魔術師が最強と謳われる国で、魔力ゼロの騎士団長の妻になりました。

村井 彰

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第一章 思い出と魔導具

4話 願うものは

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「どうして……っ」
  訳も分からないままアランの元に駆け寄って、その腕に触れる。その瞬間、手に伝わってきた生温かく濡れた感触に背筋が冷えた。
「間に合って、良かった……怪我はありませんか」
  そう言ってこちらへ視線を向けたアランの頬も、薄く裂けて血が滲んでいた。アランの右腕に触れていた自分の指の先が、べっとりと赤く濡れているのに気づいて息が出来なくなりそうだった。氷柱に裂かれて破れた白いシャツが、みるみるうちに鮮血に染まっていく。
「良くない……なにも良くないです! どうして庇ったりなんて……」
  裏返った自分の声をどこか遠くに聞きながら、ユリナは震える手で取り出したハンカチを引き裂いた。とにかく血を止めなくては。頭の中はそのことでいっぱいだった。
  細く裂いたハンカチで傷口の上をきつく縛ると、アランが痛みに少し顔を顰めながら言葉を零した。
「……どうしてなんて、聞かれるまでもない事ですよ。言ったじゃないですか、貴女より大切なものなんて無いと」
「……っ、だからって……こんなやり方で守られるくらいなら、自分が傷ついた方がマシです」
  ほとんど泣きそうになりながらユリナが発した言葉に、アランは一瞬目を逸らした。
「……それより、心配したんですよ。巡回の途中でたまたま孤児院に立ち寄ったら、今日貴女は来ていないと言われて。どうにも嫌な予感がして探し回ったんです」
  いつもより早口に告げられた言葉に、誤魔化されているのだとすぐに分かったが、隠し事をして出歩いていたのは事実だ。言い返したい言葉をぐっと飲み込んで、ユリナは高い位置にあるアランの顔を見上げた。
「……どうして、私がここにいると?」
「買い物帰りのご婦人に聞いたのです。市場の方で、上等な服を着た女性がひとりで歩いているのを見かけたと。それを聞いてすぐに市場へ向かおうとしたら、途中で争うような声が聞こえたものですから……」
  なるほど、だから彼はユリナが来たのとは反対の方向から駆けて来たのか。この路地の奥に面する別の通りから、一直線に探しに来てくれたのだろう。
「エマ……! エマ! しっかりしろ!」
  不意に、切羽詰まった少年の声が狭い路地に響いた。驚いてユリナが視線を向けた先には、地面に倒れたエマと、彼女に取すがるトムの姿があった。
「エマ……?! 一体どうしたの!」
「マナの欠乏症か……おい、あまり動かすな。そのまま少し休ませた方が良い」
  慌てて駆け寄ろうとしたユリナを片手で制して、アランがトムに声をかける。そのまま二人の近くに膝をついて、彼らに目線を合わせた。
「あの氷の刃……この子の魔術か? 魔導石の補助も無いのに、あれだけの力を使えば倒れるのは当たり前だ。なぜ学園に通わない? 親は? 仮にお前達に身寄りがなくても、この子に素質があるなら学園は受け入れるはずだ」
「それは……」
  口ごもるトムを見て、アランが小さく息を吐いた。
「成長と共に身の内に抱える魔力も大きくなって、制御が難しくなる。正しい扱い方を学ばないまま今のような暴走を繰り返せば、いずれ命に関わるぞ。お前も分かっているから止めようとしたんだろう」
「……そうだよ。言われなくても分かってんだよ、そんなこと」
「それなら、なぜ」
「……なぜ? あんた騎士団の人間なら聞かなくても分かるだろ。学園を出て魔術師になったら、戦争になった時、真っ先に連れ出されるからだよ。前の戦争ん時はそうだったんだろ。魔術師がいなきゃ、到底勝てなかったって。見ての通り、エマの魔術は明らかに戦いに向いてる。だったら次に同じ事が起きたら、今度はエマが……」
  絞り出すような少年の言葉に、今度はアランの方が口を噤んだ。
「トム……もしかして、孤児院に入らないのも、それが理由なの?」
  思わず口を挟んだユリナの方に、射るような鋭い瞳が向けられる。
「そうだよ。引退したって聞いてるけど、それでもあの先生は学園を出た魔術師で、国に管理されてる人間だ。そんなとこに入ったら、エマは確実に学園に入れられる。……おれは、絶対にエマを戦争なんかにやりたくない」
「管理だなんて……」
「孤児院のやつらに聞いたんだ。学園で渡される魔導石には、国章と一緒に、国が魔術師ひとりひとりに割り振った数字が彫られてるって。……それってつまり、なにかあった時に魔術師をひとり残らず呼び出すために、国が管理してるって事だろ。そんなの、タグ付けされた家畜と何が違うんだ」
  幼い少年の口から吐き出されるには不釣り合いな言葉の数々に、ユリナは何も言えなくなった。
