68 / 173
第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と
17話2Part そして再び(元)魔王と勇者は出会うのです
しおりを挟む
「え、あの......」
「ええっとお......」
「......何よ」
......場所は移り、兵庫県神戸市本町。緑丘 望桜宅に緑丘 望桜、早乙女 鐘音、御厨 葵雲、そして聖火崎 千代と宇宙樹の"果実"に寄生された少女であり、今は聖火崎宅に身を寄せている少女·フレアリカ(現在は就寝中)が集まっていた。
各々が神妙な面を浮べる中で、望桜と葵雲が自分たちの真正面に正座して座っている聖弓勇者に向かっておずおずと声をかけた。そして聖火崎はその声を軽くあしらった。
「いや、なんでいるのかなって......」
「だから何よ」
「何よって......お前この間帰ったばっかじゃねえか!!なんでまたいるんだよ!?」
「この間帰ったばっかって言ったって、もう2週間よ!?ていうか第1に、なにもまたこの間みたいに長期間居座るために来たわけじゃないのよ!!2日、フレアリカを預けに来ただけ!!」
さらに畳み掛けるように口から出された葵雲の質問に、もはや答えるのも億劫だというふうに冷たく返す聖火崎。かれこれ5分ほどこの状態が続き、痺れを切らした望桜が強く言い返すと、それに対抗するかのように聖火崎も大声を出す。
......聖火崎の元にシメオンから届いた勇者軍元帥·アヴィスフィアの訃報。それの真相を確かめるのと、単純に用事に関する経過報告も兼ねて、聖火崎は1度ラグナロクに帰還することに決めたのだ。
しかしそれにフレアリカを連れていく訳にはいかない。日本ではただのキャリアウーマンでも、下界に戻れば立派な"聖弓勇者"という立場のある聖火崎だ。......もし仮にフレアリカを共に連れていったら、"聖弓勇者には隠し子がいた"などという妙な噂を立てられてしまうかもしれない。
......歴代勇者の中で唯一の"貧民街出身勇者"である聖火崎は、政治的にも経済的にも変な噂1つ立てられたらすぐに潰されてしまうだろう。それほど権力も財力もないのだ、今の下界の勇者には。それに、臆病だと馬鹿にされるくらいには慎重に行動すべきだと聖火崎も自身の中で戒めている。......まあ聖火崎は、こんなこと目の前の奴らに言うつもりは無い、という心持ちなのだが。
とにかく、だからこそ今日、東京からわざわざ神戸まで足を運んだのだ。
「はあああ!?うちにそんな余剰資金はねえっ!!」
「なんでよ!?月40万+αは金が入ってきてんでしょう!?それなのになんで?」
「ねえもんはねえんだっ!!!」
「望桜、しっかり説明してやらないとこの野蛮な聖弓勇者には伝わらないよ」
「後で覚えておきなさい鐘音」
しかしそんな聖火崎の願いは望桜達の"経済難"という問題の前に一蹴されてしまった。鐘音は口不足な君主に聖火崎の神経を逆撫でしながら、説明をしてやれと遠回しに伝えた。
「はあ......2週間前に俺の事呼び出した奴のこと、覚えてるか?」
「ファフニールね、覚えてるわ」
......2週間前、望桜のスマホに謎のメールを送り付け、聖ヶ丘學園屋上に呼び出した飛龍の子供がいた。それが魔王軍幹部·ウァプラことファフニールだった。
あの日、ファフニールが望桜を呼び出したのには2つの理由があり、1つは自身にかけられたリストレイント·コントローラーの解除。そしてもう1つは望桜の憶測なのだが、メールの内容に書いてあった"今まで汝やそのかたへを襲ひし明日裳提宇子や依舞、聖香愛琉や雅舞罹依瑠がなんの脈絡もなしに襲ひ来たりと思へり?それぞれの襲ひしゆゑや個人情報などを辿りゆかば、1つの真相に辿り着くるぞ!"という本文の中にあると考えた。
