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10cm先のラブソング
エピローグ
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十二月の冷たい風に頬を撫でられて、おれは思わず肩をすくめる。
気づけば今月も半ばを過ぎて、世間はすっかり年の瀬ムードになっていた。
お正月にはヒロと和威さんは実家に帰るだろうし、クリスマスだけでも一緒に過ごせたらいいな。でもヒロには大学から付き合ってる彼女がいるし、和威さんもお仕事で忙しいかも知れない。今度それとなく、予定だけでも聞いてみよう。
マンションのエントランスに立って、とりとめもなくそんな事を考えていると、見覚えのある白いセダンが遠くからやってきた。
「あ、柾さんおはよう。ごめんね、迎えに来てもらって」
おれの前で停まった車を覗き込んで、運転手にそう声をかけた。
今日はアルバムのジャケット撮影の日だから、スタジオまで柾さんが送ってくれることになっている。この後きいちゃんも迎えに行って、三人で現場に向かう。
「おはよう。ああ、ヨウ……こんな寒い中で待っていたの?そんな事しなくても上まで迎えに行ったのに、体を冷やして風邪でも引いたら大変じゃないか。だいたい君みたいな可愛い子がぼんやり立っていたら、妙な気を起こした輩が寄ってくるかもしれないだろう?危ないから次は僕が来るまで待っ」
「事前に連絡くれたんだから、二、三分しか待ってないよ。あと本気出したら、おれ柾さんよりも強いと思う」
怒涛のように話し続ける柾さんに返事をしつつ、おれは後部座席に乗り込んだ。柾さんはまだ何か喋っているけど、いつもの事なのでほどほどに聞き流す。おれを大切にしてくれているのは知ってるけど、流石にいろいろ行き過ぎだと思う。
そんなおれの態度を柾さんの方も特に気にしない。
これがおれ達の、いつも通りの光景だった。
車が発進するのを待って、仕事関係の連絡が来ていないかスマホを確認する。すると、一番上にあの人からのメッセージが通知されていた。
(和威さん……!)
なんとなく柾さんに気づかれないように、そっとメッセージを確認する。
『おはよう。今日仕事だったよな?体は大丈夫か』
素っ気ない気遣いの言葉に、二日前のことを思い出して顔が熱くなってしまう。あの時は夢中だったけど、後になって思い返すと物凄く恥ずかしい。
おれは、込み上げてくるいろいろな感情をごまかすように手を動かして、
『昨日一日休んだから平気。心配してくれてありがと』
と返信して、そのまま画面を閉じた。
和威さんは優しい人だ。
こんな関係になる前から、十歳も歳下の高校生だったおれを、ちゃんと対等の友人として扱ってくれていた。
あの頃は、その優しさが苦しくなってしまう時もあったけど、今はもう大丈夫。その暖かさを、まっすぐに受け取ることができる。
「ヨウ、どうしたの。何か良いことでもあった?」
「ん?……うーん、柾さんにはひみつ」
おれがそう言うと、柾さんはちょっと悲しそうな顔をした。申し訳ないとは思うけど、うっかり和威さんの話題を出したら、また喧嘩になるかもしれない。
おれの立場で言うべきじゃないのかもしれないけど、できれば二人には仲良くして欲しい。欲を言えば二人だけじゃなくて、おれの大切な人達がみんなみんな、おれのそばで笑っていてくれたらいいと思う。
窓の外を覗けば、遠くの方で二色の髪がぴょんぴょん跳ねるのが見えた。
おれにできるのは、歌うことだけ。
だから、こんな我儘な願い事も、全部全部歌に乗せよう。
おれの大切な人達に届けるための、ラブソングにして。
気づけば今月も半ばを過ぎて、世間はすっかり年の瀬ムードになっていた。
お正月にはヒロと和威さんは実家に帰るだろうし、クリスマスだけでも一緒に過ごせたらいいな。でもヒロには大学から付き合ってる彼女がいるし、和威さんもお仕事で忙しいかも知れない。今度それとなく、予定だけでも聞いてみよう。
マンションのエントランスに立って、とりとめもなくそんな事を考えていると、見覚えのある白いセダンが遠くからやってきた。
「あ、柾さんおはよう。ごめんね、迎えに来てもらって」
おれの前で停まった車を覗き込んで、運転手にそう声をかけた。
今日はアルバムのジャケット撮影の日だから、スタジオまで柾さんが送ってくれることになっている。この後きいちゃんも迎えに行って、三人で現場に向かう。
「おはよう。ああ、ヨウ……こんな寒い中で待っていたの?そんな事しなくても上まで迎えに行ったのに、体を冷やして風邪でも引いたら大変じゃないか。だいたい君みたいな可愛い子がぼんやり立っていたら、妙な気を起こした輩が寄ってくるかもしれないだろう?危ないから次は僕が来るまで待っ」
「事前に連絡くれたんだから、二、三分しか待ってないよ。あと本気出したら、おれ柾さんよりも強いと思う」
怒涛のように話し続ける柾さんに返事をしつつ、おれは後部座席に乗り込んだ。柾さんはまだ何か喋っているけど、いつもの事なのでほどほどに聞き流す。おれを大切にしてくれているのは知ってるけど、流石にいろいろ行き過ぎだと思う。
そんなおれの態度を柾さんの方も特に気にしない。
これがおれ達の、いつも通りの光景だった。
車が発進するのを待って、仕事関係の連絡が来ていないかスマホを確認する。すると、一番上にあの人からのメッセージが通知されていた。
(和威さん……!)
なんとなく柾さんに気づかれないように、そっとメッセージを確認する。
『おはよう。今日仕事だったよな?体は大丈夫か』
素っ気ない気遣いの言葉に、二日前のことを思い出して顔が熱くなってしまう。あの時は夢中だったけど、後になって思い返すと物凄く恥ずかしい。
おれは、込み上げてくるいろいろな感情をごまかすように手を動かして、
『昨日一日休んだから平気。心配してくれてありがと』
と返信して、そのまま画面を閉じた。
和威さんは優しい人だ。
こんな関係になる前から、十歳も歳下の高校生だったおれを、ちゃんと対等の友人として扱ってくれていた。
あの頃は、その優しさが苦しくなってしまう時もあったけど、今はもう大丈夫。その暖かさを、まっすぐに受け取ることができる。
「ヨウ、どうしたの。何か良いことでもあった?」
「ん?……うーん、柾さんにはひみつ」
おれがそう言うと、柾さんはちょっと悲しそうな顔をした。申し訳ないとは思うけど、うっかり和威さんの話題を出したら、また喧嘩になるかもしれない。
おれの立場で言うべきじゃないのかもしれないけど、できれば二人には仲良くして欲しい。欲を言えば二人だけじゃなくて、おれの大切な人達がみんなみんな、おれのそばで笑っていてくれたらいいと思う。
窓の外を覗けば、遠くの方で二色の髪がぴょんぴょん跳ねるのが見えた。
おれにできるのは、歌うことだけ。
だから、こんな我儘な願い事も、全部全部歌に乗せよう。
おれの大切な人達に届けるための、ラブソングにして。
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