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予定外の攻略
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雲梯車が、じわじわとアルードの関――その城壁へと近づいていく。
もう間もなく、雲梯車の機構――梯子が、壁へと掛けられる頃合いだろう。そして俺たちは、その梯子が掛けられると共に城壁へと上がり、そのまま内部を制圧する。
たった二十人という数だが、狭い関の中での戦いならば、基本的に俺の独壇場だ。一斉に掛かってくることができる敵など、狭い関の中ではせいぜい三名といったところであり、三人くらいならば一度に掛かってこられても蹴散らせる。
だが雲梯車が壁に近づいてくるにつれて、俺はつんと鼻をつく独特の臭い――それに、思わず声を上げた。
「おいっ! 油が撒かれてるぞ!!」
「なっ!?」
先程から、何度もかん、かん、と矢を弾く音が、盾から聞こえる。
それと共に、盾から垂れてきたのはどろりとした液体――油だ。恐らく、矢に油袋を括り付けて放ってきたのだろう。
その油が、既に雲梯車――その全体を覆っている。
そして、雲梯車は木製だ。燃えにくいように加工はしているだろうけれど、大量の油の前ではそんな加工などさしたる意味もない。
「火矢を放てぇっ!!」
そんな叫びが、敵の城壁から聞こえてくると共に。
近づくまで、入念に準備をしていたのだろう。一斉に、先端に火の点いた矢が雲梯車へ向けて放たれる。
壁まで、あと少しだというのに。
もう少し近づくことができれば、梯子を掛けることができる――その位置まで、敵は待っていたのだ。
「こ、こいつは不味いぞい! 隊長!」
「くっ……飛び降りるのは……」
「隊長には出来ても、わしらには無理じゃ! 落ちたら死ぬ高さじゃぞ!」
「ちっ……」
俺一人ならば、落ちてもどうにか命は助かると思う。
だけれど、ナッシュやグランド――『切り込み隊』の兵士たちは、無事では済むまい。最悪、俺が隊長に就任して初めて死人を出すことにもなってしまう。
ならば、どうすればいいか――考える。
今にも燃えようとしている雲梯車――その構造は、畳んである梯子を相手の城壁へ向けて落とし、雲梯車と壁の間に梯子を掛けるものだ。
つまり、最悪――その梯子を掛けることさえ諦めれば、梯子から降りることができる。
「ナッシュ! グランド! 全員を率いて、お前らは一旦、雲梯車から降りろ! 梯子が燃える前に、急げ!」
「う、うす!!」
「た、隊長はどうするつもりなんですかい!?」
「決まってんだろ!」
ここは、雲梯車の上。
つまり、地上よりは壁の頂上に近い。残念ながら縄はないけれど、それでも俺ならば登れる――そう確信できた。
二十人での襲撃から、俺一人の襲撃に変わるだけ。
そして、俺一人で関の内部を制圧し、そのまま門を開けるだけのことだ。
「俺は行く! お前らは、雲梯車が崩れないうちに降りろ!」
「う、うす!」
「隊長、生きて戻れよ! わしの孫、ちゃんと抱くんじゃぞ!」
「分かってらぁ!! おい! 聞こえたか! 雲梯車止めろっ!!」
俺がそう叫び、雲梯車の動きが止まる。
むしろ、下で押している連中の方が、燃えて落ちてきた木材のせいで逃げ出している始末だ。この調子で、城壁に梯子を掛けることはできまい。
今のところ地上へ向けて降りている梯子を伝って、部下たちが降りていくのを見届けて。
俺は大きく息を吐いて、雲梯車の狭い空間――そこで最大限の助走をつけて、アルードの関へと跳んだ。
「ふんっ!!」
石造りの壁――そこには、少なからず凹凸がある。
その突き出した部分に指を掛け、己の体重を支える。普段上っている縄よりも大分きついが、それでも地上から向かうよりはましというものだ。
天辺に狭間胸壁がないおかげで、上から矢に射られる心配もない。そして、向こうが戦況を確認しているのは、壁に空いている穴からなのだ。つまり、俺が壁に張り付いている現状というのは、向こうにとって死角となる。
その間に、気付かれないように上る――容易いことだ。
「くっ……」
石の出っ張りを掴み、体を引っ張り上げ、次の出っ張りを探す。
足を掛けている部分が滑り、一気に重さが腕へと掛かり、思わず顔をしかめた。
気合いを入れて、俺はどうにか体を上に上げていく。
まったくもって、信じがたい。
この戦争が始まってから、上層部の作戦が上手くいった例が、今のところない。レオナと一緒に向かった、王族の捕縛くらいのものだろうか。
竜尾谷では待ち伏せされるし、雲梯車は最初から対策を練られているし、無茶苦茶にも程がある。
そういうの全部どうにかするのって、現場なんですよね!