適当に訳すとそこには"アスモデウスやイヴ(手紙にはなかったため仮足しで 一会、ラファエル、アリエル)、ミカエル、ガブリエル等が望桜達や聖火崎達を襲うことになった所以を辿ると、すべて1つの真相に繋がっている"、ということが書いてあった。
下界7罪である"空天の覇者"、魔王軍最高火力と謳われる大悪魔·アスモデウス。
勇者軍で最も強い元帥と噂され、勇者と同じ軍の総大将でありその強さと軍指揮能力の高さから"総帥"と呼ばれる勇者軍元帥·イヴ。
7大天使であり現天界で最も尊い天使とされ、全ての天使で編成される天軍の将軍"天軍の総帥"の役目を負う大天使聖·ミカエル。
7大天使であり天軍の武力派兵を纏められるほどの武力を持ち、ミカエルの直属の配下、神の力"の役目を負う大天使聖·ガブリエル。
大まかに言ってこの4人が日本で望桜達、もしくは聖火崎達を襲ってきたメンバーだ。なんでファフニールが知っているのか、そもそも生きてたのかとかはここでは無視し、まずはこの4人の襲ってきた所以について考えるとしよう。
「待って、短めでお願い。急いでるの」
「これでも端々のどうでもいい所を端折ってる方なんだが......」
望桜の憶測持論を聞きながら、ふと聖火崎が時計を見やって声をかけた。1時中断されたが、とりあえずと望桜は持論の説明を続けた。
......アスモデウスは、人間界で更に権力を強いものにするために聖火崎達勇者の暗殺を目論むイヴや一会、ヘルメスらの駒として日本に送り込まれた暗殺者だ。......まあ計画は失敗し、今や1日中寝るかパソコン弄るかお菓子食べるか位しか動かない少し阿呆な人間に成り下がって(?)しまっている、おそらくもう敵対はしないだろう。
イヴもアスモデウスと同じ目的だったが、本気は出してないように思えた。そもそも望桜達とは傀儡を通して戦ったので、直接刃を交えることもなかったので実力がどれほどのものか分からないから厄介と言える。
ミカエル、ガブリエルは共に聖火崎と帝亜羅、フレアリカを襲った。ガブリエル曰く"聖剣などの元である枝を回収する"目的だったが、どういうわけかミカエルが途中でガブリエルを連れて引き返したため、今は5唯聖武器は1つも奪われていない。今後も襲ってくる可能性が高く、さらに他の天使も引連れてくる可能性もあり極めて危険だ。
......ここまでで大量の疑問が考察を繰り広げる望桜と聖火崎の頭に生まれた。......結局これだけしか分からないのだ、だから現状は考察を繰り広げるというよりかは確定している少しの事実を確認しているといった方が正しいだろう。
しかしそれと一通のメールだけからすべての事実の大元を推測するのには、決してそういった分野のプロではないし、しかも近くでその事情を見てきていない2人だけでは限界がある。
なのでまずは、その憶測が合っているかを確かめるのにファフニールに話を聞こうと思っていたのだ。そう言って望桜は自身の部屋に聖火崎と鐘音、葵雲を通した。
「でもな、その当人がこの有様じゃあな......」
「な、何よこれ......」
その部屋の奥に鎮座する檜でできた温かみのあるシングルサイズのチェストベッドの上の毛布から、微かに覗く上質な生地でできた黒のコート。近づいてみると、そこには生気が殆ど感じられないほどに衰弱しきったファフニールが横たわっている。
軍服に包まれた薄い胸板を荒く上下させながら、身体の奥深くまで染み付いてしまったリストレイント·コントローラーに最後まで抗っている。......望桜によってなされた処置はあくまで応急処置の作用しか与えられず、最早それを行っても解除できないほどに魔法は根深く根付いてしまっていた。
最早対処することも出来ず、望桜の魔力と、イヴと戦った時から葵雲の体に僅かに残されていた魔力で鐘音が遅延魔法をかけることでなんとか命を繋いでいる状態だ。ファフニールの状態はここまで悪化していたのに、何故あそこまで元気なふうを装えていたのか望桜達には不思議でならなかった。
