Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

23話6Part Wolkenkratzer Fantasie⑥

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「珍しいな!お前が俺に電話をかけてくるなんて!!」


 ......331号室にて同居人達2人(的李、鐘音)の帰りを待っていた望桜の所に、割と意外な人物から電話がかかってきた。


『だって、家に或斗も太鳳もいないんだから仕方ないだろ!!内側からチェーンかけられてて、家に入れないんだよ......』


 ......望桜の推し(推し本人非公認)であり堕天使の桃塚 瑠凪ももつか るなだ。電話越しに聞こえてくる可愛らしい声の怒号に、望桜は頬を緩めつつ応対する。


「え、今日は定休日だから店休みだったろ?なんで外に?」

『ちょっと用事があって日中外に出てたんだけど、1回帰って、昼飯食って、近くのコンビニに行ったんだよ。そんで帰ってきたらなんか開かないし、中に2人ともいないしで......どうすればいいんだよ、これ......』


 後半、ちょっと泣きそうな声だったのが望桜の色々を余計に刺激した。......萌え、萌えぇ......めちゃくそ可愛い。許されるなら今すぐ嫁にしたい。


「片方がどっか行ってて、もう片方が寝てるとかじゃねえのか?」

「それはない。片方がいれば中に魔力反応があるけど、なかったし。それに太鳳はともかく或斗は何かする時、僕に逐一連絡してくるから」

「そうなのか!......なんなら今からこっち来るか?」

『......まだ、お風呂入ってない』

「いやこっちにも風呂くらいはあるぞ?」

『......なんか、お前に覗かれそうで嫌だ......』

「失礼な!!」


 電話越しに瑠凪から伝わってくる懐疑の念を晴らすべく、望桜は堂々と宣言する。


「俺は覗くんじゃなくて一緒に入るぞ!!」

『余計嫌だよ!!』

「何でだよぉ!!」


 割と真剣に否定されて、若干涙目になる望桜。電話に集中しているせいか、後ろから密かに向けられている我厘あがりからの怪訝な視線には気づいていない。


「......俺、そんなにお前に嫌われてんのかよぉ......」

『え、ち、違うし!!別に......き、嫌いとかじゃ、ない、けど......』

「......だって、風呂に一緒に入んの嫌なんだろ?」


 望桜のぼやきに慌て始めた瑠凪に、望桜は畳みかける。さらなる"萌え"を求めるといえば伝わるだろうか。さらなる推しからの可愛さ供給を頂くために、望桜は電話に全集中した。


『......だって、そういうことする、歳じゃないし......その、は、恥ずかしい、し......』

「そうか!」

『っ、とにかく!身の安全が保証されないなら僕はそっちに行かないからな!!』

「え、何でだ「そこは大丈夫だから安心しろよ、僕がいるから」


 そして、瑠凪の声がうっすらと聞こえてきていた我厘が、望桜の手から通話中のスマホをひったくってそう言った。


「おい我厘!俺のスマホ返しやがれ!!」

「僕が見張っとくから、安心して風呂入るといいよ。この変態からなら守ってやるよ」

「誰が変態だ!!」

『そ、そう?なら、いいかな......あ、ありがと......』

「どういたしまして。それじゃー切るから、こっち来てよ」

「あ、ちょ、お前っ!!」

『うん。ありがと。またね』


 我厘の"切る"という言葉に望桜はますます慌ててスマホを取り返そうとしたが、


 ピッ


「はい、どうぞ」


 もう時すでに遅し。我厘からスマホを返してもらった時には、画面に"通話終了"の文字が表示されていた。


「お前切れてんじゃねえか!!もっと可愛い声が聞きたかったのに!!」

「どーせ今から来るんだからいいだろ。僕もう寝るからね」


 どこまでも他人事な我厘に、望桜は怒りつつソファーに寝転がった。我厘はささくれた床の上に布団をしいて、とっとと寝にかかった。


「あー、早く来ねえかな......」


 瑠凪の来訪を心待ちにしつつ、望桜は気を紛らわすためにテレビのスイッチを入れたのだった。

 ......ところが、その夜的李と鐘音が帰ってくる事も、望桜の家に瑠凪がやってくる事もなかった。そればかりか、


 チュン、チュンチュン......


「......ん、あさ......」


 開け放しのカーテンから覗く日光と、つけっぱなしのテレビの時報で目を覚ました我厘は、


「あれ......まお......?まとい......?」


 寝ぼけまなこで部屋中を見渡して、ある事に気づいた。


「あいつらは......まだかえってきてないわけ......?」


 ......331号室の我厘以外の住人が、全員部屋にいなかった。つけっぱなしのテレビもそうだし、開け放しのカーテンも他の住人がいれば気づいて消すなり閉めるなりやっただろう。

 それに、よく見ると電灯もつけっぱなしだったし、部屋の鍵も開いていた。これも誰かいれば絶対に消したり閉めたりしたはずだ。


「たく、3人とも......どこいったんだよ......」


 1人しかいない部屋で、我厘はわけも分からずただただぼーっとする事しかできなかった。



 ──────────────Now Loading──────────────



「速報ですっ!!速報ッ......!!東京湾に、き、巨大な海獣が出現したようです!!」


 とある東京某所のビルの屋上にて、ニュースキャスターが声を張り上げながら東京湾で起こった不可思議な現象について必死で報道していた。そのニュースキャスターのバックに映る東京湾には、大きさ100mはありそうなほど巨大な魚影がちらちらと揺れる波に消えては現れ、消えては現れを繰り返している。


「それもッ、ただの誤報やデマという訳ではなく、先程からちらちらと頭を............ッ!!」


 ......その刹那、その"海獣"が海面からのっそりと顔を出したのだ。ザパア......という音と共に出現したその頭は、とても言葉では言い表せないほど恐ろしい見た目で、大きかった。


「いましたッ!!見てください!!あの大きな頭と口、あぁ、あんな大きな口ならば、人なんて、簡単にッ............え、あ、うそ......」


 しかも、その大きな頭の主はザバザバと東京湾から陸地にのりあげてくるではないか。


「上がって、くるなんてッ......!!」


 手のような形のものを器用に使い、その海獣はどんどん上がってくる。そして、


 グルルルルルアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!