  そうだ。今まで敢えて考えないようにしていたが、二十年以上前、この国が戦争をしていた頃には、ヘレンだって戦場に行ったはずなのだ。
  あの穏やかで優しい先生が、過去にはきっと、人を殺した事もある。
「……彼らが家畜なら、それを身を呈して守る我々は、一体何なんだろうな」
  アランがポツリと呟いた言葉は、ユリナの耳には届かない。地面に落としていた視線を少し上げて、アランは少年に向き直った。
「……確かに、お前の言う通りかも知れないな。王都の暮らしは、今や魔術師達の力によって成り立っている。それは、彼らに依存しているとも言えるし……彼らの力を搾取しているとも言える」
  トムは何も言わない。ただ、睨むような視線で、まっすぐにアランを見据えている。
「これから先、この国で戦が起きるかどうか、その時にその子が連れ出される事になるかどうか……今の私には分からない。先の事など誰にも分からないからな。……だが、ひとつ確実に言える事もある。このまま力を隠して生きていくとしても、どのみちその子を危険に晒し続ける事になるぞ」
「……んだよ。脅しのつもりか」
「そうじゃない。……先の戦で、魔導石を破壊されても無理に力を使い続けて命を失った魔術師が、何人もいたと聞いている。まさに、今のこの子と同じ状態だ。……お前達がどれほど危険な事をしているか、分かるか」
「…………」
  声にならない吐息を洩らして、トムがうつむく。対するアランの呼吸が少し苦しげなのは、傷のせいだけではなさそうだ。
「お前は建て前の綺麗事なんて聞きたくないだろう? だからはっきり言おう。魔術師は……彼らの力は、この国にとってあまりにも利用価値が高い。それ故に、その命も、生活も、誰より手厚く保証される。……だから、よく考えることだ。何が本当にその子のためになるのか。お前達がこれからどう生きるのか」
  利用価値。……その言葉を、アランはどんな気持ちで口にしたのだろう。平坦な彼の口調からは、なんの感情も読み取れない。
  何かを探るようにじっとアランを見つめていたトムは、不意に目を逸らして、年齢にそぐわない大人びた表情で笑った。
「……ま、たしかに。汚いドブネズミより貴重な家畜の方が、良い暮らしはさせて貰えるかもな」
  自嘲気味に呟いて、エマの頬をそっと撫でる。未だに意識は戻らないようだが、呼吸はずいぶん安定してきたようだ。しかし、その寝顔を見つめるトムの瞳は、迷うように揺れている。
  誰も、何も話さない。痛いほどの沈黙が続いた後、トムは何かを諦めるように息を吐いた。
「エマの目が覚めたら、もう一回話し合ってみる。おれ達がこれからどうするべきか」
  そう言って再び正面からアランを見据えた瞳には、先程よりも強い光の色があった。
「……それが良い」
  少し安堵したように言うと、アランは少年に向かって左手を差し伸べた。
「落ち着いたのならうちに来い。暖かい場所で休んで、栄養のある物を食べさせればすぐに回復する。その子に入学の意思があるなら、後で紹介状も書こう。他の生徒より遅れた入学になるが、私の口利きがあれば、それなりの便宜を図って貰えるはずだ」
「……ありがとう」
  言葉少なに答えて、トムはエマの体を支えながら立ち上がった。兄の腕の中で眠る少女を、アランが片手で器用に抱き上げる。その様子を不安げに見ていたトムは、不意に何かを思い出したようにポケットに手を入れた。
「そうだ、これ忘れるとこだった。……あのブローチはもう売っちまったけど、これだけ残してたんだ。これじゃ意味ないかもしれないけど、返す。……ごめん」
  そう言って、トムは小さな何かをユリナの元へ持ってきた。
  咄嗟に受け取ったそれには、見覚えがあった。親指の爪くらいの大きさをしたそれは、明け方の空のように美しい光を湛えた、青い宝石だったのだ。
「これ……あのブローチに付いていたムーンストーン? どうして……」
「よく見たら中になんか彫り物がしてあったから、そこから足がついたら困ると思って。ほとぼりが冷めてから、そいつだけ別で売りに行くつもりで取っておいたんだ」
  その言葉に、アランが眉を寄せて手元を覗き込んでくる。
「取っておいた……? お前が分解したのか? パウエルの細工した物を?」
「な、なんだよ。悪かったって」
  トムが気まずそうに目を逸らして言うが、アランの耳には入っていないようだ。
「……傷ひとつ無い。ろくな道具も無かっただろうに……」
  独り言のように、そう呟く。
「器用でなければ、スリなんて出来る筈もないか」
  ひとりで納得したように言って、アランはトムの方へと視線を向けた。
「お前、細工師の仕事に興味は無いか?」
「……は?」
  路地裏に、気の抜けたような少年の声が響く。彼にとっては、まさに青天の霹靂へきれきだったことだろう。
  アランが少年に告げた、その言葉の意味が分かるのは、もう少しだけ後の話だった。