それを見て思わず眉をひそめた聖火崎の横で、望桜は大きく溜息をつきながら深刻そうに一言呟いた。
「俺にも分からん」
「......リストレイント·コントローラーによって与えられてた命令を、耐性やらなんやらで強引に無視し続けた末路だと思うけど」
「ひええ......よ、良かった~、早いうちに望桜に解いてもらってて......」
「それの分と日々の扶養してやってる分、後できっちり返してもらうからな」
「ええ!?」
望桜の呟きに対して鐘音が思ったことを言い、前まで同じ魔法をかけられていた葵雲は早くに望桜に自身の魔法を解いてもらったことに心から安堵し、望桜の嫌味たらしい言葉に場に合わない声を上げた。
「......とにかく、こいつがここを占領してるせいで的李がバイト先に住み込みで働きに行っちまってて、店長に"同居人がずっと寝込んでる"って相談したら有給扱いにすっから休めって。本当に大丈夫なのかあの店......ってなったけど、比較的店舗内の人数は多いし、結構人気店だから客もいっぱい来るけど最悪2階に送っときゃ何とかなるしってさ」
「確かにね......ていうか、なんでファフニールが望桜のベッドを占領したぐらいで的李が出てくのよ」
「望桜と同じソファで寝たくないんだって!」
「っぐ、そ、そう言われたんだよ......」
「本当に望桜の側近なのかしら、あいつ......」
葵雲がさらりと突きつけたはっきりとした"的李の望桜拒絶"の事実にかなりのダメージを受けながらも、聖火崎に何とか返事する望桜。
......望桜のベッドにファフニールが居ると望桜はほぼ必然的にリビングにあるソファベッドに仮寝床を移す。そうなると普段そこで寝ている的李と鐘音に望桜が加わり狭くなる。それに"望桜と同じソファで寝る"という現象が起こるため、的李が出ていったという説明に若干頭の痛くなる聖火崎。
もしそれを意地でも止めていた場合の望桜の横で嫌々眠る的李の図が想像できて、望桜にとってはなんとも遺憾である。......なぜなら的李を側近にしたのは実力はもちろんだが、見た目が好みだったのも理由の1つだからだ。黒髪美青年は最高......それが望桜から見た的李の第一印象と今の印象である。
「......どうしようかしら......」
「まあどうしてもって言うんなら、師匠に掛け合ってみようか?」
「それはもう試した......」
「あらま......」
ピンポーン
「え、誰だろう?こんな時間に......」
ファフニールの居るベッドの方を見ながら、各々何かしらやっている。望桜と聖火崎はフレアリカをどうするかとファフニールの今後をどうするかについて話し合い、鐘音は一応瑠凪にフレアリカを預かれるかどうかの確認を取っている。
葵雲は自身のノートパソコンのネットニュースの中にある、"謎の白い光の目撃情報が後を絶たず──東京都目黒、東京都渋谷、兵庫県神戸、福岡県天神"の記事と"日本中で大人気の歌い手·葛飾まつり電撃引退──Yafooニュース"の2つの記事に目を留めている。
そんな中、午前0時という時刻にも関わらず望桜宅のインターホンが鳴った。
「あら、もう12時?ちょっと、フレアリカはどうすればいいのよ?」
「とりあえず葵雲、行ってこい」
「え、なんでえ!?」
そしてそのインターホンを鳴らした客への応対に、望桜は葵雲に適当に指示を出した。それを聞いた途端、思いっ切り不満を露にする葵雲。
「いーから」
「貴方どーせどうでもいい記事見てんでしょ?」
「どんだけ適当な奴だと思われてるの僕!?分かった!!行ってくるから!!行けばいいんでしょ!?もー!!............はーい!どちらさまで......すか......」
「汝ら......この時刻にあの騒ぎようは近所迷惑じゃろうが......」
「え、え、え......?」
「葵雲、どした?」
