を注ぎ......


「っ......!」

「耐えて、ベル......これは僕らじゃどうにも出来ないことなんだっ......!」


 その炎に焼かれ黒い人形の灰に向かって住人達は、溢れ出るありったけの罵声を浴びせながら殴る事を繰り返していた。その度に建物の影に隠れる兄妹の肩がビクリと震え、少女の瞳からは涙が一筋零れ落ちた。


「っ............」

「おらっ!!おらっ!!死ね、死ねぇ!!!」


 ガッ、ガッ、ガッ......


「お前ら神官が傲慢に蔓延るから、私達は天使様に見放されるんだ!!」

「そうよ!!ルシフェル様とアスタロト様は私たち人間を庇うために悪魔に身をやつしたのよ!!あなた達神官の傲慢で強欲な政治のせいで神はお怒りになってるのよ、そのせいで私達がっ、こんなっ、目にっ、遭うのよ!!」


 ......大昔の大天使聖のルシフェルとアスタロトは、地上の愚かなる人間の業のせいで損ねてしまった唯一神の機嫌を取るために堕天し悪魔に身をやつした、そう北方の住民達は思い込んでいるのだ。本当はもっと別の事情なのだが......

 そしてそれはいつしか"聖教の神官の所為"になった。悪魔による進行と唯一神による制裁愚かなる者への天罰を恐れた北方の住人達は武具と火器を手に取った。神官であるジャンヌ......もといベルの父親とその関連家族である"カルディア·セインハルト1族"は北方住民の目の敵の"聖教の神官"だったために北方住民の手によって滅ぼされたのだ......表面上は。


「それに神官のくせに黒の交じった紫毛......本当は悪魔なんだろう、"ベル"なんて怠惰の魔女の名前を子供につけるなんて......天の忌み子が!!」

「地獄で永遠に神の許しを乞うといい!!」


 ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ......


「っ、っ!!」

「だめ、ベル......!しーっ、しーっ......!」

「おとう、さん......おかあ、さん............ぅえ、ええ......」

「っ......ベル、逃げよう。せめて僕達兄妹だけでも生き残るんだ。それでいつか、父さん達神官の人達の冤罪を晴らそう......!」

「お兄ちゃん......うん、わかった......!わたしもがんばるから......!」

「ありがと......よし、それじゃあ行くよ」

「うん!」


 ......こうして幼い兄妹は命からがら生き延びたのだ。表面上は死に絶えたことにして隠れながら、でも生まれた1族の名前が世間セインハルト1族であから忘れ去られないる誇りを忘れないように、あえて"ベル·カルディア·セインハルト"から"ジャンヌ·サンクトゥス神聖なる者·セインハルト"と名乗った。
 兄も同じように改名し、北方のスラム街で時を過ごしたのだ。

 そして兄は18歳の時に強制的に騎士団へと徴兵され、それを機に妹も自身が18歳になった時に騎士団に志願した。

 兄の後を追うように皇都·ラグナロクへと旅立ち、聖教教会の裏の顔を知るうちに"神官達の冤罪を晴らす"という目標はいつしか"勇者になって北方の民を見返す"という復讐の念に駆られただけの邪悪な目標へと変わってしまった。

 兄は騎士団名簿では死亡したことになっていて、両親は焼き討ちと北方の全住民からの怨念によって遠の昔に死を迎えている。......聖教の神官の関連家族という華々しい1族である"カルディア·セインハルト"の名を持つ者は、自質ベルただ1人だけとなってしまっていた。

 目を瞑る度にベルの瞼の裏には愛しい家族が仲睦まじく暮らしている光景が浮かんでくる。......そしてある目的を果たすために日本異世界に飛んできてから、新たに"聖火崎 千代"と名乗り始めても尚それは変わらない。


「聖火崎......」

「......それで、その事件セインハルト1族の焼き討ちが起こる原因となった魔王軍の政策を考えたのが......」


 ......望桜はその政策に関しても城の文献で確認済みだ。その政策を考えた人物は、若いのに先のことまでしっかり計算して行動ができ、何より1番の特徴が下界で1番体術が強い悪魔の......


「ベルフェゴール、か......でもお前、的李のことそこまで目の敵にしてる感じも嫌ってる感じもなかったけどな......」

「それは貴方と的李が日本に永住するつもりだからよ。それに仮に軍に帰るとしても......私は的李のことを逆恨みするつもりは無いわ」


 そう言って2人はソファの方を見た。そこには上下長袖を着込んだ上に毛布を口許まで被って冬の寒さを凌ぎ、なんとか暖房を使わずにいられるように望桜達が知らない間に何かしらの工夫を毎日続けている的李の姿が。

 バイト先では店長である宮野のお爺ちゃんに好かれており、飲み会やらなんやらに誘われて時々12時超に帰ってくることもしばしば。たまの休みには布団に入って1日中ごろごろしている。

 その生活態度からは"勤勉"や"真面目"と言った言葉、もしくは"毒舌"や"不器用"が似合う"西原的李"という日本の人間しか望桜達にはイメージできない。しかしそれの正体は悪魔の最高峰位である"7罪"にわずか1492歳でランクインした武術の天才であり、下界中に名が通っているといわれる大悪魔·ベルフェゴールなのだ。


「......弱いものが死ぬのはこの世の摂理だもの、それを恨んだってしょうがないでしょ?日本こっちはそうじゃないかもしれないけど......少なくとも今の下界は弱肉強食の世界だもの、その世界で生きていけるように努力するしかない」

「もう過去は断ち切ったんだな......」

「完全に、じゃないわよ。今だって両親や兄に逢いたくなるし......」

「やっぱそうだよな......的李は多分、魔王軍の進行を恐れた住民による反政府の暴動や焼き討ち、そしてそれが原因でお前ら3勇者の心に何かしらダメージが与えられるところまで予測してあの計画をたてていたはずだ」

「なっ......」

「すげーよな、1000年先の事まで見すえて計画たてるなんて俺には無理だなww」

「私にも無理よwwほんと頭の良さが気持ち悪いわww」


 2人で失笑を零しながらも窓から差し込む真昼の明かりをに気づいて大慌てで聖火崎が飛び出していったのが、その1時間後のことである。その様子にも望桜は失笑しながら荷物を軽く纏めて家を後にした。


「............いっぷしっ」

「あれ?望桜達は?」

「......ん、おはよ......」

「おはよう!鐘音、的李!!」

「煩い、黙り給え......今日休み、だから1日寝るのだよ......」

「えぇ~?起きてよ!!」

「不良債権、煩いよ」

「ふ、ふりょうさいけんってなに......?」

「パソコンでググれ......はあ、変に目が覚めたし起きるか......ふあぁ」

「......zzz」

「的李ー!!!」

「煩い!!!」


 ......その後で、的李がタイミング遅く1つくしゃみをして、葵雲や鐘音も本格的に1日の活動を開始したのであった。



 ───────────────To Be Continued──────────────



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