「う、おぉっ!!」
どうにか、壁の天辺へと手を掛け、一気に体を上げる。
壁の頂上には柵の一つもなく、下手に動けば落ちる可能性が高い。そのためか、見張りの兵も全く見えなかった。恐らく、見張りは城壁の穴から見れば十分だと思っているのだろう。まぁ、こんな壁素手で上ってくるとか、普通想定しないだろうし。
両手に手斧を構えて、俺は関の中央――やや突き出た部分へと向かう。恐らく、あそこに下に降りる階段があるだろう。
俺の目論見通り、そこには階段が見えた。
しかし普段、全く使っていないのだろう。小部屋のように突き出たそこは、埃まみれである。まぁこんな、ちょっと転んだだけで命の危機を感じるような場所には、誰も行きたくないだろうし。
警戒しながら、俺はその階段を降りて。
「えっ……」
「――っ!」
そこを、巡回していたのだろう兵士――その目が合った、次の瞬間。
俺は、手斧を投げていた。
一瞬の出来事に声も発することなく、俺の斧が敵兵の首に突き刺さる。倒れたのを確認してから、俺は近づいて手斧を回収した。
さぁ、ここからは。
俺が暴れるだけだ。
「うおおおおおおおおお!!!」
「な、なんで『ガーランドの死神』がここに!?」
「うぎゃああああ!!」
「に、逃げっ……!」
「し、死にたくねぇ……!」
階下に降りると共に、俺の目の前に現れた兵士たち――そこに向けて、俺は雄叫びと共に駆け出した。
恐らく、ここから矢を放っていたのだろう。壁に空いている穴に矢を設置し、見張っている兵たち――それが、全く想定していなかったとばかりに叫び声を上げた。
向こうからすれば、俺がこうして侵入していることも全く考えていなかっただろう。そもそも戦争で、こんな俺一人だけで砦に侵入するとか……思い出すと、結構あったわ。大概、レインからの無茶ぶりで始まった一人無双が。
「死にたい奴から前に出ろやぁっ!!」
斧を振るい、敵兵を刈る。
半ば、全部の作戦失敗しやがって、という上層部への怒りも含めながら。
もう間もなく、雲梯車の機構――梯子が、壁へと掛けられる頃合いだろう。そして俺たちは、その梯子が掛けられると共に城壁へと上がり、そのまま内部を制圧する。
たった二十人という数だが、狭い関の中での戦いならば、基本的に俺の独壇場だ。一斉に掛かってくることができる敵など、狭い関の中ではせいぜい三名といったところであり、三人くらいならば一度に掛かってこられても蹴散らせる。
だが雲梯車が壁に近づいてくるにつれて、俺はつんと鼻をつく独特の臭い――それに、思わず声を上げた。
「おいっ! 油が撒かれてるぞ!!」
「なっ!?」
先程から、何度もかん、かん、と矢を弾く音が、盾から聞こえる。
それと共に、盾から垂れてきたのはどろりとした液体――油だ。恐らく、矢に油袋を括り付けて放ってきたのだろう。
その油が、既に雲梯車――その全体を覆っている。
そして、雲梯車は木製だ。燃えにくいように加工はしているだろうけれど、大量の油の前ではそんな加工などさしたる意味もない。
「火矢を放てぇっ!!」
そんな叫びが、敵の城壁から聞こえてくると共に。
近づくまで、入念に準備をしていたのだろう。一斉に、先端に火の点いた矢が雲梯車へ向けて放たれる。
壁まで、あと少しだというのに。
もう少し近づくことができれば、梯子を掛けることができる――その位置まで、敵は待っていたのだ。
「こ、こいつは不味いぞい! 隊長!」
「くっ……飛び降りるのは……」
「隊長には出来ても、わしらには無理じゃ! 落ちたら死ぬ高さじゃぞ!」
「ちっ……」
俺一人ならば、落ちてもどうにか命は助かると思う。
だけれど、ナッシュやグランド――『切り込み隊』の兵士たちは、無事では済むまい。最悪、俺が隊長に就任して初めて死人を出すことにもなってしまう。
ならば、どうすればいいか――考える。
今にも燃えようとしている雲梯車――その構造は、畳んである梯子を相手の城壁へ向けて落とし、雲梯車と壁の間に梯子を掛けるものだ。
つまり、最悪――その梯子を掛けることさえ諦めれば、梯子から降りることができる。
「ナッシュ! グランド! 全員を率いて、お前らは一旦、雲梯車から降りろ! 梯子が燃える前に、急げ!」
