Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と

✨20話1Part 大酒豪堕天使は日本の法律から暫し開放されるのであった...

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「っすみませーん!!ワイン樽1つとアクアパッツァ追加で!」

「あ、こっちは大きなハンバーグ!!デミグラスと......根菜のやつ!!」


 翌日、同館·ヴァルハラ=グラン·ギニョルの食堂にて青年と少年の声がけたたましく響いた。彼らの目の前の机の上にはおおよそ50人前程の料理があり、更にその横にはもう50人前程の料理の空き皿が山になっている。

 ......日本の、というより魔界や下界の一般常識界でもまず有り得ない量、用意はされるけれど2人で食べる量ではまずない。しかし2人はそれだけの量を余裕で食し、更に目の前に同じだけの料理があるにも関わらず追加注文し、それも含めて全て食べきろうとしているのだ。

 馬食する薄紫色の頭の青年と黒髪ハーフアップの少年の事を使用人達も物珍しそうに眺めている。


「根菜......と言いますと、オニオンですか?」

「そうそれ!お願いね!!」

「畏まりました。......で、お2人は如何されますか?」

「え、あ......」

「えーっと......」


 そして館の使用人長であるダンタリオンはその注文を承り、爆食いする2人の隣の席に着いている高校生2人組、早乙女 鐘音さおとめ べるね奈津生 帝亜羅なつき てぃあらに声をかけた。

 とある出来事から気まずい空気の流れ続けている2人の耳にその声が届くや否や、2人とも横2人の食欲の半端なさやら胃袋の凄さやらに閉口しつつもその料理の量のあまりの多さに食欲すら失せてしまい、結局は......


「あの......?」

「「み、水で......」」


 と小さなコップにお冷のおかわりを貰ったのだった。


「あ、或斗さんと葵雲くん、それと雨弥くん、よく食べるね......」

「そ、そうだね......」


 そして横の2人(餅月 或斗もちづき あると御厨 葵雲みくりや あうん)だけでなく、向こうの方でメイド達と話しながら食事している御厨 雨弥みくりや うみの方を見て帝亜羅はおずおずと口を開いた。鐘音もその様子を見兼ねて気まずそうに返事をした。


「あ、べ、鐘音くんがあんまり食べない方なの、意外だなぁ~......」

「え、なんで?」

「いや、だって......大悪魔ベルゼブブっていったら、"暴食"でしょ?それでいっぱい食べるってイメージあったから......」

「あ、7罪の肩書きの事?あの7大罪の肩書きって、結構適当に当て嵌めただけのやつなんだ。だから7罪っていっても、あまりあのイメージ通りだとは思わない方がいいかも」

「え、そ、そうなんだ!?どおりで的李さんも瑠凪さんも、葵雲くんやマモンさんもそんな感じしなかったんだ!!」


 そして"7罪"についての新たな情報を得た帝亜羅は、その内容に驚きを隠せなかった。......そ、そういうことだったんだ......!


「僕に暴食の肩書きがあるのは、いわば或斗の所為だよ」

「ど、どういうこと?」

「小さい頃、或斗は僕の世話係だったんだ。その頃に或斗が大量に食べた後の席に僕が座って、まだ幼かったから空き皿を舐めるか何かして口の周りが汚れて、そこを見た悪魔や魔人のうちの誰かが噂を広めたらしいんだよね。で、それがいつしか聖教の"7つの大罪"のうちの暴食って呼ばれるようになった。だから或斗の所為」

「本当に適当なんだね......」

「他のみんなにも聞いてみるといいかもよ?もしかしたら本当に肩書き通りの性格だったからそれになったとかかもしれないし、はたまた僕みたいに適当に決まってたりするかも」

「へえぇ......お、面白そうだし、今度聞いてみようかな......」


 鐘音の話を聞いて、そう心に決める帝亜羅。 ......やっぱり、鐘音くんと話すとほわほわするし、ドキドキする......私、好きなんだ。と心の中で自身の恋心をはっっっきりと自覚し、改めて頬の火照りをひしひしと感じた。

 心なしか俯いている鐘音の耳が赤くなっているような気がする帝亜羅だったが、きっと気のせい、自分の都合のいいように見えてしまってるんだろうと気を取り直して視線を別の所へとやった。......無論、本当にそうなっているだなんて彼女は知らない。


「うん、うん......気の所為だよね、そうだよね............って、或斗さん飲み過ぎです!!体壊しますよ!?」

「大丈夫ですよ、これでも俺は丈夫なので」


 その視線を移した先、或斗達の様子を見て未だに衰える事を知らない2人の食欲に尊敬の念すら抱いた帝亜羅。しかし2人のテーブルの周りに転がる大量の空き酒樽に、思わず声を上げて手を止めさせた。