  *


  その後、屋敷に連れ帰って少し休ませると、エマはすぐに意識を取り戻した。見知らぬ部屋で目覚めたエマは、ずいぶん混乱していたようだったが、状況を説明されるうちに自分がユリナを攻撃しようとして倒れた事を思い出したらしく、何度も何度も謝られてしまった。どうやら彼女にユリナを傷つける意思はなかったようで、ただトムの事を守らなくてはいけないと必死になるあまり、自分でも力を止められなくなってしまったのだという。
  エマには、アランが負傷したことは伝えなかった。アラン本人が何も言わないのに、わざわざ横から告げ口のような真似をする必要はない。彼の肩に傷痕が残らなかったことが、せめてもの救いだった。

  そうして、そんなやり取りを交わした日から数日の間、路地裏の双子はクロムウェル邸で暮らす事になった。もちろんその事に対して見返りなど求めるつもりは無かったのだが、彼らはよく家の手伝いをしてくれた。トムいわく「こんなデカい家での寛ぎ方なんて知らねえし、働いてる方がマシ」なのだそうだ。それもきっと嘘ではないのだろうが、なんにせよ素直ではないなと思う。
  一方エマの方は、トムとは正反対の素直な性格で、一緒に暮らすうちに、ユリナとはずいぶん仲良くなった。女同士、というのも良かったのだろう。彼女だって年頃の女の子だ。いくら双子とはいえ、トムには話せない事だって、たくさんあるに違いない。
  そうやって話してくれた、“トムには話せない事”のひとつに、ユリナからブローチを盗んだ日の事もあった。
  二人はユリナが予想した通り、『工房の近くに隠れたエマが店から出てきた客の様子を確認して、表通りで待っているトムに合図を送る』という手口を使っていたらしい。そして、肝心の合図とは何だったのかと言えば、なんと、あの日路地と路地を渡すように干されていた洗濯物が、その答えだった。
  高い位置に干されていたシャツは、路地の外にいても辛うじて目視出来る。あの日、ユリナの姿を確認したエマは、シャツの首元だけを自らの魔術で凍らせて、『ここに金目の物を付けている』とトムに知らせた。鏡のように滑らかな氷は、傾きかけた陽の光を反射して、離れた場所にいるトムにも伝わる合図になるという訳だ。
  これらの方法は、全てトムが考えたものらしい。生き抜くための手段はいつもトムが用意してくれていたのだと、エマはそう話してくれた。
  そんな話をしてくれた次の日、エマは自らの意思で、学園へ通って魔術の勉強をしたいとアランに申し出た。今までこの力を悪い事にばかり使ってきたから、人の役に立てる方法があるなら、それを知りたいのだと言う。
  彼女のそんな言葉を、トムは決して否定しなかった。きっと彼も、こうなる事を分かっていたのだろう。