 信じられないほどに響く大きな音は、確かにキャスターやカメラマン達の鼓膜を破れかけるほどの強さで振るわせた。

 そして、鼓膜の強すぎる振動のせいで感じる痛みと共に、音で辺りも自分もグラグラと揺れ、キャスターとカメラマン達はこの世の元とは思えないほど強烈な恐怖を感じた。


「ッ!!け、けたたましい鳴き声と共に飛沫を上げながら暴れていますッ!!急いで港から離れて逃げてください!!」


 命懸けの報道は、電波に乗せられて全国のお茶の間のテレビへと届けられた。それを見ていた日本の人々は、慌てて荷物をまとめて電車や車で逃げ始めた。


「きゃああああ!!化け物よ、化け物!!」

「なんだよ、俺たち全員今日死ぬのか......?」

「うわあああん、ひっぐ、うえ、こ、怖いよおおお!!」


 身の毛もよだつ恐怖から金切り声をあげる女性、既に諦めモードの悲観的なサラリーマン、母親に手を引かれながら泣きじゃくる幼子も皆、港から離れよう離れようとする人並みに飲まれて遠くへと流されていった。

 そんな中、人の流れとは逆の方向に向かう1人の少女がいた。


「あっちに、あっちに千代がいるはず......!」


 とても日本人らしくないセピア色の髪が特徴的なその少女は、異世界聖弓勇者·聖火崎 千代たかさき ちよに養われている、宇宙樹·ユグドラシルの"果実"に寄生されたフレアリカという名の少女である。

 街の喧騒が大きなパニックに豹変してしまった目黒の街で、彼女は東京湾に聖火崎らしき神気反応を感じとり、そこに行こうとしていたのだ。しかし......


「君、お母さんとはぐれたのかい?そっちには危ないから行っちゃダメだよ」


 人混みの中のフレアリカを見つけた親切な老人に止められてしまった。


「え、や、あっちにち......お母さんがいるんです!」


 老人はフレアリカの事を保護者の元に連れていってやろうとしているのだが、フレアリカの保護者は港にいる(かもしれない)。だから港に行こうとしているのだ、と必死で弁解をするフレアリカだったが、


「そうかい......でも、あっちは危ないぞ?」

「え、で、でも......」

「大丈夫だよ」

「いや、お、お母さんは、みな、港にいるので......!」


 と、老人の純粋な優しさから、弁解はやんわりと無視されてしまった。そのせいで、元々フレアリカが抱いていた焦燥感に拍車がかかって、フレアリカは余計にあわあわあせあせとしてしまう。


「お母さんには私から連絡してあげ......「その必要はねえ」


 しかし、老人の畳みかける言葉は、1人の青年によって遮られた。


「......お?ああ、この子の保護者さんか!!」


 その青年は、老人や周りで逃げ惑う人々には分からない"禍々しい力"を身に纏っていた。老人はその青年を見、フレアリカの父親かなにかだと勘違いしたらしく、ぽんと手を打ってにこにこと笑いながら2人の事を見ている。

 自分をにこやかに見守る老人と満面の笑みを浮かべる青年の姿は、周りのパニックが実は嘘であるかのように、はたまたこの場所だけが切り離されてしまったように、どこかゆったりとした雰囲気を醸し出していた。

 しかし今度は、の参上と"俺は自分の保護者だ"と名乗った事にフレアリカは焦りだしていた。


「......う、え......?」

「ああ。悪ぃな、うちの子が迷惑をかけちまったみたいで」

「そうかい、ならいいんだ。よかったねぇ、お父さんが来たよ。それじゃあ、おじいちゃんも逃げるとするよ」

「おう。助かったぜ!!お互い生きてたら、今度ゆっくり茶でも飲もうぜ!!」


 青年は老人と互いに頭を下げ合い、人混みの中に小さくなっていく老人の背に大きく手を振った後、


「......で、嬢ちゃん。急いでたところ悪ぃんだが、港には行かない方がいいぜ」

「え、なんで!?」


 と、フレアリカの方に向かって台詞を吐いた。その台詞の内容に、フレアリカは思わず考えた事を口に出してしまった。


「だってよ、普通に考えたらおかしいだろ?異世界の勇者様がいんのなら、魔力感知してもうちっと何かしら呼びかけたはずだ。逃げろ~とか、危ないっ!!とかな。んで避難がもっとスムーズだったはず」

「そう......なの......?」


 青年の説明を、フレアリカは少しだけ理解した。その様子に青年は満足気に頷く。


「ああ。あいつは普段はらしくねえが、正義感だけはいっちょまえにあるからな」

「ほええ......あ、お兄ちゃん!ふぅはどこに行けばいいの?」

「そんなさらっと信用されるとは思ってなかったぜ......まあ教えてやるよ」


 そして、もはや濁流な人の流れの中心で、青年は少し溜めてこう言った。


「......あそこだ、東京スカイツリーのてっぺん。あそこに、お前が絶対に見た事ないぐらいの幻想を感じられる"異空間"が広がってるぜ」


 青年の赤く光る瞳と同色の髪が、暁の太陽と月の光を受けて妖しく遍いた。



 ─────────────To Be Continued──────────────


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