 帝亜羅の切羽詰まった表情とは対照的に、その転がる大量の酒樽を空にした張本人である或斗は平気な顔ではきはきと喋っている。

 あれだけ飲んでもほんのり頬が紅く染る程度、小さなコップに注いだソーダ割り数杯でも酔ってしまう母の様子を何度も見てきた帝亜羅にとっては、もはやこの世のものではないと形容してもおかしくないほどである。


「そーいう意味じゃ......もー、二日酔いになったり泥酔しても知りませんよ?」

「周りの方々にはご迷惑をおかけしないように努めるので大丈夫です!あ、生ビールジョッキで6杯、追加お願いしまーす!」

「もー......」

「帝亜羅!!ここのケーキ美味しいよ!食べる?」

「あ、じゃあ1個だけ......」


 葵雲から差し出されたケーキを受け取り、フォークを手に取りケーキ向き直った。少し口に運ぶと、帝亜羅はお、おいしい......と心の中で先程とは別の理由でほわほわ、そして美味しさに思わずはにかみ笑顔を浮かべる帝亜羅。


「わ、わああ......」


 ......小さなピンク色のベリーチョコでできたドームをパキパキと音を立てながら崩すと、その中にはふわふわな生クリームの海とケーキの島がお目見えする。ケーキの島はチョコの層、焦がしキャラメルの層、スポンジの層でできており茶色系統色だけなのに色鮮やかで可愛らしく見える。

 それを生クリームと共に口に運ぶと、ケーキの若干の塩気が生クリームの甘さとマッチして口の中に広がり、1秒後くらいに溶けて無くなってしまうのだ。


「は、はむっ......ん、んん~!」


 そうやって食べた時の食感もさることながら、そこにベリーチョコを追加した時のまた違った食感が抜群に美味しい。

 そして数回口に運んだ頃、皿の上には残り1口程度しか残っていない。その事に残念になるのだが、もう机の上にケーキは無くてまた新しく作る他ない上に、如何せん先程"1つだけ"と貰ってしまった、と帝亜羅は新たなケーキを貰うことを諦めた。

 "1つだけ"と言って貰ったならなら"やっぱりもう1個"とまた貰えばいいのだが、"図々しい子だ"って思われちゃったらどうしよう......と不安になってしまう。

 無論館にとってしてみれば葵雲や或斗の方がよっぽど図々しいし、そもそもそう思うはずがないのだが、臆病な帝亜羅にはそれをする度胸がなかった。


「むぅ......あ、或斗さんは今日、どうしてそんなに意気込んだ感じで大量にお酒飲んでるんですか?」


 そして帝亜羅はその感情を横の或斗に話しかけることで紛らわせた。未だにお酒を飲み続ける或斗は、帝亜羅の声に反応してきょとんとした顔で帝亜羅の方を見た。


「日本じゃ大っぴらにお酒飲めないからです」

「へ?」

「俺、戸籍上じゃ19歳なんです。なので日本でおおっぴらに酒飲んだら捕まるので、いつもこっそり飲んでるんです」

「ば、バレないようにして下さいね......」

「心配無用です。でもここはウィズオート皇国、ウィズオート皇国に20歳以下は酒を飲むなという法律はありません......ということで今日は沢山飲みます!!日本の法律の呪縛から解き放たれた俺はもう誰にも止められません!!んっくんっくんっく......ぷはぁっ!!」

「あ、或斗さん!?」

「すみませーん!!シャルドネストロングのスピリタスとリキュール割りを1つ!!」

「何ですかそれ!?お酒をお酒で割ってる!?」


 慌てる女子高生の声が響いた後、青年の元には大量の果実酒が届いたという。そしてその横でやっと胃が悲鳴をあげ始めた事により食事をやめた葵雲が、


「帝亜羅......シャルドネストロングにはノンアルのやつもあるよ......うっぷ、あと数時間は食べ物食べなくていいな......ふへ、ふへへ......」


 満足感ににやけながら、小声でそう告げたのだった。しかしそれは届かなかった。食べ過ぎで膨れた腹を両手で幸せそうに擦りながら、


「......夜ご飯は八咫烏の唐揚げをいっぱい食べるの、にしし......」


 と呟いたお陰で、使用人達は大慌てでヴァルハラ独立国家内に居る全ての八咫烏を狩らざるをえなくなったのはまた別の話である。



 ──────────────To Be Continued──────────────


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