  それから一週間ほどが過ぎ、エマはアランの付き添いの元、王都にある学園へと向かうことになった。学園は全寮制だから、彼女とはこれから別々の暮らしを送ることになる。
  旅立ちの日の朝、エマがユリナにだけ、こっそり教えてくれた事がある。
  人の役に立ちたいのも嘘じゃない。だけど本当は、トムを守れるくらいに強くなりたい。だからその為に勉強しに行くんだ、と。
  その気持ちは、ユリナにもよく分かった。そして、本当に守れるだけの力を持っている彼女を、少し羨ましいと思いもした。

  そうしてエマが屋敷を離れた後、ほどなくしてトムもクロムウェル邸を後にした。帰る場所を持たず、たった一人の家族と離れることを選んだ彼が、どこに向かったのかと言えば……

  *

「こんにちは、パウエルさん」
  そう声をかけて、工房の扉を開く。今日は既に工房の作業台で何かを拵えているパウエルが居て、あの豪快な笑顔でユリナとアランを迎えてくれた。
「おう。いらっしゃい、おふたりさん。……こら坊主! お客が来たらまず挨拶しろって何度も言っとるだろ! 職人は無愛想でもいいと思ってんなら大間違いだぞ」
  ユリナ達に感じの良い挨拶をした直後、パウエルは視線を足元に移して、床の掃き掃除をしている小柄な影を叱りつけた。
「うるせぇなぁ……言われなくてもわかってるっての。……どーも、いらっしゃい。おねーさんと、あと騎士団のおっさんも」
  ムスッとした顔でそう言ったのは、見慣れた黒い髪と黒い瞳の少年……トムだった。ユリナの後ろから顔を出したアランが、トムの言葉に顔を顰める。
「その呼び方は辞めろ。何度も言わせるな」
  元々目付きの悪いアランが睨むと、小鳥くらいは視線で撃ち落とせそうなほどの迫力がある。……とはいえ、肝心のトムにはまるで効果が無いようだ。アランが本気で怒らない事を分かっているからだろう。
  しかしその直後、余裕ぶるトムの頭にパウエルの容赦ない拳骨が振り下ろされた。
「いっっ……てぇ~~!! なにすんだよ、このくそじじい!」
「うるせぇっ! おめぇここに来るまで散々旦那んとこで世話になったんだろうが! 恩知らずに教えてやる仕事はねぇぞ、この馬鹿弟子!!」
  唾を飛ばしながら、パウエルがトムに向かって怒鳴る。
  そう。何を隠そう、トムは一週間ほど前に、細工師パウエルの弟子になった。きっかけはトムの器用さに目をつけたアランの紹介だったのだが、住み込みで面倒をみることに決めたのはパウエル自身だ。常連への義理だけで弟子を取るような人ではないだろうし、きっとトムに対して何か感じるところがあったのだろうと思う。
  とはいえ、職人気質のパウエルと気の強いトムが上手くやれているのか気がかりでもあったのだが、この遠慮のないやり取りをみるに、どうやら余計な心配だったようだ。
「あー……パウエル、もういい。程々ほどほどにしておいてくれ。それより依頼した物について話したいのだが」
  いつまでも言い合っている二人を執り成すように、アランが咳払いをして口を挟んだ。この人も大概お人好しだな、とユリナは密かに思う。
  アランに促されたパウエルは「おう、そうだったそうだった」と言いながら、こちらに向き直った。パウエルに勧められるまま、作業台の向かいに並べられた椅子に二人で腰を下ろす。アランは懐に手を入れて、そこから取り出した小箱をパウエルの前に置いた。
「先日も話した通りだ。改めて、これの加工を頼みたい」
  そう言って、アランが小箱の蓋を取った。その中に収まっているのは、あの青いムーンストーンだった。
