Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

25話6Part Parallel⑥

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「......敵の戦闘の主戦力を潰した。次に......」


 ......、......


 聖火崎の霞む視界と耳鳴りに6割型支配された聴覚の中で、鐘音がそう呟いて銃口を静かにこちらに向けた事だけがしっかりと認識できた。


「......サブ戦力を潰す」

「っ......、......く、そがっ............ぁ、い、ぎっ......」


 ただただ這いつくばって、悪態と血を吐くことしかできない。後方では、聖火崎と同じように動けない望桜と帝亜羅が小さく息を呑んだのが分かった。


「っな、んで......こんなこと、すん......のよ......っぐ、ぁ......」

「なんでこんなことするのかって......そりゃあ決まってるでしょ」


 聖火崎の息も絶え絶えに投げかけられた質問に、鐘音はいけしゃあしゃあとこう答えてみせた。


「お前らとは、元々仲間じゃなかっただけだよ」

「っ!!......ぅ、ぃ......!」


 もはや声に成りきらない怒声を上げながら、ありったけの殺気を込めて鐘音を視線で射抜いた。


 ......フォンッ


「っと、まだかしらぁ?わたくしはもう手を尽くしきったから、顔を見に来たのだけれどぉ......」

「「っ!」」


 ......そこに、とある1人の女性がポータルスピア移動魔法を使ってやってきた。

 赤と黒のハーフという特徴的な髪の色にツインドリル、そして何より、鎧とドレスが混じったような見た目的に重そうな服を纏っており、手には大振りの杖のようなものを持っていた。

 その姿を視界内で収めた聖火崎と的李は、共に大きく目を見開いた。


「「(ガルダ·オーヴィラリ......!)」」


 その女性は、この異空間誘拐とその後ろの出来事の重要人物キーパーソン(?)である、下界のサタニズム教正教徒教会の(自称)大司教である。

 ......彼女が幹部を自称するサタニズム教正教徒教会。昔はサタニズム教も、今のウィズオート皇国の国教である聖教や、北の龍神を偶像として崇拝する龍信教、西の美と華の神を崇拝するウルハ教、南の戦神を崇拝するアレス教等と同じように皇国内で普通に信仰される宗教だった。

 それが8000年以上前......何なら、第壱弦聖邪戦争よりも前に何の前触れもなく起こった宗教戦争によって、龍信教、ウルハ教、アレス教......そしてサタニズム教は一括して、圧倒的優位にあった"聖教"に敗北した。

 その後は、龍信教、ウルハ教、アレス教等と共に"邪教"と見なされてしまい、唯一"邪教ではない"と判定されて残った"聖教"だけが、人間に正しい神の教えを聴く宗教として皇国全体で信仰されるようになった。

 それから、崇拝対象が悪魔であった事もあって、皇国政府から他の"邪教"よりも更に酷い扱いを受けるようになったサタニズム教正教徒教会は、宗教戦争直後以上に急速に縮小した。

 そしていつしか、皇国の各地に点在するスラムの端の方に追いやられたサタニズム教の教徒達は、皇国政府の弾圧と厳しい取り締まり体制によって全滅してしまった......と、思われていた。

 7000年ほど前......ちょうど第壱弦聖邪戦争が終わった頃から、彼女のような生きているサタニズム教教徒が極たまにだが皇国内で何度も目撃されるようになった事で、皇国内でも"実は生きていたのではないか"等の生存説や、"死神の元へ旅立ち、途中で力尽きたもしくは辿り着いて悪魔に変わり皇国に来ている"等の悪魔化説等が語られるようになった。

 上記で挙げた様に色々な諸説を挙げられつつも、"大昔に滅びた教団のメンバーが、国から追い出した政府に復習する機会を伺うために地獄からやってきている"と、皇国国民から広く怖がられつつもどこか面白がられる御伽噺......日本でいう所のUFOやUMA等と同じ扱いになって、忌み嫌われながらも何だかんだで馴染まれている。

 そんな宗教団体の大司教......幹部が、一体なぜ皇国政府の、そして敵であるはずの聖教の味方に着いているのか。

 考えれば考える程、様々な可能性が出てきては霧散するのを繰り返している。頭蓋骨が割れると錯覚させるような頭の痛みが考えを纏めさせず、思考がぐるぐると巡っている。


「っ、ぐ......」

「ごめんなさいねぇ。わたくし達の命の担保として、貴方あなた方の首を皇帝殿が所望されたものだからぁ......」


 聖火崎の喉から漏れた掠れた呻き声に、女性......ガルダはそう言葉を返す。

 ......"わたくし達の命の担保として、貴方方の首を皇帝殿が所望された"。ということは、ガルダ達は皇帝......皇国政府と聖教の連合軍に、聖火崎達の首と自分達の命を天秤にかけられている......?

