Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と

18話4Part ヴァルハラ滞在1日目のみんな④

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 晴瑠陽がマモンに実験台として使われ、或斗がキッチンで撫で回された1時間ほど後、思い切って帝亜羅はマモンに"東方市街を1人で散策したい"と進言した。

 しかしマモンもさすがに帝亜羅を1人で外に出すわけにはいかず、近衛兵の中から1人の若い兵士を引き抜き帝亜羅の護衛としてつけることに決定した。

 自身の横に並んだ少しだけ頭の高い青年を見上げて、帝亜羅はおずおずと口を開いた。


「あ、あの......」

「ああ。こやつを汝の護衛につけようと思ってな。汝も自由に街を散策する時に共にいる者が、悪魔よりは人間の方が良いであろう?」

「まあ、そりゃそうですけど......」

「大丈夫じゃぞ、そやつは信用に値する。それに何時を1人で出歩かせる訳にはいかんのじゃ」


 それを言われても尚腑に落ちない様子の帝亜羅に、マモンは青年のことを口で褒め倒す。隣でどこか居た堪れない雰囲気をかもし出す青年兵士をよそに、2人は会話を続ける。


「あ、それもそうか......」

「......よし、アリチノ。自己紹介をしてやれ」

「え、わ、私ですか?」


 そしていきなり話が振られ、飛び上がって驚く青年兵士。その様子を見てマモンは呆れたように声を上げた。


「驚きすぎじゃ......この場にほかにアリチノはおらん」

「はっ!......私はアリチノ·マーレボルジェと申します。齢は17、若いしまだまだ半人前で至らぬ点も多々あるやもですが、何卒よろしくお願い致します」

「こ、こちらこそ......」


 お、同い年なんだ......

 そう驚きながら荷物を抱え込んだ。出発の刻は午前11時、目の前に迫ったその時を前に密かにわくわくしていた。


「......よし、では行ってくるといい」

「え、まだ早いですけど......」

「早めに行っておいた方が、時間に余裕は持って行動できるじゃろ?それに、たった3日間だけじゃがやはり護衛のものとは仲良くなっておいた方が得じゃしな」

「あ、分かりました......行ってきます!」

「......Bitte geh und sei vorsichtig. (......行ってらっしゃい、気をつけるのじゃぞ)」

「はいっ、行ってきます!」


 こうして、帝亜羅は青年兵士·アリチノと共に東方市街へと繰り出ていったのだった。



                                              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「......あーっ、たくもー......」


 ......クソめんどくせぇ......

 ......東方市街の中心にある城·翠彗暁宮すいせいきょうきゅうの活気溢れる城下商店街を歩きながら、桃塚 瑠凪ももつか るなは不満そうな声を上げた。今すぐ寝台にでも飛び込んで寝てしまいたい気分なのだが、如何せんここは街中、そんな事は少なくとも10分後(マモンの館に戻って自室に入るのにかかる時間)じゃないと出来やしない。

 不満の理由は2つ、1つは女物の民族衣装で綺麗に着飾られていること。清楚な藍色の髪には煌々きらきらとした黄金と珠玉でできた装飾品が飾られ、服は胸部分の開いたブラウスの上からサロペットスカートを履かせられている。そして紫色の飾り布を腰に着けられていて、それにくるぶし丈の白い靴下と革靴を履き、これまた豪奢なナポレオン調のジャケットを袖を通さずに羽織っている。

 そしてもう1つは......


「うおすげー!!瑠凪!る......そのおみ足で踏まれてえ」

「気持ち悪っ」


 共に居る青年、下界の13代目(元)魔王·緑丘 望桜みどりがおか まおが隣にいること。

 サロペットスカートの一部分が開いておりベルトで留める形式になっているせいで中途半端に露出した瑠凪の脚を眺めては、他人だったら即通報モノの欲望をうわ言のように呟くのだ。


(何が言いたいって......気持ち悪いんだよね、言動とか色々......)


 ......でも不思議と、嫌悪感はない。そんな自分に心底嫌気を感じながらも、色んな店を見て回っている望桜にすたすたと足を動かして着いていく。これでも一生懸命なのだ。足が短い訳ではないが、体格差故に気を抜いたらすぐに置いていかれてしまう。......まあ多分、瑠凪が少しでも遅れたらすぐに駆け寄ってくるのだろうが、この青年は。


「瑠凪、瑠凪!これめっちゃ綺麗だぞ............?」


 望桜がふと横を見ると、そこに少年の姿はなかった。そこから視線を後ろに移すとやはり数歩後ろで立ちどまって何やら小さな機械をいじっているらしい。......おい、あれってもしかして......


「......あ、来年の1月なんだ。葛飾まつりが引退すんのって」

「おい瑠凪!こんな所でスマホ使うな!」

「な、別にいいだろ!?ニュース見るくらい......」

「ダメだ!!」

「え、あ、ちょ......」

「日本に戻るまで返さねえからな」

「はあ~!?......あ、あ゛あ゛もう......馬鹿じゃん僕......」


 スマホをこっそり覗き見ていた瑠凪の手からスマホを取上げ自身の鞄の中に入れる望桜に、思いっ切り不満を露わにする瑠凪。しかし記憶にはほとんどないが今朝のことを思い出して、自身の無警戒さをひたすら呪うのだった。その様子を見ながら、望桜はにやりと怪しげな笑みを浮かべる。......いやー、いつももだが今朝はまた違う可愛さだったな~!