「へいへい、お安い御用でさぁ。今度は奥さんのご希望通りに仕上げりゃいいんですね?」
「ああ、そうしてくれ」
  隣でそう言って頷くアランの横顔を見上げて、ユリナは不安げな表情を浮かべる。
「……本当に、私の好きなように作っていただいて良いのですか? せっかくのご両親の思い出の品なのに」
「もちろんです。……むしろこれで良かったのでしょう。貴女に贈る物なのだから、貴女が気に入る形にして貰った方が良い」
  そう言ってアランは笑ってくれるけれど、本当にそれで良いのだろうか。私はこれを預かるだけで良いと思っていたのに。
  対照的な表情を浮かべるアランとユリナを見比べて、横で様子を窺っていたトムが目を瞬かせる。
「なんかイマイチ話が見えないけど……もしかして、おれ結果的に良い仕事した?」
「人様のモン盗っといて調子に乗るんじゃねえ!」
  再びパウエルに脳天を小突かれ、トムが大袈裟に頭を抱えた。
「いてぇ!! だからポンポン殴るなって言ってるだろじじい!」
「おめぇが口で言っても分からんバカタレだからだろうが! もういい、おめぇは表の掃除でもしてろ!」
  パウエルに追い払われたトムは、顔を顰めながら足元に落ちていた箒を嫌々拾った。
「ちくしょう、雑用ばっかさせやがって……見てろよじじい。すぐにあんたより稼げるようになって、こき使ってやるからな」
「おうおう、そりゃ楽しみだな。期待しないで待ってるぜ」
  トムが乱暴に扉を開けて出て行くのを見送って、パウエルがため息を吐いた。
「どうもすんませんねぇ……後でよく言っときますんで」
「いや、それは構わないのだが……子供の頭をああも気安く殴るのはどうかと思う」
「甘いこと言っちゃいけませんよ旦那。ああいうきかん坊は痛い思いしなきゃ分からんのです。旦那だって、見習い時分は親父さんにしごかれたでしょうに」
「いや……私は父に殴られた事はないが……」
  眉を寄せてアランが呟く。真面目そうな彼の事だ、きっと叱られるのとは無縁の子供だったに違いない。
  そんなアランから視線を移して、パウエルがニカッと笑う。
「さて、奥さん。あんたはこいつに、どんな気持ちを乗っけたいと思いますかね」
「私の、気持ち……」
  私はいつだって、毎日好きなだけ本が読めて、大好きな家族が楽しく暮らしていてくれたらそれで良いと思っていた。だけど、それはもう全部叶ってしまった。
  隣に座る人の横顔を、一瞬だけ見上げる。
  今の私が求めるもの。私の望みを全部叶えてくれた、この人の支えになりたい。家族を亡くして、たったひとりで多くの物を抱えて生きる彼の、その荷物を少しでも軽くしたい。
  もしもいつか、彼が本当に人生を共にしたいと思える人に出会った時に、迷いなくその手を取れるように。
「……決めましたわ、パウエルさん」
  微笑んで、パウエルにそう告げる。こんな自分勝手で一方的な望みと、それからほんの少しのわがままと。そんなユリナの気持ちを、パウエルはどんな形にしてくれるのだろう。
  ユリナが告げる言葉を、パウエルはひとつひとつ、真剣な表情で聞いてくれる。この人なら、きっと大丈夫だ。乗せる思いがどんなモノでも、必ず美しい形にしてくれる。
  今の気持ちを忘れずにいられるくらい、きっとそれは、いつまでだって輝き続けるに違いない。




  ……第二章へ続く
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