 よく考えなくても分かる事をじっと考えてしまうくらいには、聖火崎達の頭にはもはや物理的とも取れる重圧がかかっていた。


「......けふっ、う゛......」

「......私の血液形マインドコントローラーの力を、しっかりと理解しまして......?」

「......は、あ゛......っぷ、」

「っ!まと、いっ......!しっかり、しなさいっ......!、がっ......ぁ、」


 ガルダが妖美な笑みを浮かべながら的李の方に手をかざした瞬間、的李が今まで以上にがっと頭を押さえて苦しみ始めた。


「ベルゼ、早く無力化を実行しなさい。その後に、地球にいるレヴィと合流しましょう」


 いつの間にか口の端から垂れてきた血が、聖火崎のすぐ下に滴り落ちる。視界が気味悪く揺らぐ中、ガルダはニタァと不気味に笑いながら、未だに聖火崎に銃口を向けている鐘音の肩をぽんと叩いてそう言った。


「......」


 チャキ......


 無慈悲に構えられた銃口が小さく音を立てたのが、場に合わずあっけらかんとしている。

 それから玉響たまゆらすら置かない、0.000......秒間の後のこと。鐘音の左手の人差し指が、ゆっ......くりと引き金に触れたその時だった。


「っ攻撃法術陣展開、高位攻撃法術《インフェルノ·フルール》!!」

「っ!!」


 聖火崎と鐘音の上空から少女の声がしその直後に轟音と共に地面が激しく揺れ、刹那も置かないうちに聖火崎の目の前に神気によって生み出された高位の聖炎が赤々と燃え盛っていた。

 自身が直前までいた所にそんなもの聖炎が鎮座しているのを目の当たりにした鐘音は、銃口を聖火崎の方に向けたまま魔力を込めた右手を上空にかざし、そちらの方を注視している。


「何があったんですの!?わたくしが招き入れた者以外居ないはずですのに!!」


 その後ろで、ガルダもまた有り得ない不測の事態に酷く動揺している。

 ......その隙を、聖火崎とは見逃さなかった。


「っ、《エリアヒール》!!」

「なっ、させるか「それはこっちのセリフだぜ、蝿のあんちゃん」

「っ!?」


 聖火崎が2人の気が逸れているうちにエリアヒール自身と周囲の回復魔法を使って皆の体にかかっている負担を少しばかり軽減し、それに気づいた鐘音が再び銃口を向けようとしたのを彼が止めた。

 いや、正確には止めたという比較的静かな表現通りではなく、鐘音の手を掴んでおもむろに近くの大木めがけて投げ飛ばしたのだが。

 そんな予想外に鐘音は対応できず、無様にポーンと飛ばされ大木の幹にそれをへし折らんばかりの勢いでぶち当たった。


「がっ!!......」

「ベルゼブブ!?って、貴方は......!」

「お、魔界じゃちょっとした有名人レベルにはなっただろーなーとは思ってたが、まさか人間界にいるサタニズム教教会の重鎮様にまで伝わってるとはな」

「っ......!なんで貴方がここにいるんですの......?わたくしは貴方を招いていないのに......!」

 地面に転がって呻く鐘音を他所に、ガルダはそう彼に訊ねかける。

 すると、彼......こと、(元)第13代目魔王軍幹部にして次期魔王14代目魔王を名乗る大悪魔·オセは、人を食ったような悪い笑顔を浮かべて、


「ああ、招かれてないな」


 そう一言、なんでもない事のようにさらりと言った。


「な、ならなんで入ってきて......「中にいる人の中に外にいる人を"呼べる"ことができるほど力が強い者がいた場合、強引に中に入れることはできないけれど、声をかけることと中に入ることができるようにすることは可能なんです」

「「「......!」」」


 狼狽しているガルダに、先程聖火崎を助けた少女は追い打ちをかけるようにそう言った。その少女の姿を見るなり、その場にいたほぼ全員がんっと息を呑んだ。それは、鐘音とガルダも同様である。

 ......少女は、ピンクの、桃色の髪に、雨上がりの空のような清々しくもどこか優しい空色の瞳。紺色の大きな帽子に同色のローブとスカートは、人々が真っ先に連想できる"魔女"のイメージを具現化したような物であった。

 手には赤紫色の宝石で装飾された大きな箒を持ち、少し小柄なその体からは少し弱々しいが溢れんばかりの神気を感じられる。

 帝亜羅はその姿に、どこか既視感を感じたが、それでも本当にその人物であるという確証を得られずにその場でまごついていた。


「アヴィ、ぅえっ......」

「......!」


 聖火崎がその少女の名前を呼ぼうとして込み上げてくる嗚咽おえつに邪魔されてそれが叶わなかった瞬間に、帝亜羅はまた息を呑んだ。



 ──────────────To Be Continued──────────────


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