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第5章 堕天使は聖教徒教会の
30話9Part 宣戦布告⑨
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色々悶々と考えていると、或斗の額にそこそこ太い枝がゴンッ!!と鈍い音を立てながら当たってきた。
「痛......くない......」
かなり急いで走っていた事もあって、先程の枝は折れてしまっているし、或斗の額からはやけに明るい色のどろっとした血が垂れてきている。
額に手を当てて、その次に傷を強く押してみて、額に強く押される感覚しかない事を確認して、或斗は安堵した。
その時点で、額にはもう乾いた血だけしか残っていない。
「はぁ......また反射で声が出てしまった......」
そんな事をぼやきながら、或斗は無意識のうちに寝転がっていた。
「......うー......」
特に意味のない呻き声を上げて横になったまま目を閉じていると、
「っ!?」
「ちょっと、こんな所で油売ってる場合じゃないんだけど?」
いきなりお腹に冷たい感触が襲ってきて、思わず飛び起きる。
目を開けると、笑いつつも不機嫌そうな聖火崎の顔が間近にあった。
手にはくしゃくしゃの紙と聖弓を持っていて、敵のものだろうか、服には点々とだが血が着いている。......恐らく、あの1度折れてガムテープで補強されている、やや貧弱な聖剣を使ったのだろう。
「ってか、あんた血塗れじゃない!!すごいわねそれ......」
そして、聖火崎の距離の近さに目を瞬かせていた或斗のあまりの赤さに、聖火崎もまた唖然としていた。
「あんた、まさしく血だるまじゃない......ふふっww」
「くっ、はははww」
お互いに返り血で血塗れなのがどことなく可笑しくなって、2人で笑い会う事10数秒。
聖火崎はすっ......と真面目な表情に切り替えて、南方領主やその周りの護衛兵やら色々について話すべく口を開く。
「......で、話戻すけど」
「俺達何か話してたか?」
或斗のツッコミとも取れそうな言動を置いておいて、聖火崎は続ける。
「まず、南方領主が自分の護衛に使ってる地方騎士団の1部の奴らだけど、私達が館で倒した分で結構減ったわよ」
「そうか......」
「ただ、1つ問題があって......」
あれだけの数で......?と少し物足りなさそうに相槌を打つ或斗はさて置き、聖火崎の表情は一転して暗い、深刻そうなものとなった。
「私、今日あんたに、アズライールのこと聞いたわよね?」
「ああ、まあ。聞いてきたな」
「それが............居るらしいのよ、ここに」
「..................は?」
あまりの衝撃に、目を見開いて"もう1回言ってくれ......"とジェスチャーに成りきらないジェスチャーを或斗は聖火崎に見せて、聖火崎もまた、信じられないんだけど......と自身の色々を疑いながら再び口にする。
「............アズライールが、ここに......」
「......嘘だろ?」
「本当よ」
「作り話だよな?」
「疑りようのない事実よ」
「虚言だと言ってくれ!!」
「信じられないけどめちゃくちゃマジなのよ!!」
「......」
「......」
「「......、」」
バタバタバタバタ......と森から鳥が飛び去っていく音が耳に入ってきて、2人ははっと我に返った。
「なんでこんな偶然が起きるんだ?はっ、お前まさか......!」
「ちっがうわよあんた嵌めて私になんの得があんのよ!!」
2人の大声にまた遠くの鳥が飛び去って、2人は漸く本題に戻る事ができた。
その頃には、2人とも息が上がってはあ、はあ......と互いに喘ぎつつの情報交換となった。
「......だから、すんなりやれるだろうな~と思ってたんだけどー......結構、手こずりそうなのよねー......」
困り顔で、けれども大して深刻そうに考えていないふうにいけしゃあしゃあと言ってのけた聖火崎は、そこまで好きでもない目上の相手に対して胡麻をする時のようなぎこちない笑みを浮かべている。