「いきなり元気無くなると逆に不安になるんだけど」
そしていきなり勢いがなくなった葵雲の声に、望桜と聖火崎も玄関に向かった。そして開いたドアの向こうに立つ2人の姿を見て、望桜と聖火崎は葵雲と同じようにその場に立ち尽くした。
「......久しぶりじゃの、アスモデウス」
「ま、マモン!?」
「うちの馬鹿兵士長が御迷惑をお掛けしました」
「ダンタリオンじゃないの!!貴方も何でここに居るのよ!!」
「ダン、お前も無事だったんだな!!南方軍は群島軍と同じように、もう壊滅状態だって聞いてたから」
「自分にはヴァルハラ使用人長という役目もあります故、意地でも生き残らせて頂きました」
......ドアの向こう側には2人の人物が立っていた。
ど真ん中に立っている年齢的には小学4年生?ほどの少年(のように見える)人物は......下界"7罪"の一角であり、下界一の大富豪の大悪魔·マモン。外ハネの紫色の髪をひょこひょこ揺らしているところは可愛らしいのだが、見た目に反してその身に宿る貫禄だけはかなりのもので、それに比例して面と向かっているだけでもかなりの重圧がくる。
そしてその少年の傍らに控えているのが南方攻略軍の準頭領の大悪魔·ダンタリオンだ。悪魔らしからぬ純白の髪と紅蓮の瞳が中古マンションの廊下に設置された地味に温かみのある色の蛍光灯の光に照らされて、煌々と輝いている。
その2人の言葉の中で、聖火崎の耳にはひとつの言葉が引っかかった。
「へえー......ん?ちょっと待って、ヴァルハラって......」
「ああ、ウィズオート皇国の東方にあるヴァルハラ·グラン·ギニョルの事じゃ。吾輩はそこの主じゃからの。よろしく頼む」
「では私も......改めて、ヴァルハラ·グラン·ギニョルの使用人長を務めさせて頂いている、ダンタリオンと申します。今後ともご贔屓に」
そしてそれを聞くなり大声を上げて膝から崩れ落ちた。
──────────────To Be Continued─────────────
「ええっとお......」
「......何よ」
......場所は移り、兵庫県神戸市本町。緑丘 望桜宅に緑丘 望桜、早乙女 鐘音、御厨 葵雲、そして聖火崎 千代と宇宙樹の"果実"に寄生された少女であり、今は聖火崎宅に身を寄せている少女·フレアリカ(現在は就寝中)が集まっていた。
各々が神妙な面を浮べる中で、望桜と葵雲が自分たちの真正面に正座して座っている聖弓勇者に向かっておずおずと声をかけた。そして聖火崎はその声を軽くあしらった。
「いや、なんでいるのかなって......」
「だから何よ」
「何よって......お前この間帰ったばっかじゃねえか!!なんでまたいるんだよ!?」
「この間帰ったばっかって言ったって、もう2週間よ!?ていうか第1に、なにもまたこの間みたいに長期間居座るために来たわけじゃないのよ!!2日、フレアリカを預けに来ただけ!!」
さらに畳み掛けるように口から出された葵雲の質問に、もはや答えるのも億劫だというふうに冷たく返す聖火崎。かれこれ5分ほどこの状態が続き、痺れを切らした望桜が強く言い返すと、それに対抗するかのように聖火崎も大声を出す。
......聖火崎の元にシメオンから届いた勇者軍元帥·アヴィスフィアの訃報。それの真相を確かめるのと、単純に用事に関する経過報告も兼ねて、聖火崎は1度ラグナロクに帰還することに決めたのだ。
しかしそれにフレアリカを連れていく訳にはいかない。日本ではただのキャリアウーマンでも、下界に戻れば立派な"聖弓勇者"という立場のある聖火崎だ。......もし仮にフレアリカを共に連れていったら、"聖弓勇者には隠し子がいた"などという妙な噂を立てられてしまうかもしれない。
