Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

28話3Part 異世界生物達の冬休み③

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「なので、日本の酒蔵でお酒を~とかができるようになるんですっ!!............すっ......すぅ......!」


 何かが感極まったのか、ガッツポーズをしてぷるぷると小刻みに震えている或斗を、それほどお酒が好きなんだなぁ......と帝亜羅は少しだけ羨ましそうに笑いながら見つめている。


「つまりそれって、成人よね?おめでたな席ってことよね?ね?」

「ああ、そういうことだ!!」


 そんな或斗に向かって聖火崎が言い寄り、それに元気よく返事を返す或斗。


「そういうことなら酒よ!酒飲みましょう!!」

「酒だ!!」

「まぁまぁまぁ」

「おっとっと」


 もう既に酔っ払いのテンションで、互いのグラスに度数の高い酒を注ぎ合う2人。


「あたし達もジュース飲も!後になると炭酸抜けちゃって美味しさ半減するから、飲み切っちゃいたいし!」

「そ、そうだね!」

「そっちのコーラ取って」

「どーぞべるねっち!」

「ありがと」


 そんな2人に触発されたのか、鐘音、帝亜羅、梓の高校生3人組もジュースをコップに入れていく。


「んっくんっく......ぷはっ、くう~っ!やっぱりこっちの酒はいいわね!!」

「ウィズオートの方の酒は、何というかエグ味があって、不味くはないが日常的に飲みたくなるほど美味しい訳でもないからな」

「そうなのよね~......かといって、ヴァルハラに酒を飲むためだけに行くのもな~って感じなのよ~。ウィズオートでヴァルハラに泊まりに行けるような金を持ってる時点で、そこそこ金持ちだし......まあ、ヴァルハラの宿代が高いわけじゃないんだけど」

「国の財布と貴族、聖職者らの懐にある分で半分、残りは街の中でそこそこ金持ってる奴らで3割8分、貧民や奴隷達で1割2分くらいか。貧富の差が激しすぎる」

「しかも金持ってる奴の人数は総国民の2分の1もないのよ。嫌な現状だわ」

「本当だな」

「本当にね」


 酒の話からいつのまにか皇国の財政事情の話になり、渋い顔をしながら話す2人。しかし、料理を食べ進める速度だけは一切落ちていない。


「はああ゛~......このまま、魔王軍にでも入ろうかしら~......」

「貴様、仮にも勇者だろう」

「仮にもってなによ仮にもって......私としては、魔王軍みたいにいさぎよいくらいくらい弱肉強食な方が分かりやすくていいわ」

「魔界も魔王軍も、そこまで野性的ではないぞ。文明や街もあるし、部族同士の争いこそあれど、話し合いで解決することだってあるしな」

「そうだとしても、ウィズオートみたいにねちっこく生かさず殺さずやったり、自分の手は汚さないで邪魔な奴を消したりとかないでしょ?」

「......まあ、一概にないとは言いきれんが、そうかもしれんな。国民性の違い、というやつか」

「かも、ね。ったく......ウィズオートの皇帝クソジジイも、元はいい皇帝様だったんでしょうけどね......ほら、あれよ。絶対的権力は絶対的に腐敗する、ってやつ」

「なるほど」


 楽しい酒の席にはあまり向かない話だが、聖火崎と或斗は延々と話し込んでいた。

 その頃既に開始してから30分ほど経っており、高校生3人組は料理は一通り食べ終え、お菓子コースに移るところで、奥の部屋から出てきた沙流川も合流して食事を共にしている。的李はちびちびと焼酎を口にしつつ、窓の外の明石の夜景をぼーっと見つめている。


「......ねね、」

「ん?どした?」


 望桜がそんな一同の様子を眺めつつぼんやりしている所に、瑠凪がサイダーの入ったコップを持ってゆっくりとこちらに寄ってきた。

 そしてそのまま横にちょこんと座り、コップを机に置く。カラン、とコップの中で氷が鳴って、刹那、望桜はどこか空気がぴしっと締まったのを感じた。


「昨日のあの時、なんか言ってたじゃん。あれ何だったの?」

「え、あー......」


 すっと望桜の顔を見据えてそう訊ねる瑠凪の意図を、望桜はすっと察して返事を濁す。

 ......昨日のあの時、とは、東京湾から突然出てきた海獣......レヴィアタンに何らかの操作魔法が掛けられていると踏んだ望桜と瑠凪が、それを解くべくレヴィアタンを無力化してそれを実行しにかかった時のことだ。