「どうするんだ......?アズライールはその気になれば、俺達2人くらい一瞬だぞ......?」
「やめて、想像したくない可能性をダイレクトに見せてくるのやめて」
はは、ははは......と乾いた笑い声を上げる聖火崎を横目で見ながら、物騒な事をやや遠回しに言いながら自身の首を親指でピッ、と横に切るような動作をする或斗。
そんな或斗を軽く睨んでから、聖火崎は先を話し始める。
「私はともかく、あんたは大丈夫と思いたいけどね。私は」
「は?」
そして、聖火崎から飛び出してきた意外な言葉に、或斗はさっと顔を顰めた。
「だって、あんた達は兄弟なんでしょ?」
「え......あ、いや、俺達以外にも結構いたし本当に同い年かどうかは分からんから、俺達だけが兄弟かと言われると微妙だが......」
「細かい事はどうでもいいのよ。年がどうとかそういうの」
「どうでも......いい......?」
「あんた達2人が互いの事を兄弟だと思うなら、兄弟だろうが親友だろうが好きなように思ってればいいわ。でも、私から見たら、多分アズライールの方はあんたのことを弟みたいに思ってると思う。それも結構、大事にしてる方」
「弟............?大事、に............?」
或斗には自覚はないらしいが、聖火崎には少なくとも、そう見えたのだ。
何故なら、"成り代わり"の件で手を汚させこそさせたものの、見た目を変えるための代償であるあの時の"2人"の命を奪う、その手立ては全てアズライールがやっていたからだ。
或斗目線での記憶を見ただけでは絶対とは言いきれないものの、或斗が殺そうとしていた"彼"が或斗の事を自身の兄弟と至近距離で見間違えた事から、アズライールが先に殺しを行ったのではないだろうか。
或斗の見た目を変える代償を自身のターゲットの命に設定して、予め先にその"代償"を払っておく事で、或斗が殺害に手こずる事がないように手回ししていたように聖火崎には思えた。
......そんな感じの、相手を気遣い、1つ1つの事に対して自ずから手を差し伸べるような事を、"自分が導かなくては"と思っている相手以外に対してやるだろうか?
アズライールは或斗と自分が"兄弟"同然の仲だと思っていて、その上でその行為を行っているのなら、アズライールは自分が弟を守るべき兄だと自覚と責任を持って行動している。
そう言ってしまっても、別に過言ではないんじゃなかろうか。聖火崎の考えは、そういうものだった。
「例え、敵同士で自分は相手を殺せるって確信があったとしても、大切な相手をいざ前にすると、人間って動けないものよ」
「............そういう、もの......なのか......?」
聖火崎の言葉に、まるで理解が追い付いていない或斗。
「天界でどうかは知らないけど、少なくともウィズオートではそうなの」
「.............、......」
「......どんな身分になっても、どんな仕打ちをされても、大切だった人っていう面影や記憶がちらついて......覚悟を決めていたのに結局は殺すことができなくて、大切な人諸共処刑された......そんな人を、私は沢山見てきた。だからきっと、そういうものなのよ」
そんな或斗に、聖火崎はまるで世界で"あたりまえ"の範疇に入る事を小さいわが子に丁寧に教え込むかのようにゆっくりと、けれどもしつこくなりすぎないようにつらりつらりと語りかけた。
「......そう、か......」
或斗はその空気に絆されてしまったのかされていないのか、そのまま目を閉じて口許をふっ......と綻ばせて、穏やかに笑っている。
その姿は、今までのちょっと抜けたような明るくて子供っぽい姿も、仮にも社会人として生活している者としてのちゃんとした大人な姿も鳴りを潜めていて、ただただ、
「......、」
......ただただ、魂のない人形がそっと顔を伏せて風に揺られているかのように、感情のない瞳を瞼の奥にしまったまま、ゆらゆらと揺れていた。
「............ぶふっ、くふふふふ、はははっwww」
「ちょ、お前なんで笑っ......くくww、ああ、なるほどなww」
結構神妙な心境でぼーっと している自身の姿を見ていた聖火崎がいきなり笑い始めたので咄嗟に声を上げかけたが、自身の服を見てすぐに何かに納得し、或斗も釣られて笑い始めた。