......歴代勇者の中で唯一の"貧民街出身勇者"である聖火崎は、政治的にも経済的にも変な噂1つ立てられたらすぐに潰されてしまうだろう。それほど権力も財力もないのだ、今の下界の勇者には。それに、臆病だと馬鹿にされるくらいには慎重に行動すべきだと聖火崎も自身の中で戒めている。......まあ聖火崎は、こんなこと目の前の奴らに言うつもりは無い、という心持ちなのだが。
とにかく、だからこそ今日、東京からわざわざ神戸まで足を運んだのだ。
「はあああ!?うちにそんな余剰資金はねえっ!!」
「なんでよ!?月40万+αは金が入ってきてんでしょう!?それなのになんで?」
「ねえもんはねえんだっ!!!」
「望桜、しっかり説明してやらないとこの野蛮な聖弓勇者には伝わらないよ」
「後で覚えておきなさい鐘音」
しかしそんな聖火崎の願いは望桜達の"経済難"という問題の前に一蹴されてしまった。鐘音は口不足な君主に聖火崎の神経を逆撫でしながら、説明をしてやれと遠回しに伝えた。
「はあ......2週間前に俺の事呼び出した奴のこと、覚えてるか?」
「ファフニールね、覚えてるわ」
......2週間前、望桜のスマホに謎のメールを送り付け、聖ヶ丘學園屋上に呼び出した飛龍の子供がいた。それが魔王軍幹部·ウァプラことファフニールだった。
あの日、ファフニールが望桜を呼び出したのには2つの理由があり、1つは自身にかけられたリストレイント·コントローラーの解除。そしてもう1つは望桜の憶測なのだが、メールの内容に書いてあった"今まで汝やそのかたへを襲ひし明日裳提宇子や依舞、聖香愛琉や雅舞罹依瑠がなんの脈絡もなしに襲ひ来たりと思へり?それぞれの襲ひしゆゑや個人情報などを辿りゆかば、1つの真相に辿り着くるぞ!"という本文の中にあると考えた。
適当に訳すとそこには"アスモデウスやイヴ(手紙にはなかったため仮足しで 一会、ラファエル、アリエル)、ミカエル、ガブリエル等が望桜達や聖火崎達を襲うことになった所以を辿ると、すべて1つの真相に繋がっている"、ということが書いてあった。
下界7罪である"空天の覇者"、魔王軍最高火力と謳われる大悪魔·アスモデウス。
勇者軍で最も強い元帥と噂され、勇者と同じ軍の総大将でありその強さと軍指揮能力の高さから"総帥"と呼ばれる勇者軍元帥·イヴ。
7大天使であり現天界で最も尊い天使とされ、全ての天使で編成される天軍の将軍"天軍の総帥"の役目を負う大天使聖·ミカエル。
7大天使であり天軍の武力派兵を纏められるほどの武力を持ち、ミカエルの直属の配下、神の力"の役目を負う大天使聖·ガブリエル。
大まかに言ってこの4人が日本で望桜達、もしくは聖火崎達を襲ってきたメンバーだ。なんでファフニールが知っているのか、そもそも生きてたのかとかはここでは無視し、まずはこの4人の襲ってきた所以について考えるとしよう。
「待って、短めでお願い。急いでるの」
「これでも端々のどうでもいい所を端折ってる方なんだが......」
望桜の憶測持論を聞きながら、ふと聖火崎が時計を見やって声をかけた。1時中断されたが、とりあえずと望桜は持論の説明を続けた。
......アスモデウスは、人間界で更に権力を強いものにするために聖火崎達勇者の暗殺を目論むイヴや一会、ヘルメスらの駒として日本に送り込まれた暗殺者だ。......まあ計画は失敗し、今や1日中寝るかパソコン弄るかお菓子食べるか位しか動かない少し阿呆な人間に成り下がって(?)しまっている、おそらくもう敵対はしないだろう。
イヴもアスモデウスと同じ目的だったが、本気は出してないように思えた。そもそも望桜達とは傀儡を通して戦ったので、直接刃を交えることもなかったので実力がどれほどのものか分からないから厄介と言える。
ミカエル、ガブリエルは共に聖火崎と帝亜羅、フレアリカを襲った。ガブリエル曰く"聖剣などの元である枝を回収する"目的だったが、どういうわけかミカエルが途中でガブリエルを連れて引き返したため、今は5唯聖武器は1つも奪われていない。今後も襲ってくる可能性が高く、さらに他の天使も引連れてくる可能性もあり極めて危険だ。
