Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と

✨17話1Part 聖弓勇者もまた日本で働いているのですね!

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 ~~♪


「はい。では取引予定の最終確認をさせていただきますね。日時は11月22日の午前9時から11時半まで、場所は東京都八王子市北野町4丁目のビルニューフロンティアハイツ3階会議室ですね、はい、かしこまりました。当日はよろしくお願い致します。では失礼します」


 東京都渋谷区某所のとある会社の中。若干黒の混じった紫毛のハーフアップポニーテールを子気味よく揺らしながら、電話を肩に、左手にメモ帳右手にボールペン、そして足元には仕事用の携帯と重要書類が挟まったファイルの入れられたショルダーバッグを用意した少女が完璧な会社員スタイルで電話対応をしていた。

 様々な種類があるIT企業の中でもほぼ全ての種類の業務をこなす会社に彼女は務めている。その中でもソフトウェアを開発したりする仕事を主に担っている彼女の名前は聖火崎 千代たかさき ちよ、若干幼げな容姿を全く気にもせず、黒のパンツスーツスタイルにネクタイをかっちり締めて、今日もまた熱心に仕事に励んでいるのだ。

 そんな中で横のデスクの彼女の同僚·巽 怜奈たつみ れいなが聖火崎のスマホから流れる小さな着信音に気づき、彼女にそれを伝えた。


「聖火崎、スマホ鳴ってるよ?しかも匿名......」

「......ああ、ありがとう。......もしもし?」

『......Звон ? Звон ? ? (......ベル?ベルか!?)』


 そして巽に小さく頭を下げてお礼を言いながらスマホを手に取り、電話の2択ボタンの緑の方をプッシュした。

 機器を耳に近づけて勇者軍内通用語で話す相手の声を聞くなり、聖火崎は目を見開き勢いよく立ち上がった。社内に響くほどの大きな音がなり社員のほぼ全員、特に隣にいた巽と近隣に居る社員はすこぶるびっくりした。

 しかしそんな周りからの視線もどこ吹く風、そのくらい聖火崎にとって機器を介して会話をしている人物は、とても大切で、数少ない今1番会いたいと思う人物の1人であった。


「......シメオン?シメオンなの!?」

「うえぇっ!?し、知り合いなの?......あ、その書類は私がやっておくから、談話室にでも行って話してきたら?」

「ありがとう、怜奈。でも私、午後は外回りだから昼食休憩とってそのまま外行くわね」

「そっか」


 そう言って社内の全方位に謝罪の意を込めて頭を下げて、ショルダーバッグに筆記用具とノートパソコン、USBを入れた。最後にタイムカードの自身の名前の所に掛けてある札を"社内業務中"から"外回り中"に変更して、そのまま外に出ていった。


「......わあ、なんか嬉しそう。そんなに話せて嬉しい人だったんなら、あの反応も普通......ではないか、次からは気をつけなよぉ......?」


 ガラス越しに廊下を遠ざかっていく小さな背中に向けて、巽はそう声をかけた。すでに届くはずもないのをわかっているのだが、何となく口から出てしまった。


 プルルルルルルルル......


「あ、電話だ。......もしもし、こちら兎逹グループのソフトウェア開発部の巽と申します。はい、はい、少々お待ち下さい......向井さーん!!」


 そしてマグカップの中の黒豆茶を一気に飲み干し、新作のソフトウェアの試験運用をしてもらっている会社からの電話の応対に戻るのであった。



                                                ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そう、そうなのよ!巽ったらこの間水出しした黒豆茶と醤油を間違えて持ってきちゃってて、もう大爆笑よ私wwあ、醤油ってのは大豆っていう豆を2年くらい塩と小麦と一緒に発酵させて作るソースのことよ。日本の伝統的な調味料の1種ね)」

『Так.  Так ці інакш, здаецца, Бэл добра прызвычаіўся да таго свету(へえwwにしても良かった、ベルがそちらの世界に上手く馴染めてるようで)』


