Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

✨23話1Part Wolkenkratzer Fantasie

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 ......12月27日、クリスマスイベントに参加しに集まった大量の生徒でひしめく私立聖ヶ丘學園高校棟の廊下を、朝に見合った爽やかな表情で駆けていく1人の少女が居た。

 脱色の月色の短い髪の1部を伸ばしてサイドポニーテールにして、カラコン入りの橙の双眸で真っ直ぐ先を見据えている。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、


「てぃあ、べるねっちおはよ~!!」

「あ、梓ちゃんおはよう!」

「おはよう、梓」


 同じように廊下を歩いていた2人に追いつき、それと同時に声をかけた。早乙女 鐘音さおとめ べるね奈津生 帝亜羅なつき てぃあらだ。......この2人に雅 梓みやび あずさを足した3人組は、出会ってたったの2ヶ月とは思えないほどの仲良しグループである。

 こうして毎朝一緒に登校するのも日常茶飯事で、休日も大体は一緒に居る。その仲の良さは学園内でも有名な程。


「あのさ、今日中等部の3-1でお化け屋敷やってるらしいよ!一緒に行こうよ!!」

「え、やだ」

「ええ~?」

「その隣の、メイド喫茶なら行くよ」

「まじ!?やったー!!なら早く行こっ!!」


 鐘音からの即拒否をなんら気にせず、梓は満面の笑みで2人の手を引いて中学棟へと足を進める。帝亜羅はわたわたと慌てつつも梓に歩みを合わせている。

 ......聖ヶ丘學園のクリスマスイベント。各クラスがクリスマスを盛り上げるためな様々な出し物をする楽しいイベントだ。自由参加にはなっているものの、全体の9割型の生徒が楽しみしており、参加していない生徒が数える程しかいない。

 しかも生徒達独自でやっている訳ではなく毎年学園長が企画して、各クラスに予算額を掲示する。その背景にはただのイベント事ではなく、これからの社会で生きるための、予算内でどれだけ素晴らしい企画ができるかという"企画能力"と"計画性"を養うための立派な社会学習という目的がある。

 そのため、初等部からクリスマスイベント、秋の学園祭、春の花見祭り等の、"イベント"と一般的には呼称される"社会学習"が1年で何度も開催される。

 その分学費も他の私立校より少し割高だが、それでも通わせたがる親が多いと世間でも有名な私立高校、それが聖ヶ丘學園なのである。


「沢山食べるぞー!!」

「おー」

「お、おー!!」


 ハイテンションすぎる梓に、戸惑いつつも帝亜羅も掛け声を上げて着いていく。その後ろから、


「クリスマス......」


 と、一言しみじみと呟いた鐘音がとことこと走り寄っていった。



                                               ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「今日は楽しかったなぁ~!」

「本当にね~」

「お化け屋敷が凄かった」


 そして場面は飛び、同日の放課後。冬の日の入りの早さは、生徒達がクリスマスイベントの片付けを開始した頃には既に、昼間よりも日が斜めに差し始めるほどであった。

 まだ4時半なのに、そうぼやくきつつも出し物を片付け、ゴミを拾い、教室をいつもの姿に戻してほっと一息着いた頃には、針は既に午後6時を指し示していた。

 校舎を後にして帰路に着いた3人は、丘を下ったところにあるバス停までの短い距離をだべりながら歩いていた。


「......あ、ちょっと小腹がすいてきたかも」


 そんな中、小さく鳴った自身のお腹を見つめて、帝亜羅がぼそりと呟いた。


「確かに......放課後ノスよってく?」


 その横で、カバンから財布を取り出しながら鐘音が2人に声をかける。


「あ、ごっめーん!今日あたし、ピアノあるんだよね~」


 しかし、梓から予定があると告げられたため、バス代だけ出して財布をしまった。梓は「ごめんね~」と謝りながらバス停とは反対側に走り去っていく。


「あ、そうなんだ!行ってらっしゃい、頑張ってね!」

「コンクール近いんだったっけ?4連覇目指して頑張れ」

「うん!!ありがと~!!」


 激励の言葉をかけてくれる2人に1度振り返って満面の笑みをうかべた後、


「また明日の土曜補習でね~!!」


 と、全力の大声で応えて、そのまままた走り始めた。遠ざかっていく友達の背を眺めて数秒間黙りこくる2人。

 2人きりになった途端、どこかそわそわ、どきどきしてしまうのは日常茶飯事だったのだが、


「......」

「......」


 本日はどこか違う。何かが違う。重苦しいのだ、どこか空気が。それはバスがやってくる時間までの5分間が、"いつも通り"にはならない事を意味していた。


「......ぅあ、あの、さ......」

「......何?」


 恐る恐る口を開いた帝亜羅に、鐘音も赤い頬を街灯の影に隠しながら小さく言葉を返す。


「......わ、私、もし鐘音くんが、ラグナロク......下界に返っちゃったら、どう、しようって......ふと、思ったんだ......」

「......?」


 もごもごと口ごもった言い方に、鐘音は首を傾げることしかできない。


「は、ちょ、ちょっと待って、ね......ふぅー......」


 そしてその鐘音の横で、帝亜羅は白い息を吐きながら大きく深呼吸した。


「......き、昨日、聖火崎さんから話を聞いたの。ぅ、ウィズオート皇国のこと、天界のこと、5唯聖武器のこと......それ、と、あ、悪魔のこと」

「......」


 周りに人っ子1人いない、坂を下ってすぐのバス停留所。帝亜羅と鐘音は、冬の夜だからこその凛とした空気の中は、霜焼けているのか指先がひりひりする。


「......ほ、本当は、私が聞いていい話じゃ、ないと、思うの。私は、ただの日本人、下界の人じゃないし......」

「......てぃ、あら......?」


 だんだんと力強くなる帝亜羅の言葉に、鐘音は気圧されたのか薄暗がりの中で微かにふらついた。


「で、でも聖火崎さんは、私に快く教えてくれたの。知っている事の全てを、包み隠さずに話してくれた」

「......う、帝亜羅......」

「私には、戦う力がない。だからこそ、知識でみんなをサポートしたい。だから、またウィズオート皇国に行って色々なことを知りたいの」

「......う、ぷ......」


 いつしか力強さは気迫が伴った圧に変わり、鐘音は横で口を押さえて嘔吐えづいた。

 ......いつもの帝亜羅とは別人の面が、ひょっこりと顔を出したのを鐘音は見逃さなかった。

 1つしかない街頭と、時折通り掛かる車のライトで照らされた仄暗闇の中に、微かに発光する黄色の双眸。その方向には確か、帝亜羅がいたはずだ。それなのに、なぜ"黄色の瞳"が......?

 そう考え込んだ直後、鐘音は身体中から力が抜けていくのを感じた。それと同時に帝亜羅ははたと目を閉じる。


「鐘音くん、私に協りょ......べ、鐘音くん!?」

「ぅえ、気持ち悪い......」


 そして帝亜羅が再び瞼を上げた時には、真っ直ぐ先を見据えていた視線の上に鐘音の姿はなかった。


「鐘音くん!!え、あ、わ、ど、どどどうしたらあああわあわあわ」


 気づいたら何故か地面に倒れている鐘音を見て慌てふためく帝亜羅の元にやってきたのは、バスではなく黒塗りの高級車リムジンであった。



 ──────────────To Be Continued──────────────


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