......ここまでで大量の疑問が考察を繰り広げる望桜と聖火崎の頭に生まれた。......結局これだけしか分からないのだ、だから現状は考察を繰り広げるというよりかは確定している少しの事実を確認しているといった方が正しいだろう。
しかしそれと一通のメールだけからすべての事実の大元を推測するのには、決してそういった分野のプロではないし、しかも近くでその事情を見てきていない2人だけでは限界がある。
なのでまずは、その憶測が合っているかを確かめるのにファフニールに話を聞こうと思っていたのだ。そう言って望桜は自身の部屋に聖火崎と鐘音、葵雲を通した。
「でもな、その当人がこの有様じゃあな......」
「な、何よこれ......」
その部屋の奥に鎮座する檜でできた温かみのあるシングルサイズのチェストベッドの上の毛布から、微かに覗く上質な生地でできた黒のコート。近づいてみると、そこには生気が殆ど感じられないほどに衰弱しきったファフニールが横たわっている。
軍服に包まれた薄い胸板を荒く上下させながら、身体の奥深くまで染み付いてしまったリストレイント·コントローラーに最後まで抗っている。......望桜によってなされた処置はあくまで応急処置の作用しか与えられず、最早それを行っても解除できないほどに魔法は根深く根付いてしまっていた。
最早対処することも出来ず、望桜の魔力と、イヴと戦った時から葵雲の体に僅かに残されていた魔力で鐘音が遅延魔法をかけることでなんとか命を繋いでいる状態だ。ファフニールの状態はここまで悪化していたのに、何故あそこまで元気なふうを装えていたのか望桜達には不思議でならなかった。
それを見て思わず眉をひそめた聖火崎の横で、望桜は大きく溜息をつきながら深刻そうに一言呟いた。
「俺にも分からん」
「......リストレイント·コントローラーによって与えられてた命令を、耐性やらなんやらで強引に無視し続けた末路だと思うけど」
「ひええ......よ、良かった~、早いうちに望桜に解いてもらってて......」
「それの分と日々の扶養してやってる分、後できっちり返してもらうからな」
「ええ!?」
望桜の呟きに対して鐘音が思ったことを言い、前まで同じ魔法をかけられていた葵雲は早くに望桜に自身の魔法を解いてもらったことに心から安堵し、望桜の嫌味たらしい言葉に場に合わない声を上げた。
「......とにかく、こいつがここを占領してるせいで的李がバイト先に住み込みで働きに行っちまってて、店長に"同居人がずっと寝込んでる"って相談したら有給扱いにすっから休めって。本当に大丈夫なのかあの店......ってなったけど、比較的店舗内の人数は多いし、結構人気店だから客もいっぱい来るけど最悪2階に送っときゃ何とかなるしってさ」
「確かにね......ていうか、なんでファフニールが望桜のベッドを占領したぐらいで的李が出てくのよ」
「望桜と同じソファで寝たくないんだって!」
「っぐ、そ、そう言われたんだよ......」
「本当に望桜の側近なのかしら、あいつ......」
葵雲がさらりと突きつけたはっきりとした"的李の望桜拒絶"の事実にかなりのダメージを受けながらも、聖火崎に何とか返事する望桜。
......望桜のベッドにファフニールが居ると望桜はほぼ必然的にリビングにあるソファベッドに仮寝床を移す。そうなると普段そこで寝ている的李と鐘音に望桜が加わり狭くなる。それに"望桜と同じソファで寝る"という現象が起こるため、的李が出ていったという説明に若干頭の痛くなる聖火崎。
もしそれを意地でも止めていた場合の望桜の横で嫌々眠る的李の図が想像できて、望桜にとってはなんとも遺憾である。......なぜなら的李を側近にしたのは実力はもちろんだが、見た目が好みだったのも理由の1つだからだ。黒髪美青年は最高......それが望桜から見た的李の第一印象と今の印象である。