 ......そして同じ建物の屋上にて先程の相手とかれこれ30分、彼女は話し込んでいた。

 聖火崎の電話の相手は勇者軍元帥の1人、ウィズオート皇国で1番強いと謳われる法術師·シメオン·M·レヴグリアだ。

 彼は聖火崎......もといベルがまだホワイトウェザー北方貧民街スラムで1人盗賊紛いの事をして生計を立てていた頃に彼女の事を見つけ、将来騎士団に入ることを条件にする代わりに、北方で成人するまでの14年間は、誰かに養ってもらわなくても生きていけるだけのお金と暖を取れる家を買い与えた。

 そしてまさかそんな少女が国の命運を背負う勇者になるとは思わなかった彼は、勇者軍元帥となった今、彼女の同僚であり親友の1人として今までずっとサポートし続けてきたのだ。

 ......そう、ベル......聖火崎がを任されて、特殊ゲートで日本に飛んでくるまでは。

 その用事のせいで1人日本にやってきて色々不安を抱えながら今まで過ごしてきた胸の内を、ウィズオート皇国の空とは違う、青く綺麗に光り輝く日本異世界の空を見上げながら明かした。


「......私もね、初めは不安だった。空が明るくて青い事、なにより、ラグナロクよりもかなり進んだ技術に驚いたわ。でも周りの人達のサポートと翠川......ルイーズの協力のおかげで、ここ1ヶ月をこっちでうまくやってこられたの。ふふっ、ともね」

『Вы зрабілі добры сябар ......?  Звон, пачакай хвілінку.  Падобна на невялікі выпадак ............ што заўгодна ! ? (良い友達ができたんだな......ん?ベル、ちょっと待っていてくれ。ちょっとした有事のようだ............何だって!?)』


 しかし慎ましい談話の空気の中で、電話の向こう側、シメオンの方で何か騒ぎがあったらしい。聖火崎の耳には、シメオンの声とその部下であろう者の焦ったような声、それととある建物の中に叫び声や悲鳴がこだましている音が飛び込んできた。

 その不穏な空気に彼女も声のトーンを落とし、先程とは打って変わって真面目な空気で彼の言葉を待った。


「どうしたの?何があったのよ......?」

『............ Звон, разведка.  ...... Сэр Авісфера, здаецца, быў забіты (............ベル、訃報だ。......アヴィスフィア卿が、殺されたらしい)』

「なんですって!?」

『Я здыму некалькі месцаў, але ці трэба мне працягваць званок?  Калі вы хочаце заставацца на сувязі, пакіньце яго ў спакоі (私は今から少し席を外すが、通話はこのままの方がいいか?繋げたままでいいならこのままにしておいてくれ)』

「分かったわ」


 そして言葉を聞くなり、ふたたび先程の社内でいきなり立ち上がった時を彷彿とさせる勢いで聖弓を顕現させた。すぐに彼女のかたき討ちに行こう、そう思ったのだが25階建てのビルの屋上から周りの景色を見渡して、すぐに聖弓をしまった。

 ......行きたいのはやまやまなのだ。だけど、まだ用事は済んでいない。それに今は昼休憩という短い時間だ。

 ......でもやっぱりラグナロクに戻りたい、そう考えて通話音を最小まで下げて急いで課長室に駆け込んだ。


「た、聖火崎さん......?どうしたの~?」

「はあ、はあ、はあ......課長!」

「は、はぁい......?」


 おっとりとした風貌の課長に、こう考えて聖火崎は息を整えた後に1言言った。

 ......私、有給がとってあるもの。最高でも5日は休める。


「課長、今日から有給で2日休ませてください」

「え、は......はあ、分かったわ」

「ありがとうございます!では失礼します!!」


 聖火崎の勢いに若干押され気味に、有給の許可を出した課長にお礼を言ったあと、すぐに自身のデスクのある部屋に戻った。


「あっ、聖火崎!!あの書類とUSB、机の上に置いといたよ~?」

「うんありがとう!でもごめんなさい、私今日と明日休むわね!!」

「へ?取引は!?」

「鈴木さんにお願いしたわ!!」

「あ、わかった~............なんだあれ」


 そしてまた勢いよく駆け込んできて、直後に嵐の如く去っていった聖火崎の背を眺めながら、巽はやはり不思議そうにその背に声をかけることしか出来なかった。



 ──────────────To Be Continued───────────────


  
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