 ......そういえば......そう、望桜はあの時のことを思い返す。


「あの時、俺はレヴィアタンにかかってるって思ってた操作魔法的なやつとか色々を、解けなかった」

「......え?」


 思えば、瑠凪には言ってはいなかったが、望桜の感覚ではあの時レヴィアタンの魔法を解くことはできなかった。

 そればかりか、


「......いや、それだけじゃない。あいつレヴィアタンにかかってたの、操作魔法じゃなかった」

「え......えと、それって、どういうこと......?」

「あいつはやっぱり、死んでた。だからあいつにかかってたのは、操作魔法じゃなくて死霊魔法......ネクロマンシーの類だった」


 やや困惑した表情の瑠凪を、望桜はしっかりと見つめたまま答えてやった。


「へ......?」

「ネクロマンシー、だから敵方に死霊魔法が使える奴がいるんだろ」

「ん............そっか、そういうことね」


 望桜が返答してから、瑠凪は大きな目をすっと伏せてぐっ......と震えている。ふいと見ると、小さな手にはグッと力が込められて、固く握られた拳を形作っていた。


「......確かに僕達悪魔は、人間に被虐の限りを尽くした......でも、だからって......」

「......」

「......酷いことをされた方が、その酷いことをしてきた奴らにどんなことを仕返しても、良いわけない......良い、はずがないのに......」


 ......約8000年前の、第壱弦聖邪戦争。それを身を以ては知らない望桜でも、書面上の数字としてはどんな事が当時起こったのかはしっかりと把握していた。

 人間側の被害の筆頭は、当時南方に攻め込んだアスモデウス軍による大量殺害の犠牲となった160万人超。

 他は、数はアスモデウスの足元にも及ばないが、西方を攻めたレヴィアタン軍によってやられた10数万人、アスタロトによる情報調査の犠牲になり虐殺された約8万人など......戦争による被害としてはかなり大きな数字である。

 第壱弦を除いても、昔からあまり変わらないウィズオートの総人口およそ9億人という数字は、聖邪戦争が起こる度にぐんと数を減らし、多い時には1000万人も減るという減少っぷりだ。

 その数字をその事を知らぬ人間に見せれば、100人が100人、悪魔は極悪な人間の敵という印象を持ち、"悪魔"という種族の事を忌み嫌うだろう。


「............それに、僕達だって、戦争ごとに同じようにやられてるんだよ......?それなのに、人間側ばかり酷いことされただとか家族が殺されただとかって騒ぎ立てるの、おかしいよ......」

「......!」


 ......だが、前述した数字は言わば"人間"側のみの被害の話だ。

 望桜の記憶の中でも140年前も今も、ライトノベルや漫画等ではこぞって、人間陣営の被害ばかりがクローズアップされている作品がほとんどだった。

 思えば、人間が書く物だからなのか魔王や悪魔等の人外を主人公や主要キャラに置いている作品であっても、そういった部分は人間陣営の被害の話しかしなかったりする。

 望桜も、今までそれを気にする事など無に等しかったのだが......


「っく、ぇ......」


 目の前で涙混じりに、悪魔も人間と同様に被害を受けていると述べる"悪魔"の姿を見れば、そちら側の被害の事にも目を向けざるを得なくなってしまう。

 それに合わせて、望桜はほぼなんの能力も持たぬ無才な人間(純血ではない)ではあるが一応魔王職務を全う(?)した事で、魔王陣営目線での悪魔側の被害の数字を把握もしている。

 だからこそ、人間が涙ながらに「悪魔に家族を残酷に殺され、村を焼かれ、国を壊されました」と嘆くのとほぼ同じ頃に、悪魔が「人間に父親を生きたままバラバラにされて、その遺体にすら散々な辱めを受けさせました」と泣いている悪魔もいたのかもしれない。

 だが、


「瑠凪、」

「......なに、」

「お前らの所は、1番最初、悪魔側が先に人間の領土に踏み込んだのか?」

「......ぐすっ......」


 望桜のそんな言い草に、瑠凪は鼻をすする音で返した後に、


「そんな、ベタなアニメ的な話してないよ......」


 と、小さく落ち込んだようにぼやいた。


「......僕らの世界もそんなふうに善悪分かりやすくなってれば良かったんだけどね」


 瑠凪の皮肉じみた言い回しは、望桜に下界人間界と魔界のややこしそうな世界情勢の色々を想像させた。


「僕らの世界は元々、どっかの阿呆な神様が使いである天使に、人間達に魔族は悪いやつだって伝えてきなさいって言ったのが最初なんだ」

「........は、」


 だが、そんな望桜の想像の斜め上の上を行く原初の大元の話に、望桜は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。



 ─────────────To Be Continued─────────────


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