 ......というのも遡ること数時間前、仮眠をとってまだ起き抜けの頭で既にしっかり覚醒したこいつに話しかけたのがいけなかったのだ。


「望桜ぉ、おはようぉ......」

「お、おはよう瑠凪!」


 いくら頭がそこらの奴より、それこそ望桜よりは絶対に良い瑠凪でも、寝惚けた脳では"もしかしたら良いようにされるかも"という警戒すらも杞憂だと判断したようで、望桜にもさらっと声をかけてしまった。


「相変わらず可愛いなお前!!ちょっと頭撫でてもいいか?」

「う?ふへへ、いいよぉ~?」


 その証拠に、普段なら罵倒なりなんなり返す望桜の変態じみた言葉にもなんの疑いも持たず、むしろ自ら頬を擦り寄せに行っていたような気がする。


「甘えたさんだな、起き抜けだからか?寝不足だろうが、普段はこんな風に触らせてくれねえんだから今ぐらいはめいっぱい愛でるからな......ふふ、ふふふ」


 とても満足気に瑠凪の頭をわしゃわしゃふわふわと撫でつけた望桜。そのうち片方の手は耳を時々ゆるゆると撫で始め、その度に少年はぴくりと小さく身を震わせた。


「ふう?ぅあ、あのね?耳はやめてほしいなぁ......?あぅ......」

「え?なんでだ?」

「......ぅ、だって......にぁ、な、なんか擽ったい......ぅ、あ......」

「あー可愛い、死ぬ。萌え死ぬ~」

「ね、あの......ひゃぁ、あう......あの、耳はどうしてもやなの。ねえ......ダメ......?」

「う゛っ......!!し、仕方ねえな......」

「ふふ、ありがと?......ふわ、ふわ......」


 そして瑠凪からの"どうしても"という懇願に萌え、折れた望桜は渋々耳から手を離した。しかしそのせいで空いてしまった方の手ははて、何をしようか......そう考えていた望桜の頭にふと名案が浮かんだ。

 その瞬間両手を組んだ青年に、不思議そうな表情で望桜の方を見上げる少年。それを青年は満足気に、愛しげに眺めている。


「......なあ、瑠凪」

「......ふえ?」

「俺たち3日間同じ部屋に寝泊まりするわけじゃん?だからよ、いっつも大体の主導権を握ってる瑠凪と、この3日間は立場逆転しようぜ」

「たちば、ぎゃくてん......?」


 望桜の言葉の意味を瑠凪の寝惚けた頭で考えても、答えが出てくることはなかった。尚も不思議そうにしている瑠凪に望桜は続きを述べた。


「そ、立場逆転。簡単に言うと、この3日間は瑠凪が俺の言うことを聞いてくれ」

「それって......なんでも?」

「ああ、何でもだ」

「ほえぇ......」


 普段の瑠凪なら"馬鹿なの??"と絶対に蹴る要望なのだが、勿論未覚醒の瑠凪は......


「いいよぉ?なんでも言うこときーたげる!」


 そう高らかと返事したのであった。



 ......そして最初に望桜から言われたのが"3日間一人称は僕"と"ウィズオート皇国の民族衣装で街を一緒に散策する"というものだ。......普通なら覚えてないとか言ってやればいいものなのだが、録音までされている以上それも叶わない。

 この3日間くらいはこいつの好きにさせてやるか......ともう折れ始めている自分にまた猛烈な嫌気を感じながらも、再び足を動かし始める。


「はあ......」


 酷い寝不足とクリスマスが刻々と近づいてきているせいで街中に充ちた神気を身体が吸収したことから来る頭痛が不機嫌とブレンドされ、瑠凪は本日何回目か分からない溜息を着く。


「ど、どした?」

「頭痛い......」

「どっかで休むか?」

「別にいい」

「そうか......でももう昼だな、どっかで昼飯を......お、あそことかどうだ?」

「......あ、」


 望桜が昼飯にどうかと指さした店は、"おいしい!オムハンバーグ!"とラグナロク語ででかでかと書いてあるお店だった。


「確かお前、オムライス好きだったろ?ハンバーグは葵雲だけど......どうだ?」

「べ、別に......良いんじゃない?ぐらいしか言うことないし......僕は3日間はお前の言うこと全部聞かなきゃなんないんだろ?だから勝手に決めてくれていいよ」

「あ、そうだったな......んじゃあそこだな!」

「......ん」


 さっきまでの言動がまだ記憶に新しく気色悪さはあるが、無邪気な笑顔を輝かせる望桜に瑠凪も自然と自身の頬が緩んでいくのがわかった。

 ......ああそうか、自分が何されるにせよこいつが嬉しいって思ってくれるの、嬉しいし自分がやな事でもあんまり苦じゃないんだな......自身の胸の内にほわっと湧き出したこの感情......聖火崎やマモンあたりに言ったらきっと腹抱えて笑われるだろうなと頭の隅で考えながら、自身の手を引いて歩いていく望桜の方を向き直った。



 ──────────────To Be Continued─────────────



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