「う、うす!!」
「た、隊長はどうするつもりなんですかい!?」
「決まってんだろ!」
ここは、雲梯車の上。
つまり、地上よりは壁の頂上に近い。残念ながら縄はないけれど、それでも俺ならば登れる――そう確信できた。
二十人での襲撃から、俺一人の襲撃に変わるだけ。
そして、俺一人で関の内部を制圧し、そのまま門を開けるだけのことだ。
「俺は行く! お前らは、雲梯車が崩れないうちに降りろ!」
「う、うす!」
「隊長、生きて戻れよ! わしの孫、ちゃんと抱くんじゃぞ!」
「分かってらぁ!! おい! 聞こえたか! 雲梯車止めろっ!!」
俺がそう叫び、雲梯車の動きが止まる。
むしろ、下で押している連中の方が、燃えて落ちてきた木材のせいで逃げ出している始末だ。この調子で、城壁に梯子を掛けることはできまい。
今のところ地上へ向けて降りている梯子を伝って、部下たちが降りていくのを見届けて。
俺は大きく息を吐いて、雲梯車の狭い空間――そこで最大限の助走をつけて、アルードの関へと跳んだ。
「ふんっ!!」
石造りの壁――そこには、少なからず凹凸がある。
その突き出した部分に指を掛け、己の体重を支える。普段上っている縄よりも大分きついが、それでも地上から向かうよりはましというものだ。
天辺に狭間胸壁がないおかげで、上から矢に射られる心配もない。そして、向こうが戦況を確認しているのは、壁に空いている穴からなのだ。つまり、俺が壁に張り付いている現状というのは、向こうにとって死角となる。
その間に、気付かれないように上る――容易いことだ。
「くっ……」
石の出っ張りを掴み、体を引っ張り上げ、次の出っ張りを探す。
足を掛けている部分が滑り、一気に重さが腕へと掛かり、思わず顔をしかめた。
気合いを入れて、俺はどうにか体を上に上げていく。
まったくもって、信じがたい。
この戦争が始まってから、上層部の作戦が上手くいった例が、今のところない。レオナと一緒に向かった、王族の捕縛くらいのものだろうか。
竜尾谷では待ち伏せされるし、雲梯車は最初から対策を練られているし、無茶苦茶にも程がある。
そういうの全部どうにかするのって、現場なんですよね!
「う、おぉっ!!」
どうにか、壁の天辺へと手を掛け、一気に体を上げる。
壁の頂上には柵の一つもなく、下手に動けば落ちる可能性が高い。そのためか、見張りの兵も全く見えなかった。恐らく、見張りは城壁の穴から見れば十分だと思っているのだろう。まぁ、こんな壁素手で上ってくるとか、普通想定しないだろうし。
両手に手斧を構えて、俺は関の中央――やや突き出た部分へと向かう。恐らく、あそこに下に降りる階段があるだろう。
俺の目論見通り、そこには階段が見えた。
しかし普段、全く使っていないのだろう。小部屋のように突き出たそこは、埃まみれである。まぁこんな、ちょっと転んだだけで命の危機を感じるような場所には、誰も行きたくないだろうし。
警戒しながら、俺はその階段を降りて。
「えっ……」
「――っ!」
そこを、巡回していたのだろう兵士――その目が合った、次の瞬間。
俺は、手斧を投げていた。
一瞬の出来事に声も発することなく、俺の斧が敵兵の首に突き刺さる。倒れたのを確認してから、俺は近づいて手斧を回収した。
さぁ、ここからは。
俺が暴れるだけだ。
「うおおおおおおおおお!!!」
「な、なんで『ガーランドの死神』がここに!?」
「うぎゃああああ!!」
「に、逃げっ……!」
「し、死にたくねぇ……!」
階下に降りると共に、俺の目の前に現れた兵士たち――そこに向けて、俺は雄叫びと共に駆け出した。
恐らく、ここから矢を放っていたのだろう。壁に空いている穴に矢を設置し、見張っている兵たち――それが、全く想定していなかったとばかりに叫び声を上げた。
向こうからすれば、俺がこうして侵入していることも全く考えていなかっただろう。そもそも戦争で、こんな俺一人だけで砦に侵入するとか……思い出すと、結構あったわ。大概、レインからの無茶ぶりで始まった一人無双が。
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