......夜の風に吹かれて、切なげに揺れる青年......しかし、その景色を彩るのは優しい月の光ではなく、赤くて厚い雲のフィルターを通って届く何となく不快な日の光。
それに加えて、ありえないくらいの返り血で赤く染った全身はまだいいのだが、青年......或斗が今現在着ているパーカーの腹に堂々と鎮座する、"nyao!!"という単語を睨みながら鼻の穴をおっぴろげるという間抜け面を晒している猫のイラストが、絵になりそうな雰囲気を華麗に崩している。
そんなあまりにも綺麗すぎるミスマッチに、笑いを堪える努力を簡単に潰されて聖火崎は失笑してしまった。
真面目な空気も、聖火崎が吹き出した音によって気怠そうに溶けて地面に沈んでいってしまった。今はその跡形すらも残されていない。
「まあ、大丈夫よ。多分、今日は私達は死なない。なんかそんな気がするわ」
恐らく今日だけで少なく見積って10数人は殺してしまったかもしれない聖火崎は、そんなに気にしてなさそうにさらりとそう言った。
「まあ確証はないが、俺も何となくそんな気が......事前に的李さんにでも確認を取っておけばよかったかもな、俺達は今日死なないですよね?って」
「今からでも遅くないんじゃない?ww」
「やめておけ。どうせ自業自得だと言われるだろう」
「そうねww」
冗談じみた会話をしながらも足を動かし始めてから数分後、
「......お、あったあった!ここだけ人が多いから、分かりやすいわね~」
「木に囲まれてて見えにくかったが、この位まで来ればな」
森の鬱蒼とした木々にて目立たなかった南方の離屋敷が、領主の護衛のために集まった騎士達や使用人達のざわめきと共に現れた。
......否、50m程まで来た所で犇めく木々の小さな隙間からでも分かるほど、離屋敷から人気が放たれていたのだ。
いきなりやってきた勇者と謎の青年からの襲撃を受けた、領主様を狙っているから守れ等々......集まった人々から発せられる、焦りの滲んだ声だけが2人の耳に続々と飛び込んで来ている。
「さて、やりましょう!」
「だな!!」
2人が大声で互いに交わした合図に反応して飛びかかってきた騎士達を、
「そぉらっ!!」
「っと、」
聖火崎と或斗は華麗にいなし、周囲の騎士達に敵襲を知らせるラッパの音を愉快そうに聞いたのだった。
────────────To Be Continued──────────────
「痛......くない......」
かなり急いで走っていた事もあって、先程の枝は折れてしまっているし、或斗の額からはやけに明るい色のどろっとした血が垂れてきている。
額に手を当てて、その次に傷を強く押してみて、額に強く押される感覚しかない事を確認して、或斗は安堵した。
その時点で、額にはもう乾いた血だけしか残っていない。
「はぁ......また反射で声が出てしまった......」
そんな事をぼやきながら、或斗は無意識のうちに寝転がっていた。
「......うー......」
特に意味のない呻き声を上げて横になったまま目を閉じていると、
「っ!?」
「ちょっと、こんな所で油売ってる場合じゃないんだけど?」
いきなりお腹に冷たい感触が襲ってきて、思わず飛び起きる。
目を開けると、笑いつつも不機嫌そうな聖火崎の顔が間近にあった。
手にはくしゃくしゃの紙と聖弓を持っていて、敵のものだろうか、服には点々とだが血が着いている。......恐らく、あの1度折れてガムテープで補強されている、やや貧弱な聖剣を使ったのだろう。
「ってか、あんた血塗れじゃない!!すごいわねそれ......」
そして、聖火崎の距離の近さに目を瞬かせていた或斗のあまりの赤さに、聖火崎もまた唖然としていた。
「あんた、まさしく血だるまじゃない......ふふっww」
「くっ、はははww」
お互いに返り血で血塗れなのがどことなく可笑しくなって、2人で笑い会う事10数秒。
聖火崎はすっ......と真面目な表情に切り替えて、南方領主やその周りの護衛兵やら色々について話すべく口を開く。
「......で、話戻すけど」
「俺達何か話してたか?」
或斗のツッコミとも取れそうな言動を置いておいて、聖火崎は続ける。
「まず、南方領主が自分の護衛に使ってる地方騎士団の1部の奴らだけど、私達が館で倒した分で結構減ったわよ」
「そうか......」
「ただ、1つ問題があって......」
あれだけの数で......?と少し物足りなさそうに相槌を打つ或斗はさて置き、聖火崎の表情は一転して暗い、深刻そうなものとなった。
「私、今日あんたに、アズライールのこと聞いたわよね?」
「ああ、まあ。聞いてきたな」
「それが............居るらしいのよ、ここに」
「..................は?」
あまりの衝撃に、目を見開いて"もう1回言ってくれ......"とジェスチャーに成りきらないジェスチャーを或斗は聖火崎に見せて、聖火崎もまた、信じられないんだけど......と自身の色々を疑いながら再び口にする。
「............アズライールが、ここに......」
「......嘘だろ?」
「本当よ」
「作り話だよな?」
「疑りようのない事実よ」
「虚言だと言ってくれ!!」
「信じられないけどめちゃくちゃマジなのよ!!」
「......」
「......」
「「......、」」
バタバタバタバタ......と森から鳥が飛び去っていく音が耳に入ってきて、2人ははっと我に返った。
「なんでこんな偶然が起きるんだ?はっ、お前まさか......!」
「ちっがうわよあんた嵌めて私になんの得があんのよ!!」
2人の大声にまた遠くの鳥が飛び去って、2人は漸く本題に戻る事ができた。
その頃には、2人とも息が上がってはあ、はあ......と互いに喘ぎつつの情報交換となった。
「......だから、すんなりやれるだろうな~と思ってたんだけどー......結構、手こずりそうなのよねー......」
困り顔で、けれども大して深刻そうに考えていないふうにいけしゃあしゃあと言ってのけた聖火崎は、そこまで好きでもない目上の相手に対して胡麻をする時のようなぎこちない笑みを浮かべている。
「どうするんだ......?アズライールはその気になれば、俺達2人くらい一瞬だぞ......?」
「やめて、想像したくない可能性をダイレクトに見せてくるのやめて」
はは、ははは......と乾いた笑い声を上げる聖火崎を横目で見ながら、物騒な事をやや遠回しに言いながら自身の首を親指でピッ、と横に切るような動作をする或斗。
そんな或斗を軽く睨んでから、聖火崎は先を話し始める。
「私はともかく、あんたは大丈夫と思いたいけどね。私は」
「は?」
そして、聖火崎から飛び出してきた意外な言葉に、或斗はさっと顔を顰めた。
「だって、あんた達は兄弟なんでしょ?」
「え......あ、いや、俺達以外にも結構いたし本当に同い年かどうかは分からんから、俺達だけが兄弟かと言われると微妙だが......」
「細かい事はどうでもいいのよ。年がどうとかそういうの」
「どうでも......いい......?」
「あんた達2人が互いの事を兄弟だと思うなら、兄弟だろうが親友だろうが好きなように思ってればいいわ。でも、私から見たら、多分アズライールの方はあんたのことを弟みたいに思ってると思う。それも結構、大事にしてる方」
「弟............?大事、に............?」
或斗には自覚はないらしいが、聖火崎には少なくとも、そう見えたのだ。
何故なら、"成り代わり"の件で手を汚させこそさせたものの、見た目を変えるための代償であるあの時の"2人"の命を奪う、その手立ては全てアズライールがやっていたからだ。
或斗目線での記憶を見ただけでは絶対とは言いきれないものの、或斗が殺そうとしていた"彼"が或斗の事を自身の兄弟と至近距離で見間違えた事から、アズライールが先に殺しを行ったのではないだろうか。
或斗の見た目を変える代償を自身のターゲットの命に設定して、予め先にその"代償"を払っておく事で、或斗が殺害に手こずる事がないように手回ししていたように聖火崎には思えた。
......そんな感じの、相手を気遣い、1つ1つの事に対して自ずから手を差し伸べるような事を、"自分が導かなくては"と思っている相手以外に対してやるだろうか?
アズライールは或斗と自分が"兄弟"同然の仲だと思っていて、その上でその行為を行っているのなら、アズライールは自分が弟を守るべき兄だと自覚と責任を持って行動している。
そう言ってしまっても、別に過言ではないんじゃなかろうか。聖火崎の考えは、そういうものだった。
「例え、敵同士で自分は相手を殺せるって確信があったとしても、大切な相手をいざ前にすると、人間って動けないものよ」
「............そういう、もの......なのか......?」
聖火崎の言葉に、まるで理解が追い付いていない或斗。
「天界でどうかは知らないけど、少なくともウィズオートではそうなの」
「.............、......」
「......どんな身分になっても、どんな仕打ちをされても、大切だった人っていう面影や記憶がちらついて......覚悟を決めていたのに結局は殺すことができなくて、大切な人諸共処刑された......そんな人を、私は沢山見てきた。だからきっと、そういうものなのよ」
そんな或斗に、聖火崎はまるで世界で"あたりまえ"の範疇に入る事を小さいわが子に丁寧に教え込むかのようにゆっくりと、けれどもしつこくなりすぎないようにつらりつらりと語りかけた。
「......そう、か......」
或斗はその空気に絆されてしまったのかされていないのか、そのまま目を閉じて口許をふっ......と綻ばせて、穏やかに笑っている。
その姿は、今までのちょっと抜けたような明るくて子供っぽい姿も、仮にも社会人として生活している者としてのちゃんとした大人な姿も鳴りを潜めていて、ただただ、
「......、」
......ただただ、魂のない人形がそっと顔を伏せて風に揺られているかのように、感情のない瞳を瞼の奥にしまったまま、ゆらゆらと揺れていた。
「............ぶふっ、くふふふふ、はははっwww」
「ちょ、お前なんで笑っ......くくww、ああ、なるほどなww」
結構神妙な心境でぼーっと している自身の姿を見ていた聖火崎がいきなり笑い始めたので咄嗟に声を上げかけたが、自身の服を見てすぐに何かに納得し、或斗も釣られて笑い始めた。
......夜の風に吹かれて、切なげに揺れる青年......しかし、その景色を彩るのは優しい月の光ではなく、赤くて厚い雲のフィルターを通って届く何となく不快な日の光。
それに加えて、ありえないくらいの返り血で赤く染った全身はまだいいのだが、青年......或斗が今現在着ているパーカーの腹に堂々と鎮座する、"nyao!!"という単語を睨みながら鼻の穴をおっぴろげるという間抜け面を晒している猫のイラストが、絵になりそうな雰囲気を華麗に崩している。
そんなあまりにも綺麗すぎるミスマッチに、笑いを堪える努力を簡単に潰されて聖火崎は失笑してしまった。
真面目な空気も、聖火崎が吹き出した音によって気怠そうに溶けて地面に沈んでいってしまった。今はその跡形すらも残されていない。
「まあ、大丈夫よ。多分、今日は私達は死なない。なんかそんな気がするわ」
恐らく今日だけで少なく見積って10数人は殺してしまったかもしれない聖火崎は、そんなに気にしてなさそうにさらりとそう言った。
「まあ確証はないが、俺も何となくそんな気が......事前に的李さんにでも確認を取っておけばよかったかもな、俺達は今日死なないですよね?って」
「今からでも遅くないんじゃない?ww」
「やめておけ。どうせ自業自得だと言われるだろう」
「そうねww」
冗談じみた会話をしながらも足を動かし始めてから数分後、
「......お、あったあった!ここだけ人が多いから、分かりやすいわね~」
「木に囲まれてて見えにくかったが、この位まで来ればな」
森の鬱蒼とした木々にて目立たなかった南方の離屋敷が、領主の護衛のために集まった騎士達や使用人達のざわめきと共に現れた。
......否、50m程まで来た所で犇めく木々の小さな隙間からでも分かるほど、離屋敷から人気が放たれていたのだ。
いきなりやってきた勇者と謎の青年からの襲撃を受けた、領主様を狙っているから守れ等々......集まった人々から発せられる、焦りの滲んだ声だけが2人の耳に続々と飛び込んで来ている。
「さて、やりましょう!」
「だな!!」
2人が大声で互いに交わした合図に反応して飛びかかってきた騎士達を、
「そぉらっ!!」
「っと、」
聖火崎と或斗は華麗にいなし、周囲の騎士達に敵襲を知らせるラッパの音を愉快そうに聞いたのだった。
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