「......どうしようかしら......」
「まあどうしてもって言うんなら、師匠に掛け合ってみようか?」
「それはもう試した......」
「あらま......」
ピンポーン
「え、誰だろう?こんな時間に......」
ファフニールの居るベッドの方を見ながら、各々何かしらやっている。望桜と聖火崎はフレアリカをどうするかとファフニールの今後をどうするかについて話し合い、鐘音は一応瑠凪にフレアリカを預かれるかどうかの確認を取っている。
葵雲は自身のノートパソコンのネットニュースの中にある、"謎の白い光の目撃情報が後を絶たず──東京都目黒、東京都渋谷、兵庫県神戸、福岡県天神"の記事と"日本中で大人気の歌い手·葛飾まつり電撃引退──Yafooニュース"の2つの記事に目を留めている。
そんな中、午前0時という時刻にも関わらず望桜宅のインターホンが鳴った。
「あら、もう12時?ちょっと、フレアリカはどうすればいいのよ?」
「とりあえず葵雲、行ってこい」
「え、なんでえ!?」
そしてそのインターホンを鳴らした客への応対に、望桜は葵雲に適当に指示を出した。それを聞いた途端、思いっ切り不満を露にする葵雲。
「いーから」
「貴方どーせどうでもいい記事見てんでしょ?」
「どんだけ適当な奴だと思われてるの僕!?分かった!!行ってくるから!!行けばいいんでしょ!?もー!!............はーい!どちらさまで......すか......」
「汝ら......この時刻にあの騒ぎようは近所迷惑じゃろうが......」
「え、え、え......?」
「葵雲、どした?」
「いきなり元気無くなると逆に不安になるんだけど」
そしていきなり勢いがなくなった葵雲の声に、望桜と聖火崎も玄関に向かった。そして開いたドアの向こうに立つ2人の姿を見て、望桜と聖火崎は葵雲と同じようにその場に立ち尽くした。
「......久しぶりじゃの、アスモデウス」
「ま、マモン!?」
「うちの馬鹿兵士長が御迷惑をお掛けしました」
「ダンタリオンじゃないの!!貴方も何でここに居るのよ!!」
「ダン、お前も無事だったんだな!!南方軍は群島軍と同じように、もう壊滅状態だって聞いてたから」
「自分にはヴァルハラ使用人長という役目もあります故、意地でも生き残らせて頂きました」
......ドアの向こう側には2人の人物が立っていた。
ど真ん中に立っている年齢的には小学4年生?ほどの少年(のように見える)人物は......下界"7罪"の一角であり、下界一の大富豪の大悪魔·マモン。外ハネの紫色の髪をひょこひょこ揺らしているところは可愛らしいのだが、見た目に反してその身に宿る貫禄だけはかなりのもので、それに比例して面と向かっているだけでもかなりの重圧がくる。
そしてその少年の傍らに控えているのが南方攻略軍の準頭領の大悪魔·ダンタリオンだ。悪魔らしからぬ純白の髪と紅蓮の瞳が中古マンションの廊下に設置された地味に温かみのある色の蛍光灯の光に照らされて、煌々と輝いている。
その2人の言葉の中で、聖火崎の耳にはひとつの言葉が引っかかった。
「へえー......ん?ちょっと待って、ヴァルハラって......」
「ああ、ウィズオート皇国の東方にあるヴァルハラ·グラン·ギニョルの事じゃ。吾輩はそこの主じゃからの。よろしく頼む」
「では私も......改めて、ヴァルハラ·グラン·ギニョルの使用人長を務めさせて頂いている、ダンタリオンと申します。今後ともご贔屓に」
そしてそれを聞くなり大声を上げて膝から崩れ落ちた。
──────────────To Be Continued─────────────
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる